第37話 異世界フェスティバル
滅茶苦茶期間が開いてしまって申し訳ない気持ちになりつつ投稿します
「なあ今から行くのは何て名前のところなんだ。」
「アベンドって都よ。国内では一番大きいかも。」
俺たちは馬車に乗っていた。
運転はワルキューレの一人、レルルがしてくれている。
彼女は緑色の髪をポニーテールにしていて、緑の下縁眼鏡をかけている。
少し話した時に印象は陽気なお姉さんという感じだった。
あらゆる都が魔王討伐でお祭り状態らしいが、勇者が来るのはその都しかないらしい。
来ると言っても『魔王城から一番近いから寄る』のほうが意味合い的には近いらしいが。
窓の外を見てみるが、やたら広大な草原を走っているようだ。
まだ町らしきものは見えない。窓から視線を戻して目の前に座るミストを見る。
彼女に対して、館を出た時から気になっていたことがあった。
格好のことだ。
「あのぴっちりスーツじゃないのか?」
「お祭りに行くのに戦闘用の服なんか着るわけないでしょ。」
目の前に座るミストはとてもかわいらしい恰好をしていた。
白シャツにデニムのスカート。彼女の白髪と水色の瞳にマッチしている。
清潔感というかさわやかさというか、なんというか少女らしさがあり、割と好みだ。
「何?ジロジロ見て。まさか、あの服がよかったわけ?」
「いや、こっちのほうが俺は好きだけど。」
「バッ?!・・・キモ。」
「なんで罵倒された俺・・・?」
今のでなぜキモがられる。
もしかして大学時代俺が女子が少ない学部だったことで、長い間女の子と一言も喋ってることがなく、女子とのコミュニケーションの取り方がわからなくなっているのが原因か?
今の会話の正解とは・・・?普通に答えたはずなのに一体何がいけなかったんだ。
考えようと額に手を当てようとしたとき、二の腕に激痛が走る。
「いつつつつ・・・・。」
筋肉痛が全然とれていない。
てか正直座ってるだけでも辛い。
寝たい。
「もう、朝からほんとに。何したらそんな子ジカみたいになるのよ。」
「原因あなたなんですけど・・・?」
昨夜の死の鬼ごっこに【後払い】を使ったせいに決まっている。
そのことをご丁寧に説明してあげた。
「私が原因なのはごめんだけど、それにしたって変なスキル持ってるわね。それ使い方によっては死んでたんじゃないの?」
「・・・確かに。うわ、すごい怖くなってきた。」
俺に本来できない動きを全力で5分間続けていたとしたら・・・想像したくないな。
そんなことを考えていると急に馬車の前の窓が開いた。
「ちょっと二人とも大変!」
馬車を運転していたレルルが必死の形相で窓から話しかけてきた。
「どうしたの?」
「これ以上はマズい・・・。マズいわ。」
一体何なんだ。まさか、進行方向にモンスターが現れるとかいう定番じゃねぇだろうな。
「眠い!」
「は?」
「このままじゃ居眠り運転になるわ。」
「嘘っ?!」
ミストが急に立ち上がった。
その目は大きく見開かれ、信じられないと言った風だ。
「どうしたんだ・・・?そんなリアク・・・驚き方するところじゃないだろ。」
「あんたは何も知らないのよ!彼女の居眠り運転は・・・シャドウ様今までで一番恐ろしかった出来事と言わせた事件・・・嫌・・・思い出すのも嫌・・・。」
膝から崩れ落ち頭を抱えて震えるミスト。
その姿があまりにも必死過ぎて、ホラーが苦手な俺にかなり効く。
「おおおい、マジで怖いからやめてくれ?」
「あははははは、大丈夫大丈夫。私が寝なければいいだけだから。」
元凶であろう人物が笑ってるのが怖すぎる。
「あ、ごめん、本格的に寝そう。」
レルルさんがそう言ってふらふらしだした。
その発言で、全身の血の気が引いていく感覚を覚えた。
俺は必死に話を絞り出し、彼女に話しかけ続けた。
「面白かったぁ~。こっちと全然違うから驚かされてばっかだったよ。ねぇねぇ他に行った世界は?」
