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素材  作者: 味噌煮だったモノ
第5章 
57/63

第57話 地獄の朝

まさかの投稿します

「すぅ・・・。」

「・・・。まだ起きないのかよ。」


結局俺はこの眠っているこの女性に捕まったまま朝を迎えていた。

玄関から朝日が差し込んできている。

チュンチュンと鳥が鳴く声もし始めた。

ちなみにこの女性は数回寝返りを打とうとして動いたため着物が大変なことになっている。

主に前が。

見ていいはずもない。

そこで俺は動かせる方の腕。左腕を上げた。

左腕の手首には小さな青い宝石がはめられた細いリングがついていた。

これはミストがあの世界から出る直前に・・・その・・・アレ・・・をしてくれた後に手首につけられたものだ。

俺の記憶が正しければお店巡りをしていた時に見かけた腕輪に似ている。

赤と青で対になっていてペアリングの腕輪バージョンだなとあの時思った。。

こっそり買っていたと言っていたから正直かなり嬉しい。


「はぁ~。次いつ行けるんだろ。」


待ってくれてると言ったが・・・10年後とかになったら大迷惑だよな・・・。

ちょくちょく顔見せたりとかしたい・・・正直言うと俺が見たいだけなんだけど、俺はいつまでこの仕事をするんだろうか。


「まさか死ぬまでとかだったりしないよな・・・。」

「んぅ・・・ん~・・・。」


ゆっくりと隣で寝ていた女性が起き上がった。

全然空いてない目で辺りを見回し俺の顔を見た。


「・・・おはようございます。」

「お、おはようございます・・・?」


ふ、普通に挨拶するんだ。

まあ、ここで「どちら様?」と聞かれても弁明に困るだけだからありがたい。


「それで・・・どちら様?」


そう来たか・・・。


「ええと、覚えてませんか。昨日、なんか変な人に襲われて、そこであなたに助けてもらったんですけど・・・。」

「きのう・・・。」


そう言って彼女は上を見上げた。

その視線の先を追うが何もない。

口を半開きにしていて、ボーっとしているように見える。

目も虚ろなのでもしかしたら寝てる可能性もある。


「あの」

「思い出しました・・・確かに・・・助けましたね。」


起きてたのかよ。

彼女はその言葉の後、数秒こちらを見つめていたが、何かに気づき下を見た。

はだけきって胸が御開帳された着物がおそらく目に映っているだろう。

俺は頑張って彼女の顔だけに集中しているから詳しく見れないが、おそらく彼女の相貌には透き通った双丘が映っているはず。

彼女はそのまま止まっていた。


「さ、先に言っておきますけど、それは俺のせいではないというか・・・。」

「・・・。」

「寝返りで・・・。」

「・・・。」


終わったか。社会的に。

警察とか来るのかな。

いや、着物に瓦・・・時代的には江戸らへんだったりして。だとしたら奉行所・・・?


