女の子ってわからない
次の日の朝。ぼくは人間になって、浜辺を歩いていた。
向こうからコトネが走ってくる。
昨日は前と同じように、コトネがおばさんんに歌を歌って聞かせて、お金をもらって、そのお金でピザを食べて、その後アイスクリームを食べた。
そして、前と同じように街をぶらついた。
コトネは街で楽しそうにしているけど、ぼくは人混みは好きじゃないし、長く歩くのも疲れるから嫌だ。
ぼくがもう帰ろうと言うと、先に帰ってという。
「遅くなって暗くなったら、また、あの公園の木に泊まるわ。もう、向こうの寝ぐらに帰んなくてもいいでしょ。だって、兄さんには勘当されたんだから」
そんなことを言う。コトネはあっさりとしたものだ。兄さんに勘当されても、悲しくないのかな、ぼくは思った。
「おはよう」
ぼくは言った。
「おはよう」
コトネは息を切らせながら言う。
「人間の体は重いわ。走るって苦しいのね」
コトネが笑う。
「昨日の夜はやっぱり、こっちには帰ってこなかったんだね。ちょっと心配したよ」
ぼくはコトネの顔を見てほっとして言った。
「そうよ。公園に泊まったの。いい寝ぐらを見つけたの。だから、こっちに帰ってこない日があっても、ルリハ、心配しなくていいわ。それを言いに帰ってきたの」
「そうなの?」
ぼくは驚いて言った。この女の子は本当にコトネ? ぼくの知っているコトネは控えめでおとなしい子だったはずだけど。人間になるとこんなにかわるの?
ナミホにしてもコトネにしても女の子ってわからないとぼくは思う。
それからコトネはほとんどの時間を、向うの島で過ごすようになった。ぼくは時々、コトネの様子を見に行った。街でうまく会えた時はいつでもピザをおごってくれる。リンゴジュースもおごってくれるし、あるときは高級な腕時計を買ってあげるなんて言うこともあった。
そんなお金どこにあるのってきいても、ふふふって笑うだけだし。いったいあの街で何をやっているんだろう。
ぼくは、コトネにピザをおごってもらったり、ジュースをおごってもらったり、べつにそんなことをしてもらわなくてもいいんだ。
一緒に空を飛んだり、手をつないで浜辺をさんぽできたらそれでよかった。
コトネが人間になって、うれしいと思ったけど、こんなふうになるとは思わなかった。
ぼくがおばさんに合わせたのがいけなかったかな。ぼくがリンゴジュースなんて飲みたいと思ったから。
コトネもナミホも人間を楽しんでいる。ぼくただ人間の姿をしているだけだ。
どうしてぼくは、人間になんかなるんだろうと考えてしまう。