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素材  作者: 味噌煮だったモノ
第4章 
51/63

第51話 厄災 540話 宿敵

相席食堂って言う番組をアマプラで見ているんですけどね

まず、これロケする番組でそこで一般人が出てくるんだけど、最近見た回にその・・・とある場所に出てきた人の名前が・・・佐藤栞・・・だったんですよね・・・字全く一緒なんですよね・・・投稿します(味噌煮はそんな人がいるとは思わなかったなどと供述しており)

「あ、将斗そろそろ5分経ちそう。」

「お、ありがとう。ちょっとここ座っててくれ。」

「うん。」


俺は背負っていたミストをベンチに座らせると集中した。

【後払い】のゲージが減っていくのが見える。

あと2ミリくらいしかない。


「ふぅーー・・・・・。」

「・・・。」


ミストがじっとこちらを見ている。

なんかちょっと恥ずかし・・・いやいいマジで集中しろ俺。

あと1ミリ・・・。

・・・。

・・・。

・・・来たっ?!


「あ゛っ・・・ぐ・・・あぶねぇ・・・。」


発動できたか?

【後払い】のゲージが満タンになっている。

成功だった。

だが気になることがひとつあった。


「大丈夫なのそれ・・・。なんかさっきのより苦しそうだったけど。」

「うーん。なんかこれやるたびにダメージ大きくなっていってる気がする。もう少し遅れてたらやばかったかもしれん。」


【後払い】のダメージが来る5分ピッタリに【後払い】を使うことでダメージを先延ばしにするこの方法は、今のところなんとか継続できている。

だがエクストラとの戦闘後の3回目と今の4回目で一瞬食らうダメージが大きくなっていることが感じられた。

3回目が全身をぶっ叩かれた痛みと表現するとしたら、今回のは全身をバーナーで炙られたみたいな、それこそユウヤと戦った時のアレぐらいはあった。

多分だけどしっかりダメージを食らった場合、その痛みがどんどん大きくなっていく気がする。つまり想像もつかないようなのが来るんだと思う。


「やっぱり、これ以上動かない方が良いんじゃないの?ただでさえ私をおぶってる分負担がかかってるでしょ。」

「まあそうしたいのは山々なんだけど。せめてシャドウへ加勢をしておきたい。こっちに来るために佐藤栞を任せっきりにしてるし。」

「死なないでね。」

「・・・努力します。」


そう言って俺は膝を曲げミストを背中に乗せる。

こいつ無茶苦茶強いから実は結構筋肉あったりしてがっしりしてるのかと思ってたけどそうでもない。

肩を掴む腕は細くて華奢だし綺麗。

足も同じくらいきれいで真っ白。まあさっきの戦闘の傷はあるけどそれでも綺麗だ。

どこからあんな力を・・・。異世界はこっちの常識が通用しないってやつか?

俺はミストを背負うと走り出した。

走ってる間思ったがこの背中に感じる2つの・・・


「将斗。」

「えぇぁ?!はい?!なんですか?!」

「なんで敬語なのよ・・・。あのさ、あいつ記憶が読めるって言ってたじゃない?」

「ああ、そういやそう言ってたな。」


俺はゲージを気にしながら走りつつ答えた。

確かにあいつは記憶が読めるって言ってた。

ていうか大丈夫だろうか。

神様とのやり取り見られたりしてねぇよな・・・?

いや、別に見られたらマズいものはないか。


「それで・・・さ。あいつ、将斗が来た時、『愛する人のために行動するなんてな』って言ってたじゃない。」

「ぁ。」

「それってつまり・・・わ、私のこと。」

「あいやそれはあれだつまり、あれなんだよその」

「好きってこと?」


あれ?やばい言葉が浮かんでこないし出てこない。

俺の頭に浮かぶのは一面の白。真っっっっ白。

やばいどうしよ。やばいやばい。


「どう・・・なの?」

「ぇあ、っと。その。」


マジで出てこねぇ。いやここは素直に・・・言ってどうすんだよバカか。

だって俺はこの世界に居続けるわけでもないし・・・って何カップルになったときのこと考えてんだ。成功パターンはほぼねぇよ。

あるのは失敗パターンだろ。『私は別に好きじゃないけど』とか言われたら立ち直れなくて戦闘どころじゃなくなるぞ俺!

