第39話 シャドウという男 code.528 昔話
難しい話になったけど投稿します
窓から朝日が差し込んできた。
俺はベッドの上でその光を見つめる。
今日はまともに寝れなかった。
俺の脳裏には昨日の花火が思い浮かんでいた。
「あああ・・・・。」
俺は枕に顔をうずめて唸る。
さすがにもう大人だから自分がどういう気持ちなのかわかる。
ミストのことを滅茶苦茶に好きになってしまったみたいだ。
たった一日だぞ俺。ちょろすぎるだろ。
なんでこんな感情が・・・俺はスキル回収が終わったら二度と会えないだろうが・・・。
きつい・・・。高校とか中学の頃に感じた気持ちが蘇ってきている。きっつい・・・。
「あああああ・・・・。」
「どうしたの?」
「うわっ?!」
「うわとは何よ。」
ミストが部屋に入ってきていた。
彼女を見た瞬間から心臓が高鳴っている。
やばい、俺いつもどんな感じで話してたっけ。
「お、おはよう。」
「おはよう。朝食の時間だから来なさい。」
「さ、サンキュ。」
「なにそれ。」
「あ、違くて、あ、ありがとう。」
目が合わせられねぇ・・・。
いやそれだと挙動不審過ぎてダメだな、ちゃんと目を見て・・・。
一瞬目が合った。
そしてすぐ逸らしてしまった。
あああああああ、何してんだ馬鹿。
「どうかした?」
「あ、いや、なんでも・・・。」
「ふーん。」
彼女が近づいてくる。
なぜ?!
やばいやばい、なにを話されるか予想して答えを用意しとかないと、またしどろもどろになる。
彼女はベッドに腰かけている俺の前で立ち止まった。
下を見ているから脚しか見えない。
「ん。」
か、彼女がしゃがんで覗き込んできた。
「~っ。」
動けない、何も言わずこちらを見つめる彼女から目が離せない。
どうする、なんて言う、何が言いたい、何をどうすれば。
「なんかあった?変よ?」
「ち、違くて。その、あれだ。え~・・・。」
なんて答えりゃいい。
俺の頭が高速で回転し出した。
腹が痛いからだ。頭が痛いからだ。眠いからだ。お前がかわいいからだ。胸が苦しいからだ。緊張してるからだ。今日でお別れ・・・これだ!
「今日の作戦が終わったら、もう会えなくなると思うとなんかな・・・。」
「そっか、そうだよね。スキルを奪ったら神様がすぐ迎えに来るんだもんね。」
何とかごまかせたか。
冷静さを取り戻せ、いつも通りが全然思い出せないけど、気合いでいつも通りにするんだ俺。
でも、今日ずっとこの状態で乗り切れるのか・・・?いや無理。
よし、かくなる上は彼女とは別行動にして、自然な感じで過ごして作戦を終わらせて即座に帰ろう。
そうだ、今日は作戦で一緒に行動するフレさんとレルルさんにご指導いただいて、作戦を迅速に進められるようにしよう。
この子から逃げられるのと作戦を速攻で終えられるようにできるから一石二鳥だ。
よし決まり。
「俺今日」
「じゃあ今日は、いっぱい思い出ができるように、私が存分に楽しませてあげるわ。いいでしょ。」
「へ?」
「善は急げね、宿屋の朝食は無しにして、都の西側のカフェに行きましょ、あそこのパンケーキって料理がおいしくて有名なの、今から行けば開店と同時に入れると思うから行くわよ!」
「ち、ちょっと待て。」
「何?」
「ほ、ほら今日は作戦があるし。遊んでる余裕は」
「あんたはシャドウ様とお姉さん二人についてくだけだから問題ないでしょ。それに作戦は深夜に行うから全然時間あるわよ。」
「いやでも」
「・・・将斗。何か逃げようとしてる?」
彼女が疑うような視線を向けてくる。
その通りだった。実際逃げようとしている。
彼女は良かれと思って俺を誘っている。今までの行動だって俺のためを思ってやってくれたことだと思う。それは恋愛感情なんかじゃなくて、多分純粋に俺にこの世界を楽しんでもらうため。
だからこそ、この視線がつらい。彼女の厚意から逃げようとしているから。
