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素材  作者: 味噌煮だったモノ
第4章 
45/63

第45話 0話 高校デビュー! code.1 never give up!の精神  

そろそろ一人くらい謎のサブタイトルを理解してるのかなと不安ながら投稿します。

倒したはずの魔王が目の前にいる。

どうして。あの時ちゃんと・・・。

いいえ、今はそんなこと関係ない。

今ここにいるのは事実。野放しにできない。

ここで倒すの。ここで終わらせるの。他でもない彼のために・・・。



佐藤栞はそう思いながら剣を振り下ろす。

目の前の人物が彼であるとは知らずに。

彼女の戦う理由はすべて彼のためであった。

彼が自分を盾に救ってくれたことへの償いだけではない。

もう一つの理由があった。

それは転生する3年前ではなく、そこからさらに1年前に遡る。



佐藤栞は4年前の春、高校に入学した。

おろしたての皺一つない制服に身を包み校門へ向かう。

その高校は県ではトップクラスの学力を誇る難関高校だった。

しかし入学試験は彼女にとってさほど難しくなかったようだった。


「ねぇ見てあの人、綺麗。」

「ほんとだ、髪さらさらで羨ましいんだけど~。」

「おい、お前声かけてみろよ。」

「バカ、あれはそういうことしていい人じゃねぇんだよ。どっかのご令嬢とかじゃねぇのか?」


彼女の周りにいた人々は彼女を見るやいなや彼女の容姿について口々に話し出す。

肩までのばした髪。頭の上につけた小さなリボン。

長いまつげや綺麗な目。控えめながらも少しある胸。すらっとした脚のライン。

それらへ、かわいいやら美しいなどの賞賛の言葉が送られていた。

しかし彼女はそんな周りは見ようとせずまっすぐに校舎へと向かう。

ただ早く自分の教室に行こうとしていただけなのだ。

文武両道、容姿端麗が制服を着て歩いているように見えるが、そんな反面彼女は内心かなり緊張していたからだ。

これから始まる高校生活に人付き合いが苦手な彼女はビビっていた。

「(うぅ、なんでみんな私の方見てるんだろう。どこか変なのかな。やっぱりリボンはお母さんが言ってたけど子供っぽかったのかな?)」

そんなことを考えながら彼女は足早に歩いていく。

その彼女の後ろから走ってくる男がいた。

そしてその男は彼女が校門をくぐった時、校門の前に立ち止まり叫んだ。


「佐藤栞!」


彼女は大声で自分の名前を呼ばれ、驚きはしたがそれを表情やしぐさに出ないよう気を付け、ゆっくりと振り返った。

しかし、内心では「(なになになになにいきなり、も、もしかして気に障ることとかしちゃったかな、誰、何だろうこの男の子?誰?何?)」と焦っていた。


「あなたは?」


なんとか彼女は声を絞り出して答えた。

彼女の前に立つ男を彼女は知らなかった。しかしどこかで見たことはある気がしていた。


「俺の名前は井川航!実は同じ中学だったんだが覚えてな・・・いや、今はそんなこと関係ない!佐藤栞さん!いや栞さん!」

「はい。」


名前を聞いたが結局思い出せない彼女はどうしようかと焦る。

そんな彼女に井川は頭を下げ手を差し出しこう言い放った。


「ずっと好きでした!俺と付き合ってください!」


告白だった。

彼女は一瞬驚き、びくっと体を震わせたが、表情は崩さないようにした。

彼女の周りのギャラリーたちがざわざわしながら彼女の返答を待った。

井川は頭を下げ続けている。

そんな彼に栞はこう言った。


「お断りします。」


そう言い彼女は振り返って、校舎を目指した。

「(何今の?告白されちゃった?どうしよう、咄嗟に断っちゃった・・・。悪いことしたかな。でもあんなところで言われるなんて、すっごい恥ずかしかった・・・。ごめん、ニカワくん・・・。)」

彼女は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、やはり表に出さず凛とした振る舞いで教室に向かった。