その時俺の視界に今にも消えそうになっている人々が映る。


「あ、あ!ヤバイ、人が消えてってる?!」

「それさっき自分で説明したじゃない。」


そうだった。来る途中魔王召喚の影響で人々が消えてってること話したんだった。

じゃあ・・・


「あれだ。急がないとなーって思って。よし、もうちょっと速く走るからしっかり捕まってるんだぞー!」

「そう。で、さっきの答えを貰ってないんだけど。走りながらでも喋られるよね?」

「あー・・・。」


駄目だわ。まだ広場まで数分あるぞ。

このまま無言で突っ切るのはきつい。

朝みたいに・・・あ、そうだ。


「俺がお前のところに来たのは、朝のことで謝りたかったからだ。」

「朝・・・?ああ。あのこと。」


あの朝俺は、ミストに『将斗は私と都を巡ることを楽しいと思っていない』と思わせてしまっている。

その誤解を解こう。


「そう。俺は、本当はお前と都を巡るの楽しかったんだ。」


これは本当。


「でも2日目も俺なんかのお守りで祭りを楽しめないのはなんか申し訳ないから、避けちゃったんだよ。」


これは嘘。

また逃げてしまった。

いやでもこれが最適解だろ。

どうだ。大学をぼっちで過ごしてた人間の割には頑張った答えだろ?


「・・・別に気にしなくていいのに。私も楽しかったし。じゃあ・・・。」


そう言うと、彼女の手が少し強く俺の肩を握った。「だとしたらあいつの言ってたのは何?」


「あいつは面白半分で茶化してきてたんだろ。からかってたんだよ俺のこと。」

「ふぅん。そう・・・。」


そう言うとミストは俺の方から手を外し、俺の胸のあたりでクロスさせ、さっきよりももっともたれかかるように体制を変えた。

顎が右肩に乗っている。

疲れてんのかな。


「・・・なし。」

「・・・え?」


なんか言われたな。

なんて言ったんだ?


「悪い聞こえなかった。なんて」

「なんでもない。走って。」

「お、おう。」






広場に着いた。

5回目の【後払い】の直後だった。

佐藤栞が立っているのが見えた。

座り込んだ北原に向かって立っている。

彼女の足元にシャドウが倒れていた。


「・・・は?」

「嘘・・・。」


シャドウの周りが赤くなっている。

まるで、血のような。


「シャドウ!」

「シャドウ様!」


俺はシャドウに駆け寄ろうとするが、ミストをおぶった状態で佐藤栞に近づくのはマズいと思った。

佐藤栞はこちらを見ている。

どうする、もう見つかっているから逃げられない。

ミストを降ろして一人で・・・いや、ミストにも少し協力してもらってエクストラの時と同じ戦法で・・・

そう考えて俺が立ち止まっていると、佐藤栞が動いた。

動いたというより、立ち位置をずらした。

シャドウに近寄れるようにした・・・のか?

彼女を見ると、夜だからよく見えないが、目元が赤くなっている。

まさか・・・目が覚めている?