だけど、どこかで俺がボロを出して、俺のこの気持ちがバレて、彼女に嫌われたりしたら辛い。
そんなことになったら、昨日一緒に祭りを楽しんだ思い出が一気に色あせてしまう。
何も変えず楽しく話せる間柄のままでいたい。このままの状態でありたい。だからこれ以上下手なことをしたくない。
こんなことを考えているから間が開いてしまった。
ちゃんと言え、そんなことないよ。って。いや違う、そんなことない。いや、そんなわけないだろ。どれだよ。いや早く決めろ。早く言え。
「そう・・・。」
彼女は立ち上がって後ろを向いて部屋を出ていく。
彼女は途中で振り返った。
「私は・・・楽しかったんだけど、そうじゃなかったみたいね。ごめんね、無理させて。」
「違っ?!」
ドアが閉じられた。
彼女の歩いていく音が聞こえる。
彼女は悲しそうな顔をしていた気がする。
「・・・はぁ。」
俺はいつもこれだ。
異世界に来たところで何も変わっちゃいなかった。
自虐癖が始まってしまった。
俺はベッドに倒れこみ昔のことを思い出した。
高校の時。
帰り道が全く同じ女の子がいた。部活の終わるタイミングもほぼ同じで、何かのきっかけで話すようになってからずっと一緒に帰っていた。話が合うから楽しかった。
次第に俺はその子が好きなんだとわかった。
ある日その子から、先輩に告白されたという話を聞かされた。
返事はしていないと言っていた。
そして、「どう思う?」と聞かれた。
嫌だった。でも嫌と言ったら、その理由を聞かれる。
理由を言ったらどうなる。・・・それを考えるのが怖かった。
だから俺は『応援するよ』と言った。かっこいいだとかエースだとかで有名な先輩だったから、すごいことだと褒めた。
彼女は少し黙った後、本当にいいの?と聞いてきた。
良いも何も俺が決めることじゃないだろ、頑張れよと言った。そして続けて俺も負けてらんないなと言った。
彼女は鏡見なさいだとかそういうことを言ってきたような気がする。
そのあと、彼女は用があるからと先に帰った。
今思えば最悪だった。全部が。
その後、彼女と帰ることはなかった。
たまに廊下で会ったが、なんて声をかければいいかわからず、教科書を見たりして気づいてないふりをした。
そのまま何もなく俺は卒業した。
彼女との楽しかった思い出は色あせていった。
結局、今回も色あせていくんだろう。
そうしたかったわけじゃないのに。
ここで飛び出して彼女の手を引いて気持ちを打ち明けるか?
はいはい、かっこいいかっこいい。
でもそれは俺じゃない。どっかで見た物語のワンシーンだ。ドラマだよドラマ。
パクったところでいつかボロが出る。俺がそういうことする人間じゃないことくらいすぐバレる。
好きにならなければ普通に楽しく話せてただろうに・・・何してんだ俺は。
気分が落ち込んだまま部屋を出ると、赤い髪のワルキューレ、ランドと出会った。
ワルキューレ内で一番サイズも中身も子供っぽい子だ。
「あれー今起きたのー?寝坊は良くないんだよー。」
「はは、朝には弱くて。」
「あ、ミストから伝言頼まれてたんだー。今日の護衛はーシャドウ様がしてくれるんだってー。」
「は?なんで。」
「まあそういうことだ。」
後ろにシャドウが立っていた。
「うわ、いつの間に?!」
「こういうのは得意分野なんでな。さて、」
シャドウが腕を引っ張ってくる。
力つっよ。
「同郷の者同士、水入らずで楽しもうじゃないか!」
「えええええええ?!」
俺は引きずられ、朝食をとらないまま街に連れ出された。
俺とシャドウは出店で買った、どう見ても明らかにたこ焼きなものと、どう見ても完全にお好み焼きなものを持って城壁を目指していた。
シャドウは謎のサングラスをかけていた。
「悪いな将斗。万が一俺のことを知っている奴がいたらいけない。だから誰にも邪魔されずに食べられる場所としてはあの城壁の上くらいしかないんだ。」
「いや良いですけど。てかそもそもなんで急に俺の護衛を?」
