第38話 目覚めの夜 code.527 作戦会議
鈴虫がうるさすぎるので寝れなくて投稿します
「謎の男エクストラか・・・。」
俺とミストが宿屋に着くと部屋には既にシャドウがいた。
大部屋を借りており、ワルキューレ5人もそこにいた。あと知らない女の人が数人。
多分残りのワルキューレだと思う。
俺はシャドウにエクストラという男の話をした。
先程の出会いだけでなく、神様から聞いたあいつが他の世界に訪れ、何かしたということをすべて。
「場合によってはこっちの邪魔をしてくるかもしれないな。ミスト。お前から見てそいつはどうだった。」
「はい・・・私の見立てでは、あの男は私より強いかと。」
「そうか。・・・。」
シャドウは顎に手を当てて考え出した。
俺とミストは帰り道、あの男について話し合った。
彼女もあいつの動きが見えず、一歩も動けなかったらしい。
「お前たちが来る前に、既に勇者の部屋に忍び込みスキルを奪うための作戦は立てていた。しかし、その男の存在でどうなるか・・・。これは精鋭6人を全員出動させるべきなのかもしれない。・・・6人は準備しておけ。」
「はっ。」と一斉に返事をする女性たち。返事をしたのは食事の時にいた6人。レルルもミストも精鋭だったのか。
その後作戦の内容を聞き、解散となった。
俺は部屋に戻っていた。
宿屋一個をまるまる借りていたようで一人に一つ部屋が用意されている。なんと贅沢な。
俺はベッドで天井を見上げながら作戦について思い出していた。
まず、シャドウとフレとレルルと俺4人がまず城に忍び込む。
勇者の部屋まで衛兵に見つからないルートはもう決まっていた。なんと俺の身体能力を考慮してのルートどりがされているらしい。ありがたい。
フレは黒髪のワルキューレ。俺に名前を呼ばれたがらなかった子だ。暗器使いだとかで対人戦に強いらしい。
レルルは槍術が得意らしい。この二人は対人戦に向きつつ、隠密行動に向いているため選ばれているらしい。
ルート通りに部屋に行き、中に入る。
そしたら寝ている勇者に触れてスキルを奪うのだが、万が一の場合起きている可能性もあるので、シャドウの闇魔法で相手の視界を奪うそうだ。
勇者、佐藤栞には状態異常は効かないが、シャドウが行うのは状態異常ではなく部屋全体に黒い靄みたいなのを発生させるだけなため、状態異常扱いにならない・・・らしい。
相手からは部屋が暗くなったとしか思えないらしい。
【心眼】を持つ俺はその中で動けるので、うまいことスキルを奪って逃げる。
逃げる際、城の反対側でフリスとランドが爆発を起こして陽動する。
その隙に俺たちが逃げる。ミストとウルが馬車の準備をしていて、俺たちは馬車の速さと霧の発生のダブルコンボで逃げ切る。
「まあ、うまくいけば完璧な作戦だけど。」
少し不安がある。
俺の脳裏にはあの男、エクストラが浮かんでいた。
あいつが何かをする。そんな気しかしていない。
そして、この作戦には最悪のシナリオがある。
城にいる騎士たちと戦闘になるパターンだ。
明日の城には勇者だけでなく、魔王討伐の祭りとあって他の国から実力のある騎士たちが城に集まっている。
それが六人。一人一人がワルキューレたちを余裕でしのぐ強さを持っている。
戦闘になった場合、シャドウが勇者、ワルキューレがそれぞれ、その六人の騎士を止めることになり、俺は一人で逃げなければならない。
もしかしたら俺がスキルを奪った瞬間、神様の力であの空間に帰れるかもしれない。
でもあいつらが俺のせいで危険な目に合ってる中、のうのうと帰るのってどうなんだ。
「あ、・・・神様見てます?見てるはずですよね。」
俺はそう呟く。
はたから見れば独り言。
でも神様は、リュージの時とドラゴンの時、俺のことをちゃんと見ていたはずだ。だったら今も見ている、はず。
「一応、帰らせるのは一段落してからにしてもらえますか。なんかできるわけでもないけど、スキル取ってすぐサヨナラってのはちょっと複雑なんで・・・。」
部屋は静かだから俺の声が響く。
ちょっと恥ずかしくなってきたな。
これほんとに見てんのかな?
