第49話 埒外の存在
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「どうですか?」
神様は白い花が刺さった花瓶をテーブルに置きながらそう言った。
そして席について置かれていた飲み物を少し飲むと、空中に映し出された将斗の映像を見た。
その足元で、床に寝転びながら、筆で絵を描いている男性がいた。
「どうですか、だと?ふざけんな。何だこの馬鹿は。」
「酷い言い方ですね。」
「本当のことを言ってんだろうがよ。」
床にいた男性は映像を見ながらそう言った。
話し方の荒いこの男は藍色の着物を着ている。
「この戦況じゃ、あのかっこつけリーダーと一緒に戦うのが最適解に決まってる。感情に物言わせて自分のことだけ優先させるなんざありえねぇ。」
「まあ、そこの思い切りの良さが彼のいいところなんですけど。」
「悪いところ、だろ。だいいち・・・」
男は神様に筆を差し向けた。
「てめぇが自慢げに話すもんだから来てやったんだ。こっちはまだ『名付き』の依頼が途中なんだってのによ。」
「でも筆が止まったままじゃないですか。いいインスピレーションになると思いませんか。」
「思わねぇ。人間程度に俺の絵が影響を受けるはずがねぇ。」
男の手元に置かれたキャンパスには夜の砂漠の絵が描かれていた。
星がきらめき、月が砂漠を照らしている。その中を歩く一人の男。
完成されたように見えるその絵に対し、男はその絵の一部分だけをずっと睨みつけていた。
「もうそれで完成でいいじゃないですか。」
「ああ?てめぇ俺の仕事に口出してくんじゃねぇよ、延滞女。」
「え、延滞・・・き、期日は守ったじゃないですか。」
「間に合わないからって伸ばしてもらった方の期日だろうが。」
「うぅ・・・。」
神様は申し訳なさそうな表情をした。
それを訝しげに一瞥した男は映像に視線を戻すと
「つーかよ。そろそろ介入したらどうだ。」
「介入したら駄目って決まってるじゃないですか。」
「バカかお前。もうここまで崩壊が進んでんだぞ。あいつが止められるわけもねぇ。それにあの埒外の存在だって」
「いいんです。」
男が言い終わる前に神様がそれを遮った。
真剣なまなざしで映像を見続ける神様を男は黙って見つめた。
「だって・・・。」
「・・・。」
男は神様の次の言葉を待った。
「私介入できるほどの力なくなってますし。」
「・・・うぜぇな。」
うぜぇと言われて泣きながらその理由を問うてくる神様を無視し男は自分の絵を見た。
しかし、映像も気になるのか少し間隔をあけてそちらの方も見ていた。
ナイフが空を切る音がした。
「あぶねぇ~。あとちょっとでお陀仏」
俺はナイフを振り下ろし真下にしゃがんだ男を斬る。
だが身を引きそのナイフはまたしても空を切った。
俺は間髪入れず地を蹴り男との間合いを詰める。
ナイフを振り回し続けるが男はそれを軽々と避ける。
「振り方が雑だぜ?それでどうやって俺に当てるつもりだ?」
当り前だ。こっちはド素人。ナイフの振り方なんて知ってるはずがない。
だから【後払い】の力でリミッターのなくなっているこの身体能力に物を言わせ、全力で飛びあいつの横を通り抜け、振り返りあいつの背中を切り裂いた。
布を裂く感覚はあった。
目の前にあったのはあいつが羽織っていたボロい布だけだった。
「くそ!」
「こわいこわい・・・。もう少しで斬られるところだったぜ。」
あいつは俺の後ろに立っていた。
俺はひたすらにナイフを振り続けた。
どれも避けられる。
まだ遅いんだ。もっと早く、もっと素早く。もっと、もっと!