入学式は無事に終わり、次の日の午前、クラスで話し合いが行われ、彼女は学級委員になった。

しっかりしている。責任感がある。などといった理由で彼女は選ばれた。

彼女は前に出ると皆に向かって一言。

「皆さんに選ばれた以上は責任感を持って務めさせていただきたいと思います。これからよろしくお願いします。」」

拍手喝采だった。

しかし、そんなことを言ったものの、内心不満だった。

「(私まだ何もしたことないのに何でみんなそんなこと言うんだろう。うう、多数決なんてなければいいのに。でも選ばれたからには頑張らないとな・・・。)」

そう思っていた。


昔から彼女は周囲に期待されることが多かった。

しっかりしてるねとよく言わていた。

しかし本当は逆だった。しっかりしていると言われるから彼女はしっかりするようになった。

小学生の時、期待を裏切った時の友人の顔が少しトラウマになってしまい、そこからずっと内面を隠し続けこんなしっかりしているように見える人間になってしまった。

この高校に入ったのだって「佐藤さんはあの高校に行くに決まってるよね。」と言われたのが原因だった。

つい「はい。」と言ってしまったため、その日から図書室にいり浸ったりして全力で勉強に取り組んでいた。

その努力が無事に実を結んだおかげか、入学試験は彼女にとって簡単だったのだ。


その日の昼。

彼女は机で自分で作ったお弁当を食べていた。

中学の時も弁当だったがそれは彼女の母が作っていた。

彼女はおかずを口に入れると少し微笑むがすぐに表情を戻す。

「(いけないいけない。お母さんの弁当と違って好きなものばっかり入れちゃったからうれしくなっちゃった。誰も見てないよね。)」

お昼時でも彼女はそんなことを考えながら、周りを気にしつつ食べていた。

そんな時だった。


「栞さん、はいこれ。なんかこれ預けられたんだけど、栞さんにって。」


彼女はクラスメイトの女子に何かを渡された。

手紙だった。シンプルな見た目の、それこそスマホのメールアプリの表示にされるくらいシンプルな見た目だった。


「ありがとうございます。これは・・・どちら様から?」

「さあ、男子からだったけど。ラブレターだったりして、なんてこんな時代にこんなやり方するやついないか。じゃね。」

「はい。」


彼女は手紙を開いた。

『今日の昼、12:40に屋上で待つ。井川航』

彼女は少しだけ目を見開いた。

「(昨日の子だ。ニカワじゃなくてイガワだったんだ・・・。じゃなくてこれ何?もしかして昨日のこと怒ってて何かされちゃうんじゃ。どうしよう行かなかったらいかなかったで何かされちゃいそうだし。)」

