第41話 叶えたいもの
誤字を見つけ次第直してるのに次から次へと湧いてくるから霧なくて困りつつ投稿します
「なるほど。」
「わかってもらえましたか・・・?」
「そういうことなら早く言え。」
「聞く耳持ってくれなかったじゃんか・・・。」
俺はフレさんと向かい合って話していた。
フレさんは正座だが俺はうつぶせになって頭だけ上げて話している。
部屋中にはクナイや手裏剣、ナイフ、殺傷能力の高そうなギザギザした色々な武器が壁に刺さっている。
数分前、俺を完全に敵だと思い込んだフレさんは猛攻撃をしてきた。
俺は【後払い】を使って全力で回避しつつ、説得を試みた。
その結果がこれだった。
痛みに慣れたのか前のような気絶はしなかったものの、5分後のダメージのバーゲンセールの盛況ぶりがすさまじかった。
全く動けない。
「あの、ちなみにどこまで覚えてますか?」
「私が覚えているのはこの宿屋で武器の手入れをしようとしたところまでだ。手入れを始めたか始めてないか・・・そのあたりから記憶が曖昧だ。」
「ていうことは作戦は始まってないんですね。」
「ああ、手入れを始めたのはまだ昼頃、作戦開始までは時間があったはずだ。それは間違いない。」
なら今城では作戦実行中に俺がおかしくなってどこかに消えたという事件が起こってるわけではなさそうだな。
この現象については原因が無限に考えられる。一個一個情報を集めて徹底的に潰していかないと埒が明かない。
「あの、フ・・・フレさん。」
「・・・なんだ。」
彼女が一瞬嫌そうな顔をした。
まだ名前呼ばれるのが嫌なのかこの人は。
俺はおそるおそる質問する。いや大丈夫かなこの質問。
「あなたは本物です・・・よね・・・?」
さっきの二人が偽物だから次に出てきた人間が本物・・・とは考えられない。
ここはほぼ何でもありの世界。幻術の二段重ねの可能性だって大いにあり得る。
「フッ・・・だったらどうする?」
「え、あ、いや、どうもできないんですけど。」
考えてなかった。まあ考えてたところで俺はまず動けないしなあ。
動こうとすれば、電流が走ったかのように体のいたるところが悲鳴を上げる。
無理無理。
「私は本物だ。まあ証明はできないが、それはお前も同じだろう?」
「確かに・・・。」
「今はお前から敵意を感じない。とりあえずはお前を味方だと思ってやる。だが怪しいとわかればすぐに切り捨てるつもりだから覚悟しておけ。」
「き、肝に銘じておきます。」
こういう人と喋るの緊張するなぁ。なんか厳しそうでさ。
そういやこの、凛ってする感じの女性どっかで会ったことあるんだよな。
あ、クリスさん辺りが似てる気がする。
いやあの人シスコンだからそんな似てないか。
「他のワルキューレさんたちはどうしてるんですかね。」
「そうだな・・・もしかしたら私たちと同じような白昼夢・・・のようなものを見ている可能性は大いにある。」
「まだ目が覚めてないなら助けに行った方がいいですよね。」
「いや待て。先に私たちだけが夢から覚めた理由を知っておくべきだ。」
「まあ、場合によってはこうなりますしね。」
部屋を見回しながら言う。
本当に酷いなこの部屋の現状。
「私が夢から覚めたのは違和感があったからだ。私はシャドウ様と行動している夢だったが・・・その、理想的過ぎたというか・・・内容はまあいい、その違和感に気づいた瞬間、目の前にいたシャドウ様がお前になっていた。」
「俺がシャドウに見えてたかぁ・・・。てかフレさんが夢を見てるであろう時ってこっちの声すら聞こえてない感じでしたよ。」
「そうなのか?」