俺は走ってシャドウに駆け寄った。

佐藤栞の横を通るが彼女はこちらを見るだけで何もしてこなかった。

倒れたシャドウに近づくと同時にミストが降りてシャドウの様子を調べ始めた。


「シャドウ!しっかりしろ!」

「将斗ナイフ貸して。」

「わかった。」


俺はナイフをミストに貸した。

シャドウの肩を揺らすが全く動かない。

体が、冷たい。

手が胸のあたりで組まれている。

その手に赤い指紋がついていた。

その手を解きシャドウの服をミストが斬っていく。

胸に大きな刺し傷があった。

そこから大量の血が流れて・・・流れ出ていた痕があった。


「こんな傷じゃ・・・。包帯とかじゃ間に合わない。これはもうヒールじゃないと駄目。アルを呼ばないと・・・でも・・・。もう・・・。」

「アル・・・?」

「魔法の【回復ヒール】が使える子。この都のどこにいるのか・・・。でもそれ以前に・・・。」

「どうした。」


ミストが涙を流している。

口に手を当て、下を向く。


「もう・・・間に合わない。心臓が・・・。」


俺はシャドウの手首を触る。

何も感じない。

もっと強く握る。

しかしやはり何も感じない。

首も触る。

俺にそういう知識がないだけで本当は脈があるんじゃないかという期待が俺を動かす。

だけど、何一つ感じられなかった。


「井川君は・・・。」


口を開いたのは佐藤栞だった。


「井川君は自分の身と引き換えに私を目覚めさせた。」

「・・・。」


なんで・・・なんでだよ。


「井川君は私が殺してしまったの。だから償いは後で」

「違う・・・。」


佐藤栞が振り向いた。

その目はやはり赤い。


「俺がここに居続ければよかったんだ!ここであんたのスキルを奪ってからミストのところに行けばよかった!」


シャドウの肩を揺らす。

彼は何も答えない。


「なんでだよ!なんで俺を行かせた!なんでお前が死ななきゃならない!俺なんかどうでもよかっただろ・・・お前、やっと好きな人に会えてんだぞ!」


シャドウと一緒に飯を食べていた時のことが思い浮かんだ。

俺のピンチに駆け付けてきた時のことも思い浮かんだ。

まっすぐで自分に正直でいつも上からくるような話し方をしていたこいつはもう・・・。


「これがお前のやりたかったことかよ。違うだろ・・・。」


俺はやるせない気持ちを拳に乗せ彼の胸を叩いた。


「まだ終わってねぇんだぞ・・・。まだここにはお前の支えたい人がいるだろうが!」


やはり彼は動かなかった。


パチパチパチパチパチ


拍手が聞こえてきた。

その方向に目をやると、地べたに座っていた北原が拍手をしているのが見えた。


「はははっ、あー最高だよ最高。感動的だったよ。」


棒読みでそう言った。

目は一切笑っていない。

俺はそれを見て怒りしか湧いてこなかった。

するとあいつは、だるそうに立ち上がった。


「はぁ、ったくまたスキルを掛け直さねぇといけねぇなぁ。なあ栞。」


佐藤栞が構えた。

俺は立ち上がってミストの前に出た。

ここで佐藤栞を操られたら、マズい。


「もう一度俺のものになれよ・・・【狂律】!」


北原の眼が怪しく光った。

その瞬間、佐藤栞の体が揺れた。

彼女は動かない。


「さあ、手始めにそいつらを」

「もう、効きません。」

「・・・あ?」

「もうそのスキルは効かないと言いました!」


佐藤栞が北原に剣の先端をまっすぐに向けた。

北原は一瞬身構えた。

この感じ、もしかして操られていないのか。


「ど、どうなって・・・。だって俺のスキルは状態異常じゃねぇ!見聞きする情報を相手が受け取る前に書き換えてるだけだ!お前の【神光】じゃどうにもならねぇはずだ。」

「情報の書き換え?十分異常です!」


佐藤栞は毅然とした態度で答えた。


「はぁ?そういうことを言ってんじゃねぇ。俺のスキルは状態異常として反映されないって」

「私が異常だと思ったら異常なんです!」


無茶苦茶な理論だが何か別の理由でもあるんだろう。

とにかく敵でないなら頼もしい限りだ。


「意味が分からねぇ。クソが。だったら他の騎士を・・・。リンクが切れてる・・・?ふざけんな全員やられたってのか。ありえねぇ。六騎士だぞ。」

「どうやら手詰まりのようですね。」


取り乱している北原に佐藤栞が近づいていく。

俺もその後を追う。