グレンとリュージ二人の世界の話をしたおかげかレルルはもう睡魔に打ち払ったようだ。
馬の手綱を引いたままこっちに身を乗り出してるのは逆に危ないような気がするが。
あと他の世界の話か・・・。
「・・・いや、これだけだよ。」
「そっかぁ。もっと聞きたかったなぁ。」
ドラゴンの世界の話は・・・したくない。
「・・・ねぇ、せっかく話を聞かせてくれたんだしこっちも何か話すよ。何か聞きたいことない?」
さっきまで聞きたがってたのに急だな。
いや、今の感情が顔に出てたのかもしれない。
気を遣わせちゃったか。
「そうだな・・・じゃあ、シャドウがワルキューレたちに慕われる理由ってのはちょっと聞いてみたいな。ほら皆、様付けで呼んでるし。」
「ああ~どうしよ、話すと長くなるなぁ。」
「まあとりあえず最初は、私たちが助けてもらったことから始まるわよね。」
ミストがトラウマから復活して話に入ってきた。
まだちょっと足が震えてるけど。
「私たち全員はとある組織で小さいころから・・・裏の仕事をしてたの。」
「まあ傭兵みたいなこともしてたよね~。」
「へぇ。」
「なにそれ、もっと驚きなさいよ。」
「いやあるあるだなぁと・・・。」
「え、何が?」
「いやこっちの話。」
実は殺し屋でしたと言われても、昨日のあれはまさにそっちの人って立ち回りだったからな。
俺は素人だけど、彼女の動きが流石に素人じゃないってことくらいわかる。
手刀で喉元ついてきたりしてくるし。
「それで色々あって、私たちの雇い主が私たち全員を処分することに決めたの。私たちは雇い主に従うのが絶対だって教えられてきたからそれに従うことにして、住んでた屋敷ごと火を放ったわ。」
「だけどそこでたまたまシャドウ様が来たのよね。で、必死に説得してきたの。『そんなことはやめろ』ってかっこよかった~。」
「『これは私たちが受けた命令だから』って言ったら『自分の人生は自分で決めるもんだろ。人に決められるもんじゃない。自分のしたいことやりたいことを好きにやってこその人生だろうが!』って言ってきたわね。でも、私たちは動けなかった。何したらいいのかもわからないし。」
主人公かよ。
シャドウがかっこよすぎるだろ。
そんな言葉スッと出てこないぞ。
ちょっと中二病患ってるだけな奴かと思ってた。
「でもそこでフリス姉さんお得意の大爆発で、燃えてる屋敷を全部ぶっ飛ばして、『私のやりたいことはこの人に付き従うこと!』って言ったの。多分だけど私たちの知らないところであの二人は何かあったんだろうね。」
「ま、それで皆フリス姉さんが言うならって感じでついていったのよ。」
「なんか全員が全員乗り気だったわけじゃなかったみたいな風に聞こえたんだけど。」
「実際乗り気じゃない子もいたし、途中で裏切る誰かさんもいたわ。」
「いや~あの頃の私は若かった・・・。」
「つい3か月前のことじゃない。」
裏切ったのこの人かよ。
てか3か月前って近いな。
「あ、なるほど。さっきの居眠り運転の一件はそことつながるのか。」
「いやそれとは何一つ関係ないらしいわ。」
「えぇ・・・。」
「まあ、そんなこともあったり、戦えなくなっちゃう子が出たり、任務はするけど全然口きかない子とか色々あったんだけど、そのたびにシャドウ様は色々工夫したり、努力したりして皆に寄り添ってくれようとしてたのよ。その姿に皆次第に心を開いていって、今に至るって感じよ。」
「そして、力を合わせて魔王討伐。いや~これ一本書けるわね〜。」
仲間になった当初まだ溝があって、少しづつそれを改善していって最後は力を合わせて強敵を倒す・・・。たしかにレルルさんの言う通り一本書けるくらいはあるな。
あいつを暗躍系主人公とした物語だったら、今はもうエンドロール流れた後の世界みたいなものなのではないだろうか。
まあ、それを言ってしまうとリュージの時もそんな感じではあったんだが。
え、じゃあ俺は何?追加エピソード?ダウンロードコンテンツ?
