第55話 神と人は分かり合えない
奇跡的に夕飯にサバの味噌煮が出てしまったので投稿します。
ちなみに今回の話は総じてタイトル通りです。
「で、なんで神様がここに?」
「え?ここは私の部屋ですが?」
あんたじゃねぇよ。
「じゃなくてこっちの神様。」
「呼ばれてんぞバカ。」
「あんたに話してるんですけど!?」
指差してんだからわかるだろうが。
わざとだろ。
「こういう状況になると思ってなかったからあんまり気にしてなかったんですけど、神様の名前ってなんなんですか?」
「私の名前・・・何だと思います?」
「質問を質問で返さないでくださいよ。」
フリスさんの力あったら使ってたぞ。
相変わらずどこかめんどくさい人だ。
いや、神か。
「じゃああなたは『神様』のままでいいです。」
「えぇっ?!そんなぁ・・・。」
俺は落ち込む神様を無視して男の神様の方に聞いてみることにした。
「あなたの名前は?」
「あぁ?ねぇよ。」
「え?」
「だからねぇよ。」
「ネェヨさん・・・?」
「殺すぞ。」
「こわっ?!」
マジで怖い。
いかつい顔してるからより一層怖いんだよなこの神。
「ちっ、名前は無い。ついでにこいつのも無い。以上だ。」
「あぁ言っちゃった・・・。」
どういうことだ。
名前がないとかありえるのか?
「名前がないってどういう・・・?」
「文字通りだ。あ~・・・めんどくせぇ。おい、後は全部話しとけ。俺はこっちを完成させねぇといけねぇからよ。」
「面倒なこと押し付けましたね・・・はい、じゃあ説明させていただきます。いつもみたいにお茶でも飲みつつ。」
「は、はい・・・。」
いつもの椅子に座ると、机の上にお菓子が現れた。
男の神様は人のベッドでなにやら絵を描いている。
「飲み物はこれでいいですよね。」
机の上に白いジュースが出てきた。
これって・・・。
「おいやめとけ!飲むな!」
後ろから声をかけられた。
さっきまで強気だった男が怯えた顔をしている。
「死ぬぞ・・・。」
死ぬのか・・・。
これアレだよな。8:2のアレだよな。
「失礼な。おいしいじゃないですか。このぐらい濃い方がちょうどいいと思うんですけど・・・。どうですか?」
「ふつうのジュースでお願いします。」
「そんなぁ・・・。」
「おいしいのに」と呟きながら神様は紅茶を入れてくれた。
ポットで。
そこは神様パワー使わないのか・・・。
てか俺ジュースって言ったよな。聞いてないのか?
「さて、私たちになぜ名前がないのか。でしたね。」
「はい。」と俺は頷いた。
「まず神様というのは人間が想像したことで生まれた存在なんですが、そこで」
あれ?
待て待て
「滅茶苦茶話が飛んでるんですけど。」
「あれ?言ってませんでしたか・・・?」
聞いたことないわ。
この神様はいつも説明不足なのをそろそろ自覚すべきではないだろうか。
「まあでもその通りなので説明するも何もないんですけど、そうですね―。」
そこから数分話を聞いた。
まとめるとこうだ。
大昔まで人間だけの世界だったころ、誰かが自分たちの上にはもっと大いなる存在がいるんじゃないかと考えた者がいた。
その考えに賛同する人間が増えだしたころ、神様が生まれた。
何もない場所から突然。
最初の神様は自分が人間の想像から生まれたことを漠然と知っていた。
時代が流れるにつれ人間たちの考えは多様化し、それに伴って神様の数も増えていった。
それと同時に異世界も生まれていた。
こちらも人間が想像したことで生まれたものらしい。
ちなみに世界を区別するために最初の世界を基本世界。その他の想像によって生まれた世界を異世界と呼んでいたらしい。
俺は基本世界出身だそうだ。他の転生者も。
ちなみに最近神達が総出で調べて分かったことがあるそうだ。
神様も異世界も、1人が考えただけでは生まれないということ。
そしてもう一つ。異世界の人間の想像力が弱いのか、異世界からはめったに神や異世界が生まれることはないということ。
なるほどな・・・とでも言うと思ったか、なんもわからん。
基本世界とかいう神の間でしか使ってなさそうなワードを人間に急に突きつけないでくれ。
これもうアレだな。長々と説明させて悪いが素直に言っとくか。
「全然わかんないんですけど。神どころか異世界も人間が作った?なんでですか?」
「それは私たちが知りたいです。どうしてそんな力がありながら自分たちより上の存在を作るのか。別の世界を願うのか。」
「神様でもわからないんじゃどうしようもないんですけど。」
「わかっているのはその想像力の明確さが神の力の大きさに比例する事なんですよね。」
「はぁ・・・?」
頭が着いていけない。
俺が馬鹿だからか?違うよな。俺じゃなくてもわからんよな?