全力でがむしゃらに動き回りあいつに一太刀浴びせようと動く。
動けすぎる体に脳が慣れていない。
力加減を見誤って転ぶが、地面に指を引っ掛けあいつから離れないように飛び抜き、近づく。
【浮遊】も織り交ぜ、空中からの攻撃も繰り出した。
捉えろ。あいつを。
俺のスピードは増していきついに、俺の蹴りがあいつの腹を捉えた。
手ごたえがあった。
あいつは腹をさすり笑った。
「いってぇな・・・。さすがにここまで早く動かれると着いていけねぇなぁ。俺は肉弾戦が嫌いなんだよ・・・」
ちゃんとダメージはあるらしい。だけど、まだ飄々とした話し方を続けている。
これだけじゃ足りない。もっと攻撃を当てろ。
俺自身が動きに慣れてきたおかげで、俺の拳があいつの肩を捉えた。
「っ、やるなぁ。でもいいのか?そんな動きしてたら、5分後に大変なことになっちまうぜ。」
奴の言う通りだ。
こんな動き方してたら、この前のとは比じゃない・・・。
いやいい、考えるな。
こいつは止めないと。
またドラゴンのような被害者が出る。
この都の人達のような被害者が出る。
そう考え奮い立たせ、休むことなく攻撃をしていく。
そしてついにナイフが奴を捉えた。かに思えた。
「えっ?!」
あいつのではない声が目の前で発せられた。
目の前にいるのはミストだった。
「なっ?!」
俺は無理やり身体を捻りナイフが彼女にあたらないように全力で避けた。
地面に転がるが、すぐに起き上がって周りを見ると、エクストラは後ろにいた。
さっきまでミストが座っていた場所だ。
「大丈夫か?!」
「う、うん。」
「入れ替わったのか・・・!」
「惜しい!もう少しだったなぁ?」
「・・・惜しい、だと。ふざけんな!」
俺はあいつに向かって駆けだした。
【浮遊】を全力で使い一瞬で距離を詰める。
奴が右を向くのが見えた。
次の瞬間奴が消えた。
あいつはさっき向いた方向に移動していた。
こんな風にすぐに逃げられては時間が無駄になっていく。
【後払い】のゲージはまだ半分以上あるから3分くらいはまだ動けるだろうか。
ついでにステータスを開き、魔力の残量を確認するともう残り少なくなっていた。
急加速を使いすぎていた。
俺は再度走って奴に近づく。
その俺の体が、地面に倒れこんだ。
重いものを乗せられているような感じがする。
全力を出しているのに全く動けない。
息がしづらい。
何だこの心臓を握りつぶされているような感じ。
この感じ・・・。
「この力、お前の記憶にあったから当然覚えてるよな?」
奴の眼が光っていた。
「・・・っリュージの!」
「正確には【傲慢】の力だな。便利なもんだな。」
魔人の力をなんでこいつが。
いや、魔人の力は絶対に誰かに宿るという話をしてた。
悲嘆の魔人を倒した時、あいつはあそこにいたのか。
だから・・・。
いやあのスキルを持ってるからなんだ。
関係ない。
このままでは時間が来ると思い焦る。
しかし、拘束が解けた。
エクストラは笑いながらこちらを見ていた。
「かわいそうだから解いてやるよ。」
俺はその瞬間あいつに殴りかかった。
「っとと、本気で殺しに来てんなお前。そんなに嫌いか俺のこと。悲しいねぇ。」
急げ、今無駄にした時間を取り戻せ。
「にしても俺が相当悪者に見えてるらしいが本当にその見方は合ってんのか?。」
無視しろ。こいつの言葉は聞く必要ない。
「俺が何のために魔王召喚させるように仕向けたか知らないだろ?」
惑わされんな、斬り続けろ。
あいつは俺の攻撃を避けながら話し続けた。
「この世界を救うためだ。」
一瞬、止まりそうになったが。ありえない。
3つの世界で悪さした前例がある以上信じる必要がない。
