第6話 1 悲願の転生
ご飯派なので投稿します。
勇者召喚の儀は、王からグレン王子に伝えられた日から3日後に準備が整った。
城の広間の床には巨大な魔方陣が書かれ、周りには様々な道具が巻物通りに配置されている。
その魔方陣の外側には王、グレン王子、レヴィ、そのほか護衛のための兵士が十数人立っていた。
配置の最終確認をしていたレヴィにグレンが声をかけた。
「この程度の準備、昨日にでもできてたんじゃないですか?」
「は?この魔方陣完全再現するのにどれだけの苦労と努力が隠されてると思ってんの?」
「ただ巻物通りに置くだけじゃないですか。」
「はぁ~。こういうのは全体的な比率を合わせなきゃダメなの。この文字全部この床に合わせて大きくするのに一個一個計算しなきゃいけな・・・ああ~王子は戦うことしか脳にないからそういうことはわかりませんか。」
「 は い ?」
二人はまた言い争っていた。
そんな姿に王はため息をついた。
「いい加減にしろ。お前たち。準備が整ったのだろう。言い争っている場合はない。」
「国王~、お宅の息子さんちょっと態度がお悪うございませんか。」
「お前父上にどんな口の利き方をしているんだ!」
「いい加減にしろといったはずだが?」
「ごめんなさーい。」「申し訳ありません。」
王はコホンと咳を一つついてから兵士たちに向き直る。
「魔法使いレヴィ殿の協力を受けつつ我々は今日、勇者召喚の儀を執り行うこととする。だが、正直こんな状況で何を考えているのか、と思う者もいないわけではあるまい。」
その通りで、兵士たちの中には首をかしげている者もいた。
こそこそと言い合っている声が耳をすませば聴こえてくる。
勇者という存在はお伽話でしかない。
確かに伝説と言われていた魔王が現れた以上、勇者という存在もまたいる可能性はある。
だがそううまくいくものかと不安になっている兵士が少なくなかった。
「だが俺は、この国を守るためであればなんだってするつもりだ!使えるものは全部使い、必ずかの魔王軍を必ず滅ぼす!そのため今から行うのはその手段の一つ。」
「ちなみに王国最強魔法使いちゃんから言わせてもらうと、この魔方陣、多分だけど、何かは必ず出てくると思う。それが勇者なのかなんなのかはわからないけど召喚自体は成功するわよ。」
「自分で最強と言うとは・・・」と、グレン王子は呟き鼻で笑った。
笑うグレンとは逆に兵士たちはその言葉に驚いていた。
「あの魔法使いレヴィが言うなら・・・」「いやしかし・・・」「魔物が出てくるんじゃ・・・」「罠ではないのか。」「しかし仮に成功したら・・・」
無理もない。仮にも王国最強の魔法使いの言葉で語られたものだからだ。
しかし、まだ信じられない兵士たちがひそひそと話し続けている。
そんな彼らに対し王は話し続けた。
「お前たちには、万が一の場合対処できるように配置についていてほしい。」
「僕も場合によっては本気で対処に当たらせてもらう、ここには父上もいるからな。」
グレンも士気を上げようと発言した。
兵士たちが背筋を正しだした。
「私がいるし、正直あんたいらないわよ」、とレヴィがつぶやく。
グレン王子が参加するとあってか、兵士たちから少し不安が取り除けたようだった。
何を隠そう彼は剣術の才能において秀でており、王国では有名だった。
当然、様々な戦場で数々の功績を残している。
そんな彼がいるなら本当に万が一の場合でもなんとかなるはずだ、と兵士たちは安心した。
「覚悟はいいな。これより、勇者召喚の儀を行う!全員配置につけ!」
兵士たちが配置についた後、王の合図でレヴィは巻物に書かれていた呪文を唱え始めた。
その言葉はかなり古い言葉だからか、内容を理解できるものはいなかった。
静寂の中唱えつつづけられる呪文が広間に響く。
すると、魔方陣が少しずつ光りだした。
「おぉ・・・」「成功か」「まだ勇者が現れるときまったわけでは・・・」
ざわめきだす兵士たち。
「集中しろ!何が出るかは本当にわからない!気を引き締めておけ!」
グレン王子が彼らを一喝した。
呪文が唱え続けられるにつれ、魔法陣の光が増していく。
そして、次の瞬間、その光がまるで爆発するかのように広がった。
部屋にいた誰もが眩しさに目を覆った。
そして少し経った後―。
「ここは・・・?」
何者かの声が聞こえた。
それは魔方陣の中央からだった。
「おおおお!鎧着てる人がいる!え、こっちはもしかして魔法使い?!あれって王冠?ってことは王様?!まさか本当に?やった!嘘じゃねぇんだ!異世界に本当にこれたんだ!やった・・・やったー!!」
そこにいたのは人間だった。
その男は自分の周りを見て、なぜかはしゃいでいた。
「人・・・ならばあれが勇者なのか。」
グレンは首をかしげた。
想像と違ったためだった。
おとぎ話に出てきた勇者はもっと、物静かで、落ち着いている、そんな存在だったはずだ、と。
グレンから見た彼は嬉しさからか跳んだりしていて落ち着きがなく、簡潔に言えば『勇者らしさ』を感じられなかった。
「なにあれ、嘘でしょ。・・・こんなのがいるわけ?」