「・・・ご飯にしましょう。」

「え?」

「朝ごはんにしましょう?」

「は、はぁ。」


彼女は急にそんなことを言い出した。

そしてゆっくりと立ちあがり「こちらです」と言って歩き出した。

困惑する俺を置いていくので俺は即座に立ち上がり彼女を追った。



案内された部屋は畳が敷かれた部屋だった。

彼女は「待っていてください」と言って部屋を出て行った。

16畳か。って広いな。

奥には掛け軸と壺があって『和』って感じがした。

その真ん中あたりに座布団が積まれていた。

一枚取り出してその上に座った。

広い部屋に一人は少し落ち着かない。


「そうだ。ステータスオープン。」


ランダムを使うのを忘れていた。

今から使おう。そう思ってステータスウィンドウを開こうとした。

しかし、開かなかった。


「あれ・・・?ステータスオープン。・・・ステータスオープン!」


全然開かない。


「もしかして・・・ウィンドウが存在しない世界・・・?」


だとすると困ったことになった。

ランダムはいつもウィンドウで操作して使っていたから、開かないとなると・・・スキルが使えないということになる。

つまり現状、ただの一般人ということだ。

これで橘聖に会って、もしそいつが敵意むき出しマンだったらどうする。

終わりだ。


「まだだ。まだ俺には!【浮遊フロート】!・・・ダメか。」


昨日の夜使えなかったから期待してなかったが、やっぱり使えなかった。

昨日の夜は咄嗟だったからいつも通りに力を込めていたせいで気づかなかったが、今集中してみると俺の周りに魔力を感じない。

いつも魔力に体が持ち上げられる感覚で飛んでいるんだがそもそもの魔力がないんじゃどうしようもない。

あるって言ったじゃねぇかよ神様よぉ。


「終わった・・・。」


今回こそはピンチかもしれない。

落胆しかけた時、ふすまが開いた。


「お待たせしました。」

「あ、はい・・・なあぁっ?!」

「?」


俺が驚くと彼女は不思議そうに首を傾げた。

なんでだよ。驚くのも無理はないだろ。

着物がはだけたままだったからだ。

帯はギリギリ解けてないおかげで下は何とか隠れている。

いや上!

気づいてないわけないよな。何してんだこの人。


「あの、前。前!」

「・・・?」

「ああもう!着物がはだけてます!か、隠した方が!」


彼女がこちらの言っていることを理解してないように見えたので言ってやった、

しかし彼女は下を見ると今度は自身の両手を見た。

両手にはお膳が乗っていた。


「どうしましょう・・・。」

「何が・・・?」

「お膳が両手に乗ってます。」

「・・・?????」


置けよ!

と言いたくなるのを必死でこらえた。

多分寝ぼけているんだ。そう思っておこう。ありえないし。きっとそうだ。


「じゃあ俺が持ちますんで。」

「ありがとうございます。」


置くという発想が出てこないほど寝ぼけている可能性がある。

なら代わってあげてその間に隠してもらった方が早い。

理想通り、俺がお膳を持つと彼女は前を隠し始めた。

俺は後ろを向いてお膳をさっきの座布団の前に一個置き、もう一つを向かい側に置いた。


「あの・・・。」

「はい、ってちょっと!」


呼ばれたので振り返ると、彼女は着物をはだけさせたままだった。

いやむしろ酷くなっている。

俺は手で顔を隠した。


「なにしてんすか!」

「・・・着物の着方がわからなくて・・・どうしたら?」

「えぇ・・・。じゃあまずどうやって着たんですか?」


聞くと返事が返ってこなかった。

指の間を開いておそるおそる見ると彼女はまた天井を見上げていた。

もしかしてあれは何か考えてるときの仕草なんだろうか。

彼女は数十秒見上げた後、顔を降ろした。


「いつもはるさんがやってくれるから・・・。」


と言った。

じゃあその人にやってもらおう。

俺じゃできないし。


「その晴さんは今どこなんですか?」

「・・・お隣に住んでます。」

「じゃあ呼んでくるんで、ちょっと待っててください。」


そう言って俺は彼女の横を通って玄関に向かった。

座ってスニーカーの紐を結んでいると彼女が後ろから近づいてくる音が聞こえた。

振り帰ると彼女の膝辺りに着物の袖部分が見えたので、前を向いた。

あの状態はもう上半身裸だろう。

どうしてそうなった。


「あの・・・。」

「何ですか?」


俺は振り返らないよう気を付けながら紐を結んだ。


「晴さん・・・昨日から1週間出かけると言っていました。」

「なぜそれを今っ」


言いかけて止めた。

いや早々に部屋を出たのは俺だ。彼女は悪くない。


「あの・・・どうしたら?」

「ぉふっ・・・?!」


彼女が四つん這いの状態になって俺の横から顔を出してきた。

こちらをまっすぐ覗き込んでくる。

白く透き通った肩と背中が見えてしまっている。

もうだめだ。

駄目だこの人。

やるしかない。俺がやるしかない。


「俺が直すので待っててください・・・。」

「わぁ・・・ありがとうございます。」


彼女が立ち上がったのが見えた。

俺は履いたスニーカを脱いで彼女の方を向くと、彼女はただ突っ立っているのが見えた。

ただ突っ立っているので前が完全に見えてしまっている。

完全に俺のミス。


「んんっ!ごめんなさい!」

「・・・どうしました?」

「前が見えちゃってました!」

「・・・そうですね。」


そうですねってなんだよ!