「おいおい、聞く気なしか?まあいい、この世界の魔王は倒されたことになってる。しかしその実違う。」
いい加減黙れ。
「神がお前をなんでこのタイミングでこの世界に送ったか知らないだろ?いつもと違うタイミングだったよな。魔王討伐直後だなんてよ。」
「・・・」
「その答えはただ一つ。佐藤栞が倒した魔王、あれが本物の魔王じゃないからだ。」
「意味が分からねぇこと言ってんじゃねぇ!そろそろ黙っ」
「世界の崩壊がこのままでは進行し続ける!本物の魔王を倒さなければいけない。だけど彼女たちはそれに気づいていていない。だから俺が本物の魔王を召喚するよう仕向けた。」
「っ・・・それと俺がここに来たタイミングと何の関係がある!」
「何の関係?さあな?」
「・・・は?」
「俺はお前と会話さえできればよかったんだよ。」
何だこの感じ。
何か、いやな予感がする。
最悪な手を選んでしまったときの様なそんな感じがする。
いや、気のせいだ、こいつがそれっぽいことを言っているから。そう思っただけ。
そうやって心を落ち着かせたとき、俺は目を疑った。
「俺って結構いろいろスキルを持っててな。【竜宮時間】ってスキルがあるんだよ。それ使ってるときの俺と、つい会話をしてしまうと・・・。」
【後払い】のゲージがもう1ミリもなかった。
これは・・・。
「時間間隔を忘れちまうんだよな。」
その台詞が聞こえたのは後ろからだった。
振り返ると、座り込んだミストにナイフを振り下ろしているあいつの姿があった。
俺が駆けだそうとしたとき、ゲージが消え、痛みが、俺を襲った。
ドッ
そういう重い、ナイフが突き刺さる音がした。
顔をそむけたミストは、痛みが来ないことに疑問を感じ、顔を上げた。
目の前にいたのは、シャツを着た少年だった。
さっきまで戦っていた、将斗が目の前にいた。
彼の腕はエクストラの腕を掴んでいて
地面には血が落ちてきていた。
ミストには彼の体で見えないナイフが今どうなっているのかを想像するには簡単すぎた。
「将斗!!」
ミストは声を震わせ叫んだ。
「【回・・・収】」
かすれた声で将斗がそう言うと、彼の手が光った。
「いい判断だな。俺からスキルを奪うなんてよ。」
「・・・。」
将斗は動かなかった。
その手はエクストラを掴んだまま止まっている。
「・・・まあ、もう聞こえてねぇか。俺のスキルは100以上ある。1個くらい奪われたところでどうってことねぇ。」
「ククク」と笑いながらエクストラは言った。
「お前の負けだよ。」
「将斗さんっ!」
神様は椅子から立ち上がった。
その衝撃で飾られた花の花弁が落ちた。
「へぇ、5分ギリギリで走ってナイフを受け止めたか。で、あいつどうするつもりなんだよ。あいつのせいで全部滅茶苦茶になってんだぜ。これがお前の自慢してた男かよ。」
『【|
回・・・収】』
「・・・へぇ、多少根性があったか。だが、終わったな。どうすんだ?」
男は神様に聞いた。
神様は目を見開き映像を見ていたが、ふと、口角が上がった。
「まだ、わからないみたいですよ。」
「あぁ・・・?」
神様の発言に理解できず、聞き返そうとする男の眼前を、先程の花弁が落ちていった。
男はついそれを目で追った。
「・・・っ?!」
男は目を見開いた。
「・・・気に入らねぇ。」
男は急に筆を走らせるとその絵をもって立ち上がった。
「どこへ?」
「絵が完成した。届けに行く。」
「最後まで見て行ったらどうですか?」
「もう必要ねぇ。」
そう言って部屋を出て行った。
「終わったな。なかなか面白いショーだったよ。」
「将斗っ!・・・将斗っ!」
「あとはあの女どもが倒される様でも見させてもらうとするかな。」
エクストラは空を見上げて笑う。