「ちなみに・・・あ、都が見えたよ!ほら前、前!」
レルルがそう言うので俺は馬車の窓を開けて身を乗り出す。
見えた。遠くの方に高い塔が立っている場所が見える。そこは周りが城壁で囲まれているように見える。
「でけぇ・・・あの塔、結構大きいな。この距離でもわかるくらいには。」
「あれ塔じゃなくて城よ?」
「マジか。地震起きたら一発アウトだろ・・・。」
地震のない国で建てるビルくらいは余裕であるぞ。すごいな異世界。
「ちなみにあの町はシャドウ様の力が垣間見えると思うから、驚く準備しておきなさいよ。」
「?」
馬車はそのまま街に近づいていく。
すると馬車の行列が見えてきた。閉じた門の前に並んでいるらしい。
門の前には橋が架かっていて、その橋が上がっているからどうあがいても中に入れない。
「レルル?西門は開放されないから北門から行くって話だったでしょ?」
「それがね~昨日の時点で変更されてて、西門も10時頃に開放するようになったの。そろそろ10時だしここで待ってた方がちょうどいいわ。」
時間の数え方は俺の元の世界と同じなんだな。
「そうだ、ミスト。将斗クン連れて橋降ろすの見てきたら?めったに見れないし。」
「そうね。行くわよ。」
なんか面白そうだし。行ってみるか。
そうして腰を持ち上げようとするが・・・。
「ミストさん、折り入ってご相談が。」
「はぁ・・・仕方ないわね。」
言う前に肩を貸してくれた。
すごい気の回る子だ。
朝から彼女の行動は、昨日とのギャップで混乱させられる。
てか、女の子に肩貸してもらうって割とダサいのでは?しっかりしろ俺。
とはいっても体は全く動かない。おとなしく彼女の肩を借りるしかない。
不甲斐ない。
ミストの肩を借りつつ橋を横から見ることができる場所に来た。
城壁の前にはかなり大きい水路がある。グレンの時に飛び越えたやつより大きい。
橋は両サイドから降りてきて中心でくっつく感じか。
あれ?あの橋の下のでかい柱ってなんかどっかで見たことあるような。
「あ。な、なぁ、あの橋の下の柱みたいなのって・・・。」
「ああ、あれのこと。」
彼女が柱を指をさして聞いてくる。
「そう。なんか見たことあるんだよな。」
「あれが伸び縮みして橋を持ち上げたり下げたりするの。まあ長さは変わってなくて、根元の太い方が筒上になっててその中に入ったりしてるだけだけど。」
「油圧のやつじゃんそれ。」
「そうそう、それよ。知ってるのね。」
工学部なめるなよ。
まあ、全然思い出せてなかったけど。
いやそれよりも
「待て!なんで油圧がある?!異世界の科学技術はそんな発展してないはずだろ?もっと中世的な感じでいるべきだろ!」
「あんた・・・結構失礼なこと言ってるの自覚した方がいいわよ。ちなみに、これはシャドウ様が持ってた知識で成り立ってる。すごいでしょ。」
「なんでそんなことを・・・異世界は発展してないべきだ・・・。」
「・・・あんたマジで失礼よ。」
話をしていると時間が来たのか機械音を響かせながら橋が降りていった。
なんかこういうのを聞くと元の世界に戻ってきた感覚がする。
異世界情緒はどこへ。くそぅ、なんでこんなに発展させた。俺の夢みた異世界はこんなはずじゃないのに・・・。