「まあそういうことでよろしくお願いします。」
「何一人でぶつぶつ言ってんのよ。」
「うわっ?!」
急に声がするから飛び起きるとミストがドアに寄さりかかっていた。
「うわとは何よ。」
「急に入ってくるなよ。びっくりして死んだぞ。」
「それはご愁傷様。ほら、夜の祭り行くわよ。」
もうそんな時間か。
外を見ると空がもう真っ暗になっていた。
しかし祭りの明かりで、街はまだ明るい。
「行くわよ。私勇者シオリの演説見たいの。早く行かないとまた席無くなっちゃうわ。」
「無くなったらまた飛ぶよ。」
「またポーションたくさん飲む羽目にさせたくないから早く行くの。」
おお。なんだこの気の回り様は、優しすぎだろ。
俺は起き上がり支度をして、ミストと一緒に部屋を出た。
部屋の外には青髪の女性がいた。
目の下にクマがある猫背の女性だ。
「たしか・・・ウルさんだっけ。」
「ご名答。人の名前をすぐ覚えるのは良い行いだと思う。続けなさい。」
「し、承知しました。」
この人は雰囲気も話し方もどこかミステリアスだ。
絡みづらい。
彼女は必死に古びた紙を見続けている。なんか魔法的なやつかな。魔法が得意な人って聞いてるし。
祭りにはウルさん含めた3人で行くらしい。
これに関しては良かった。二人きりだったらいよいよ勘違いを拗らせるところだった。
演説が行われる会場に近づいてきた。
その間ずっとウルさんは紙を見続けている。
ちなみに時間が経つにつれて唸りだしている。
紙を横から見た感じでは何らかの魔方陣の様なものと、たくさんの記号・・・多分文字が記されている。
「あの・・・。」
「何?」
「それ、ずっと見てますけどなんなんですか。」
彼女は数秒黙ってから、急にバッとこっちを見た。
目が見開かれている。非常に怖い。
「気になる?」
「え、ええ多少は。」
「これはね魔王の城の宝物庫にあった魔法のスクロールなんだけど、あ、魔法のスクロールって言うのは書いてある通りの手順を踏むと書いてある魔法が使えるようになるんだけどね、だけどこのスクロールはスクロールでありながらスクロールではなくどう見ても何らかの儀式の方法を表していて、でも古代の文字を使ってるから解読に時間がかかってるんだけどどう見ても魔王って書いてあってということはこれは魔王を召喚できたりする禁断の召喚儀式または魔法のことが記されているんじゃないかって思ったんだけど・・・・。」
怖すぎる。急に一気に喋られても理解できない。
彼女は『だけど・・・』で止まってから激しく息をしている。疲れたのだろうか。
「…ゴミねこれは。」
「え、魔王がなんちゃらって聞こえたんですけど、ゴミ?」
「十中八九ゴミ。せっかく時間をかけたのに無駄だった。」
「どの辺がゴミなんですか?」
「全部。まず理論体系がめちゃくちゃ。魔力を使うみたいだけど、それが結果と何のつながりもない。しかも必要な材料として生贄が欲しかったり、描く魔方陣の規模が大きすぎたりと色々目茶苦茶。もう駄目これは。」
そう言うと無造作にカバンに詰め込む。
ぐちゃぐちゃになっている。ただ中のものが多すぎて入りきってない。
「それより・・・あなた。」
「な、なんですか。」
彼女はぬるりとこちらに身を寄せてきた。
目がギラギラしてて、なんか精神状態が不安定にさせられそうだ。
「飛べるんでしょう?空を。」
「ああ【浮遊】のことですか。」
「それ魔法?理論を聞かせて?魔力量に対してどのくらい飛べる?重い人と軽い人で魔力消費量は変わる?それから・・・ちょちょちょ近い近い」
ウルさん凄いぐいぐい来る。
そんな近くまでこなくても聞こえるだろ。
「ごめん、将斗つい話しちゃった。この人魔法のことになると止まらなくなるのわかってたんだけど・・・。」
「ひいいぃ、ふざけんなよお前ぇ。」
腕をガシッと掴んで逃げられないようにしてくる。
「ほら早く質問に答えて。時間は有限。時は金なりと言う。再度聞くけどそれは魔法?」
次から次へと質問してくる。その勢いでこっちに身を寄せてくるからその、ぶかぶかな服で分からなかった豊満な胸が当たっている。
ダメだ理性が吹き飛ぶ、刺激が強すぎる。
そんな時だった。
「やあ。」
声をかけられた。
「昨日ぶりだね。」
そこにいたのは、勇者、いやもう一人の勇者、北原良平だった。
にこにことこっちを見ている。
血の気が引いた。
なんでわかった。一応変装として眼鏡をかけてるのに。
ミストに小声で「どうする」と聞く。
彼女は「【濃霧】を使うからその隙に逃げるわ。」と言った。
しかし、
「逃げようとしてるところ悪いけど、僕は君たちにどうこうするつもりはないよ。」
バレている・・・?いや適当に言っただけか?
