第44話 できること code.538 翳る光
寒くなってきたので投稿します
「無理だな・・・。」
「さっきの大見得は・・・?」
俺たち二人は瓦礫に隠れて相談していた。
イオニスって騎士が、いや魔法使いが強すぎる。
彼女は『女雷帝』と言われるだけあって雷の魔法だけを使ってくる。
そのためウルさんが水の魔法で雷を通電させ誘導して攻撃をそらしつつ、隙をついてこちらから攻撃をするはずだった。
しかしうまく行かなかった。水が言うほど雷を通さないのか、それとも雷の出力が強すぎるのか、どちらかはわからないがウルさんの水は雷にかき消された。
というかそれ以外にも火とか風とか使ったのに全部雷でかき消された。火が雷に消されるってなんだ?
とにかく俺たちだけでは突破できそうになかった。
「どこ・・・どこからなの・・・?!まだ聞こえる・・・。あの子の声が・・・・。」
イオニスはひきつったような声を出しながら頭を抱えて回りを一心不乱に見回している。何かを探すように。
まあ、当然俺たちを探しているんだろう。
俺は覗くのをやめてウルさんに問いかける。
「なんか打開策はないんですか?」
「最悪、騎士の精神力を信じて夢から覚めるまで待つか・・・。」
「そんな時間ないですよ。」
「わかっている・・・。」
本当に時間がない。
状況を考えると俺たちはエクストラに、瞬間移動させられた。他のワルキューレも、シャドウも同じことが起きているって考えていいだろう。
そして俺たちの目の前にわざわざ騎士が配置されている。これも他の仲間に共通してることだろう。
だとしたら、佐藤栞をぶつけられた人がかなり不利だ。
彼女にはシャドウでも歯が立たないってことは、多分その配下のワルキューレじゃ戦いにならない。
だから最速の解決方法は勇者と騎士を操っている北原を止めるしかない。
「・・・俺があの時ちゃんとしていれば・・・。」
「後悔なら後でしてくれ。」
彼女はイオニスの攻撃によってぼさぼさにされた青い髪をまとめながら話し続けた。
「でも・・・。」
やっぱり俺が失敗したせいでこんな状況になっている。
俺のせいだ。
他のところも騎士と戦ってんだろうけど、俺たちみたいに劣勢なんだろうな。
ていうか北原は止めないといけないし、魔王の召喚も阻止しないといけないし、エクストラも止めないと。
勇者のスキルも回収しないといけない。やることが多すぎる。それから・・・
そう考えていると、ウルさんがこっちをじっと見つめてきていた。
「な、なんですか?」
「・・・。将斗、前を向け。」
「え?はい・・・。」
「ふんっ。」
「ごぉっ?!」
ぶん殴られた。
普通に痛い。マジで痛い。口の中は切れてないのは良かったけどシンプルに痛い。
「なにすんですか?!」
俺は頬を押さえながら小声で怒鳴る。
急になんだ?
「後悔するなら後にしろと言った。」
「ええ?!そんなことで殴らないでくださいよ!」
「いつまでも辛気臭い顔をしているからだ。」
「ひでぇ・・・。」
「時間の無駄になる。悩んでいることを全部言え、私が解決してやる。」
「いや逆に時間が」
「早く言え。」
ものすごい詰め寄ってきた。
さばさばした人だと思ってたけどなんかキャラ違うな。
とりあえず俺はやらないといけないことが多いことを伝えた。
「できもしないことで無駄に悩んでいるんだな。」
「でもやらないといろんな人が」
「なぜ全部やる必要がある。」
「えっ?」
どういうことだ?さっぱりわからん。
「それは・・・『北原を止めればいいから実質やることは1つなんだぞ』っていうことですか?」
「ちがう、全部をお前がやる必要はないって言っているんだ。」
「あっ・・・。」
「お前は抱え込みすぎだ。神様に遣われて来ただか知らないが、張り切って全部お前がやる必要はないだろ。」
「でも俺のせいだから・・・。」
「安心しろ。作戦がうまく行かないのは『影』では日常茶飯事だ。今回はシャドウ様でなくお前が原因なだけだ。」
シャドウさん・・・?