橋が降りきると今度は扉も・・・ちくしょうこっちも油圧式じゃねぇか。
なんで異世界でウィーンって音を聞かねばならんのだ。
「ちょっと・・・目に見えるほどがっかりしてるのは何なの?あ、ちなみに街の中もこんな感じだから覚悟しときなさいよ。」
「えっ?」
「お二人さーん!行くよー!」
行列が進み始めたので、レルルが呼んでいる。
覚悟しとけって一体・・・。
「ああああああああああああああ!!違う!!違う!!俺が見たいのはこういう都じゃないんだよ!!!!!」
「うるさっ?!いい大人なんだから暴れないで!」
俺は絶望していた。
街はお祭り状態だったのでいろんなところに出店が出ていたり、人がたくさんいる。そこはいい。
馬車から見える道の両サイドに服屋や飲食店が並んでいる。なぜかそれらにはガラス張りのショーケースがあり中にサンプルが置いてある。
しかも道がアスファルトなのだ。石畳とかではない。ちゃんと黒いアスファルト。
街灯が等間隔で並んでいるが、どう見ても電球である。
そして建物や街頭から線が伸びており、灰色の柱につながっている。
灰色の柱から地面に線が伸びておりそれには黄色と黒の筒がついている。
「なんで電柱なんかあるんだ・・・向こうと変わんねぇじゃねぇか・・・!」
「え、泣いてんの。相当嫌なのね・・・。」
膝から崩れ落ちた俺は床に拳を叩きつける。悔しい。異世界が現代に染まってしまった。
「シャドウのやつを俺は許せそうにない。」
「作戦前に組織の1番上に敵意見せるのやめてくれない?相手になるわよ。」
「すいませんでした。」
俺は無力だ・・・。
「にしてもこの発展具合。2~3年でできるもんなのか?」
シャドウが来たのは3年前。しかしこの発展具合は10年くらいないとできないんじゃないか?
「シャドウ様も発展の早さには驚いてたわね。まあでもこっちにはスキルとか魔法があるから、そこで違いが出てるのかもね。」
肉体を強化するスキルや、何もないところで火や水を出せたりする魔法。それらがインフラ整備に本気を出すとここまでになるのか。
よく見ると街灯に垂れ下がっている旗に何か模様がついている。模様というか紋章。なんか布がたなびいてるような紋章だ。
いろんな店にその紋章がある。武器屋に飲食店、服屋、本屋・・・ジャンルはどれも違うが・・・。付いてない店もあるな。
「あの紋章ってなんだ?国とか都の象徴的なやつ?」
「あれは『夜のとばり』ってブランドのロゴマークよ。」
「『ブランド』の『ロゴマーク』?!」
なんで異世界でそんな言葉が出るんだよ。
英語だろうが。
こっちは英語が通じないと思って使わないように気を付けてんのに。
「この道路とかいろんな整備も、そこらじゅうの店の経営もだいたいが『夜のとばり』がやってるのよ。すごいでしょ?」
「・・・『夜のとばり』がやった?でも知識はシャドウのモノなんだろ『影』がやらないのか?」
「闇組織が表に出てきてどうすんのよ。『影』の資金調達のために立ち上げた表の組織が『夜のとばり』。表向きに取りまとめてるのはワルキューレの一人がやってるから、実質支配してるのはシャドウ様よ。」
「シャドウってマジで凄いんだな・・・。」
ホントに同じ世界に生きてたのか疑いたくなるな。
知識が豊富すぎる。本当に高校生だったのか?