「同じ故郷だから何か話そうかと思ってたからだ。いいだろう?」
「まあ・・・。」
歩いていると行列が見えた。
何の行列だろう。列は結構向こうまで続いている。
「なんか大人気の店がありますね。」
「ああ、たしかここは・・・。」
その時向こうから白髪の少女が歩いてきた。
ミストだった。
そうかここ西側だから、朝言ってたカフェがあるのか。
隣にはウルさんがいた。
向こうがこっちに気づいた。
距離が近づいていく。
声、かけるべきだよな・・・。
「・・・よ、よう。」
「何?」
「え?」
「わざわざ呼んだじゃない。なんか用があるの?」
「あ、いや、特には。」
「・・・そう。」
するとミストは俺の前を通りシャドウに近づく。
「シャドウ様今夜のことについて少しご相談したいことが・・・」
彼女はシャドウと話し始めた。
一切こっちには視線が来ない。
その代わりウルがこちらをずっと見ているのに気づいた。
「な、なんすか。」
「・・・別に。ミスト、私は先に帰る。じゃあね。」
「うん、ありがとう。」
ウルさんはそう言うと言ってしまった。
ミストも数分間話した後行ってしまった。
その間、こちらを向くことはなかった。
シャドウがこっちを見ていた。
「行こうか。将斗。」
「あ、はい。」
城壁の上に来た。駆け上るのかと思ったが普通に階段で登った。
二人で買ってきた飯を広げ座って食べる。
ここからは街が一望できた。
「将斗。そういえば、敬語じゃなくていいんだぞ。歳は多分お前の方が上なんだからな。」
「え、ああ、じゃあそうさせてもらうわ・・・。」
たこ焼きを口に運ぶ。
え、うまい、本場で食べたのと同等の味がする。
異世界たこ焼きうま。
唯一問題なのはタコが黄色いことなんだけど。
これタコか・・・?
「時に将斗。俺は佐藤栞が好きだ。」
食っていたたこ焼きを吹き出しそうになった。
「いやなんの話?!」
「俺が佐藤栞が好きだって話だ。」
「男同士で恋バナでもする気か。やめとけ。」
「まあいいだろ、たまには。組織のトップなせいでこういう話をする相手がいないんだ。」
シャドウは口にたこ焼きを一個放り込んで飲み込むと続けた。
「昔、中学生の時から彼女はまっすぐで努力家で、そこに俺は惹かれていた。」
「ほう。」
「だから俺は、彼女と同じ高校を目指した。彼女の学力はかなり高く高校もそれ相応のレベルだったが、負けないくらい努力して見事入学したよ。」
「すげぇな。」
「そして、入学初日彼女に告白した、校門の前で。」
「えっ。メンタルどうなってんだよ。他の生徒はいなかったのかよ。」
「いたと思う。だがそんなことは関係ない。俺が好きだから告白したんだ。」
まっすぐなやつだ。
組織のトップやってるだけのメンタルはあるな。
「そして振られた。即答だった。」
「うわぁ・・・。」
「だが、俺はあきらめず来る日も来る日も告白した。周りからは白い目で見られていたそうだが気にしなかった。」
彼は遠くを見ながら話し続けた。
その片膝ついて頭に手を当ててるのは、素なのかカッコつけてるのかどっちだ。
「それを続けていると、彼女は毎回振るものの、会話くらいはしてくれるようになった。」
「おお。」
「ある日趣味の話になった。俺の趣味はこれだ。」
立ち上がった彼は着ている真っ黒のトレンチコートをひらひらさせる。
「これってのは?」
「自分に不思議な力が宿ってると思い込んで振る舞うことだよ。一般的に言うなら中二病だ。」
「うそだろ、それを言ったのか。てか自覚はあったのか。」
「言ったというより、やった。」
「目の前で?」
「目の前でな。」
うわぁ。
俺の眼はすべてを見通すとか、ダークフレイムなんちゃらとか言ってしまったんだろうか。
これは撃沈しただろうな。
「彼女はわからないとは言いつつも、それを行うことは否定しなかった。嬉しかった。一層彼女が好きになったよ。」
佐藤栞いい子過ぎるな。
「だから俺はそれを前面に出し続けた。学校でもな。」