「あなたはもっと恥じらいを覚えるべきだぁ・・・。」

「恥じらい・・・?」

「前を隠すんです前を。」

「前・・・?」


彼女は前方をキョロキョロし始めた。

何も見つからなかったのか、首をかしげている、


「・・・ぃを・・・」

「・・・何と?」

「おっぱいを隠してください!!」






「ありがとうございます。」

「・・・どういたしまして。」


何だこの疲れは。

着物直しただけだぞ。

本当にそれだけなのに、どっと疲れた感じがする。


「ではご飯にしましょう。」

「・・・はい。」


マイペース過ぎる。

変な人に捕まってしまった。

というかこんだけ騒いでるのに人一人出てこないってことは、一人暮らしか?

この人が?

この危なっかしい人が一人暮らし??

信じられんな。



部屋に着くと俺はさっき置いた座布団の上に座った。

お膳には白米と味噌汁。それと小皿にたくあんが乗っていた。

シンプルな朝ごはんだな。

味噌汁はわかめと豆腐っぽい。

よく考えたら久々の和食だ。

おもしろい。異世界和食の実力を見させてもらおうか。


「いただき・・・。」

「・・・よいしょ。」

「・・・。」

「・・・。」


俺は口を閉じ、彼女を見つめた。

それもそのはず。


「あの。」

「はい。」

「なぜ隣に?」


彼女がお膳を持って隣に座ってきたからだ。


「・・・?」

「いや『?』じゃなくて」

「・・・。」


また天井を見上げてるんだけどこの人。


「・・・ここがいいかなと。」

「なる・・・ほど。」


わからないんだけど、まさか俺の理解力が乏しいわけではないよな。


「いただきましょう。」

「え、はい。」


彼女が急に手を合わせるので俺も合わせた。

いついかなる時でもこの挨拶はしないといけない。

渡家のルールだからな。


「「いただきます。」」


彼女が黙々と食べ始めたので、とりあえず細かい・・・事は気にせず食べよう。

まずたくあんだ。


「んん!」


うまい。よく漬かっている。程よい酸味よ甘みが米を進ませ・・・米も美味い!

最高だ。硬さがちょうどいい。甘い。

これは味噌汁も・・・。

一口飲んだ。


「・・・!」


何が起きた。

俺は今味噌汁を一口だけ口に含んだと思ったら、一滴残らず平らげていた。


「うまい・・・!」


勝手に感想が漏れた。

独り言の癖のせいではない。

本当においしかったのだ。

わかめと豆腐などというどこにでもある味噌汁だったはずなのに、今までに飲んだことない味噌汁をしていた。

特に出汁。知らない風味だった。未知。

これが異世界・・・!


「・・・おいしかったですか?」

「はい!めちゃくちゃおいしかったです。」


彼女が聞いてくるのでドストレートに答えた。

本当においしかったからだ。隠す必要もない。

彼女は俺の言葉を聞くと前を向き味噌汁をすすった。

顔が赤くなっているのは気のせいだろうか。






二人ともお膳が空になった。

すると彼女はこちらを見てきた。

何も言わずに。


「・・・なんですか?」

「・・・ここにはどういったご用件で?」

「あ、ああ・・・。えっと。」


忘れていた。俺まだ人の家に上がり込んでる身元不明お兄さんだった。

用件か・・・。

今回も隠す必要性を感じないし全部言っちゃってもいいか。

そう思い、神様から遣われて来たこと。橘聖なる人物を探していること。あと強くなる必要があることを伝えた。

彼女はぼーっとした顔で聞いていた。

いや彼女なりに集中してる可能性もあるから一概にそう言えんが。

言い終わると彼女がゆっくり口を開いた。


「・・・屋敷の前の道。覚えていますか?」

「は、はい。」


これでもかってくらい『ナントカ流』の看板が並んでいた道のことのはずだ。

超苦労して歩いたから嫌でも覚えている。


「あれは道場通り・・・道場がたくさんあるから・・・。」

「そうなんですね。」

「・・・。」

「・・・・?」


え、終わり?なんの話なの今の?