異世界に来てここまでやるなんて・・・俺じゃできない。
「お二人~。ちょっといい?」
レルルが前の窓から話しかけてきた。
「どうしたの?」
「私このまま荷物置きに宿に向かうからさ、二人はここで降りてお祭り楽しんできなよ。」
「悪いわよ、そんな。」
「いいのよ~。かわいいミストちゃんがお祭り楽しみにしてたのお姉さん知ってるんだから。行ってきなさい?」
「レルル・・・ありがとう。将斗、行くわよ!」
ミストに手助けしてもらいつつ馬車を下りた。
レルルさんはというと手を振って行ってしまった。
「いいお姉さんだな。」
「うん・・・。」
ミストはちょっと下を向いて笑っている。
照れてるな。かわいらしい。
俺たちはいろんな出店を回った。
思ったことがまず一つ。飯のクオリティが高い。超高い。
どれも元の世界に負けない、むしろ勝ってるくらいかなりおいしい。よく見たら出店の旗に『夜のとばり』の紋章がついていたので、シャドウの店か。
よくぞここまで発展させた。いいぞシャドウ。
そんな手のひら返しをしながら歩いているうちに筋肉痛が和らいできたので、何とか肩を借りずに歩けるようになった。
おそらくだが、街の中心部に来た。そこで、人だかりができているのを発見した。
人だかりの奥の方に噴水が見えるが、変化せずにずっと吹き上がり続けているから、噴水で何かが起こるわけではなさそうだ。
「あれ何の集まりなんだ?」
「なんだろう。あ、すいません。」
ミストが通行人に声をかけて何か聞いている。
横を走っていく子供たちが「12時からだって~」と言いながら走っていくのが見えた。
広場の端にある時計は11時50分を指している。あと10分で何かやるんだな。
ミストが話を終わらせて戻ってきた。
「お待たせ。」
「なんか12時にあるらしいけどなんだったんだ。」
「パレードだったわ。」
ミストは肩を落としていた。
「見たかったのか?」
「見たかったわ、でもこの人だかりじゃ無理ね。もっと奥に座席があって座って見れるようになってるんだけど、座席券の販売は終わったって言ってたし。」
座席券ってまた現代的な・・・。これもシャドウの仕業だな。
「はあ・・・。」
「相当楽しみだったみたいだな。」
「当り前じゃない。この都のパレードは規模とか迫力とかが群を抜いてるって有名なの。これ目当てだったんだけど、まさかこんなに集まるなんて、見通しが甘かったわ。」
目に見えるほどの気分の下がりっぷりだ。
原因は俺にあるし、なんか申し訳ないな。
「周りの建物の上から見るとか。木に登るとかは?」
「無理ね。言っとくけど、このあわよくば見ようとしてるこの人だかりって結構大きいのよ。パレードが見えるのはもっと奥。そこには建物なんてないし木もないわ。」
「そうか・・・。悪いな。」
「謝らないで。私だって悪かったんだし、仕方ないわ。」
「いや・・・でも。」
なんか久々の休みだって言ってたよな。
楽しみだったとも言っていたし。
「大丈夫、別に他を見て回ればいいわ。行きましょ。」
「いや・・・あ、痛って・・・。」
脚の痛みがこんな時に再発した。
ミストが危うく転びそうになるのを助けてくれた。
「わ、悪い。」
「大丈夫?・・・ちょっとそこに座りましょ。」
近くのベンチが開いていたので座った。
彼女は心配そうにこっちを見ている。
彼女は楽しみたいだろうに・・・迷惑ばかりかけていられないな。
「なあ、お祭り楽しみだったんだろ?俺ここで休憩してるから、好きなとこ回ってきなよ。」
「え?でも・・・任務が。」
「護衛なのか監視なのかわからないけど、俺は絶対に動かないと約束する。というか動けないしな。大丈夫だろ。」
「・・・わかった。行ってくる。」
彼女は小走りで行ってしまった。
やることもないので空を見上げる、雲一つないくらいに晴れてるな。
周りはお祭り、その中で俺は温かい日差しを受けつつベンチに座っている。
知らない土地だからちょっと落ち着かないけど、ひと眠りでもして待ってるか・・・。
・・・。
・・・。
・・・。
「はい。これ」
「冷たっ?!は?!」
頬に冷たいものが当てられた。
飛び起きるとミストが何かを持っている。
プラスチックのコップにストローが刺さっている。ジュースだ。これはまた異世界感が薄れるものを持ってきたな。
「お前なんで」
「これ見た目ドロっとしてるけどおいしいらしいわ。野菜と果実をすりつぶしたものなんだって。こっちがあんたの分。」
「いや、なんで戻ってきたんだよ。俺に構ってたらお祭り楽しめないだろ。」
「あのね、知らない土地にほっぽりだされてると私でも不安になるものよ。あんたをそんな目に合わさせられない。」
「いや確かに落ち着かなかったけど、でもさ・・・。」
「いいの。あんたを置いてくと気になってしょうがなくて楽しめないから、仕方なくよ。ちょっと休憩すればまた動けるでしょ。お祭りはどっかに行くわけじゃないし大丈夫よ。」
いい子か?