「無駄な死だったな。」
そう言ってエクストラは将斗の手を振りほどこうとした。
しかし動かなかった。
「・・・ああ?」
生きている可能性を感じたエクストラだったが、将斗の右腕がだらんと垂れ下がった。
その考えは杞憂だったと、左腕を外そうとしたとき。
「・・・いってぇだろうがクソがぁあああああ!!!!!」
エクストラの腕が引かれ、将斗の右腕が彼の腹部に叩き込まれた。
エクストラの体がくの時に曲がり吹き飛ぶ。
地面を何回かバウンドしながらエクストラは壁に激突した。
「ふぅ・・・。」
「将・・・斗?」
将斗はミストに振り返った。
「生きて・・・うっうう・・・。」
ミストが泣き出した。
「え、ああの、泣かれるのはちょっと・・・」
「なんでよ!身を挺して庇うくらいできるんだからびしっとしててよ。」
「えぇ・・・すまん。」
ミストが抱き着いてくるので将斗は困った顔をして頬を掻いた。
ミストは泣き止むと顔を上げて
「ありが・・・ってええ?!」
「え、何?!」
「あんたこっこれ、刺さってる。刺さってるままだって。」
ミストの顔の上にはエクストラのナイフがあった。
彼女の言う通り、それは将斗の胸に刺さったままだった。
「ちょっとこれ大丈夫なの。」
「何のマジックだぁ?!ええ?!」
将斗たちの方に少し声を荒げたエクストラが歩いてきた。
「無理すんなよおっさん。」
「無理をしてんのはてめぇだろ?なんで5分後のダメージを食らってねぇ。なんでその状態で立ってられる。」
将斗はナイフを引き抜いた。
そのナイフの先にだけ血がついていた。
「んだそれは、確か出ごたえはあったんだけどな!」
「これだよ。」
将斗は胸のあたりから何かを取り出した。
中央に穴の開いたドラゴンの鱗でできたネックレスだった。
「まさかそれでナイフが止まったとか言うんじゃねぇだろうな。」
「ご名答、ベタだろ?」
「ありえねぇな!狙えるはずが」
「狙ってねえよ!たまたまだ!」
将斗の言うことは本当だった。
ドラゴンの鱗がナイフを止め、さらにエクストラに手ごたえを感じさせたのだった。
「・・・ク、クク。奇跡でも起こしたってか?笑えるなぁ。じゃあ何か?【後払い】はバグでも起きたか?」
「いや、痛みは一瞬感じたよ。」
「じゃあなんで立ってやがる。」
「二回目の【後払い】を発動できたからだ。」
「あ?」
「【後払い】は受けるはずのダメージを後回しにする。俺は1回目の【後払い】のダメージを【後払い】で後回しにした、らしい。」
「後回しにしたダメージをさらに後回し?最初からそのつもりで動いてたってわけか。どおりで考え無しに動いてたわけだ。」
「いや?2回目発動するまでそんなこと頭になかった。痛みを感じた瞬間、それができる気がしてやっただけだ。」
「はぁ?!信じられねぇ!傑作だお前!考え無しに、運と奇跡に全部任せて行き当たりばったりで戦ってやがる。ハハハハッハハハハ!!!・・・クソ!」
エクストラは転がっていた瓦礫を踏み抜く。
そして彼は将斗を睨みつけた。
「さっきのは高くつくぜ。」
「はぁ?」
将斗は心底呆れたように声を出した。
そして思いっきり煽るように
「何が高くつくぜ、だ。お前はこの何の考えもなしに戦ってるだけのやつに一撃貰ってんだ恥じろ。」
そう言い放った。
「ハァ・・・クク、いい度胸だ!何分間でも付き合ってやるよ!お前は久々に俺をイラつかせてくれた!」
「ムカついたから本気出すんだな?!今更!?最高にダサいぜお前!」
そう言うと将斗はミストの方を向いた。
「まだ動けるか?」
「え、うん。」
「その、・・・い、一緒に戦ってくれ。」
「なんでちょっと照れてんのよ。・・・わかった。」