「僕のスキル【調律】は周囲の人間の感情を共有できる。だけど実はどの感情を共有するかは自分で選べるから、君たちが今どんな感情なのかを共有する前に読み取れるのさ。だから今、君が疑いの感情を向けてきたのもわかる。」
「よくわからんけど、感情が読めてるってことか。うわ・・・。」
こっちの考えは筒抜けってことか。神のスキルじゃないにしろ強いなそのスキル。
欲しいな。
次に北原は俺を指さしてきた。
「それはそうと、君を探してたんだ、演説の前に会えてちょうどよかったよ。」
「なんだよ質問って?」
「君あの時【影】に連れて行かれただろ?もしかして、トップのシャドウにあったんじゃないかって思ったんだ。そこで聞きたいことがある。」
さっきまで笑ていた北原が真顔になった。
「シャドウの正体が死んだはずの井川だってのは本当なのか?」
なんでそれを、思ったけど口には出さないようにした。いや無駄か、感情で判断される。
「今君は驚いたな。ということは本当なのか・・・そうか。」
北原は顔に手を当てる。
お辞儀をするように体を崩していく。その肩はわなわなと震えている。
「それは良かった!」
顔を上げた北原は笑顔だった。
「いや~心配してたんだよ。ハハ、そうか生きていたか。それは良かった。」
「聞きたいのはそれだけか?」
「ああ。すっきりしたよ・・・いや、ついでにもう一ついいかな。」
「・・・なんだよ。」
俺の勘が言っているが、北原とこれ以上関わるべきではない気がした。
さっきの笑顔、少し嘘のような感じがしたからだ。
「俺のスキルは奪わなくていいのかい?」
どういう質問だ?なんでそんなことを聞く?
いや北原がもしスキルが大事って感じの奴だったらその質問をするか。
「疑問の感情・・・その質問の意図がわからないってことか。できれば喋ってこたえてくれると助かる。」
どうする、言っていいのか?
ここで奪う必要があると言えば、もしかしたら戦闘になるかもしれない。
だけど、本当に必要ないし普通に答えれば問題ないはず。
「いやその必要はない。俺の目的はあくまで彼女のスキルの回収だ。」
「・・・そうか。ありがとう。では近いうちにまた会おう。」
そういうと北原は振り返ってきた道を引き返していった。
意外とあっけなく帰るんだな。
「大丈夫なのか?今の。お前らの顔見られただろ。」
そう言ってミストを見ると。
仮面舞踏会でつけるような眼もとだけを隠すタイプの仮面をつけていた。
ずっとしがみ付いていたはずのウルさんもそれをつけている。
「え?いつの間に。」
「アンタが声かけてくる前には付けてたわよ。良かった、もうちょっとでフリス姉さんみたいに街歩けなくなるところだった。」
「へぇ、あの人は顔が割れてんのか。たしかに魔王城では仮面つけてなかったもんな。」
「そっちの方が任務は楽だろうけど、私はちょっと、ね。」
「私はどちらでも構わないが。一応つけた。」
「あんたは俺の体で顔隠してたんだから意味なくないですか・・・?」
俺たちは一応周囲に警戒しながら演説のある広場に向かった。
結構人がいたが、まだ席は空いていた。
まあそれもそのはず、座席数がかなり多い。パレードのとこの倍くらいはあるんじゃないだろうか?