情けなさすぎる。
お祭りを楽しみにしてたのに、こんな俺の看病や、付き添いで時間取られるなんて。
しかもあたかも俺が悪いわけじゃないみたいに言ってくる。
最初の印象で決めてたが、この子は本当は優しい子なんだ。
彼女の視線は人混みの方を向いていた。
いやパレードの方か。
見たいんだな。
・・・ああ、もうイチかバチかだ。
男見せろ渡将斗!
「パレード・・・見たいんだろ?」
「えっ?!いや、いいわ。無理よ。」
「何とかできると思う。やってみる。」
「何ができんのよ。」
「お前の力も借りなきゃいけないかもしれないけど、やってみる価値はある。」
「・・・どうすんの?」
「手出してくれるか?」
「手?」
彼女が手を出してくる。
俺はその手を握る。
「は?!バカ何してんのちょっと。」
彼女が叩いてくる。
「ちょっと静かにしててくれ。集中するから。」
「いやなんのこと?!ちょっと、やめ、皆見てるじゃない。ねぇ。」
彼女がなんか言ってるが無視だ無視。
俺は目を閉じて集中する。
違うな、こうか?いや違う、もっと明確なイメージを。
「ちょっと聞いてる?ねぇ、私たち、ま、まだ会ったばっかりでそういうのはまだ早いって言うか。ねぇ、ちょっと・・・。」
「・・・?!・・・行ける。」
「え、何が?」
「ミスト頼みがある。」
「は、はい。」
怒ってるのか顔が真っ赤だ。手じゃなくて肩とかのほうがよかったか。
まあいいか、できることはわかった。
あとは・・・。
「お前の力を貸してくれ。」
「え・・・。」
12時パレードが始まった。
たくさんのきらびやかな山車や、ダンサーが列をなして進んでくる。
壮大な音楽とともに行われていて、後ろの噴水と相まってすごい芸術的だ。
昔見たあの夢の国のランドの方の電気的パレードよりはるかに規模がでかい。
火や、水やらが空を舞って演出をより豪華にしている。あれは魔力を感じるから魔法だな。
「凄いな・・・。」
「うん!綺麗・・・。」
ミストは目をキラキラさせてパレードを見つめている。
ちなみに俺たち二人は、『空から』パレードを見ている。
【浮遊】は魔力操作であって厳密的には魔法ではない。
だから魔力の操作次第では、浮くだけでなく、体の一部分だけに推進力を与えたりもできる。
これはドラゴンの世界での毎日の鹿狩りで、だいぶ【浮遊】の扱い、いや魔力の扱いに慣れたおかげだ。
俺は、【浮遊】を使えば空を飛べるので上空からパレードを見ることができるのはわかっていた。
しかし、彼女に【浮遊】を教えている時間はなかった。
そこで俺一人で二人分浮かせることはできないかと考えた。
持ってるナイフが身に着けていれば浮くし、近くに置いてあるだけでは動かないことがわかってたので、【浮遊】は身についているものを浮かせるものなのはなんとなくわかった。
だが、二人分となるとなかなか操作が難しい。必要な部分に必要なだけ揚力を与えないといけないからだ。体の周りを流れる魔力の明確なイメージが欲しかった。
しかし、たまたま相手の体周りの明確なイメージを昨晩手に入れていたおかげで飛べている。
このメカニズムだけは言うことができない。
ちなみに見えないように彼女には俺たちの周りだけに霧を出してもらっている。
あまりにも濃い霧らしいので他の人からは雲にしか見えていないそうだ。
「あっ、見て、かわいい。子供も踊ってる。あははは。」
