おばさん
島へ渡ると、ぼくは木の枝にとまった。
コトネもぼくの横にとまった。
海を渡るのはちょっとコトネにはきつかったかもしれない。コトネを少し休ませてあげなければいけない。
「疲れた?」
ぼくはきく。
「ぜんぜん平気よ。でも、あたしこの大きな島に渡ったのは初めてよ。たくさん人がいるのね。車もこんなに走っている。びっくりしたわ。それに、何あのおいしそうな匂いのものは?」
ぼくの心配もよそにコトネは好奇心いっぱいの目で、あたりをきょろきょろ見回していた。
「あれはピザだよ。ピザ生地の上にケチャップや、チーズやサラミなんかをのせて焼いてあるんだ。すごくおいしいよ」
「何だかわからなけど、おいしそう」
コトネは楽しそうに、ピチピチ鳴いた。
じゃあ、おばさんのところへ行こう。もう少しだ」
「うん」
おばさんのところへ行けば、ジュースがもらえるなんてコトネには言った。けれど、しばらく会ってないおばさんは、ぼくのことなんかもう、忘れたかもしれない。
でも、コトネはおばさんに会ってみたいって言ってくれたから、もし、ジュースがもらえなかったとしても、おばさんに会えたらいいかな。
ぼくはそんなふうに考えていた。
ぼくは人間の姿になって、おばさん家の呼び鈴を押した。コトネは僕の肩に止まっている。
すぐにドアが開き、ルリハ!と言っておばさんが抱きついてきた。
コトネは驚いて、ぼくの頭に避難した。
ぼくはほっとした。忘れられていなかった。
「また、会えて嬉しいわ」
おばさんが言った。
「こんにちは、おばさん。ぼくもです」
本当にぼくは、おばさんに会えて嬉しくて、涙が出そうになった。
「さあ、入って」
おばさんは言いながらドアを広く開け、ぼくの頭の上を見て
「ガールフレンドも一緒ね」
と言って笑った。
コトネがピチュっとあいさつをする。
懐かしかった。ぼくが出て行って時と全く変わってない部屋。魔女の部屋だけど、魔女の部屋らしくない普通の部屋だとおばさんが言っていた。
ぼくは前に暮らしていた時のように、ソファーにゆったりと腰をかけた。
あの時の暮らしが続いているように、しぜんに体が動く。
ぼくはテレビが見たくなって、リモコンのスイッチを入れた。久しぶりのテレビ。コトネはびっくりしていたようだけど。
「さあ、暑かったでしょう」
おばさんがグラスを二つおぼんで運んできた。一つのグラスはすごく小さなグラス。
あっ、リンゴジュースだ。
「お目当てはこれでしょ」
おばさんはテーブルにグラスを置きながら笑った。
ああ、おばさんはやっぱり何でも知っているんだなあ。
ぼくとコトネはたらふくリンゴジュースを飲んでおばさんの家を後にした。
カリッとトーストしたデニッシュとシャキシャキのレタスとキュウリのサラダなんかも、食べさせてもらって、ぼくは大満足だった。
「また、いつでもいらっしゃい」
とおばさんもいってくれたし。
「おいしかった。リンゴジュースもパンもサラダも」
そう言って、コトネがすごく喜んでくれたことが一番うれしかった。
街中を見てみたいというコトネのリクエストでぼくはコトネを肩に乗せて歩いた。
おしゃれな外観のカフェや雑貨屋や本屋、何を見てもコトネは興味津々だった。
しばらく街を歩いてから、ぼくは鳥に変身してコトネと一緒に街の上空を飛んだ。やっぱりぼくは人混みより空を飛んでいる方がいい。そう思った。
少し行けばナミホがいる小学校がある。ちょっと覗いて見たい気もするけど、今日はやめておこう。
「そろそろ帰ろうか」
ぼくが言うと「うん」とコトネは素直にうなずいた。