彼女は時計を見た。

12時35分。

彼女は待ち合わせの15分前にはいないと心配になるタイプだったので、とても焦った。

彼女は今すぐ行くことにした。

周りにばれないように気を遣いつつ、ゆっくり弁当の蓋を閉じる。

大好きで最後まで取っておいたハンバーグが食べられないことに涙が出そうになっていた。

そして口を拭き、ゆっくり立ち上がると、教室を後にした。

廊下を歩きながら彼女はピンク色の小さな腕時計を何度もみて時間を確認する。

12時36分。ずれてないか確認するために他の教室横切るときに時計を見る。

ズレはなかった。

少し早足にしようとしたところ


「お、佐藤さん。いいところに。これ、教室まで届けてくれないかな。教壇に置いておいてくれるだけでいいから。」

「はい、わかりました。」


すれ違った担任の教師にプリントを渡された。

「(あああああ!あと5分切ってるのに!急がないと!)」

彼女はそう考えるが、そんな焦りは顔に出さず無表情で教室に向かう。

無駄のない動きで教室に入り、教壇にプリントを置いてすぐ教室を出た。

彼女は1分も経ってないはずと思って時計を見た。

時計が示していたのは12時38分。

これ以上ないくらいの早足で階段へ向かう。

彼女の今いる階は3階、屋上は5階にあった。

飛ばすことはせず一段ずつ上っていく。

屋上の扉が見えた。

時計は12時39分を示している。

彼女は急いで扉を開けた。

屋上には、誰もいなかった。

「(あれ?ここで合っているはずだけど。)」

反対側にも旧館として校舎があるがあっちの屋上は立ち入り禁止だったため彼女はこちらしかないと考えていた。

しかし、あの男はいない。

その時だった。


「栞さん!」


上から声が聞こえた。

見上げても空があるだけ。


「後ろだ!」


そういわれ彼女は後ろを見る。開いた扉と階段があるだけ。

そして彼女が上を見ると、塔屋の上に仁王立ちをしている井川がいた。


「・・・。」


彼女はそれを見ても何も言わなかった。

言わなかったが

「(あわわわわわ、危ない!危ないよ?!その場所だけ柵ないんだよ?降りて降りて!)」

彼への心配で内心焦っていた。

どうしたものかと彼女が考えていると


「とうっ!」


そう言って井川が飛んだ。

空中で一回転し、彼女の頭上を越え、屋上に着地し・・・なかった。

脚から着地した者の無駄な回転を加えたせいでその勢いで前に倒れこむ。

肘をついて頭からぶつかるのを防いだみたいだが、しばらく起き上がってこなかった。


「・・・大丈夫?」

「ぶっ、だ、大丈夫だ。」


そう言いながら井川が立ち上がるが、やたら右ひじをさすっている。

彼女には、口は笑っているが若干ひきつっているように見えた。

ちなみにこの時彼の右腕にはひびが入っていた。


「栞さん。あなたが好きでした、付き合ってください!」

「ごめんなさい。」

「くっ・・・。」


彼女の即答、それも断りの言葉に、下を向いて震えていた。

「(泣いてるのかな、ごめんなさい。私そういうのよくわからないし。なんて言ったらいいんだろう)。」

そう思う栞だったが、口には出さず。表情も変えずただ井川を見つめる。

井川は数秒後顔を上げるとこう言った。


「俺諦めないんで!明日も告白します!」


その発言を彼女は理解できなかった。

「(あ、あれ?私断ったよね。どうしようまた来るのかな。でもこんなに本気そうな目で言ってるし・・・。でも、この人のこと何にも知らないし・・・。)」

焦る彼女だが、『日頃からしっかりしている人間はレスポンスが早い、私もそうしないと駄目!』と心がけている彼女は


「お好きにどうぞ。」


と言ってしまったのだった。



それからというもの井川は毎日一回ずつ告白してきた。

場所は関係ない。教室にいても廊下にいても購買にいても下校途中でも1日のうち必ず一回どこかで告白してきた。当然井川は周りから白い目で見られていた。

村内側からの告白を彼女はつい毎回断ってしまう。少し怖かったのだ。

しかし怖いながらも彼女は少しずつ彼に興味を抱いていた。

なぜここまで私にこだわるのかと。

とある下校途中に河原近くで告白された日、彼女は告白を断った後、聞いてみた。


「ではまた明日!。」

「待って。」

「えっ・・・。」


毎回告白して断られた後すぐ帰る井川はいつもと違う展開に驚いて振り返った。


「どうして、私にこんなに告白してくるの?」

「それは栞さんを好きだからだ。」

「・・・っ。」


珍しく彼女は動揺してしまった。

自分のことが好きだからと即答してくるとは思っていなかったからだ。

「(赤くなってないよね・・・。)」

彼女は手で顔を隠した。しかし、動揺のせいか次になんて言おうか考える前に口が動いてしまった。


「私のどこが好きなの?」


そう言ってしまった。

「(わあああああ、なんで?なんでこんなこと聞いちゃうの?!恥ずかしいよ!ダメダメダメダメ。)」

彼女は焦った。

しかし井川は、迷うことなく答えた。


「まっすぐで努力家なところだ。」

「え・・・?」

「前に図書館で君が勉強しているのを見た。いつ図書館に行っても君は同じ場所で勉強し続けていた。だから中学の時は成績がトップだったんだろう。」


彼女はその時のことを思い出した。来る日も来る日も図書館へ通った。

親や友達から『試験は余裕でしょ?』と言われてしまっていたから、その『佐藤栞』像を守るために勉強していたことを。


「それでいて、部活でも成績を残していた。頑張って文武両道を体現していた。なのに周りの皆は佐藤さんならできて当然だみたいなことばかり言っていた。」