かなり楽しんでくれている。良かった。
ステータスウィンドウを開いてみるが、二人分ということもあり魔力はいつもより多く減っていっている。
まあ、パレードが終わるまでは持つだろ。
「まだまだ出てくるな。パレードってあとどのくらいあるんだ?」
「え?たしか30分くらいだけど?」
持つかなぁ。さっきミストから貰った魔力回復のポーション飲んどくか。
「ねぇ、将斗。」
「何?」
ポーションを飲む手を止める。
彼女はこっちをまっすぐ見た。
そして
「ありがと!」
満面の笑みで彼女はそう言った。
心臓がギュッとなる感覚を覚えた。
あぶねぇ。久々に恋しそうになったぞ。
女性経験の少ない俺にはクリティカルダメージ過ぎる。
てか手つないでんのあれだな、かなりやばいな。てか朝から俺らって二人で歩いてたよな。
・・・デートじゃん。
待て待て待て待て待てそういうことを考えるな。俺は昔ちょっと優しくしてもらっただけで俺に気があると勘違いして失敗した記憶があるだろ。あれを思い出せ。これは普通のことなんだ。これは普通。そうだ普通のことだ。
しかし、胸の鼓動は全く収まらず、俺はそこから最後までパレードが全く頭に入ってこなかった。
「はぁ~、楽しかった。ありがとう!」
「ど、どういたしまして。」
「だいぶ疲れてるわね。大丈夫?」
「ぃいや・・・大丈夫。」
魔力の回復にポーションを3本飲んだ。
これは液体が魔力になるようではないらしく、魔力の回復を促進させていたようで、液体でお腹がいっぱいになっている。つらい。
まあ、楽しんでもらえたようだしいいか。
「肩貸すわ。いったん宿屋に行きましょ。」
「いいのか、まだ回ってないところとか・・・。」
「いいわ。目的が果たせたし。さすがに疲れちゃった。夜にまた何かあるらしいから、そっちに体力を温存するわ。」
「じゃあ、そうするか。」
俺はそのまま肩を貸してもらった。
確か街の東側に予約している宿屋があるらしい。
道を歩いていく。
「ほんと凄かったわよね、さっきのパレード。私途中で興奮しすぎて【濃霧】出せてるか心配だったわ。」
「ああ、俺もあんな凄いの見たことなかった。見れてよかったよ。」
歩いていくと人が多くてよく肩がぶつかる。
俺が肩を貸してもらって横に広がってるからか。すまねぇ異世界の人たち。
まあ避けてくれてるからしっかりぶつかることはないが。
その時遠くの方から歩いてくる人物に目がとまった。
「ねぇ、聞いてる?」
「ん?ああなんだっけ?」
「夜は勇者が演説するらしいんだけど変装して近くで見るか、遠くから見るかどっちがいいって話。」
「ああ、ええと。」
つい視線が戻る。
あの人物。いや、男はまっすぐこっちに歩いてくる。
なんでこんなに違和感を感じるんだろう。
こんなに距離があるのにあの男にだけ目が行く。
幅の広い帽子をかぶっていて顔が見えない。口元はかろうじて見える。笑っている。
ボロボロの布を纏っている。・・・全然普通だ。周りの祭りに来てる人だってそういう格好をしている。いろんな国や町から人々がこの都に来てるって聞いた。それの一人だろ。
でもなんでこんなに・・・。
「ねぇ?どうしたの?」
「・・・。」
あの口元・・・。いやまさか、そんなことは。
どんどん距離が近づく。
あいつは避けない。
まっすぐこっちに歩いてくる。
他の人は避けるのに。
「ねぇ。なんかあった?」
ミストが俺が見ている方向に視線を向けた時。