グレン王子の反応とは逆に、レヴィは目の前の存在をみて声を震わせていた。
見たことがない表情をする彼女にグレンは違和感を覚えた。
「どうしたんだレヴィ。らしくもない。」
「黙ってなさいよ王子。あんなの見たらこうもなるわ。」
「あんなの・・・?なにがそんなに。」
「わかんないだろうから教えてあげる。あいつ、とんでもない魔力の量をしてる。あんなの人間じゃないわ。」
「まさか・・・」
グレン王子は信じられないといった風だったが、目の前の、仮にも王国最強の魔法使いがそう言うのだ。
彼にはそれが彼女のいつものふざけた態度からくる嘘だとは思えなかった。
説得力は十分だった。
『人間じゃない』そんな発言を反芻しグレンは唾を飲み込んだ。
誰一人どうすればいいかわからず止まっていたが、最初に動き出したのはレヴィだった。
勇者らしき存在に彼女は物怖じせず話しかけた。
「お兄さん、言葉わかる?」
「は、はい。わかります!」
受け答えはできる。とグレンは少し安心した。
レヴィを少しでも震わせた存在と話が通じないなんてことになったら、目も当てられないからだ。
「そう・・・よかった。あなた名前は?」
「えっと、スズキ ユウヤです。」
「勇者?!」「勇者だと?!」「成功したんだ!」「すごいことだ!」
兵士たちが騒ぎ出した。
「え、あ、すいません、ユウシャ、じゃなくてユウヤ、です!」
「失礼だぞお前たち!」
グレン王子が一喝した。
「ごめんね、えっと・・・」
「あっ、ユウヤのほうが名前です。」
「ユウヤ君か。突然で悪いけど『ステータスウィンドウ』ってわかる?」
「レヴィ、何をっ!?」
「うるさいわね。こんなの気になってしょうがない。あの子のスキルを見ろって私の勘が言うのよ。」
レヴィはそう言いながら、スズキユウヤの方に向かって歩き出した。
万が一のためにグレンもついていった。
この世界ではステータスウィンドウを他人に見せることはあまりよろしくないことだった。
そのためグレンは勇者の機嫌を損ねないかと不安になった。
「神様に教えてもらったあれかな。ステータスオープン。」
「出し方知ってるのね。ねぇ、それを見せてもらってもいいかしら。」
「どうぞ。」
スズキユウヤはあっさりと自分のステータスウィンドウをレヴィ達に見せた。
このステータスウィンドウは見せたいと思った相手に見えるようになる。
スキルなど見られていいものじゃない、と思っているグレンはその行動に少し驚いた。
だがそれ以上に―
「何・・・このスキル。」
「無限だと・・・?」
「【無限】聞いたことないわ・・・?」
そう言いレヴィは詳しく見ようと画面上に映し出されたそのスキルを押した。
そのスキルについての詳細が映し出される。
《無限 無限の魔力を生成し続けるスキル 常時発動 gΛ2f8mk0》
「なにこれ、無限の魔力が生成・・・?無茶苦茶じゃない・・・しかも何この最後の変な記号は。」
レヴィはそんなことを言いながら青ざめた。
逆にグレン王子は一言も発せずにいた。
「どうなのだレヴィ殿。その者は勇者なのか?」
沈黙を貫いていた王が問いかける。
レヴィは振り向くと告げる。
「勇者に決まってる!この子の持つスキルは【無限】!無限の魔力が生成できるスキルです!この子なら!この子なら必ず!私を超える存在になります。超えるだけじゃない。場合によっては一人でこの戦争を終わらせられる。」
レヴィは興奮していた。人知を超えた存在に心躍らせていた。
恐怖と興奮が入り混じった笑顔で王にそう伝えた。
無限の魔力の生成。彼女から伝えられたその事実に兵士たちが一層騒ぎ出した。
「落ち着けお前たち。」
王がそう言って彼らを鎮めた。
「無限の魔力を生成・・・か。それは確かなのだな。」
「間違いないわ。」
「僕も確認しました。」
グレンとレヴィ王子が自信をもって答えた。
「そうか。ならば、ユウヤ殿といったな。」
「は、はい。」
「疑っているようですまないが、其方の力を見せてはもらえぬか。無限の魔力が使える者としての、力の証明をして欲しい。」
「わ・・・かりました。」
そういうとスズキユウヤは呼吸を整え始める。
その部屋にいる全員が固唾を飲んで見守る。
だいぶ時間が経った―。
スズキユウヤはあれから、手を伸ばしたり、振ったり、力を込めるようなそぶり何回かしているが何も起きなかった。
謎の光景に兵士たちも顔を見合わせていた。
「・・・・。」
「どうした、ユウヤ殿。」
しびれを切らした王が声をかけた。
声をかけられた彼は、ひきつった笑いをしながら王の方を向いた。
「あ、あの、具体的には何を?」
「魔法を使えばいいのよ。一発すごいのを見せて頂戴!」
レヴィが小声で助け舟を出した。
しかし、スズキユウヤは困った顔をしたままだった。
「・・・。」
「どうしたのよ。」
「あの・・・。」
レヴィの問いかけに対し、スズキユウヤは心底申し訳なさそうな顔をした。
そうしてこう言った。
「魔法ってどうやって出すんですか?」
ちなみに女王様は危ないので呼ばれてないです