「大多数の人間の考えが一致した存在は、相当強いって思ってもらえればいいです。」
「簡潔にした風で簡潔になってないんですけど。」
「ここで例えば神様になんらかの名前があるとどうなると思いますか?」
こっち分かってないのに続けやがる。
少し考えていると神様は答えを話す前に話し出してしまった。
「例えばシャドウさんを考えてください。その名前を聞いた瞬間、男の子で、よくかっこつけてて、栞さんが大好きで・・・と色々思い浮かびますよね。」
「まあ、そうですね。」
「『シャドウさん』=『その特徴』と固定化できているんです。それが名前の力。でも名前がないとうまくまとまりません。」
「はぁ。」
やはり考えが追い付かないので、もう俺は諦めてそういうものだと受け入れることにした。
「そしてその特徴がうまくまとまっていない状態で生まれてしまったのが私たち。名無しの神です。」
「名前がつく前に特徴がふわふわしたまま人間たちの頭のなかで独り歩きしてできちゃった存在・・・的な?」
「大正解です!わかってないようでわかってるじゃないですか!」
「いや根本がわかってない状態は変わってないんですけど。」
「例えばそこの神様は、『和服』で『絵を描く』、『男』の神。という特徴が独り歩きして生まれました。」
「じゃあ神様は?」
失礼だけど目の前で説明しているこの神様を指差して示した。
「私は『優秀』でー」
「あ、いいです。」
「そんなぁー。」
「じゃあ名前がある神は万人のイメージが上手いこと一致するからめっちゃ強いということですか。」
「その通りです。」
「じゃあこの前言ってた叱ってくる上の方々ってのはその名前がついてるめっちゃ強い神様のことですか?」
「そうです。私たちは彼らを『名付き』と呼んでいます。その呼び方を考えたのは『名付き』の方々なんですけど。酷いんですよその方々。事あるごとに『名無し』だから『名無し』だからとグチグチグチグチ・・・・」
なんか愚痴が始まったんだが。
愚痴を聞くこと数分。
言いたいことを全部言ったのか神様は落ち着いて紅茶を飲みだした。
「ふぅ。というわけで私たちに名前がないことは解決しましたね。」
「したというかしてないというか。」
「まあ漠然と理解してくれればそれでいいです。他の神様と関わることなんて、そうないですし。」
「さいですか。」
「ただし・・・。」
神様は急に真剣な顔になった。
あまりにも真剣な顔なので俺は背筋を正して言葉を待った。
「『名付き』の神には絶対に関わらないでください。」
「は、はい。」
「絶対に。」
「え・・・。はい。」
あれかな、万が一俺が粗相をしたらこの神様が叱られちゃうからみたいな。
でもそこまで真剣にならなくても。
「さて、神様の話よりも、私はあなたについて話したいことがあります。」
「なんですか?」
「シャドウさんの『影』というスキルについてです。一体何をしたんですか?」
「は?いや・・・それはこっちが聞きたいというか。」
「ですよね・・・。」
何だ今の質問。
どういうことなんだ。
神様でもわからないってことか?
「将斗さんのスキルからエクストラのスキルが消えましたよね。その後に『影』のスキルが生まれている。そしてシャドウさんも生き返っている。どう思われますか。」
「どうって、別に俺なんもしてないですよ?・・・シャドウの気合がすごかったとか?」
「気合いだとてめぇ。」
後ろから声がした。
当然男の神様の声だった。
またなんか怒らせたか?