「いいのか、よかった。・・・だったら・・・。」
将斗が小声でミストに耳打ちした。
ミストは頷くと将斗と一緒にエクストラに向き直る。
「いくよ。」
「ああ。」
「二人がかりか。いいなぁそれは。楽しめそうだ!」
エクストラがそう叫ぶ。
同時に将斗たちはエクストラに飛び掛かった。
「【濃霧】!」
ミストが叫んだ。
その瞬間、濃い霧が辺りを包む。
「なるほどなぁ。お前たちならこの中でも動けるからな。」
将斗とミストが霧の中から攻撃を仕掛ける。
「くっ、あぶねぇ。・・・おっと・・・さすがにここまで濃いと見えねぇなぁ。」
二人の連携がエクストラに襲い掛かった。
霧が濃い分、さっきよりエクストラの動きが鈍かった。
攻撃の予備動作が見えていないからだった。
「お前。瞬間移動はどうした?!」
霧の中から将斗の声がした。
「ハハッ、わかってんだろ。俺が見えた場所にしか瞬間移動できてないことをよ。」
「やっぱそうか・・・よっ!」
エクストラの首元をナイフがかすめる。
彼はギリギリのところで回避して見せた。
「ふぅ、なかなか厳しいな。・・・ん?そうかお前に奪われたスキルがようやくわかったぞ。」
「それがどうした。」
「何個もスキル持ってると検索に時間かかんだよなぁ。おっとあぶねえ。話してる時くらい攻撃止めたらどうだ。」
霧の中にいる将斗に向けて、エクストラは攻撃を避けながら話続ける。
「お前が奪ったスキルは【思考加速】。人間が感じる時間を引き延ばす能力だ。」
「へえ。」
「興味なさそうだな。その能力は周りにも影響を及ぼす。効果範囲は世界全体。つまり、痛みを感じている仲間がいたらその時間が無理矢理引き延ばされる。お仲間を持っている奴には大迷惑な能力だな。」
「だから?」
「どうやって使うのか見せてくれよ。それとも使わねぇか?というか、どっちにしろなんでそんな能力を奪った?教えてくれよ。」
「知らん、たまたま奪えたのがその能力だっただけだ。」
「また何も考えてねぇのか。おっと。」
「がら空きよ。」
「ぐっ・・・。」
腹部に強烈な一撃が加わる。
ただでさえ早い将斗の動きに対応しきれていない上に、ちょうどいいタイミングでミストが攻撃を仕掛けるため、エクストラには回避を休む暇もなかった。
だがエクストラは笑っていた。
この状況を楽しんでいた。
手加減してるとはいえ、人間程度に翻弄されているこの状況を。
「不利だな。だが」
エクストラは気づいていた。
この連携攻撃は完璧ではないことに。
がむしゃらに動く将斗に合わせて、ミストが攻撃を仕掛けているだけ。
つまりミストが連携の要になっていることに。
「女の方を潰せば問題ねぇんだよなぁ。」
この濃霧でその判断は難しい。
だがエクストラはその判断方法を見つけていた。
ナイフだった。
スイッチのついていない方のナイフがミストのナイフであることに。
そしてその目当てのミストのナイフがエクストラの背後から迫っていた。
エクストラは振り向くと
「ハンデとしてスキルは使わないでおこうと思ったが・・・」
そう言って目が光る。
ミストのナイフが地面に落ちる。
それを握っている手ごと。
「見るだけで発動できるなんて【傲慢】は使い勝手がいいな。」
霧で見えない足元に転がる女をエクストラは笑い飛ばす。
「さて連携の要は潰したぜ。どう出る将斗さんよぉ!」
「素人の将斗が要なわけないでしょ。」
エクストラの後ろから声がした。
カチッと言う音と共にナイフの切っ先がエクストラの顔面に迫る。
将斗の『タマのナイフ』を持っていたのはミストだった。
「入れ替えてたかァ!」
顔をそらし飛んできたナイフを避ける。