「えぇ・・・。」
「周りから人が離れて行ったが、彼女だけは受け入れてくれていた。おかげで好きなものを隠さないことがすごく楽しいことだとわかった。」
マジで良い子じゃん・・・。
「しかし、ある日、彼女が告白されたという話を聞いた。」
「うわ・・・。」
「俺は彼女の帰り道を先回りして、信号の反対側で待ち続けた。」
帰り道把握してんのか・・・。
「すると彼女が歩いてきた、その隣にはあの北原がいた。」
「北原が告白したのか。」
「二人で歩いているということは告白を受け入れたんだろう。彼は顔立ちもよく頭脳もある。彼女にぴったりだった。」
辛いな・・・。好きな人が別の男と歩いてるのを見るとか。
「帰ろうと思った。だけど、最後に一回告白しようと思った。今までで一番気持ちを込めて。俺を少しでも受け入れてくれたことへの感謝も含めて。」
「・・・・。」
「信号の反対側にいる彼女に愛を叫んだ。信号が青になり彼女が歩いてきた。彼女の答えはわかっていた。だから俺は覚悟を決めて歩き出した。その時だった。」
彼は腕を塀の上に乗せた。
「トラックが突っ込んできたんだ。歩行者の確認をしてなかったんだろうね。俺は咄嗟に彼女を突き飛ばした。だけど、飛ばなかった。反対側から、北原が突き飛ばしていたんだ。だから、トラックの前に3人出ることになって、気づいたら神様の前にいた。」
「そこでこっちに来たのか・・・。」
トラックとはまたベタだな。
「ああ。俺が無駄なことをしなければ彼女は助かっていた。だから申し訳なくて来る日も来る日もどう償おうか悩んだ。そんなある日、知ってると思うが、彼女が魔物に襲われた。そこで償おうと思って俺は彼女を庇って、崖から落ちた。そのあと色々あってワルキューレ達と出会った。」
色々が気になるがあとにしよう。
「俺はその後、身を隠して彼女を裏から支えようと思い、『影』を作った。」
「・・・お、おう。」
「まあ世界を支える名目で行っているから、ワルキューレ達には少し悪いんだがな・・・。」
「そこがわからないんだよな・・・。」
「?」
心底不思議そうな顔でこっちを見るな。
「彼女のことがものすごく好きだって話は分かった。で、なんで会いに行かないんだよ。わざわざ身を隠して回りくどい方法で手助けして。」
「その方がかっこいいからだ。」
「・・・は?」
「俺がかっこいいと思ったからやってるんだ。」
「マジで言ってんのか、ちょっと冷静になって考えてみてみたり」
「冷静に考えても俺はこれをかっこいいと思ってる。」
全然共感できんが。
「それ彼女が知って気持ち悪いとか思われたりしたら嫌じゃねぇか?」
「彼女がどう思うかは関係ない。俺がかっこいいからやりたくてやってる。それを彼女がかっこいいと思ってくれたら儲けものだ。」
嘘偽りないまっすぐな目をしている。
そうか、本当にこいつはそういう、影で支えるみたいなことがかっこいいと思ってやってるんだ。
自分が好きだから、ただそれだけの理由で。
「・・・まあお前の信念・・・みたいなのはわかった。で、なんでそんな話を俺に?」
「お前、ミストのこと好きだろ。」
「バッ?!・・・ああ?!ちげぇし!ちげぇから!」
咄嗟に否定してしまった。くそ顔が熱い。
なんで急にそんなこと言いやがる。
「図星じゃないか。」
「な、何を根拠に。」
「だってさっきミストと会ったとき、ぎこちなく挨拶して、挙句ずっと彼女のことを見てただろ。」
「それは・・・・ああ、そうだよ。好きですよ。ダメかよ。」
諦めた。別にこいつに聞かれたところでなんてことはないだろうし。
「話したかったんだろ?例えば、朝のこととか。」
「は?聞いてたのかアレを。」
「聞いたのは彼女からだ。彼女が俺に相談してきたんだ。だから今護衛を俺がやってる。」
「そうか・・・あいつ、なんて言ってた。怒ってたか?」
「言わん。」
「なんで?!」
「俺がここで色々言わんでもなんとかなりそうだからだ。」