「あいつのアレを気合で済ますのか?馬鹿にしやがって。」
「え?え?ごめんなさい、ちょっと待って。」
どんどん詰め寄ってくる。
「体感させてやるよ。あいつがどんな思いをしたか。」
「っ?!待ってください!それはっ!」
神様がそう大きな声で言ったと同時に、男の神の手が俺の胸に触れた。
視界が急に明るくなった。
「っはぁ!?・・・ぁっ、はっはっっあっ。」
「大丈夫ですか?!将斗さん!」
何だ今の。気分が。気持ち悪い。何も見えなかった。聞こえなかった。動けなかった。暗くてなんも考えられなくて。苦しい。なんだこれ。
「ゆっくり息をしてください!・・・なんてことするんですか!」
神様が男に向かって叫んだ。
俺はまだ呼吸が整えられない。苦しい。
体が震えている。
もしかして、怖がってるのか。俺。
「『死』を体感させてやっただけだろ。」
「場合によっては消滅する危険性があると知ってのことですか?」
「消えねぇよ、そうなる前に戻すつもりだったさ。」
「間に合わなかったらどうするんですか!」
珍しく神様が怒っている。
「知るかよ。」
「知るかってあなた!」
男の神様が再度近づいてきた。
俺は考えるよりも先に地面に座ったまま後ずさった。
また今のを受けると思うと怖くてしょうがない。
「おい人間。教えてやるよ。生命ってのは肉体と魂が重なることで初めて出来上がるんだ。だがこの事実を知っている生物はいない。だから肉体が死んだとき同時に魂も死んだと思って死んじまうんだよ。」
「ひっ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
何言ってんだ。
苦しい。
恐怖で何を言っているか理解するのに時間がかかる。
頭が全然働かない。
「シャドウって奴も肉体が殺されたと同時に魂も死へ向かった。だが何らかの力で魂だけが生きていた。だから肉体が修復されることで再度動くことが可能になった。要は生き返ったってことだが。」
「そこでだ・・・。」そう言って男はしゃがみこんで俺の顔を覗いてきた。
「今体感してわかったろ?気合なんかでは到底意識を保つことができねぇってことをよ?」
「意・・・味わかんねぇ・・・。」
俺は声を絞り出した。
「あ?」
「それをいきなりやる意味が分からねぇって言ってんだ・・・『死』だと?あんた・・・正気かよ?なあ!」
恐怖を打ち消そうとしてるのか、声が荒くなってしまう。
今すぐにでも逃げ出したい。
こいつの視界に居たくない。
「意味なんて分かる必要はねぇ。」
「・・・は?」
「神と人間が分かり合えることはねぇからな。覚えとけ。」
終始意味が分からない。
ふざけんなと言いたいが、流石に言えなかった。
もう一度あれを受けることを考えると恐怖で体全体がすくむ。
「謝ってください。」
「あぁ?嫌だね。つぅか、てめぇもてめぇだ。」
「何がですか?」
「人間に歩み寄りすぎだ。距離を保て。」
「私は私なりに距離を取っているつもりですが?」
「ハッ、どうだか。にしては仲良く喋ってたろうに。」
そう言って男はさっきまで絵を描いていた場所に戻っていった。
まだこの部屋に居座るつもりなのか。
いやでも警戒してしまう。
ようやく落ち着いた俺は、男を警戒しながら席に着いた。
「すみません。私が止めるべきでした。」
「いえ・・・。」
神様は俺のために怒ってくれていた。
十分だ。
まあ正直なところ、止めてほしかったとは思うけど。
「あの神はなんでここにいるんですか?」
「それは、次に行ってもらう世界が彼の管理している世界だからです。」
「えぇ・・・。」
嫌すぎる。
俺史上もう二度と関わりたくない存在第一位に躍り出てるこの男の世界だと?
