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素材  作者: 味噌煮だったモノ
第4章 
50/63

第50話 加速する思考 539話 彼の声 code.540 Last ...

投稿しました。

将斗がエクストラと戦っていた頃。


「っ・・・はぁ・・・・ぁ・・・。」


レルルは攻撃を受け続けていた。

【音速】による対応できない速さでの攻撃。

【騎士王】による洗練された剣撃。

そして、味方だったはずのフレによる終わりのない武器の投擲。

ランドを抑えることで既に疲弊していた彼女は、そんな3対1の状況を何とか生き抜くが、もう立っていることもできないようで、槍を地面に突き刺しそれにもたれかかる形でなんとか立っていた。

眼鏡の奥にある瞳はもう敵を捉えられていない。


「・・・もう・・・いいかな・・・・。」


誰にも聞こえないくらい小さな声で彼女はつぶやいた。

その彼女の方に騎士二人が迫ってくる。


「死ぬ気か?」


彼女の目の前にフレが立っていた。

彼女は棒の先に刃物がついた武器を肩に担いでレルルを見下ろしていた。


「裏切り者のけじめは、私がつけてやる。」


そう言って彼女が持っていた武器を振り下ろした。

レルルは抵抗することなくそれを受け入れた。



レルルは死に場所を求めていた。

以前彼女は自身の悲願のために仲間を利用し、協力者であった敵に寝がえった。

仲間との楽しい日々も、思い出も全部捨てて行った。

そのくらいの覚悟をしていた。

しかし彼女は逆に敵に利用されていた。

ある日、協力者に裏切られ、殺されそうになった。

死の直前に『影』がきた。

そして彼女を助けてくれた。

彼女は泣いた。裏切者である自分に、すべて捨てていった自分に手を差し伸べてくれた彼らの存在の温かさに。

だから、せめてもの償いに彼女は来る日も来る日も一番つらい仕事を引き受け続けた。

疲弊しても周りに悟られぬように隠した。

傷を負っても平気な顔をし続けた。

『影』のために働き、そして死ぬために、その命を捧げ続けていた。




「(ここで私が死ねば、この騎士二人を止められる。フレちゃんならわかってるはずだよね。)」


レルルはそう思い覚悟を決め、目を閉じた。

刃はまだ彼女に届かない。


「(死ぬ前ってほんとにゆっくりに感じるんだなぁ・・・でもこれで、これでやっと・・・)」


彼女の頬を涙が伝った。






「ふぅ・・・。ハァ・・・まさか、犠牲者が私になってしまうとはな。」


ウルはそう呟いた。

彼女は地面にしゃがみこんでいた。

目の前には『女雷帝』がいた。


「私一人で済めばいいが・・・。」


彼女は自身が犠牲になると思っていた。

それを裏付けるようにその悲惨な風貌が物語る。

腕は上がらず、服はところどころ焦げてなくなり、地面に膝をついていた。


「終わりよ、坊や。」


『女雷帝』はそう言うと手をウルの方に向けた。

ウルは覚悟を決め、自身の命を奪うであろう魔法を最後の瞬間まで見据えた。







「フリスー。」

「エイル?!なぜここに、目が覚めてたのね。」


広場に向かって走るフリスにエイルは声をかけていた。


「あのさーシャドウ様からこれ預かったんだけど見て。」

「これは手紙・・・シャドウ様から?って、字はあなたの字じゃない。」

「いやシャドウ様って勇者と戦闘中だし、私も私で伝言いちいち覚えてらんないし。」

「あなたそんなんだから」

「じゃ、やることは終わったんで帰ります。」

「まちなさ・・・逃げ足だけは早いのね。」


エイルを追いかけるのを止め、フリスは手紙を見た。

そこにはこう書かれていた。


『佐藤栞の問題は解決した。広場には来ないで他のワルキューレの援護に向かえ。』


汚い字だがフリスにはそう読めた。

直接の指示に信頼されていることを感じほんの少しだけフリスは口角が上がった。

彼女は早速手紙をしまって、他のワルキューレのもとへ走り出そうとした。





神は飲み物を飲みながら映像を見ていた。

映し出されるのは将斗。

だけでなく、レルルとフレ、ウル、フリス、そしてシャドウの映像もそれぞれあった。


「歩みを止めるはずの物語は・・・再度歩み始める。」


飲み物を置き神様はそう呟く。


「他でもない、あなたによって。・・・なんて。」

「くせぇセリフだな。」


先程絵を描いていた男が戻ってきて、神様の目の前に座り映像を見ていた。


「何でいるんですか。」

「さあな・・・。」

「やっぱり気になって」

「うぜぇ。」









レルルはふと目を開けた。

まだ、刃は彼女に届いていなかった。

その刃を見て彼女はただ純粋に


怖い。


と思った

そして彼女は気づいた。

自身の本心を。

「(そっか私・・・私は・・・。)」


「死にたくないんだ・・・。」


刃が止まった。


「私だって殺したくないさ。」