何十分か待つとステージが明るく照らされ、盛大な音楽と共にすごい豪華な格好をした人が出てきた。
王冠をかぶってるから王様か。
王様はステージの真ん中に立つの棒の近くに寄っていく。
よく見るとマイクだった。あれも多分『夜のとばり』製なんだろう。
王様はなにか色々喋った後、勇者御一行を一人ずつ登壇させ軽く紹介していき、四人目、ついに佐藤栞が現れた。
その瞬間、会場は歓声に包まれた。音楽隊が演奏してたはずだがそれが全く聞こえなくなるほどの大歓声。それは数分止むことがなかった。
そのくらい魔王討伐っていうのは偉大なことだったんだとわかった。
歓声が止んだ後、佐藤栞はマイクに近づき、一礼をしてから話し出した。
話の内容としては勇者召喚をされてからいろいろな出来事を振り返っている感じか。
あらゆるところでうなずく人がいるので、世界的には周知の事実的な事件とか出来事について語ってるんだろう。しかし、俺からしたらところどころ知らない地名が出てくるのでイマイチ話が入ってこない。
『・・・こんな私を今まで支えてきたのは皆さまの期待や声援、共に戦ってくれた仲間だけではありません。彼の存在です。』
彼女は涙を流していた。
『彼の名前は井川航。彼は、私と北原と共に勇者としてこの世に召喚されました。彼は私たちと共に鍛錬を積む中、不慮の事故にあった私を庇い、帰らぬ人となりました。彼は正義感あふれる人でした。人々を脅かす魔王の行いに激怒し、虐げられる人々に対し涙し・・・。誰より・・・誰よりも勇者であった彼の命を、私が奪ってしまった・・・。だから私は!』
彼女が顔を上げる。
彼女は泣きながらも強い目をしていた。
『誰よりも強くあろうと一層厳しく鍛錬を積んだ!彼の代わりに世界を救うために!そして私はついにかの魔王を倒した。彼の犠牲は命は無駄ではなかったと私が証明した。彼がいたから世界は救われた。だから・・・皆さん、世界を救ったもう一人の勇者に、その魂が祝福されるよう祈りましょう。』
彼女が祈る仕草をした。
回りの観客もそれに合わせる。
「彼女のスキルには高速で回復する効果があるの知ってる?」
ミストが小声で聞いてきた。
「ああ、知ってる。」
「彼女はシャドウ様に助けられた後、来る日も来る日もずっと鍛錬をし続けたそうよ。体を限界まで酷使させて、その傷をスキルの効果ですぐに回復してっていうのを繰り返し続けたの。生半可な気持ちじゃできないわ。それほどシャドウ様への思いが強かったのね。恋愛感情か、それとも勇者として尊敬してただけなのかわからないけど、その気持ちの大きさは本物よ。」
「すごいな・・・。」
そして、祈りが終わった後、彼女は締めの言葉を言い演説が終わった。
拍手喝采だった。
その後北原が演説をしていたが、当たり障りのない普通の演説をして簡単に終わった。
歓声は上がったし。拍手もされたにしろ、少し佐藤栞と差があった。
演説の舞台が終わり、花火が打ちあがるというので、ミストの知るおすすめスポットで見ることになったが、ウルさんが宿に戻るから途中で帰ると言い出した。
何とか引き留めようとしたが帰るの一点張りだった。
夜の花火で二人きりはマズい。絶対だめだ。ロマンチックさにマジで勘違いを起こす。確信している。
しかし、ウルさんの説得はできなかった。
「どんだけウル姉さんと行きたがるのよ。」
「研究ばっかで外出てなくて花火なんか見たことないだろうと思って、見せてあげたかっただけだよ。」
「失礼だ。私だって外くらい出たことはある。花火は見たことないが興味ない。それより・・・。」
「あっ・・・。」
まずいこの獲物を狙う目は・・・!
「君の魔法を教えてくれ!!!」
「うわあああああああああああああああ。」
しがみ付いてきて離れない。振りほどこうと暴れたせいで通行人にぶつかってしまった。
「あ、すいません。…ちょっと、ウルさん、さっきの演説会場にいた人たちの邪魔になるんでやめてもらっていいですか・・・?」
「そんな理由で私の知識欲を満たせるとでも思ったか?まあ、やめてやるが。その代わり宿に帰ったら覚悟しておけ・・・。」
そう言うと彼女は人込みをすり抜け宿に帰ってしまった。
「さて、ウル姉さんも行っちゃったし。行こっか。」
「ちょま・・・なっ?!」
引っ張られた。つまり、
手を掴まれている!ダメだ!ここで身を引かないと俺は勘違いをする!
