第43話 弱さ code.537 乱戦
みそラーメンが出たので投稿します
「これをつけておけ将斗。」
そう言ってシャドウが俺に何かを差し出してきた。
これは・・・仮面だ。
「何これ。つけろと?」
「ああ、揃ってる方がキマるからな。」
どこまでも自分の好きなものに向き合ってんなこいつ。
俺はとっくに卒業したって言うのに。
俺は一応仮面を受け取る。みんなと同じ目元だけを隠せる仮面だ。
紐がないけど、どうやってつけてんだろう。
にしてもこんな仮面付けるやつハロウィンとかコミケとかじゃないといないぞ。
・・・ま、まあ、ちょっとダークなデザインはちょっとかっこいいと思わなくもないから着けてやるか・・・。
とりあえず目元に押し当てる。
するとバシュッっと何かが飛び出る音がした後、仮面は手を離しても顔についていた。
触ってみると紐っぽい何かだ。自動装着とかロマン過ぎるだろ。
視界は確保できてる。いいなこれ、どっかに鏡ないかな。
「どうだ着け心地は?」
「くやしいけど最高。」
男はこういうのに憧れる生き物なんだよなぁ・・・。
恥じらいなくできるこいつが羨ましい。
「やれ。」
北原がそう言った。
その瞬間、横にいた7人の男女が一斉にこちらに向かって走り出してきた。
爆破を食らった勇者も、黒い風を受けてた男2人もなんてことない様子で向かってくる。
「総員!迎え撃つぞ!」
「「「「「はっ!!」」」」」
シャドウの掛け声でワルキューレ達も走り出す。六騎士に対し一人ずつ、迎え撃っていく。
・・・いや一人足りない、ランドがレルルさんに背負われたままだ。
つまり、走ってくる勇者と男のどっちかは俺でもう片方をシャドウが担当することになる。
俺に迎え撃てるのか・・・?
「お、おいシャドウ!俺はどっち担当すればいいんだ。お前と相性悪い勇者か?!」
「何を言ってる。」
「何ってお前。」
どんどん距離を詰めてくる。
あと数秒突っ立っていたらまた斬られる!
「おいそろそろ」
「現実の戦いに慣れてなさすぎだ。将斗。1対1なんて綺麗な戦いは現実じゃ起こるはずないだろ。」
シャドウが言ったその時、走ってくる男に横から現れたミストが蹴りを入れた。
男は腕でそれを受け止め抜いていた剣をミストに突き刺す。
ミストは身体を捻ってそれを避けるが後ろからさっきの大男が迫ってきていた。
ミストが担当してたやつだ。まずい!
「ミス・・!」
「落ち着け。」
シャドウが俺の肩を掴む。
こんな時に何してんだ!クソ、全然離れねぇ!
大男がミストの後ろから斧を振り下ろす。
やめろ。やめろ!!俺の頭には最悪のイメージが思い浮かぶ。
そう思ったとき、横からレルルさんが大男の頭に蹴りを入れていた。
大男が怯むが、彼女の後ろからレイピアを持った女性が襲い掛かってきていた。
しかしその女の攻撃をフレさんが防ぐ。フレさんはもう一方の手から小さめの槍を取り出すがそれを何者かに斬られた。
方向転換した勇者がフレさんを狙っていた。再度勇者がフレさんを攻撃するが、またも足元で爆発が起きる。
誰かが誰かのフォローをし、その誰かをまた誰かがフォローする。
ワルキューレも騎士たちもそういう戦い方をしていた。
誰一人担当なんてしていなかった。
「すげぇ・・・。あんな中入れるわけない・・・。」
「そういうことだ。ちなみ俺も今からあそこで戦う。そこで一つ頼みがある。」
シャドウが黒い指ぬきグローブを付けながら言う。
「お前は向こうで立ってる北原をどうにかしてくれ。こっちの敵は俺たちが全力で食い止めている。」
操ってる張本人を止めるってことだな。確かにこういう場合それが一番手っ取り早いのかもしれないけど。
「でもあいつも勇者なんだろ?それじゃ・・・」
「大丈夫だ。規格外の身体能力をしてるのは佐藤栞だけだ。北原はは仲間に指示を出すサポート役だったからさほど強くはないはず。」
「でもなぁ・・・。」
「大丈夫だ。ミストとあれだけやりあえてたんだ、なんとかなる。」
【後払い】を使う前提か。あれは5分以内でケリを付けないといけないから不安だな。
