第52話 2度あることなら3度ある 541話 光 code.541 陰
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暗い。
一面の黒。
体を動かそうとするがうまくいかない。
そもそも、動いているのか確認できない。
感覚がなくなったのか?
これもしかして、死んだのか?
・・・そうか・・・そうだよな。
あの攻撃は佐藤栞でも防げなかったってことか。
あのデカブツさえ倒せれば全部終われそうだったから悔しい。
・・・神様は失敗したら消えてもらうって言ってたし助けてくれるわけないよな。
そううまくはいかないか・・・。
・・・。
・・。
・。
「いってぇ?!何?!・・・あれ?」
胸のあたりに鋭い痛みが走った。
その瞬間声を出してしまったが・・・。
「なんだこれ・・・声出せるのかよ。死んだあとってこういう感じなのか?」
自分の声が聞こえる。
どういう状態なんだ俺。
ってそもそも死んだ後にこうやってあれこれ考えられるのっておかしくないか?
「おかしいよな・・・。いやちょっと待て・・・なんで痛み感じてんだよ俺は。」
痛みを感じるはずがない。
感じるとするならば・・・。
「【後払い】が切れてる・・・。あああ【後払い】!」
声を出し全力で【後払い】を発動させてみた。
その瞬間、轟音が響き渡った。
「あああうるさっ!!なんだこれ?」
「将斗!大丈夫なの?!」
「その声・・・ミストか?!」
ミストの声が聞こえた。
というか、視界が戻らない。
暗いままだ。
「なんだよこれ!どういう状況なんだ!」
「わからない!急に暗くなったと思ったらあんたが変な声出して倒れるし!」
倒れた・・・?
そうか俺【後払い】のペナルティで気絶してたのかよ。
「落ち着いてください!」
佐藤栞の声がした。
「魔王の攻撃はまだ続いています!伏せておいてください!」
まだ続いているってことは最後に見えていたあの衝撃波をまだ防いだままでいてくれているのか。
全く見えないが。
そのとき
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
魔王の雄たけびが聞こえた。
そこから、鳴り響いていた音が弱まっていくのを感じた。
そして何も音がしなくなった。
「攻撃が・・・止んだ?」
「どうでしょうか。視界はまだ暗いままですが・・・。」
佐藤栞が言う通り、衝撃波はもう来ていないみたいだが視界が戻らない。
「この暗闇なんなんだよ・・・。」
「わからないが、好都合だ。」
そう言ったのはウルさんだった。多分。
「人々もこの状態になっているとしたら、夢から覚められる可能性が高い。」
「ああ、さっき言ってた。」
その時、急に視界が晴れた。
空を覆っていた謎の黒い幕が引いていくのが見える。
「なんだあれ・・・。」
周りが見えるようになった。
ウルさんが空を見上げて不思議がっている。
魔王の方を見ると胸を掻きむしって苦しんでいた。
「全然わからん・・・。」
気絶してたこともあって現状が全く把握できない。
「魔王が苦しんでいるのはおそらくだが、生贄の供給が断たれたからだろう。」
「供給って・・・じゃあ今の暗闇で皆が夢から覚めたってこと?」
ミストの質問にウルさんが首を縦に振る。
「おそらく魔王が上半身しか出せていないのは下半身まで召喚しきれていないからだろう。だから不完全な状態で供給を断たれたせいであんな風になっていると考えるのが妥当だ。」
「じゃあ今なら私の攻撃を当てても回復することはないと。」
そう言って佐藤栞が剣を構える。
「待て勇者。まだ暗闇になった原因がわかっていない。無闇に動くのは良くない。エクストラという男の仕業とも考えられる。」
「あいつかなぁ・・・?違う気がする。」
エクストラは次はないと言った。
その次が今だとは思えない。
なんとなく。
「だとしても魔王自身がやったとは思えない。自分に不利になるようなことをするだろうか・・・。」
その時、地響きがした。
魔王が地面に拳を叩きつけていた。
次々に。
そして、砕かれた地面から瓦礫を持ち上げると周りに投げつけ始めた。
こちらを狙っているわけではない。
ただがむしゃらに四方に投げ始めた。
瓦礫が直撃した建物が次々に倒壊していく。
「やはり今ここで止めるべきです。」
そう言った佐藤栞の剣に魔力が集まっていく。
強大な力が溜まっているせいか、風が彼女を中心に吹き荒れ始めた。