その時エクストラの背後で何かがすごい速さで動く音がした。
彼が気付いた時には遅かった。
「【思考加速】!読み方わかんねぇから教えてもらって助かったよ。」
将斗が飛んでいるナイフを回し蹴りで横から蹴りつけ、エクストラの頬に叩き込んだ。
そして、【思考加速】によってその痛みを感じる時間を引き延ばした。
「があああああああああああああああ!!!!!」
エクストラの叫びが響く。
将斗の【後払い】に物を言わせた化け物のような一撃ならば本来吹き飛ばされているはずの体が、吹き飛ばない。
感じる時間が限界まで引き延ばされていて、彼らの視界には物理法則をまるで無視しているかのような空間が広がっていた。
将斗が能力を解除するとエクストラが吹き飛んでいった。
「がっ・・・ああっ、てめぇ・・・躊躇なく使いやがったな。仲間のこととか気になんねぇのかっ!」
「気にはなるけど、わざわざ説明するあたり使ってほしくなさそうだったからな!」
エクストラはそんなつもりではなかった。
将斗の勘違いだった。
しかし、そのダメージはエクストラには十分通用した。
「ククク、無茶苦茶な野郎だ。・・・あああ・・・・気に入ったよお前っ!!」
爆風が吹き荒れ霧が晴れる。
頬から血を流しているエクストラの姿がそこにあった。
「目的が増えた。その適当さ加減が気に入らねぇ。お前のそのなんとかなるだろってその楽観的な性格をズタズタに引き裂いてやるよ。こっちが色々考えて用意した舞台を踏みつぶしてくれるその性格を!」
エクストラは将斗を指差す。
「お前の勝ちだ。今回は舐めてかかった俺の負けってことにしてやる。次は無ぇ。」
「待てよ逃げんのか。」
振り返って歩き出すエクストラを将斗が追う。
「調子に乗るなよ。」
振り向くエクストラ。
その目を見て将斗の動きが止まった。
目は光っていない。【傲慢】の力は発揮されていない。
だがやはり将斗の体は動かなかった。
「・・・そうだ。勝った記念に一個教えておいてやる。北原の能力だ。」
そう言いながらエクストラが頬を撫でる。
すると先ほどつけられたはずの傷が消えた。
「一連のお前らが『夢』と呼ぶ幻覚。あれは俺が作って北原にやった【狂律】ってスキルによるものだ。お前らの予想通り、聞こえる音、見えているモノを書き換えられる。使用者の思い通りにな。【調律】と良い相性だったよ。でもまあなんだったら五感全部を書き換える能力にしてやればよかったか。」
「お前が作っただと・・・?」
将斗は驚いた。
スキルの作成。それができるのは
「それができるのは神だけじゃねぇのか・・・。」
「さあなぁ?・・・じゃあな、この後くたばったりすんじゃねぇぞ。てめぇは俺が殺してやるんだからよ。」
そう言ってエクストラは黒い煙に包まれて消えた。
「っはぁ・・・。」
俺は座り込んだ。
ミストが体を支えてくれた。
「大丈夫?」
「一応。多分気を張りすぎてたからか。」
「・・・あんたなんで私のとこに来たのよ。」
「それは・・・その・・・。」
言えねえ。シャドウのメンタルが欲しい。
「・・・ありがと。」
「え。」
「ありがとうって言ったの。もう言わないからね。」
「はっどどどういたしまして。」
大事なとこで噛むなよ俺。
「シャドウ様のとこ、いくわよ。」
「ああ。」
「あ、そうえいばあんた。」
「何?」
「2回目の【後払い】どうすんの?」
「あっ・・・。」
ゲージが残り5ミリを切っていた。
「ちょっ、ちょっと待って。」
俺は来るであろう痛みに構える。
「どうすんの?」
「痛くなった瞬間に3回目を発動する。」
「・・・できるの?」
「多分・・・?」
エクストラの舐めプはちゃんと理由があるけどちゃんと皆さんに伝わったかどうか