一応【浮遊】を体の一部分に掛けることで疑似的に素早い動きはできるようになってるけど通用するかどうか。
・・・いや、やってみるしかないか。俺ならできる、俺ならできる。
拳を掌にあてて気合を入れる。
「わかった。やってみる。」
「よし。では頼んだ!」
そう言ってシャドウが戦いに行った。
シャドウの介入で乱れていた戦況がさらに乱れる。
それでも敵も味方もそれに対応した動きで戦い続けている。
しかし、ワルキューレ達に多少疲労の様子が見えた。
長くは続けられなさそうだ。
俺は俺の仕事をするしかない。
そこで俺は【浮遊】で広場から出て建物の間に滑り込んで、広場から見えないところへ来た。
ついでにさっき飛ばされたナイフを回収した。
さすがに俺があの戦闘の中を突っ切っていくのは難しい。
だから回り込んでいくことにした。
北原側に行くように走りながら、建物の隙間から彼らを見ようとするが広場の周りの木で見えない。
だがむしろこれのおかげで俺が何しているかは見えないはず。
「ここらへんか?」
ある程度走ったので北原の近くまで来たと思われる。
しゃがんで近くの建物の隙間を通ると、茂みにぶつかった。
多分広場の茂みだ。
そこから少し顔を出すと、ちょうど北原の斜め後ろに来ていた。
ここから奇襲を仕掛ければ行けるはずだ。
ナイフをしっかり握りしめる。
とりあえずこれで攻撃すれば問題ないはずだ。
「行くぞ・・・。」
【浮遊】でゆっくり浮かびあがり茂みより高い位置に来たところで一気に前方向へ加速した。
あと数メートル、5、4、3・・・・今だ!
ナイフを振りかぶりあいつのうなじ辺りを狙う。
北原が気付いてこっちを見た。
腰に下げた剣を抜き出してるが遅い。
行ける。このまま首を切って・・・。
そう思ったとき、手が勝手に引っ込んだ。
ナイフは北原の肩を軽く滑った。
俺はそのまま通過して北原を向くように体勢を直して着地した。
「いってぇな。何しやがる!」
北原が肩を押さえて吠える。
俺のナイフの先に少しだけ血がついていた。
肩をほんの少しだけ切ったんだ。
その時、視線を感じてそちらを見るとシャドウが横目でこちらを見ていた。
失敗した。
なんで、俺は今腕を引いたんだ。チャンスだったのに。
その腕を見ると震えていた。
まさか俺、ためらったのか。こんな局面で?
「ふざけやがって。死ね!」
北原が走ってくる。
ナイフを構えて集中する。
上手く力が入らない。
クソ違う!入ってないように感じてるだけだ、思いっきり握りしめろ。
北原の剣が振り下ろされる。右に避けるがその剣が横に振られてくるのが見えた。
【浮遊】で上半身を素早く反らさせて、回避。さらに、左足を上げて【浮遊】で回転し、剣を持つ手に蹴りを入れた。
しかし、北原は剣を離さない。そのまま剣を戻してくる。後ろへ飛び、回避。【浮遊】で前方向一気に加速して飛び出し、北原の胸に飛び蹴りをお見舞いした。
数十センチは後ろに下がったが、北原は耐えていた。
持っていた剣で突き刺してくるが、久々に【火球】を顔面に放った。
北原は咄嗟に左手でガードするが、のけ反る。俺は高く飛びあがって北原の後ろに着地する。
北原は無茶苦茶に剣を振り回している。
俺を見えてない。背中ががら空きだ。
今なら・・・。
背中ががら空きだから・・・どうするんだ。
刺すのか?俺の手で?
早く動け、殺すことになんで躊躇してんだ。あいつはこの国の人間を消そうとしてんだぞ。
それでも一歩目が出ない。数歩踏み出して手を突き出せば終わる作業だ。それだけなのに。
生き物を殺すことにためらわなかったくせに、同じ人間を殺すことに躊躇していた。
そんな俺をシャドウが見ている。
今しかないのに、俺に頼んでくれたのに。
やるしかないんだよ。ちゃんとしろ・・・。
クソ、だったら・・・。
俺はナイフを北原に向ける。
柄に付いているスイッチに指を乗せる。
これを押せば刃が射出される。一回やったことはあるから多分この距離なら刺さるはずだ。
指が震えている。
両手でナイフを持って狙いがずれないように支える。
押せ、押せ、押せ・・・!