しっかり立っていないと倒れそうだ。
「【光剣撃】!」
彼女が剣を前に突き出した。
その剣先から一直線に光る槍の様な光線が放たれる。
高速で飛んでいくそれは魔王の肩に直撃した。
魔王がうめき声を上げ始めた。
「はああああああああっ!!!」
佐藤栞が剣を押し込むと、光線の威力が増し魔王の体が後ろに反れた。
いや違う、魔王が体を大きく反って光線を体から外したんだ。
光線は空を突き抜けていった。
魔王の肩には傷一つ付いていない。
「やはり直接、全力で、斬るしかない。」
「私も行きましょう。」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
その言葉の後、佐藤栞とフリスさんが飛び出した。
それと同時に魔王が雄たけびを上げた。
戦いは壮絶・・・だった。
佐藤栞が光を纏った剣を持って魔王に飛び掛かった。
それを魔王が正面から拳で叩いた。
佐藤栞は何度も吹き飛ばされるがすぐに立ち上がって再度飛び掛かっていく。
何度も何度も。
同時にフリスさんが魔王のそばで大規模な爆発を起こす。
こちらにまで熱や振動が伝わってくるのだから相当な威力だろう。
しかし、魔王が弱まる気配がない。
魔王に入った傷が浅かったのは高速で回復していたと思っていたが、そもそもあいつの皮膚が堅かったからなのか。
「魔王が固すぎるだろうが・・・。」
俺はついそう呟く。
彼女一人頑張っているのを見ると、何もできない自分が情けなく思える。
「俺達も何かできることって」
「ないな・・・。今こちらの戦力で対抗できるのはレルルくらいだ。私も万全だったら戦えたが・・・。」
これじゃもう埒が明かない。
ずっと戦い続けるのは絶対無理だ。
どうすれば。
その時だった。
魔王が両手で佐藤栞とフリスさんを掴んだ。
その手に力が込められているのを感じた。
「「あああああっ!!!!!」」
彼女たちの叫びが聞こえる。
俺は魔王を見続けるウルさんの方を見て声をかけた。
「ウルさん!」
「わかってる!だが私にはもう魔力がない!」
「どうにかなんねぇのか!!・・・だったら・・・!」
「待って将斗!」
駆けだそうとする俺をミストが掴んでくる。
「あんたに何ができんの?!」
「俺は今スキルでいくらでも強くなれるはずだ!これなら」
「じゃあその後は?またさっきみたいに倒れるんじゃないの?死んじゃうかもしれないんだよ?!」
「それはっ・・・。」
「もっと、命を大事にして!」
「でも・・・。」
俺が必要だと思う行動をした。
その上でこんな状況になって、シャドウが死んで、また目の前で誰かが亡くなったら俺は・・・。
「だったら俺は何のためにここにいるんだよ。」
俺はネックレスを握り締めた。
「意味はあったぞ。」
その声がしたとき、魔王が苦しみ始めた。
地面から黒い線が伸びて魔王の体に絡みついていたからだった。
さらにその線は囚われた佐藤栞たちに巻き付きこちらに引っ張ってきた。
俺たちの目の前で降ろされた佐藤栞は目に涙を浮かべながら俺の後ろの方を見ている。
俺は振り返ってその視線の先を見た。
「お前・・・。なんで・・・。」
「誰かさんが叩き起こしてくれたからだ。まあ半ば奇跡に近かったが。」
シャドウがそこにいた。
胸の傷は塞がっている。
「お前、傷・・・。はぁ??なんで。お前マジか・・・。」
「やけに嬉しそうだな。」
「当たり前だろ。お前・・・いきなり消えたりすんなよ。ふざけんなマジで・・・。」
俺は笑っていた。
なんでかはわからない。多分嬉しいんだと思う。
「シャドウ様!」
フリスさんがシャドウに抱き着いた。
「許しません!こんな・・・こんな!」
「心配かけたな。フリス。」
泣きじゃくる彼女をシャドウは優しくなでた。
そしてゆっくり離れると、シャドウは佐藤栞のもとへ行き、手を差し伸べた。
「栞さん。その、悪いんだが、もう少しだけ頑張れるか?」
「・・・うん。うん!」
佐藤栞はシャドウの手を取る立ち上がり、二人で魔王を見た。
「まさか倒せる方法があるのか?」
「ああ、ある。」
「どうやるんだ?」
「それは後で説明する。」
するとシャドウが隣の佐藤栞に耳打ちした。
彼女はそれを聞き終わると少し微笑んだ。
「変わりませんね。」
「これが俺、なんでな。」
そう言うとシャドウの体が黒くなって、消えた。
それと同時に佐藤栞が跳躍した。
彼女は空中で両手で剣を肩の後ろに持っていき、力を溜めた。