北原の言っていることが正しいなら騎士は全員敗れたってことだろう。

引き分けでないことを祈るが・・・。


「クソっ。魔王はまだかよ。まだ召喚できねぇのか。」

「魔王?」

「北原は都の人々を生贄に魔王を召喚しようとしているんです。さっきまで広場には人がいたはずなんですけど・・・もう・・・。」

「生贄になった、と。」


佐藤栞の眼が細められ北原を睨みつける。

北原は「ひぃぃ」などと言いながら後ずさり、滑ったのか尻餅をついた。

しかしあいつはすぐに足だけでなく腕も使って四つん這いになって逃げようとした。


「【光剣斬シャイニング・スラッシュ】!!」


佐藤栞の剣から光の刃が飛んでいき、北原の横をすり抜けその奥の建物を真っ二つに切り裂いた。


「彼が教えてくれた技。どこまでも飛んでいく光の刃。あなたを逃がすつもりはない。」

「ひっ・・・。」


北原は動けなくなっていた。


「ふっ、ふざけんな!俺がなんでっ!」

「理由は揃ってるはずです。私を操り、彼を殺し、人々を生贄にした。それだけでなく、今まで私にスキルを使っていましたよね。」

「な、なんの話」

「とぼけても無駄です。最初からですよね。私があなたなんかと仲間になって旅なんてするはずないのに。今思えば虫唾が走ります。」

「まさか【調律】も効いてないのか・・・?!そんな・・・。」


そう言うと北原は動けるようになったのか、走り出した。


「逃げられないといったはずです。」


佐藤栞が剣を構えた。

その瞬間、北原の目の前が爆発した。

北原は少し吹き飛ばされ倒れた。

まだ佐藤栞は剣を振ってない。

今の爆発は・・・。


「シャドウ様の死を無駄にはさせません。」

「ぼ、【爆弾魔ボマー】!?」


フリスさんが北原の前に立っていた。


「観念したらどうですか?」

「くぅ、くそっ、まだ俺は・・・。俺は・・・。」


フリスさんと佐藤栞が挟み撃ちの形で北原を追い詰めていく。

その時、大地が揺れた。

立っていられないほどの揺れが起こっている。


「んだよこれ・・・地震・・・?」

「わかりません、地震なんてこの世界に来て初めてです。」


その時大地が割れた。

我はどんどん広がってきて、俺の方に迫ってきた。

すると俺の腹部に衝撃が起こり、浮遊感が次に襲ってきた。

佐藤栞が俺を抱きかかえ飛んでいた。

危うく地割れに飲み込まれるところだった。

どんどん地割れは大きくなり、同時に地面が盛り上がっていく。

そして、地面をぶち抜き、何かが姿を現した。


「・・・あれが魔王・・・か?」

「この前の魔王は違いますね。」


着地した俺たちはそれを見上げていた。

建物何十階分もある大きさの黒い化け物がそこにいた。

角が生えていて、鋭い牙が見える。

顔は犬に近い尖った形をしている。

厄災というイメージが浮かんだ。


「んだよ・・・それ・・・。」


こいつはまだ上半身しか地中から出していなかった。

全身が出てきたら、そのサイズは想像もつかない。


「あははははっははははははははははは!!!!」


そんな笑い声の聞こえる方向を見ると瓦礫の下から頭から血を流した北原が出てきていた。


「ついに来た!間に合った!俺はツイてる!」


北原は両手を掲げ魔王を迎え入れるかのようにして喜んでいた。


「さあ俺に従え!【狂!・・・・り・・・つ?」


急に北原の様子がおかしくなった。

薄くなっているように見える。


「うわぁぁっ?!なんで!?俺消えっ、嫌だ!まだ俺は、なんでああっ!ああああ、ああああああああああああああああああああああ!!!!!」


次第にどんどん薄くなっていき、そのたびに北原は恐怖の色を浮かべるが、何もすることはできずあいつは消えてしまった。


「まさか・・・生贄になった・・・?魔王を利用しようとして失敗したのか?」

「わからない。だけどもうこれ以上人々を消させるわけにはいかない!私が奴を討つ!」

「加勢します。」


隣にフリスさんが立っていた。


「確かあなたはフリスさんでしたよね。」

「はい。」

「井川く・・・シャドウさんは私が」

「知っています。」

「えっ。」

「シャドウ様は私を広場に来させないようにしていた。自分を犠牲にするうえで、私がシャドウ様のことを一番愛していることを知っていたから気を遣ってくださったのでしょう。」