こいつ俺のこと好きなんじゃないかって思ってしまう!思うな俺、思うな俺。
素数を数えたりして気を紛らわせるしかない。
「3.141592653589793238・・・」
「何ぶつぶつ言ってんの?」
気づくと人気のない路地にいた。
するとそのまま彼女が俺を抱きかかえると壁を蹴って屋根に上った。
彼女は俺を降ろすと、そのまま隣に座る。
俺はちゃんと座りなおして、視線を上げると塔がよく見える位置にいることが分かった。
「塔が見えるでしょ?花火と塔がいい具合に重なって綺麗なのここ。誰にも教えてないんだ。」
ああああああ秘密の共有は絶対俺のこと好きだああああああ。
「違う!」
「何してんの?!」
自分で自分を殴った。
冷静になれ俺。ほぼ1日行動しただけでそんなミラクルは起こらない。しっかりしろ。
「いやちょっとかゆくて。」
「ふーん、変なの。」
その時花火が上がりだした。
豪快な音とともに繰り出されるさまざまな色の光のアート。
あまりにも綺麗で言葉を失う。
隣にはその光で照らされた彼女の横顔。
彼女は笑顔で花火を見ていた。
綺麗で、つい目に焼きつけたくて彼女を見続けていた。
「綺麗・・・。」
彼女がそうつぶやく。
慌てて視線を戻した。
「そうだな・・・。」
俺は変な気を起こさないように花火に集中した。
正直今までで一番、この世界から帰りたくなくなった。
「どうだった?俺の言ったことは当たってたろ?」
薄暗い路地で人影が二つ語り合っていた。
「・・・ふざけてる。」
「あ?」
「なんであいつなんだ、俺がどれだけ支えてきたと思ってる。なのにあいつがまだあの子の心にいる!それだけじゃない、あいつは死んでなかった。クソッ!クソッ!」
「落ち着けよ兄弟。」
「これが落ち着いていられるか!なんで俺じゃない!俺だ!俺のはずなんだ!なのに、なのに選ばれたのは俺じゃなくて彼女だった!俺がおまけだと?ふざけるな!俺が一番頑張ってきたんだ、選ばれるべきは俺だ!なのに選ばれたのは彼女で、彼女が選んだのはあいつだった!クソッ!クソッ!クソッッ!!」
片方の影は壁を蹴り続ける。
「違うんだよなぁ兄弟。」
「あ?何が違う?」
「選ばれるとか何言ってんだって話だ。強者はいつだって選ぶ側であるべきだ。選ばれるのを待ってちゃいつまでたっても何も変わらないぞ。」
「なれたらなってる!だが俺は弱い、選ばれなきゃ強者になれない。きっかけがなきゃ、選ばれなきゃ・・・。」
片方の影が膝から崩れ落ちる。
「だったらその条件はもうクリアしてるじゃねぇか。」
「え・・・?」
崩れ落ちた影が顔を上げる。向かい合っていた片方の影は赤い光に照らされて消えた。
『俺が選んだ、それで十分だろ。』
「な、なんだ?お前。」
『ほら、いい力をやるよ。ついでにこれもな。好きに暴れろ。念願のお前が好き勝手に選べる番だぜ。』
赤い光から放たれた何かが影に纏わりついていく。その足元にも何かが落とされる。
「んぐっ?!え゛っ・・・づぁ・・・あああ・・・あああああああああああああ。」
影がもがきだした。
赤い光は移動していく。
「楽しくなりそうだ・・・。」
路地から出てきた男―エクストラは空を見上げる。
月が赤く輝いている。
「・・・なあ兄弟。」
「ああ、最高の物語にしてやる。」
エクストラが振り返った先には立ち上がり不敵な笑みを浮かべる男―北原良平がいた。
その手には何かが握られていた。
エクストラがダサいのはエクストラさんのセンスがダサいだけで俺がダサいわけではないと信じている。