待てよ?軽く上見てんな。つまりまだ考え中か。

いや会話のテンポよ。


「・・・住みますか?ここ。」

「・・・は?」

「住みましょう。」

「あの、何の話ですか?」

「・・・?」

「いやだから『?』じゃなくて。」


彼女はまた天井を見上げた。

黙っていれば美人なんだけどな・・・。


「あなたは・・・強くなりたいんですよね?」

「なりたいというか、ならないといけないというか。」

「ここも道場だから・・・強くなれます・・・。」

「あ、ああ、そうだったんですね。」

「住みましょう。」


ようやく理解ができた。

俺は強くならないといけない。

ついでにこの世界の人間じゃないから家もない。

だからここに住んじゃえば一石二鳥というわけで、その説明をぶっ飛ばしての「住みましょう」なのか。

しかし、俺はさっきの着物事件を思い出す。


「あの、このお屋敷には他に誰か住んでいたりしますか?」

「・・・いません。」

「あなた一人だけと。」

「はい・・・。」


考えろ。

考えろ俺。

ここに住むことになったら待ち受けるのは何かを。

・・・ダメだ。

精神が持たなくなる。

断ろう。


「誘ってくれたのは嬉しいですけど、すいませんが遠慮」

「どうしてですか?」


彼女がグイっと顔を近づけてきた。

彼女の両目は半開きだがしっかりとこちらを見据えている。

顔が良すぎて目を合わせていられない。


「どうしてって・・・」

「お金は・・・必要ありません・・・。」


まさかの無料だった。


「ご飯もついてきます・・・。あ・・・もしかしてお口に合いませんでした・・・?」

「毎日倍は食えるくらいにはおいしかったですけど。」

「・・・毎日・・・んふふ・・・。」


なんか嬉しそうに笑っている。

毎日とか言ってしまったからか。

まあ実際無限に食えるくらい旨かったし間違いではない。


「・・・それにあなたはここに住むべき。」

「と言うと?」


彼女は立ちあがって、さっき着物を着なおす時に置いていた刀を腰に差すと部屋の奥に歩いていき、立ち止まってこちらを向いた。

するとおもむろに刀を抜き、振りだした。

ただ振り回しているのではない。滑らかに。まるで舞っているかのように刀を振る。

そしてその見惚れるような動きをしながら次第にこちらに近づいてきて。

刀を鞘に納めた。

そして腰を降ろして一言。



「桜花流『花札』」



さっきまでのおっとりとした話し方はどこへ行ったのか、凛とした声でそう言った。

その彼女の手に力が込められた瞬間


「『猪鹿蝶』!」


ドン!と空気を震わせ彼女の刀が前方に突き出された。

刀は俺に向けられていなかったのに、ここまでの風圧が届いた。すごい威力だったことがうかがえる。


「あ・・・。」


その声と共に彼女が少し目を開いて、刀が向いていた方向を見つめていた。

見ると、その方向にある壁に直径10センチくらいの穴が開いていて、向こうが見えるようになっていた。


「風圧だけで穴開けたのかよ・・・。」


もはや弾丸ではないだろうか。

というか「あ・・・」ってまさかこうなることを予想していなかったのか。


「い、今のが桜花流『花札』です・・・。」


『花札』って名前の通り、昨日の『三光』といい花札の役を技名にしているのか。


「そして私は・・・桜花流・・・じゅうは・・・十七代目師範・・・。」


そのとき何か嫌な予感がした。

背中を寒いものが走った。

なんとなくだが。


橘 聖タチバナアキラです・・・・・」

「ああああ・・・。」



この世界での住まいが決定した。

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