最悪だ。
「実は2日後までに二つのスキルを回収しないといけなくて、流石に無理じゃないですか。」
「もうちょっとスケジュール管理しっかりしてくださいよ。」
そう言われ神様はまたしょんぼりしだした。
「返す言葉もありません・・・。そこで実は、彼なら先程の話に出た『名付き』に口が利くので、彼の管理する世界を救ってあげて、見返りに2日後に迫ったスキル二つの返済期限を『名付き』の力で延長してもらおうと思ってたんです。」
「ですが・・・。」と神様は男の方を見て言った。
「考え直す必要がありますね。」
「できれば・・・。」
マジで関わりたくない。
そんな俺の恐怖を感じてくれたのか神様が紅茶のお代わりをくれた。
「その状態ではさすがに異世界には行かせられないので、当分の間休憩にしましょうか。」
「え、いいんですか?返済期限は・・・。」
「そこはなんとか・・・がんばり・・・ます・・・。」
神様は凄い憂鬱そうな顔をしていた。
大丈夫だろうか・・・。
「そうだ、休憩ついでに話の続きをしましょう。」
「『影』のスキルについて、ですよね。」
「はい。それとは別にシャドウさんが生き返った理由も。ところで、本当に何もしていないんですよね?」
「うーん・・・。」
俺はシャドウが死んでから生き返るまでのことを思い出した。
だが別に何もしていない。
しいて言えば胸を叩いたくらいだけど、そんなんで生き返るんなら苦労しないんだよなぁ。
「わかんないですね。」
「そうですか・・・。」
そう言って神様は腕を組んで少し唸りながら考えだした。
いつも質問には即答レベルで答えてくれていたからこういう姿を見るのは新鮮だ。
にしても神に分からないってのは逆に怖いな。
1分くらい考えた神はパッと顔を上げた。
「なんかわかったんですか?」
「いえ?少しも。」
「さいですか。」
「私の憶測でよければ話しますが。」
「憶測か・・・お願いします。」
憶測となると信ぴょう性は低いが、こっちはこっちで何も浮かばないし神様の勘は当たるって言葉を信じて聞いてみることにした。
「やはり将斗さんが何かをしたんじゃないかと思います。」
「何か・・・。」
「はい。その何かとは―。」
神様は一呼吸おいてから言った。
言う瞬間後ろの男の神が動き出す音が聞こえた。
「『スキルを作りだした』ことだと私は思っています。」
言い終わった瞬間だった。
急に空気がわかりやすく変わった。
冷たく重い空気が俺を包み込んだ。
「な、なんですかこの感じ。」
「まさか・・・聞いていた?」
神様が目を見開いて上を見ている。
彼女の唇が震えているのが見えた。
「ちっ・・・面倒ごと増やしやがって。だから距離を保てって言ったんだ!」
男の神がそう言って俺の肩を掴んだ。
まさかまた・・・。
「おいてめぇ。よく聞け。今から行く世界は『弐の世界』。その世界はそうだな、魔力・・・みてぇのもある、言葉も通じる。行きゃわかる。」
「え?ちょっと待ってくださいどういう。」
「うるせぇ!口閉じて黙って聞け。時間がねぇ。そこにいる橘 聖という転生者を探せ。そいつからスキル『刀神』を奪ってこい。それがてめぇの今回の仕事だ。いいな!」
なんだなんだ、急に説明すんな。
何だこの感じ、もしかして今からこいつの管理してる異世界に行かされるのか?
いやいやいや、嫌なんですけど!
神様助けて!
未だに神様は上を見上げている。
上に一体何が・・・。
それとは別に空気がどんどん重くなってきていた。
「ついでになんでもいい。今から行くとこで修行してこい。ミリ単位でもいいから強くなって来い。てめぇがスキル奪うまではこっちには帰らせねぇ。強くなってなかった場合も帰らせねぇ。持たせるスキルはいつもと同じだ。わかったな?!」
「そんな、ちょっと待って全然わかってな」
見上げるほどたくさんの本積まれた部屋に、つい先ほど将斗を異世界に送り出した男の神がいた。
「僕がなんで君を呼んだかわかるかな?」
「何の・・・ことでしょうか?」
積まれた本たちの一番上で何かを読む『僕』という一人称を使う存在に、絵描きの神はすっとぼけた答えを返した。
すっとぼけたのは、なぜ呼ばれたかはすべてわかっていたからだった。
「へぇ・・・『名無し』の分際でそういうこと言うんだ。」
「・・・。」
そこら中にある本がカタカタと震えだした
そんな中、男の目の前の存在は1枚の絵をどこからか取り出した。
「まあ、『これ』に免じて許してあげるよ。予想以上の出来だったからね。・・・まるで」
そう言うと同時に、その存在は男の神のすぐ隣にいつの間にか立っていた。
男の神は息をのんだ。
「君が描いたものではないかのような・・・ね。」
男の近くに立つ存在が手に持つ絵は、砂漠の絵だった。その端に1輪の花が描かれていた。
「次はない。」
「・・・承知しました。」
その返事を聞いたその存在は積まれた本の上に再度現れた。
部屋のどこかから伸びてくる光に当てられ、少年の様な出で立ちを露わにしたその存在、彼もまた神の一人であった。
彼は基本世界ではなく、初めて想像力が弱いとされる異世界の想像で生まれた『名付き』の神。
『物語を紡ぐ』神―サークリー。
「楽しみだ・・・。」
サークリーはそう呟き、読書を再開した。
最近ブックマークが増えていっているのを見ると楽しみにしてくれる人いるんだなぁって思えます。ありがてぇ。
にもかかわらず更新頻度低いのは申し訳がなさすぎる・・・。あと誤字が多いという・・・。
そんな中でも読んでもらって本当にいつもありがとうございます。
これからも頑張ります。