第7話 2 不器用
お仕事休みなので投稿します
「だーかーーらーーーー!!!!!!なんでこんな!初歩中の!初歩が!できないの!下手くそ!!!」
「ごめんなさいぃー---!!!」
ファング王国の外の草原に、怒号と謝罪が響き渡った。
「だから!魔力の流れをよく見て!それを形にするの!」
「そもそも、その魔力の流れがよくわかんなくて・・・」
「こんの・・・!!!ああああああ、・・・ハァ、もう一回だけ、もう一回だけ洗脳魔法かけるからそれで感覚つかみなさい!次はないわよ。」
「は、はいっ!」
魔法使いレヴィは目の前の少年、スズキユウヤに対して半分怒り、半分あきれていた。
それもそのはず。彼は【無限】という《無限の魔力が生成される》人智を超えたスキルを持っておきながら、『魔法』を一つも知らなかったからだ。
魔力は魔法を使うために消費するもの。
魔法が使えないのに魔力だけ溢れ出てくるなんて、レヴィからしてみれば宝の持ち腐れでしかない。
勇者だからと期待していた分、落胆も大きい。
「火球!」
ユウヤが手を突き出しそう唱えると、手の先から火の玉が飛んで行った。
「はい、覚えた?」
「うーん・・・」
今のは彼の手から出た魔法ではあったが、決して彼が出したものではない。
これはレヴィが手っ取り早く魔法を使えるようにするため、洗脳魔法を利用した方法で魔法を教えていたものによるもの。
体の操作を奪い魔法を打たせる。
ただし感覚や思考までは操らずにそのままにする。
そうすると魔法の打ち方を感覚で覚えこませることができる。というのがレヴィの作戦だった。
しかし、この方法は洗脳魔法を使う側であるレヴィの神経をかなり使うため何回もできない。
ただ魔法を出した感覚を覚えてさえいればいいので何回もやることはないとレヴィは最初、たかを括っていた。
「はい、やってみて。」
「ファイア!」
彼の突き出した手からは何も出なかった。
「うぅぅぅうううああああああああああああああ!!!!!!!!!なんでできないのよ!どうなってんの!不器用にもほどあるでしょ!こうよ!こう!こうこうこうこう!」
声を荒げ髪を振り乱し、レヴィは手から火の玉を次から次へと放った。
見本のように撃っているが、半分苛立ちを抑えるために撃っていた。
周りの草原がどんどん黒焦げになっていった。
「全然わかんないです・・・ていうかレヴィさんファイアって言ってないけど、なんで魔法出せるんですか。本当は言う必要ないとか?」
「ハァ?・・・詠唱のこと?」
この世界では魔法を唱える際、その魔法の名前を言う。
その行動を『詠唱』と呼んでいた。
「詠唱なんて出す魔法のイメージを固めるだけの補助みたいなもんなの。イメージさえ固まってればできるわよ。相当練習しないとできないけど。・・・って、要はあんたには1000年早いのよ!だから!早く!火の玉一個くらい出せ!」
「ごめんなさいぃーーーーー。」
怒号と悲鳴が鳴りやむことは、当分の間なかった。
数日前―。
「魔法ってどうやって出すんですか?」という発言であの時広間には静寂が広がった。
全員が唖然とした。
スキルを誤認させるスキル、または魔法の可能性を考えられ、スズキユウヤは牢屋に入れられそうになった。勇者を騙る罪人として。
しかし魔法使いレヴィだけは魔力を感じ取ることができていたため、彼のスキルは偽物ではないことだけはわかっていた。
レヴィは今、初級中級上級とある魔法からさらに上の魔法を作り出すという夢があった。
彼さえいればその夢に到達しうると考えたが、ここで彼を失えばその夢は叶わないと思った。
魔法さえ出せれば彼の力が証明できるのならと、普段は絶対にやらない魔法の指南役を買って出た。
さらに彼女は初級魔法の初級も初級。【火球】くらいならすぐできると思った。
無限にある魔力をうまくつぎ込めば火球程度でもドラゴンが放つブレスと同等くらいにはできるだろうと。
力の証明もでき、同時に手間もかからないという一石二鳥の方法だった。
はずだった。
彼女の見込みは本当に甘かった。
それから数日後。その日はスズキユウヤが召喚されてから半月が経っていた。
「王様ァ!お 待 た せ え!ようやくこの馬鹿が魔法を使えるようになりました!」
レヴィがユウヤの首根っこをつかんで玉座の間に飛び込んできた。
首だけを引っ張ったせいかスズキユウヤはぐったりとしていた。
「本当に長かったですね。王国最強とあろうお方が。」
その部屋にはグレン王子もいた。
お互いがお互いを認識した瞬間、同時に彼らは嫌そうな顔をした。
「ハァ?あんた代わりにやってみなさいよ。ていうかあんたまだここにいたの?戦力外通告でもされた?」
「君と違ってちょうどさっき調査から帰ってきたところだ。ああ、彼に苦戦してたから知らないか。」
「お前たちは・・・。」
王はレヴィの入室から間髪入れずに始まる喧嘩にこめかみを押さえた。
王は気を取り直してユウヤに向かって聞いた。
「それで、何ができるようになった。」
「火球です。」
レヴィは自信満々に答える。
だが王とグレン王子は呆れた顔をする。
「初級も初級、僕でも使えるぞ。」
グレン王子が火球と唱える。すると掌の上に手のひらサイズの火の玉が現れた。
「こんなの明かりに使うくらいの魔法じゃないですか。」
「レヴィ、多少ながらもそいつには期待しているのだ。お前ならばもっと中級くらいの魔法を教えることはたやすいのではないか。もっと頑張っ」