ウルさんは続ける。
「こっちの面々は何ともない。個々人ができることをする。だからお前も自分にできることだけをしろ。」
「そんなやり方じゃ何か・・・取りこぼしちゃうかもしれないじゃないですか。」
「だから全部やろうだなんて、贅沢だな。それこそ全部取りこぼすぞ。」
「でも」
「でもじゃない。取りこぼしそうになってもシャドウ様が拾ってみせるさ。あのお方はそういう人だ。だからお前は自分にできることかやりたいことをしておけ。」
「なんか、シャドウにも言われたなそれ。」
『やりたいことをしろ』か。
俺のやりたいこと・・・。
「できることから潰していけばおのずと道は開ける。だからできることだけ見据えてしっかりしていろ。」
彼女はまっすぐにこちらを見つめてそう言う。
この人もしかして、
「ウルさん、もしかして・・・励ましてくれてます?」
「ああ、そうだよ。」
「ウルさん・・・!」
「横でそんな風にされていると士気が下がるからな。」
「ウルさん・・・。」
めっちゃいい人だったのに台無しだよ・・・。いや、逆にツンデレとして受け取っておくか。
「さて、お前はなにをする?」
俺がすること・・・。俺ができること・・・。
「飛んでシャドウを探して北原を止めます。勇者がいたら先に勇者のスキルを奪う。これが今確実に俺ができることです。魔王とかエクストラは任せます。」
「わかった。だとしたらあの狂乱女は私がどうにか足止めしておこう。とはいえ・・・。」
ウルさんは瓦礫の隙間からイオニスを見る。
「あの魔法が強すぎる。どうしたものか。」
「たしかに・・・。」
雷の魔法・・・速さは本物の雷よりは遅いが本当に威力がおかしい。この瓦礫たちだってその魔法を食らうまではさっきまで建物だったんだよな。
【浮遊】で逃げ切れるか不安だ。
「作戦を立てよう。」
「はい。」
そう言い俺たちは、イオニスから逃げる作戦を立て始めた―。
「かっ・・・は、あーしんどい。無理無理。これ以上動けないってのに・・・。」
将斗たちのいる都の南側とは反対の北側の壁付近で、レルルはそう呟く。
瓦礫と共に影から崩れ落ち地面に伏す。
自慢の槍が音を立てて転がった。
彼女の目の前には騎士の一人の小柄な男がいた。
彼の名前はライ。二つ名は『音速』。
音を置き去りにすると噂されるほどに彼は速い。
世界最速とすら言われている。
「私、こういう戦い方の敵好きじゃないんだけどなぁ・・・。っ?!」
「まだ遅い・・・。」
「ぐっ?!」
立ち上がったレルルの真横に瞬時にライが現れ、蹴り技を繰り出してきた。
彼女は間一髪槍を攻撃と自分の間に立てガードするが、ランドを止めていた時のダメージもあり、耐えきれずまたもや吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた彼女の体は民家の瓦礫を破壊しながら突っ込んでいく。
その後をゆっくりとライが歩いていく。
「さっきから遅い遅いって・・・何の夢見てるんだか。」
ため息をつきながら彼女は瓦礫から這い出る。
「にしてもどうしよ・・・。死んじゃうかも・・・。」
彼女はひび割れた眼鏡をかけなおしてそう呟いた。
「【濃霧】ッ!」
都の北西側、ミストはスキルで霧を作り出していた。
普通の人間では手足の先が見えなくなるほどの濃い霧。
しかし彼女だけはその霧の影響を受けないため自由に動ける。
彼女の前には弓を持った女性がいた。
先程の戦いで将斗に弓を放った女性だ。
彼女の名はクレイス、二つ名は『閃光』。
彼女の放つ矢は矢を離した瞬間に矢が加速し本来はあり得ない速度で獲物に向かって飛んでいく。
それがまるで閃光のようだと言われている。
「流石の『閃光』も見えなきゃ、こっちのもんでしょ。」
「うっ・・・。うぅううう。」