「・・・意味わかんないんですけど。」
起こってたなら謝罪を口実に喋れるし、何か言ってたならそれを上手いこと話に混ぜ込んで話せる。知れるなら知りたいんだがな。
「どうせ、彼女が何言ってたかで次どうやって声をかけようかなんて考えてるんだろ?」
「な、なんで。」
「勘だ。」
鋭すぎるだろこいつの勘。
「彼女だって話したいかもしれないのに、お前だけ相手のことを知って動くのはずるくないか。」
「え、話したがってるのか?!」
「どうかな。二度と話したくもないのかもしれない。」
「どっちなんだよ・・・。」
シャドウはそれには答えず、最後のたこ焼きを口に放り込む。
爪楊枝をこちらに向けてきた。
「アドバイスをするなら、大事なのはお前がどうしたいかだ、と言っておこう。」
「俺が?」
「そうだ。ちなみに俺の場合喧嘩したらすぐ部屋を飛び出して後ろから手を引いたり大声で愛を叫んだりする。」
「そんなんできねぇよ。」
「俺はそうするって話だ。俺はそれが最適解だと思ってる。だけど今の反応を見ればわかるが一般的には良くないんだろうな。だけどそのやり方が俺なんだ。」
「・・・。」
「いちいちやりたいことに蓋してどうする。話したいなら話しかけろ。変に取り繕おうとするな。それじゃ自分の皮を被った他の誰かにしかならないぞ。」
「だけどそうやって好き勝手やって嫌われたりしたら」
「お前はミストがどう思うのかわかるエスパーか?違うだろ。わからないんだからこそぶつかって行けって言ってるんだ。」
「ぶつかるって、何すればいいんだよ。」
「さあな、それはお前が決めることだ。お前が決めたことをお前がやって初めて、お前という人間でぶつかれるんだ。お前のやりたいようにやるといいさ。」
「俺のやりたいように・・・?」
俺がやりたいようにってなんだ。ここまま何もしないで自然に仲が治ってくれれば一番楽なのに・・・ここにいられる期限と、こいつのアドバイスが相まって何かしなきゃいけないという気持ちにさせられる。
でも何をすればいい。
・・・わからない。
「嫌われるのは怖いだろうな。俺だって怖かった。でもそれでビビっていたら何も始まらない。」
「シャドウ・・・。」
シャドウは立ち上がった。
そして俺を見て、手を差し出した。
「当たって砕けろと言うだろ?頑張ってみろ。」
「・・・砕けるのが嫌なんだけどな。」
俺はその手を取り立ち上がる。
自分が一番やりたいこと、かっこいいと思うことをやり続けているこいつが、今こうしてピンピンしてるんだ。だったら多分大丈夫だろ。
なんか少し勇気が出てきた気がする。
さすがは闇組織の頭になってるだけはあるな。なんかこう上手いこと乗せられた感じだ。
まだどうすればいいかは決まってないが・・・。
「一応・・・ありがとう。てか、意外だったよ。闇組織仕切ってるからこういう話が出るなんて思わなかった。ましてや激励してくるなんて。」
「いや、俺も一応トップの人間としてしっかりしたままで行こうとは思ったんだが・・・。」
「だが・・・?」
「自分の経験談を織り交ぜつつ友人の恋愛相談に乗る俺はかっこいいだろうなと思ってな。」
「・・・今ので俺の中でお前の評価が地に落ちたわ。」
そんなことを言いながら食ったものを片付けて、城壁から降りるため階段に向かった。
「ターゲットの睡眠が確認されていたため侵入に成功した。これより闇魔法で視界を奪う。」
シャドウが耳につけたこっちの世界で作った通信機で仲間に状況を伝える。
シャドウが合図を出した。俺はミストと一緒に音を立てないように佐藤栞に近づく。
「待って将斗。」
小声でミストが止めてきた。
「何だ。」
「昨日はごめん。言い過ぎた。」
「ああ俺もだ。」
「この作戦絶対に成功させよう。」
「ああ!」
佐藤栞は寝息を立てたままだ。
俺はスキルを奪うために手を近づける。
触れる直前で唱え始め、触れた瞬間に発動するイメージで・・・。
「行くぞ。【回―