俺は下を見て目を瞑った。【心眼】で地面が見える。
少しずつ押しこまれていたスイッチが何かを超えたのだろうか、急に早く沈み込み、完全に押しこまれた。
バシュッ
刃が飛んでいく音がした。
刺さったのだろうか。
しかしそう思ったときキンッと金属が落ちる音がした。
俺は嫌な予感がして目を上げた
北原が体をこっちに向けて横にずれていた。
右目を押さえ、左目を細めてこっちを見ている。
「なんだそれ。ビビってんのか?」
「な・・・。」
避けられていた。
「俺は他人の感情を読み取れる。後ろからやたら恐怖の感情が伝わってくるとおもったら・・・ハハハざまあねぇな。」
失敗した。
ふと横を見るとシャドウが見ていた。いや、ワルキューレ全員がこっちを見ていた。
せっかくのチャンスを無駄にした。最悪だ。
駄目だ。すぐにこの失敗を取り返さないと。
【浮遊】の全力を出し、北原を避け向こうに落ちたナイフを回収し、柄に入れ地面に突き立て押し込む。
スプリングが強いのか押し返される。何回も必死で押し込んだ。
カチリと音がした。
よし、これでもう一回撃てる。
「なぁ・・・。」
北原が笑いながら剣をしまう。
そして近づいてくる。
「俺を殺すんだろ?ほら、やってみろよ。」
「・・・っは?」
何言ってんだこいつ。
俺はつい後ずさった。
しかし、北原はどんどん近づいてくる。
そして俺の目の前に立った。
「ほら。」
手を広げて抵抗の様子がないことをアピールしてくる。
俺はナイフを向けてはいるが動けなかった。
その手を掴まれ、引っ張られる。
北原はナイフの先端を自分の喉元に突き当てる。
「あとはそれを押すだけだろ、ほらやれよ。」
北原は笑っている。
俺はスイッチに指をかけていた。
なのに・・・。
その瞬間、腹部にケリを入れられた。
「がっ・・・ぅ・・・・。」
吹き飛ばされた。
鈍い痛みが腹部で渦巻く。
吐き気がする。
起き上がろうとしたところを再び蹴られた。
「がっ・・・!」
「無理だよなぁ!伝わってくるんだよ!お前の恐怖!殺すことにビビってんだなぁ!なぁ!?」
何度も蹴られる。
何かが込み上げてきて、吐いた。
痛みで訳が分からない。
「お前が俺を止める役を引き受けたのか?でもお前のせいで向こうは結構不利になって来たぜ。」
見ると確かに、動きが悪くなっていた。
フリスさんが敵の攻撃を受け地面に倒れる、起き上がるところを大男の斧が狙う。
それをシャドウが吹き飛ばそうと黒い霧のようなものを発射するが、佐藤栞がそれを剣で切り、かき消した。
フリスさんは地面を爆破させて自分を吹き飛ばすことで回避していたが、ダメージを受けたのか顔をしかめている。
「ハハ、向こうでぬくぬくと暮らしてたやつには荷が重すぎたな。」
違う。もう俺は3つの世界で戦ってきた。
きっとこれはこいつの能力でできなくなっているだけだ。
・・・いや、俺は前の世界で人を殺してないんだ。直接。
鈴木雄矢を殺したのは【交換】を使っただけ。
悲嘆の魔人にナイフを刺したがアレは直接じゃないし、死なないと思ってたから隙を作るためにやっただけ。
竜王も、ドラゴンのスキルを使っただけ。
俺はいつも間接的に殺していた。
なんでだよ、どっちも殺してるのには変わりないのに、なんで怖がるんだよ・・・。
「でもお前は悪くないぜ。だって人を殺すなんてこと簡単にできるわけないもんな。悪いのはあいつらだ。あいつらが悪いんだぜ。」
・・・そうだ、俺は悪くない。人を殺すなんて間違ってる。悪いのはあいt・・・じゃねぇ!何考えてる。なんだこの感覚。
こいつ、俺の感情を操ってきてる。やめろ、頭がおかしくなる。あいつらを敵と思うことが正しいように思える。こいつを見逃すことが正しく思える。
違う違う違う!!!
・・・感情を操る・・・?