クレイスが呻きだした。
ミストは一度構えるが、相手の様子がおかしいことに気づいた。
しかし罠かもしれないとミストは近づくことができない。
「私は・・・一体・・・。」
「え、まさか。」
クレイスは顔を上げた。ミストにはその目は先ほどまでとは違いどこか光が宿っているように見えた。
「目が覚めてる・・・?」
しかしまだ罠の可能性は捨てきれない。
光が宿っているように見えても違うかもしれないとミストは考えた。
しかし、辺りを見回す目の前の女性が明らかにさっきまでの敵意むき出しのものとは違って見えていた。
ミストは意を決して霧の解除を試みた。
都の北東では金属音が絶え間なく響いていた。
ワルキューレの暗器使いフレと騎士との戦いによるものだった。
地面や壁におびただしいほどの武器が転がっていたり刺さっている。
彼女と戦う騎士の名はハード。
両手剣を使う騎士だ。
「私の攻撃が一つも当たらないとは、さすがは『騎士王』と言ったところか。」
騎士王ハードその名を知らぬものはこの世界にはいない。
生まれ持った才能スキルはないが努力だけでその実力を勝ち得た剣士。
騎士の中でも最強と言われた実力は折り紙付きで、フレの攻撃を一切通さない。
「このままでは・・・。」
フレが考えこもうとしたその時、都の向こうから爆発音がした。
ほぼ同時に南側からは爆発ではない何か重いものがぶつかる音が響き続けていることに気づいた。
「向こうにはフリスがいるのか、こっちの音はランド・・・?」
フレはレルルがランドを連れていると考えていた。しかし、フレは先ほど北側の住宅の屋根の上にレルルがいたのを見ていた。
つまり、南側の戦いが終わった場合、もしランドが目が覚めてなかったら・・・という可能性を懸念した。
「夢の解除方法を知っておかなければ、まずいな・・・。だがそれ以上に、この者の相手が続けられるかどうか」
街の中心部。
「がっは・・・。」
シャドウが地面に手をつき血を吐いていた。
「アッハハハハハハ。バカな能力貰ってんなぁお前。」
「なにがおかしい。」
「おかしいに決まってるだろ。使えば使うほど持ち主にダメージが行くスキルなんてさ。」
シャドウを笑っているのは北原だった。
その横に佐藤栞が立っている。
「しかもダメージを受けた割に、その攻撃は栞には一切通じてないってのがもう最高だよ。」
「彼女の名前をお前が気安く呼ぶなよ、北原・・・。」
「あ?何てめぇが俺の名前を口にしてやがんだ。やれ。」
北原が顎でシャドウの方を刺すと、栞はまっすぐその方向へ歩いていき。剣を振り下ろす。
間一髪で躱したシャドウは追撃しようとするが、彼女の蹴りが腹部へ叩き込まれ、吹き飛ばされる。
「魔王・・・あなたはここで私が倒す。」
「栞さん・・・目を覚ましてくれ。」
「無駄だぁ!そいつにはもうお前が魔王にしか見えていない。諦めることだなアッハハハハハ!」
北原は笑い続ける。
栞がシャドウに近づいていき。喉元に剣を突き立てる。
シャドウは咄嗟に手を彼女に向けた。」
「【闇魔法】!【黒き(スティーレ)―」
黒き黒煙のようなものがシャドウの手から放たれるが、栞が手を振り払うとすべて消え去った。
これが彼女の【神光】の能力の一つ。闇魔法の無効化。
シャドウにとって一番の天敵である理由だった。
「ぐふっ・・・。」
再度シャドウは血を吐く。
【闇魔法】にはデメリットがあった。
遣えば使うほど持ち主の体を蝕む効果があった。
だがシャドウはそれをかっこいいとさえ思っていた。
しかしそれは今最悪の形でシャドウに襲い掛かっている。
そんなシャドウに向かって栞は剣を高く上げる。
「終わりよ。」
「・・・栞・・・さん・・・。」
シャドウの声は、彼女には届かない。
彼女の剣が振り下ろされた。
中二病の権化と化し始めているシャドウ君