あの男がいつの間にか目の前にいた。
その瞬間バッと俺の視界の下、胸のあたりで何かが動いた。
見るとナイフが突き立てられていた。いや、突き立てられそうになっていた。
相手の手をミストが掴んで止めていた。
「誰?アンタはアンタで気づいてたなら言いなさいよ。」
「まさか止められるなんてなぁ。いい彼女持ってんじゃねぇか兄ちゃん。」
「お前・・・。」
リュージの時、俺に接触してきた男だった。
雄矢、タマ、竜王をおかしくしたとされる男。
こいつのせいでドラゴンは・・・。
「おいおい、怖い顔すんなよ。久々の再開だろうが、兄弟。・・・ああ、それとも。」
男は顔を近づけてきて言う。
笑っている口元とは逆に恐ろしく冷たい目をしていた。
「俺のやってたことが神様にバラされちまったか?」
「やってたこと・・・?」
「ちょっと将斗、説明しなさい。」
「あれだよ。俺がちょっと手を加えた話だよ。この前のドラゴンは残念だったな。」
俺はその瞬間、空いていた左手でナイフを抜き取り男に突き刺した。
そして男にナイフが突き刺さる感触がした。
いや・・・違う。この感触、ナイフのものじゃない。
見ると俺の手には何か棒状のものが握られており、男にあたって潰れていた。
果物か野菜。いやどっちでもいい、そもそもナイフじゃなくなっている。
「おいおい、服がべとべとじゃねえかよ。高くはないけど気に入ってんだぜ、これ。」
「なんで・・・?」
「ああ?ナイフのことか。街中であんなもん振り回すなんて物騒だぜ全く。だからそこの店のやつと入れ替えてやったんだよ。」
男の視線の先の店の中に俺のナイフが突き刺さっていた。
そこには俺が持っているものと同じ野菜が積んであった。
「入れ替え・・・【交換】・・・?!」
「ハッ、あれか。ったく、あんな劣化版のスキルと一緒にすんじゃねぇよ。」
「どうでもいい。竜王の件はやっぱりお前だったんだな!どうしてあんな」
「あー怒鳴るなようるせぇ。」
耳を塞ぎ男は手を戻した。
ミストは俺の前に出て、戦闘態勢をとっていた。
「誰?敵よね。」
「多分。」
「つれないねぇ。こんなのちょっとした挨拶だろ?そんな顔してるとかわいさが台無しだぜ。」
男の手がミストに伸びるが、彼女はその手を払いのける。
「触んな。殺すわよ。」
「ひえ~こわいこわい。でもいいのか?こんな街中でそんなに殺気出しちゃって。」
周りを見回す。まだ周りの人は俺たちに気づいていない。
だけど、子供やお年寄りだっている。ここで戦えるわけがない。
「ここで始めるか?まあまあ面白そうだし・・・。」
男は帽子を外すと・・・。
「俺は全然いいけどな。」
その瞬間、辺りが一瞬冷たくなった気がした。
男は前にはおらず、俺たちの後ろに立っていた。
ミストも俺も動けなかった。
息がしづらい。恐怖を感じていた。
「まあ、嘘だよ。他にやることがあるしなぁ。ま、また会いに来てやるからその時な。」
「・・ぁ・・・待てよ。」
無理やり声を絞り出した。
「お前・・・名前は?」
「ああ~、名前か・・・。うーん、そうだな・・・あ、エクストラとかカッコよくて良くないかぁ?よし決まり。俺はエクストラだ。よろしく。」
クソだせぇよ。とは言えなかった。
得体の知れない恐怖がこれ以上の発言を許してくれない。
何か重いものが消えたような気がして後ろを向くと、あいつはもういなかった。
1万字は長すぎ