フリスは仮面を投げ捨て魔王を睨みつけた。


「シャドウ様があなたを一番愛していることを知っていました。あの方が選んだあの方自身の死は何か理由があってのこと。だから私はあなたを責めるつもりはない。」

「でも償いは」

「しなくていい!」


フリスさんが怒鳴った。

髪で表情は見えないが、唇をかみしめているのは見えた。


「償う必要なんてない!償うということはシャドウ様は死ななくても良かったと言っているのと同じよ。あの方はあの方の死を含めて勝利を見据えているはず。」


フリスさんはそう言うと俺の方を見た。


「あなたのミスト救出を優先したことも必要なことのはず。」

「それは・・・。」

「だから今はあれを倒すことだけに集中してください。」


愛する人を殺されたのに、見殺しにされたのに、この人は許すのか。


「強いな・・・。」


つい独り言を漏らした。

率直にそう思ったからだ。

ドラゴンを殺されたときの、周りすべてが敵に見えていた俺とは大違いだ。


その時魔王が動いた。

両腕を高く上げて一気に振り下ろした。

とてつもない轟音と共に建物が押しつぶされ、衝撃がこちらに伝わってくる。

魔王は周りの建物を次々に同じように潰していった。


「・・・行きます!」


最初に動いたのは佐藤栞だった。

まっすぐ魔王の胸元まで飛び、剣を腰のあたりに構えた。

まばゆい光が剣に集まっていく。


「【光剣斬シャイニング・スラッシュ】!!!!」


さっきの、いや、俺とシャドウに打ってきた時よりも大きな光の刃が魔王に炸裂した。

ものすごい衝撃波が伝わってきて吹き飛ばされそうになった。

しかし、


「グゥルルルルルルルル・・・・・。」


光が消えた時見えたのは、肌の表面が少し切れただけの魔王の姿だった。


「効いてねぇ・・・?!」

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」


魔王は雄たけびを上げると、腕を振りかぶって佐藤栞に叩きつけた。

避けられなかったのか、直撃を受けた彼女は地面に一直線に飛んでいき鈍い音を立てて衝突した。

彼女は少しの間動かなかったが、少しずつ体を起こし起き上がろうとする。

しかし、ダメージが大きいのかうまく起き上がれないらしい。

さらに、そこに魔王の追撃が迫った。

フリスさんが腕を佐藤栞の方向に向けた。


「【急爆破クイック・エクスプロージョン】!」


そう唱えた瞬間、佐藤栞の足元が爆発した。

爆風で一直線にこちらに飛んでくる。

魔王の拳はさっきまで彼女のいた場所に炸裂していた。

ぎりぎりのところだった。

俺は【浮遊】で彼女を抱き止め、なけなしの残りの魔力を全消費して減速させた。


「ぅ・・・。く・・・。」

「ごめんなさい。あれしか方法はありませんでした。」

「大丈夫・・・です。」


佐藤栞が降ろしてくれというので、ゆっくり立たせた。

少しふらついているが何とか一人で立っている。


「あの技、勇者の最強の技と聞いていましたが・・・。」

「全力でやりました。しかし、あれしかダメージが入っていない。」

「これ相当マズいだろ・・・。」


佐藤栞は現時点で最強の戦力だったはずだ。

それがあれしかダメージを与えられないのか・・・。

俺は魔王の胸の傷を見た。

しかし、気づいた。


「・・・違う。効いてないんじゃない・・・。」

「え?」

「あいつ回復できるのか・・・。」

「まさか・・・!」


フリスさんが驚いて魔王を見た。

そして気づいたようだった。

そう、胸の傷が完全に塞がっていた。


「ダメージは入っていたが超スピードで回復した。だから少ししか傷がついていないように見えたとか・・・?」

「そうなりますね。厄介な。」

「だったら回復できないスピードで私の剣を打ち込むまでのこと。」

「それは・・・おすすめしない・・・。」


後ろから声がした。


「ウルさん?!」

「なかなか面倒なことになっているな。」


別れた時よりボロボロの格好をしたウルさんがエイルに肩を貸してもらって立っていた。


「手短に言う。あれは厳密には回復ではない。この都に描かれた魔方陣が完璧な状態の魔王を召喚しようとしているために起きている現象だ。」

「それを攻撃し続けてはいけない理由は?」


佐藤栞が聞いた。

ウルさんは近くの瓦礫に腰かけてカバンをあさると、古ぼけた紙を何枚か取り出して読み始めた。

そして、一瞬頷いた後こちらを見た。


「魔王を完璧な状態にしようと不具合が生じた場所を再構築し続ける。しかし、何もない場所からものが生まれることはない。だから魔法陣は再構築するための力を、どこかから補給し続ける。」

「まさか・・・人々から?」

「そう、北原がもういないようだが、私たちがこちらに来てる途中。まだ人々は夢を見ている状態だった。喜びに満ちている時点で魔方陣の餌食だ。これは私の予想だが魔方陣は喜びに満ちてきっていない人間も生贄に選ぶ可能性もなくはない。つまり」