「はい、例えば『あの・・・』としか言ってないのに、なんか俺がすごいこと言ったみたいな反応されましたよ。」
「まさかとは思うが、視界と音、それに感情を支配されていたという可能性があるな。」
「そんなことできたりするんですか?」
「いや、そんな能力は聞いたことがないが、状況から鑑みてそう考えるのが妥当だろう。」
その3つが支配されていたと言われれば確かにと思う部分はあるが・・・
まさか、あの男がやったのか・・・?別の世界にいた以上別の世界の力を持っていてもおかしくない。
でもなんでこんなやり方をする。こんな回りくどいやり方を・・・。
クソ、あいつに関しては全然わからないな。
「お前はどうやって夢から覚めたんだ?私はお前がいたから違和感に気づけたんだと思っているが、お前は一人だったわけだろう?」
「まあ作戦行動中の割には自分が安心しすぎてて逆に違和感だったんでその違和感を忘れないようにしてたとしか・・・。」
「そうか、今のところ違和感に気づくしか夢から覚める方法はないのか。」
するとフレさんが立ち上がり俺を脇に抱える。
片手で成人男性支えるのって普通にどんな筋肉してるんだこの人。
俺の体にあたる彼女の脇腹はとてつもなく硬かった。
見ると見事な6つに割れた腹筋があった。その周りの・・・腹斜筋だっけか、それもすごい鍛え上げられているように見える。
これ俺が筋肉フェチだったら死んでたぞ。
いやそんなことよりも
「え?なんで俺抱きかかえられたんですか?」
「今から他の部屋に行く。お前だけここに残すのも良くないと思ってな。」
「動けないから戦闘になったら助けてくれますよね・・・?」
「・・・さて誰の部屋から行くか・・・。」
「聞いてない?!」
これ俺本格的に死ぬかもしれんな。
ギリギリ腕は動くようになったけどこれじゃダメだ。
「とりあえず、武器の手入れをしていた時、確実にこの宿にいたのはウルだ。奴は基本的に自分から部屋を出ない。あいつの部屋に行こう。」
「は、はい。」
この宿屋は3階建てで中央に階段がある、俺の部屋は3階の階段のすぐ横にあった。
ウルさんの部屋はどうやら2階らしい。
突き当りの部屋で止まったのでここが彼女の部屋なんだろう。
フレさんがノックをした。
「ウル?いるか?入るぞ。」
そうい返事を待たずにフレさんがドアを開けた。
すると中はとても暗くなっていて、ろうそくが何本か部屋のあちこちに置いてあるだけだった。
その奥に向こうを向いているウルさんがいた。
ウルさんはこちらに気づいており振り返った。
「あなたたちは部屋の主の許可を待つことができないのか。」
「すまない、緊急事態でな。・・・お前はどうやら無事みたいだな。」
「ええ、なんともない。」
ウルさんは普通に受け答えができている。
ということは彼女は一人で夢から覚めたのだろうか。
「ウル、先程私たちは何者かによって夢を見せられていた。目的はわからないが、視界と音、感情の3つを支配されていたと推測している。お前はどうだった?」
「さあ、私は何ともなかった。それより見てくれこれを。」
ウルさんが手のひらを上に向けてこちらに見せる。
何か乗ってるのだろうか、わきに抱えられている状態じゃ見えない。
「何が乗ってるんですか?」
俺はフレさんに聞く。しかし彼女の顔が険しい。
「何もない・・・。」
「え?」
「何も乗ってない。」
俺を抱きかかえている手に力がこもっている。
どういうことだ?じゃあ、なんだウルさんは何を見せたいんだ。
フレさんのこの反応もしかして、彼女は夢から覚めていない・・・?