フレはそう言って武器を自身の方に戻した。


「最初からそう言え。誰もお前が死ぬことなんて望んでない。辛いなら辛いって言ってくれ。だって・・・。」


フレは泣いていた。


「小さい時から一緒に過ごしてきた、家族じゃないか。」


レルルは驚いていた。

普段の冷酷無比なフレからは決して見ることができない彼女の泣き顔に。


「私、許されていいの?」

「あの時シャドウ様共々許すって言っただろう。」

「だってあれは、ただそういう雰囲気だっただけで。フレちゃんだって今まで怒ってて・・・」

「私は無理して働き続けるお前が気に入らなかっただけだ。一人で抱え込んで。昔はこっちに押し付けるくらいの女だっただろう。」

「でもそれフレちゃん嫌いじゃん・・・。」


フレは手を差し伸べ、その手を取ってレルルは立ち上がった。


「ああ、嫌いだ。でももうそのくらいの方が居心地がいい。さっさと元に戻れ。周りに全部任せて好き勝手する姉さんをそろそろ見せてくれ。」

「・・・フフ。なんだ・・・私馬鹿みたいじゃん。」


レルルはお腹を抱えて笑いだす。

涙を流しながら。


「あー!もう!はいはい、じゃあ性格最悪のお姉さん復活しちゃおうかなー!」


ドン 

とご自慢の槍を地面に突き刺し胸を張ってレルルは立った。


「じゃ、そういうわけで防御任せたから。」

「わかってる。」


そんなやり取りをしているところへ騎士二人がすぐそこまで近づいてきていたが、レルルはまだ動こうとしない。


「お二人さん夢の中だから聞こえてないかもだけどちょっと良いこと教えてあげる。周りの壁とか地面、違和感ない?ないかーないよねー。」


騎士二人はただひたすらに歩いてくるだけで一つも見ようともしない。

だから気づかなかった。

壁にも地面にも戦闘によってできた傷以外、何もないことに。


「なんかなくなってるよね?実は」

「長いぞ。早くしてくれ。」

「ちぇー。フレちゃんさ。ここが一番の盛り上がりどころだってこと分かってる?ま、いいけどさ~。」


レルルは槍を高らかに掲げた。


「私のスキルは【昇槍】。槍で突いたものを上空に転移させ固定させる。だから~?」


レルルが最上級に不敵な笑みを浮かべた。


「今上空にはフレちゃんの武器がたんまりあるわけ。」


彼女の発言通り壁や地面に会ったはずの武器は一つ残らずなくなっていた。

彼女は回避している隙に【昇槍】で武器を空に送っていたのだった。


「このスキルを解除なんてしたらどうなるかなー?」

「・・・満足か?」


そう言ってフレは持っていた武器を操作すると、武器そのものが大きく変形した。

大きく開いたそれは、金属でできている傘だった。

その傘に自身とレルルを入れたフレは、同時に手で何かを引っ張った。

すると騎士たちの動きが止まった。

いつの間にか細い糸が騎士たちの体にまとわりついていたのだった。

その糸はフレの手に繋がっている。


「じゃ、いこっか。フレちゃん。」

「ああ。」


動けない騎士の横を通り歩いていく二人の女性。

その背後に夥しい数の武器が降り注いだ。






迫る雷撃をウルは見ていた。

彼女の目にはとても遅く見えていた。

そんな彼女の脳裏にとある会話が思い出される。

『魔力を直接操作して、魔法の構成を崩壊させる壁を展開するんですけど・・・』

将斗言っていた魔法障壁の話だった。


「(そんなのできるわけがない・・・いや、試す価値はあるか)」


ウルは魔力を込め目の前の雷に意識を向ける。

しかし、雷は消えることはなかった。


「(やはり無理だ。・・・・いや、待て。)」


彼女は目の前の雷を凝視した。


「(そもそもこれは・・・魔法ではない?)」


その瞬間、彼女は電流が走ったかのような気づきを得た。



「(そうかわかったぞ。彼女がこの力を手に入れるために息子が犠牲になった話も辻褄が合う。これは魔法ではなく。雷を召喚しているだけなのでは。)」


彼女は雷に向け手を伸ばした。


「(雷魔法など存在しないのに、彼女はそれが使える稀有な存在だと思ってこの可能性を見落としていた。シャドウ様のせいだ。ややこしい。自身の息子を生贄とした雷の召喚、この考えが当たっているなら、この雷は儀式によって現れたと言っても過言じゃない。だったら・・・。)」


彼女はその手に魔力を込めた。


「(儀式阻害の魔法が通じる。はずだ。)」


その瞬間、雷が彼女に速度を上げて迫った。

しかし、ガラスが砕け散ったような音が響き渡り、雷はウルの眼前で消えた。

彼女は「ふぅ」と一息ついた。


「成功か・・・ならば・・・」


ウルはそう言って先に立っている『女雷帝』を見た。

『女雷帝』は吹き飛んで倒れていた。

白目をむいて失神している。


「当たりか。要は、彼女自身が儀式の、それこそ魔方陣の役割をしていた・・・か。生贄は息子。召喚するのは雷。どうしてそこまでの力を手に入れようとしていたのか。いや、それにしても・・・フッ。」