「攻撃し続ければ人々が消えていく。」

「そうだ。人々が完全に消えた時ようやく倒せるようになる。それではだめだ。だから、その前に人々を夢から解放しなければならない。」


また操られている人を優先的に開放しないといけないのか。

人質を取られていると本当に動きづらいな。


「その夢からの解放はどうやるのですか。」


佐藤栞が聞いた。

ウルは少し考えこんで答えた。


「視覚と聴覚を制圧されているため、せめて情報の多い視覚さえ遮断することができればいいだろう。一定時間はかかるだろうが。さすがに一般人でもそのくらいされれば自身の異変に気付けるはずだ。そうすれば我々のように夢から抜け出せるはずだ。」

「一定時間暗闇って・・・。」


全員黙り込んだ。

無理だろ片っ端から目をふさいでいくか?


「目つぶししてけばいいんじゃなーい?」

「ダメだろ。」


エイルさんはなんだ。

ネジが吹っ飛んでいるのか?

頭の。


「私の霧は?」


ミストが来てそう言った。

しかしウルは首を振った。


「霧じゃ薄い。視界を完全に奪うんだ。もっとシャドウ様の様な濃い黒の・・・。」

「あっ・・・。」

「どうした。」


俺は一つ思いついた。

フリスさんが償うなとは言ったが、無理だ。

償わせてもらうか。


「俺の【回収アブゾーブ】でシャドウから【闇魔法】のスキルを奪う。」

「無茶だ。【闇魔法】は使用者の体を蝕む。」


ウルさんがそう言った。

だがその辺も大丈夫だ・


「俺の【後払い】ってスキルで痛みを後回しにできる。大丈夫だ。」

「ダメでしょ。」


そう言ったのはミストだった。


「あんた2回しか使えないって言ったでしょ。もうすでに一回使っているじゃない。」

「だから残り一回を使って」

「神様にはなんて言うの?スキルを奪えてなかったら消されるんでしょ?」

「それは・・・。」

「そういうことならさせません。」


フリスさんがそう言った。


「償いはしなくていいと言ったはずです。」

「だけど・・・。」

「待って。そもそもできないの。」


ミストが遮ってきた。


「どういうことだ?」

「シャドウ様の死体が消えたの。」

「え?」

「さっき地割れが起きた時足元を見たらシャドウ様が消えていた。地割れはまだその時来てなかったから、隙間に落ちて行ったとかは考えられない。」


俺は辺りを見回すが確かに死体はない。

赤い地面はあったがそこには何もなかった。


「どうなってる・・・。」

「おそらく・・・。」


ウルさんが話し出した。


「そこに一番愛していた人がいる。シャドウ様は佐藤栞を救い、恋人を解放したということに喜びを覚えた状態で死んだ。つまり、魔王の生贄にされた。と、考えるのが妥当だろう。」

「・・・ありそうですね。」


フリスさんがうつむいてそう呟く。

たしかに、ありえるな・・・。

少し泣けてきた。

俺たちの間に沈黙が訪れる。


その時。


「グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


魔王が大地を揺らすほどの咆哮を上げた。

魔王を見ると、目が赤く光り魔力が集まっていくのが見えた。


「魔力が集まってる。なんかやる気だぞあいつ。」

「皆さんは私の後ろに!」


佐藤栞が前に出て剣を横に倒しガードの姿勢をとった。


「【光壁シャイニング・ウォール】!」


そう彼女が唱えると、彼女の前に光り輝く厚い壁が出現した。

光の防御のスキルだろうか。

すると壁の出現と同時に魔王に集まっていた魔力が形を変えた。

魔王が胸の前で腕をクロスさせ、何かを溜め込むようにしたあと、一気に開放した。


とてつもない衝撃波が魔王を中心に放たれ、建物をなぎ倒しながら俺たちに迫った。


その衝撃波が壁にぶつかるかぶつからないかのところで、俺の視界は黒く染まった。

【光剣斬】【光壁】は現実で昼飯食ってるときに教えてもらった技です。

井川の死後(死んでいない)に猛特訓して完全再現に至ったという栞さんの努力の賜物。

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