その向こう、魔王のさらに向こうにシャドウがいた。
シャドウもシャドウで拳を握り溜め込むような構えをしていた。
「はああああああああっ!!」
光が集まっていき佐藤栞の剣を中心に輝きだした。
逆にシャドウの方は暗く、闇に包まれていった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
魔王は何かを悟ったのか今まで以上にもがき苦しみだした。
光と闇がどんどん大きくなっていく。
佐藤栞の光が眩しすぎて周りが見えなくなってきた。
「行くぞ!!!栞さん!!!」
シャドウの叫びが聞こえた。
「「【光陰衝突】!!!!」」
二人の叫びが重なって聞こえた。
眩しすぎる光の中佐藤栞が剣を振る。
暗闇に包まれた中でシャドウが拳を放つ。
その瞬間光と闇が魔王を中心にぶつかり、混ざり合った。
大地を揺るがす轟音と、地震、そして衝撃波が生まれ、俺は目をふさいだ。
目を開けた時魔王の姿はどこにもなかった。
あったのはシャドウに駆け寄っていく佐藤栞の姿だけだった。
戦いが終わり、シャドウ達がこちらに戻ってきた時にそれは起きた。
「あっ!?・・・がっ!!」
「な、なんだ。どうした。」
「あぶねぇ。」
ウルさんが身構えてこちらを見ている。
変な人を見る目でこちらを見ないでくれ。
「いや【後払い】が・・・。」
「そういやアンタそれどうすんのよ。」
「どうしような・・・。」
ミストにそう言われ俺は困った。
そう、とりあえず一件が落着したけど、俺の問題がまだ残っているからだ。
この後回しにし続けたせいで溜まりにたまっている【後払い】のペナルティをどう処理するかという問題だ。
「どうしたんだ。」
シャドウが聞いてきた。
とりあえず全部説明してあげると少し考え込んだ。
「困ったな。場合によっては死んでしまうんじゃないか?」
「少しでも油断するとさっきみたいに気絶するしな・・・。」
「ふむ・・・。じゃあ栞さんのスキルを貰えばいいんじゃないか。回復できるし、当初の目的も果たせるし一石二鳥だ。」
「なるほど。」
するとシャドウが佐藤栞に説明してくれた。
「私のスキルを・・・。」
「栞さん。将斗は悪いやつではないと思うから頼む。」
「わ、私からもお願いします。」
そう言ってくれたのはミストだった。
「え、俺そんな信頼されるようなことしたっけ・・・?」
「し、してくれたじゃない。ほら、助けてくれたし。」
「そ、そうか・・・そうだな。」
「照れないでよ。」
うわすげぇ恥ずかしい。
感謝され慣れてないからなぁ。
佐藤栞は下を向き「ふぅ」と息を整えると「いいですよ。」と手を差し伸べてきた。
「いいんですか。ありがとうございます。」
「このスキルがあると世界に悪影響があるって言ってましたよね。だったらむしろ持っていってくださいってくらいです。」
・・・だったら最初のあの時さ、いやなんでもない考えないでおこう。
俺は佐藤栞さんの手に触れるとスキルを使った。
「【回収】。」
俺の手が光った。
ステータスウィンドウを開くと新たに【神光】のスキルが手に入っていた。
「あれ?」
「どうしたの?失敗?」
「いや違うけど・・・。」
ステータスウィンドウのスキルの画面にはこう表示されていた。
【回収(残り0回)】
【心眼】
【後払い】
【神光】
「あいつから盗ったスキルがないんだけど・・・?」
「ほんとだ。アクセルフィールだっけ?」
「そう・・・なんでだろ。」
考えるが、理由はわからなかった。
何かしたわけでもないしな・・・。
するとシャドウが手を叩く。
「考えながら動こう。まだあとフレとレルルとランドを探さなければならない。」
「そうするか。」
確かにいくら考えても出てこないしな。
その後、シャドウは佐藤栞とフリスさん、俺はミストとウルさんの二手に分かれて探すことになった。
歩いていると【後払い】のゲージが少なくなっているのが見えた。
そこで、気づいた。
「あ・・・。」
「どうしたの。」
ミストが聞いてきた。
「【神光】ってさ回復効果あるだろ?」
「うん。」
「それって別にさ・・・痛みを消すわけではないよな?」
「ああ~。・・・あ。」
ちょうどその時【後払い】のゲージが無くなったのが見えた。
「ん?」
「どうしましたシャドウ様?」
「今なんか聞こえたか?鳴き声みたいな。」
「さあ・・・?」
ちょっと駆け足気味だったようなそうでもないような