勘当
働いてお金をかせぐ。口で言うのは簡単だけれど、実際かせぐとなるとどうしていいのかぼくにはわからない。
コトネは色々質問をしてくるけど、答えられない。
そうなると、おばさんにきくしかない。
ぼくたちはおばさんの家に行くことにした。
おばさんの家につくと、おばさんは、
「まあ、お二人さん、お似合いのカップルね」
といってわははと笑った。
ぼくたちはおばさんがくれた、リンゴジュースを飲みながらきっと、おばさんは知っているだろう事情を話した。
「そうねえ」
おばさんは腕組みをして考えた。
「私がお金をあげるのは簡単なことだけど、それじゃあねえ。やっぱり働いてお金は手に入れる方がいいわね」
おばさんが言った。
「じゃあ、歌を歌ってくれる? ルリハはよく歌を歌ってくれたでしょう。あのきれいな歌声を聞かせてくれたら、お金をあげるわ」
「それが働くってことになるの?」
コトネが目をきらきらさせて言った。
「そうよ」
おばさんは笑った。
「簡単ね」
コトネは立ち上がって、手を前に組んだ。
ルルルラララー、ルルラララー、ララルルラララー・・・・
何てきれいな声なんだろう。ぼくはびっくりして、うっとりした。
鳥の時の歌声もすてきだけど、人間の歌声はもっといい。
おばさんも、ぼくと同じように、驚いて、聞きほれていた。
コトネが歌い終わると、おばさんは、
「すばらしい」
と言って立ち上がり拍手した。ぼくも一緒になって手を叩いた。
コトネはおばさんから結構な金額のお金をもらった。
二人でピザを食べて、アイスクリームを食べたって、まだ、たくさん残った。
ぼくはもう自分の島に帰りたかった。けれど、コトネはまだ、街を見て回りたいという。
ちょっと心配だったけど、一人で大丈夫というコトネを残して、島へ帰ったのだった。
朝、いつもの寝床で目を覚ますと、コトネはいなかった。
と言うより、ぼくのまわりの仲間たち誰一羽いなかった。随分日射しが強い。ぼくは寝坊をしたみたいだ。
あの後コトネはちゃんとこっちに帰ってきたのか気になった。
水飲み場に行ってみると、コトネがいた。
ぼくはコトネの隣に舞い降りた。
「よかった。コトネ。ちゃんと帰ってたんだね。ぼくコトネが帰ってきたことに、気がつかなかったよ」
ぼくは笑って言った。
「ルリハ」
コトネがため息をついて言った。
「どうしたの? 何かあったの?」
ぼくは心配になってきいた。
「大したことじゃないわ。あたしさっき兄さんに勘当されたの」
ふふふっとコトネは笑った。
「ええっ、どうして?」
「これのせいよ」
コトネが細い足を突き出していった。真っ赤にそまった小さな爪があった。
「マニキュア?」
ぼくはきいた。
「そうよ」
コトネが答えた。
「昨日街を歩いていたら、女の人に呼び止められて、足に塗ってくれたの。みんな塗ってもらっていたわ。きれいでしょ」
コトネは足を交互に出した。
「あたし、昨日遅くまで、街の見学をしすぎて暗くなったから、向う島の公園の木に泊まったの。それでさっき帰ってきたばかりよ。ここで兄さんにばったり会っちゃって、あたしの爪を見て、いきなり怒ったの。お前人間になったな、ですって! マニキュアは人間の女がするものだって兄さん言ってたわ。兄さんは人間嫌いのくせに、人間のことをよく知ってるわ。兄さんて変な鳥ね」
はははははとコトネは笑った。
「ごめんね」
ぼくは言った。
「ううん、あたしがしたくてしたことよ。ルリハのせいじゃないわ。ばれて、よかったの。あたし、これからは自分のしたいことを自由にするの」
コトネはそう言って羽ばたいた。ぼくもコトネの後に続く。
「ねえ、今からおばさんのところに行かない?」
コトネが飛びながら言った。
「おばさんに歌を聞いてもらうの。それでお金をもらってピザを食べに行きましょうよ。今日は、昨日と違うピザが食べたいわ。ね、ルリハ行きましょう」
コトネはぼくの返事も聞かないで、すでに海の上を向うの島に向かって飛んでいる。
「コトネ~」
ぼくはその後を追うだけだった。