テニス部だった彼女は勉強をする傍ら、体力づくり、走り込みを欠かさなかった。

苦手だったバックハンドを克服するために壁打ちをした夜を思い出す。

それと同時に、流石は佐藤さんなどと、自分たちとは違う存在を見るような目で褒めてくる周りの人たちを思い出した。


「でも君はそれを弁明せず努力してるところを隠していて。そんな姿がかっこいいなと思ったんだ。そう思ったとき同時に好きになっていた。」


栞は衝撃を受けていた。

彼女の努力していたことそのものを褒めてくれる人間は今までいなかったからだ。

彼女はつい泣きそうになるが、ぐっとこらえた。


「・・・ちなら・・・。」

「?ご、ごめん、今なんて言いました?」

「友達なら、なってもいいです。」


彼女はそう言っていた。

その発言に自分でも驚いていた。

そんな発言に井川は呆然としていた。


「あ、あの・・・?」


流石の栞もどうしたのかと小さく手を振ったりして状態を確認するが井川は答えない。


「はっ?!い、今友達って言った?とむ、友達になん、なってくれるって?」

「は、はい。」

「~~~~~~~~~~っ!!!!!!やったああああああああああああ!!!!!!」


井川は両手を上げて飛び上がった。

その後着地の衝撃を食らったのか絶賛治療中の右腕を抑える。

そして彼女に近づいてきて、左手で彼女の手を取り、その上にうまく動かせない右腕を置いて、上下に揺らした。


「ありがとう!ありがとう!最高だ!嬉しい!」


井川はそう言って上を見上げ何かをかみしめるように目を瞑り喜びに浸る。


「本当にありがとう!これから少しお茶とか、なっ・・・。」


井川はそう言いながら腕時計を見て驚く。


「嘘だろ、もうこんな時間なのか。バイトが・・・くっ・・・。ごめんまた明日!」

「えっあっ・・・はい。」


井川は走り去ってしまった。


「行っちゃった・・・。」


その日、彼女は家に帰っていつも通り夕飯や授業の予復習などを済ませ、キリのいいところでベッドに入った。

彼女は寝ようとは思いつつも、隣の窓から見える空を眺めながら井川のことを考えていた。

明日は日直もあるため早く寝たいとは思いつつも、自分にあんな評価をしてくれた彼を考えずにはいられなかった。

「(そんな井川くんと友達になっちゃった・・・。あ、あれ?友達ってどうするんだったっけ?)」

彼女は中学の時、高根の花のような扱いをされていたせいか友達ができなかった。友達との付き合い方を完全に忘れており、なおかつ異性のため彼女は悩んだ。

悩んではいたが同時に嬉しくなっていた。

「(久々の友達なんだ、大事にしなきゃ。)」そう思っていた。



次の日の朝、彼女の下駄箱に手紙が入っていた。

開くと『今日の昼 屋上でお待ちしてます 井川航』と書いてあった。

時間指定のない待ち合わせ。

「(な、何分に行けばいいのかな。お昼って流石に昼休憩だよね。食べてから行けばいいのかな?どうしたら・・・どうしたら・・・。)」。

その日彼女は珍しく授業に身が入らなかった。


そしてお昼。


「栞さん!」

「こんにちは。」


授業が終わった瞬間、彼女は走らないように気を遣いながら最速で屋上に来ていた。

到着した数分後、井川が来た。

彼女は座っていたベンチの端にずれて、スペースを開けた。

井川はその空いたスペースに座ると彼女の方を向いた。


「栞さん、好きです。付き合ってください。」


彼がいつも通りの告白をした。

実は彼女は『異性の友達との付き合い方』をネットで調べ、会話のレパートリーをたくさん用意してきていた。

しかし、まさか到着して一発目の発言がそれとは思っておらず、口を少し開けて驚いていた。


「お断りします。」


彼女は思考が停止していたせいでいつも通りの返しをしてしまった。

そしていつも通り井川はうなだれた。


「お昼食べましょうか。」

「い、いいんですか?是非!」


振られた人間と振った人間が同じ場所でお昼を共にするという謎のシチュエーションに栞は戸惑いながらも思考をまとめ、用意していた会話を始めた。

人との関わりが少なかったせいか、彼の話はどれも魅力的に感じ、お昼の時間を彼女は楽しく過ごせた。

しかし、井川が話していたのは中二病特有の自分の設定のような話ばかりで、本来一般的には話せないような内容だった。


「引かないんですね。こんな話をしてるのに。」

「いえ、分からないこともありましたが・・・。」

「?」

「面白かったですし、あなたも楽しそうだったのでいいんじゃないでしょうか?。」

「ほ、ほんとですか?」


彼女は考えたことを嘘偽りなく言った。

実際彼女の目には、楽しそうに話す井川が映っていたからだ。

同時に羨ましく思っていた。


世間話なども交え、お昼の時間は終わった。

次の日もその次の日も彼女たちはお昼を共に屋上で食べていた。

毎回最初に井川が告白をしてくるが、彼女は断っていた。

仲は良くなってきていたが、彼女が『この関係は私が告白を断ることで成り立っている』と思ったからだった。

彼女にとってはこの関係がその先へ行くことも終わってしまうことも両方怖かったのだ。

幸い井川の諦めの悪い性格のおかげで、断ってもそのまま会話が続行し、毎日楽しくお昼の時間を過ごせていた。

彼女にとってお昼の時間は一日のうち一番心安らぐ時間となっていた。

厨二は英語を使いたがる。

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