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ルリハとナミホ 2  作者: カワラヒワ
6/13

働く?

朝、ナミホが砂浜でたたずんでいる。ぼくは木に止まってその様子を見ていた。

 最初は、いつものようにあいつを待っているんだと思っていたけれど、そうでもなさそうだ。

 だって、あいつを待っているのなら、道路の方ばかり見ているはずだ。いつもそうしているから。それなのに今朝のナミホは海ばかり見て、バイクが来るのを気にするそぶりもない。

 多分今日、あいつは来ないんだ。

 人間になってナミホのところに行こうか。

それなら・・・。

 ぼくはその場を立ち去った。


 しばらくして、人間の姿になったぼくとコトネは手をつないで、砂浜を歩いていた。

 少し向こうに半分体を水に浸した、ナミホが見える。

 ぼくはどきどきしていた。コトネと手をつないで歩いているぼくたちを、ナミホが見たらどう思うだろう。


 やきもちを焼いてくれるだろうか。べつに何とも思わないのだろうか。

 あいつとのやり取りを見せつけられているぼくの気持ちを、少しは分かってくれるだろうか。


 ナミホに近づいていく。

 コトネはナミホに気付くと、急に無口になった。それでも、歩くのを止めずにいる。

 ナミホはぼくたちに気付いて、水の中からこちらを見た。そして、水から上がって、ぼくたちを待つように、こっちを向いて立った。

 ぼくのどきどきは激しくなった。


 ナミホ、怒ったりしないよなあ。ぼくたちを食べたりしないよなあ。

 ぼくは自分の腕を見た。大丈夫、人間の腕だ。コトネを見る。大丈夫、コトネもかわいい女の子の人間の姿だ。

 ぼくたちはナミホのそばまで行った。


「おはよう」

 とぼく。

「おはよう」

 ナミホはいつもと変わりなく、表情を顔に出さないで言った。でも、すかさず、

「だれ? その子」

 とコトネの方をちらりと見て言った。


「コトネって言うんだ」 

 コトネは、はっとしたようにぼくの背中に隠れた。ぼくの腕をにぎりしめる手がぶるぶる震えている。ナミホがへびだってことを知っているから怖いんだ。


「ふーん」

 ナミホはそう言って、ぼくの後ろに隠れているコトネをのぞきこんだ。面白がっているのがわかる。

 コトネはきゃっと本当に小さな声をあげて、元来た道を走って戻って行った。


 ナミホは逃げて行くコトネを見て、クスクスと笑った。

「どうしちゃったのかしら」

 ぼくは少しむっとして、

「意地悪だな」

 と言った。でも、ちょっとはやきもちを焼いてくれたのだろうか。

「あら、どうして?」

 ナミホは悪びれることなく言った。

 ぼくは何も答えず、コトネの後を追った。


「ねえ、あたしピザを食べてみたい」

 地面で雑草の種子をついばんでいるぼくの横でコトネが言った。

「ピザ?」

 ぼくは驚いて顔を上げた。

「そう、ピザよ」


 コトネもぼくと同じようについばむ。かさかさと落ち葉が音を立てる。

「これだってまずくはないわ。でも、ルリハが言っていた、あのおいしそうな匂いのピザっていうものを食べてみたいの」

 コトネはピチピチ鳴きながら、羽をばたつかせた。

「ルリハと二人で食べたいの」

 ぼくもコトネと二人でピザを食べられたらいいなあと思った。


「でも」

「でも、何?」

 コトネの真剣な目がぼくを見つめる。 

「ピザを食べるにはお金ってものがいるんだ」

「お金?」

「そう」

 ぼくは言って、羽ばたいた。


 いつもの水飲み場に行く。コトネもついてきて一緒に水を飲む。ついでに水浴びも。

「お金ってどんなもの?」

 コトネが羽を膨らませ、水を浴びながらきいた。

「何か人に役にたつことをしてもらうものだよ。働いてもらうんだ」

「働けばもらえるのね」

「まあ、そうだね」

「じゃあ、あたし働くわ。そのお金でピザを食べるの」

 コトネはうれしそうに羽をひろげた。

 何か変なことになりそうだぞ、ぼくは思った。



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