「全力でやったわよ!!というかあんたらわかってない。火球で十分。こいつの火球は普通じゃない。見せてあげるからついてきなさい!」
半ば強引にレヴィに連れられ、王国近くの池に召喚の儀の時と同じ顔ぶれが集められた。
この池は半径10メートルくらいの丸い池だ。
ただし誰一人期待していない。
「何するか知ってるか。」「なんか魔法が使えるようになったんだとよ。」「中級とかか?」「それが火球らしいぞ。」「初級魔法じゃないか。俺でもできるぞ。」「時間の無駄だな。」
兵士たちはこそこそ話し出している。
ちなみに火球は早くて5歳くらいで使える魔法だ。
「あーもー、静かにしてなさい。いや、この際いいわ。黙らせてあげる。ユウヤさっさとやってあげなさい。」
「はいっ!」
そういうとユウヤは池の方向に手を突き出す。
「行きます!」
「ユウヤ、暴発しない程度に全力でやって。」
「【火球】!!」
その瞬間池よりも大きい火球が現れ、そのまま衝突する。
とてつもない振動、轟音とともに水が蒸発する音が草原に響き渡った。
蒸気で辺り一帯が霧白く包まれた。
レヴィが手を振る。
その手がちょうど円を描いた時、風が吹き荒れた。
風の初級魔法風、が発動していて蒸気を晴らした。
蒸気が無くなり見えるようになった彼らの目には、巨大な何者かに抉り取られたかのように窪んだ地面あるだけだった。
「池が・・・。」
状況を理解したグレン王子がそう呟いた。
そう、池が干上がっていた。
初級魔法でこの威力。彼を、スズキユウヤを勇者だと確信させるには十分だった。
翌日、初級魔法で池を干上がらせた話はすぐさま広がり、第二の勇者の登場に王国の民たちは歓喜した。
その頃レヴィとユウヤは玉座の間に呼び出されていた。
「信じられないくらいの手のひら返しっぷりにびっくりするわ。」
「あんなものを見せられては勇者と信じるしかないだろう。」
「私の努力を認めてほしいところよ。ほんとどれだけ血の滲む思いをしたか・・・」
「努力したの僕なんですけど・・・。」
「なんか言った?」
「いいえっ。」
「まあいいわ、それで今日は何の呼び出しなの?ご褒美でもくれるのかしら。」
「ああ、褒美はまた用意しておこう、今日は別の用があってな。」
王は立ち上がりユウヤの近くまで来る。
「ユウヤ殿、其方にお願いがあるのだ。聞き入れてはくれないだろうか。」
「は、はい、それはどんな・・・?」
「ユウヤ殿、いや勇者ユウヤよ。魔王を倒す旅に出てくれまいか。」
「え・・・。」
「つらい旅になると思う、しかし勇者の存在が知られれば魔王軍はこの国を全力で滅ぼしに来るだろう。そこで、少人数のパーティで魔王城を目指してほしい。その間魔王軍は我々がひきつけておく。必要な人員はこちらで用意する、そして・・・?」
「どしたの王様。」
王は不思議そうな顔をしていた。
レヴィはその視線の先、ユウヤのほうに顔を向ける。
「なぜそんな嬉しそうなのだ。」
ユウヤは笑っていた。
「あ、いや、ごめんなさい。勇者っぽいなぁって。ああ~なんかすごいいい気分だな。あ、大丈夫です気にしないでください。魔王を倒しに行ってほしいってことですよね、ぜひ行かせてください。」
「い、いいのか、つらい旅になると思うが。」
「大丈夫です。魔王を倒せば世界が平和になるんなら俺頑張ります。」
「おお、そうか、そうか。そう言ってもらえるととても心強い。」
王はそういうと手を差し伸べ、ユウヤもそれに応え、王とユウヤは握手を交わした。
「あんたほんとに勇者っぽいこと言うわね。」
「だって勇者ですから。」
「この子魔法の練習中も「俺は勇者だからみんなの力になれるよう頑張りたい」とか言うんですよ。素質あるわ勇者の。世界もこれで安泰ね。魔法の才能は一ミリもないけど。」
「うっ、それは効きます。レヴィさん・・・。」
スズキユウヤはレヴィの一言に分かりやすく傷ついた。
「まあ頑張ってきなさい。ちょっとの間だけだったけど私の弟子だったんだし、多少応援してるわ。」
「ありがとうございます。」
レヴィはこれまでの苦労を思い出し少し涙ぐんだ。
弟子をとったのは初めてのことで、それは彼女の人生では辛くもあったが少し楽しい時間でもあった。
そんな弟子の旅立ち、何かがレヴィの中でこみ上げてきていた。
「そうそう、レヴィ殿、其方にも彼について行ってもらうぞ。」
「・・・は?!ちょちょちょ、ちょっとまって、なんで?!」
レヴィの中で込み上げていたものは一気に引っ込んでいった。
「何でも何も、彼まだ火球しか使えないのだろう?それだけでは魔王は倒せまい、道中ほかの魔法も教えてもらいたい。」
「そんな・・・私もうこいつに魔法は教えたくない!まだいろいろ研究したいこととかあるのに!」
「それも道中でやっていただけると嬉しい。」
「私は嬉しくないんだけど。?!」
レヴィはのけ反りながら頭を抱える。
雰囲気というのは思い出の印象を変えてしまうようで、さっきまでの楽しかった思い出が地獄のように思えてきていた。
あの地獄がこれから続くということにレヴィは恐怖を覚えた。
さっきとは違う涙が出てきていた。
「ちなみに褒美は今まで以上に出る。」
「行きます。」
こうして勇者ユウヤと魔女レヴィの旅が始まることとなった。
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