「ん?なんだ?お前何企んで。あ?」
感情読まれてバレたか?関係ない。
俺は北原の足を掴んだ。
「何する気だ。ちっ、離しやがれ!」
北原がその脚を振り下ろし、腹を踏みつけてくる。
痛みで離しそうになる。
駄目だ掴んでろ。
「っあ・・・・。」
「お前何考えてる!こいつなんかする気だ。クソが!」
向こうにいた7人がこっちに向かってきた。
しかしシャドウたちが回り込んでそれを止める。
ありがたい。ここしかチャンスがない。
ここでこいつのスキルを奪って終わりだ!
【調律】と【夢を見せるスキル】を奪って終わりだ。頼み事は果たせなくなるけど、失敗したことへの償いにしてやる。
「ァ・・・・がぁ、・・・。」
上手く声を出せない。
腹を踏みつけられ、痛みで意識が飛びそうになる。
ちゃんとつかんでろ。しっかり奪え!
俺は一気に空気を吸い込み言い放つ。
「アブ―」
「それじゃあ、つまらないんだよなぁ。」
エクストラがしゃがんで俺を上から見下ろしていた。
「もっと楽しませろよ。」
エクストラの目が赤く光る。
背筋が凍りつく間隔がした。
エクストラは立ち上がりシャドウたちを見た。
『跳べ。』
気づくと俺は違う場所にいた。アスファルトがある。城壁も見える。ならここは街の中。
だけど城壁は俺の真横にある。
まさか、飛ばされた?ワープか?
「しっかりしろ。寝てる暇はない。」
後ろから声がした。
この声は・・・。
「ウルさん?」
「ああ。私だ。大変なことになった。見ろ。」
ウルさんが指を刺した先。
ドレスに身を包んだ女性。アレは・・・。
「六騎士の・・・魔法を使う女・・・?」
「『女雷帝 イオニス』。本来存在しないはずの『雷の魔法』を使う女。」
イオニスはふらふらとした足取りでこちらに歩いてくる。
「もしかして強いんですか?」
「魔法使いには2種類いる。ひたすら研究し魔法を練り上げる人間と、戦闘に出てひたすら経験を積むものがいる。そして対人戦において強いのは経験を積んだ方。つまり彼女よ。」
「じゃあ・・・。」
「そう。強い。」
イオニスはこちらを見ると立ち止まって顔を引きつらせる。
目を見開き歯を震わせている。
「なんだ・・・?」
「・・・。」
ウルさんは答えない。
イオニスは数歩あとずさり叫んだ。
「違うの!・・・違うの違うの違うの!・・・ごめんなさい!ごめんなさい!」
彼女は頭を抱えもだえる。
「私はあなたを助けたかっただけなのに!あなたと会いたかっただけなのに!お話ししたかっただけなのに!」
彼女は叫び続ける。
「夢の影響か・・・。」
「そうみたいですね。」
そういいつつ俺は腹の痛みに耐えながら立ち上がる。
「ハッ・・・・こ、こないで!私はただ!ただ!違うの!ごめんなさい!こんな力いらなかった!でも、でも!ああ、ああああああ、あああああああああああああああああ。」
彼女はどう見ても発狂していた。
言ってる意味は何一つ分からない。
「将斗。気を付けろ。来る。」
ウルさんがそう言った時、イオニスの手がこちらに向けられた。
「嫌・・・嫌・・・嫌あああああああああああああああああああああああ!」
電気が、いや雷が、彼女の手から放たれこちらに飛んできた。
普通の電気と違い目で追える速度だが、範囲が広すぎる。
これじゃ横に避けても当たってしまう。
「後ろにいろ!【直下雨】!」
ウルさんがそういった瞬間上から水の柱が落ちてきて地面に突き刺さる。
雷はその水の柱を通り地面に吸収されていった。
しかしその直後上から雷が落ちてきた。
俺は【浮遊】の全力でウルさんごと吹き飛び回避した。
「強いな・・・・。」
「そうだな、伊達に戦闘経験を積んでない。」
「これ大丈夫なんですか。」
「なんとかする。お前がいなければシャドウ様が佐藤栞に勝てないしな。」
「ああ、ありがとうございます。」
「まあ後ろで見ていろ。研究しながら戦闘経験を積んだ私の魔法が負けるはずないからな。」
タイトル変わっていたことに気づいた人間がいるかいないか
そもそも40話まで読んでくれている人はいるのかどうか・・・