「魔法だ。すごいか?」
「・・・私には何も見えん。」
「そうだろう?魔力の流れが見えないだろう。なんたってこれは魔力を使わずに魔法を出しているからな。」
フレさんが俺を肩に乗せる。
ぐっ・・・腹が圧迫されて思ってたよりきついんですけど。
するとフレさんが小声で話してきた。
「ウルは夢から覚めていない。」
「え?わかるんですか?」
「奴の叶えたい方の夢が『魔力を使わずに魔法を使うこと』なんだ。だが彼女は昔彼女自身でそれができないことを、完全に証明してみせた。なのに今・・・。」
「できもしないことをできていると思い込んでいる・・・?」
「ああ、そうなるな。」
「なにを喋っている?」
ウルさんが近づいてくる。
「まさか、私の研究結果を持ち出そうとしているのか・・・?それは許さない。」
彼女が指揮棒みたいなものを構えだす。
もしかして杖か?ってことは
そう思っていた時、フレさんが俺を抱えてい方の手でナイフを構えているのが見えた。
「まさか戦う気ですか?」
「当り前だ、奴は正気じゃない・・・。ちっ、厄介なことになった。」
この状態で戦うのか、邪魔にならないよう逃げたいけどやっぱり体が動かない。
「ウル、目を覚ませ!お前は」
「覚悟したまえ、私は・・・・あ・・・?」
ウルさんの動きが止まった。
「ああ・・・私としたことが・・・趣味の悪いことをするものだなぁっ・・・・・・。」
「ウル?まさか目が覚めたのか?」
「当たり前だ。自分で証明したことだ、こんな現実ありえない・・・。だが少し信じてしまっていた・・・気分が悪い。」
少し話すとウルさんは夢から覚めていたことが分かった。
彼女も、できるはずのない魔法を使っているところに違和感を覚えて夢から覚めたらしい。
やはりトリガーは違和感か。
「しかし、あなたたちの話を聞いて思ったが・・・。この夢はもしかしたら、その人にとって叶えたい現実を見せている可能性がある。」
「叶えたい現実・・・?」
「私は『できるはずのない魔法が使える夢』、フレは『シャドウ様との夢』、そして君は『ミストと仲直りして作戦を遂行する夢』。」
「ん?いやなんか俺のだけ違うと思うんですけど?」
「合っているはずだ。君は朝ミストと喧嘩したはずだ。なのに夢の中では潜入する組み合わせが入れ替わって君とミストが一緒になっている。そして作戦も遂行している。両方君にとって叶えるべき夢のはずだ。」
それが夢って恥ずかしすぎる。
「夢にしてはちっぽけすぎないですかね。」
「それほど他にしたいことがないんだろう。」
まあ・・・納得できなくはないが。
確かに仲直りはしたいし、消えたくないから作戦を遂行したい。
「フレのも正解だろう。」
「なっ・・・何を言っている殺すぞ。」
フレさんは顔を真っ赤にして拳をウルさんに向けている。
あ、これ正解っぽいな。
なるほどシャドウが好きだったのか、だからあんなに・・・。
「まあ図星だということで。」
「まて、まだ私は正解などと。」
「うるさい。この理論で行くと、ここで問題が発生するんだ。」
「問題・・・?」
その時轟音が宿屋に響く。
振動が部屋に伝わってきた。
何かを破壊した音。木製の何かが転がる音。
誰かが部屋を破壊した・・・?
「まずいね。」
「え、えと何が起きてるかわかってるんですか。」
「ああ。」
廊下から足音が近づいてくる。
「ワルキューレの一人にランドっていただろう?赤い髪の少女だ。」
「まさか・・・?!」
フレさんが驚いている。
顔が青い。まさか、そこまでやばいことが起きる?いや起きてる?
廊下の足音はどんどん近づいてくる。
「あの子がどうかしたんですか・・・?」
「もし、この夢が私の言った通り、叶えたい現実を見せるもので」
足音はもうすぐそこまで来ている。
「フレの時のように目の前の人物を別の人間に捉えてしまうことが起き」
開いていたドアからランドが顔を覗かせた。
その目は見開かれ、こちらを捉えた。
「我々があの子の父親に見えてしまった場合が最悪だよ。」
「お父さん・・・?」
ランドがそう言った。
つまり、最悪が来ている。
「彼女の願いは『自らの手で父親を殺すこと』。彼女はこれまでその夢のためだけに今まで力をつけてきた。」
ランドの拳が握りしめられている。
「単純な戦闘力なら・・・彼女はワルキューレで一番だ。」
「嘘だろ・・・。」
フレさんがどこから出したのか、あらゆる武器を手に持っている。
ウルさんも杖を構えている。
俺も体を動かせなくても【浮遊】で回避くらいはできる準備をした。
彼女たちが震えていた。それほどまでにこの子は・・・・。
ランドが部屋にゆっくり入ってくる。
「やっと会えたね。」
ランドは武器を使わないスタイルです