彼女は倒れて空を見上げた。


「やはり魔法使いとしては私の方が一枚上手だったらしい。」






フリスは手紙をしまう前に違和感を覚えた。

いつまでも手紙から目が離せなかったからだ。

シャドウが手紙を寄こすことは初めてではない。

彼女が引っ掛かったのはそこではなかった。


「これは・・・?」


手紙の端。「ワルキューレの援護に向かえ」と書かれた隣に何か消されたような跡があった。

彼女は気になり目を凝らして見つめた。

しかし読めないため、彼女は手紙を離したり近づけたりして何とか読もうとした。


「・・・え、これ・・・。」


努力の末、ついに彼女はその消された文字が何と書かれているのか読むことができた。


「『佐藤栞と俺が戦っていることは絶対に言うなよ。フリスを絶対に広場に近づけるな。』・・・これってエイルが言われたとおりに書いてしまったもの?だとしたら今シャドウ様は佐藤栞と・・・?」


そして彼女は目を見開いた。


「彼女はまだ『夢』から覚めていない?!じゃあシャドウ様が危ない!でも、私との2人がかりでなら何とかなるはずなのにどうして。」


考えても埒が明かず、彼女は広場に向かって走り出した。






「井川君・・・井川君・・・。」


佐藤栞は闇の中にいた。

どこを見ても暗闇。

しかし唯一、目の前にあの時井川を殺した魔物がいた。

彼女はひたすらその魔物を斬り続ける。

何度も切り続けるが、魔物はすばしっこく、避けられる。

しかし、疲労が出てきたようで、動きが鈍くなってきていることに彼女は気づいていた。


「もう嫌。こんなところで戦うのはもう嫌。私はただ井川君と一緒にお話ししていられればそれでよかったのに。」


彼女は剣を構えた。水平に。


「斬ってもダメだから・・・。」


大地を一蹴り。

魔物との距離を一瞬で詰めた彼女は、その剣で魔物を突き刺した。

魔物は間合いを詰めた際、一切動かなかった。

だが刺された後、魔物が手を伸ばしてきて、彼女を抱きしめた。

こういう形で自爆する魔物と出会ったことを彼女は思い出し、焦る。


「っ!離して!私は・・・こんな・・・あれ・・・?」


引きはがそうと魔物に触れるが、彼女は違和感を覚えた。。

力を入れても、うまく引きはがせないことに。

思考と行動が一致できない。

声を出そうとしても出せなかった。

しかし、視界だけははっきりしていた。

そのおかげで、彼女は気づいた。

自分が触れている光景と触り心地が全く違うことに。

魔物の体は毛で覆われているのに、触り心地が人間の肌に近い。


「一体・・・。」

「・・・さ・・。」

「え・・・。」

「・・・り・・・。」


魔物が何か口を動かしている。

彼女は何かを言っているように考えたが聞き取れなかった

しかし、その声はどこかで聞いたことがあるような気がした。


「(まるで・・・井・・・そんなはずない。全然違った。あんな声じゃない。)」


しかし彼女は、違うような気がして、その考えを否定する。


「栞さん!」

「?!」


再度魔物の声がした。

今度ははっきりと彼女の名前を呼んだ。

しかし彼女はそれが井川のものではない気がした。


「でも、今の声・・・今の声は・・・間違いなく井川君だ。」


彼女には何度も聞いた声が、幾度ももう一度聞きたいと願った声が聞こえたはずだった。

声は井川そのものなのに、心がそれを否定する。


「こんなのおかしいよ・・・私は、この声を探していたのに。」


困惑した彼女は、おそるおそる目の前の魔物に聞いた。


「もう一度聞かせて・・・?あなたの声を。」

「栞・・・さん」

「・・・。うん。やっぱり。」


魔物の振り絞ったような声で栞は確信した。

この声は井川のものであると。

同時に彼女が感じ続けている『この声は井川のものとは絶対違う』という感情がおかしいということも


「こんなのおかしい。この空間も、この魔物も、全部、全部!」


彼女は内に秘めた自身のスキルに力を籠めた。



「全部消えて!!」



その瞬間、彼女を中心に光が広がっていき、彼女を包んでいた、闇が晴れ。

目の前の魔物が消えた。

代わりに目の前には、口から血を流し、優しく彼女を見つめる井川がいた。

その胸は彼女の剣で貫かれていた。


「・・・井川・・・くん。・・・私、私・・・っ。」

「栞さん・・・。よかった、覚めた・・・のか。」

「ごめん、私。私こんなっ・・・つもりじゃ。」


栞は泣いていた。

己の手で会いたかった人を傷付けてしまったことに。


「栞さん・・・。二つ。言っておく。」


泣き続ける彼女の頭に手を回し、井川は話し出した。


「北原を・・・っ、止めてくれ。君なら・・・できる。」


その声は消えそうなくらい弱弱しくなっていく。


「もう一つ、今でも・・・俺は・・・・。」

「やだ、井川君。井川君!」


井川の目が閉じられていった。


「君が・・・・好き・・・だ。」


彼の腕は、その後力が抜けたように地面に落ちていった。

レルル馬車居眠り事件の真相はご想像にお任せします

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