第31話 ドラゴン 6、人
今日前ーの話でとんでもない大ミスかましてたので報告に感謝しつつ投稿します
6日目の朝だ。
俺は起きるとドラゴンを見つめる。
『こんにちは』
「ああ、おはよう。」
何かこいつと過ごすのがあと1日って考えると、ちょっと・・・。
ああ、昔飼っていた猫と別れることになったとき、俺めっちゃ泣いたんだよな・・・。やばいな・・・。いかんいかん、考えないでおこう。
今日の予定は山ほど鹿を狩って、全部食ってもらって、7日目には動けるようになってもらうことだ。
相変わらず動こうとしないから、まだ足りないんだろうな。
まあこんだけでかいんだから栄養がたくさん欲しくもなるか。
「行ってくる」
俺はそう言うと洞窟を出た。
「いい狩り日和だな。・・・ん?」
違和感がした。
「・・・なんだあれ?」
遠くの方に見慣れないものが見える。ものって言うか・・・人。人々。
大勢いる。なんかこっちに向かってきてないか。【浮遊】で行って帰ってきても魔力は十分なくらいには残るだろうから行ってみるか・・・?
鹿捕る用の魔力がああ・・・。
近くまで来てから【隠密】を発動し、彼らから見えなくした。
彼らは鎧を着て剣を持っていた。その完全武装の彼らは列を組んで前進していて、旗を掲げているのが何人かいる。
この世界のどっかの国の旗なんだろうな。
だけどなんで・・・?余裕で100人以上はいるな。
この進行方向じゃまるで、ドラゴンのところに向かっているような。
どこに行くつもりなんだ。
少なくともドラゴンのところじゃないっていう安心が欲しい。
この一番前で馬に乗っている騎士に聞くのが早いだろうが、急に現れてもなぁ。
そうだこの先に川があるから・・・。
彼らが来た。
彼らは俺の姿を見るなり、行進をやめる。
馬に乗った騎士が川を渡ってきた。
「すまない、君はここで何をしている。」
「見ての通り、野宿の準備ですが?」
俺は枝を集めて近くに積んでおき、今手にはナイフと削られた枝が握られている。
はたから見たらキャンプの準備をしているように見えてもおかしくないだろう。
「ここでか・・・。残念だがやめた方がいい。今からこの森は戦場になる。」
戦場になる。という言葉で最悪の展開が頭に浮かぶ。
まさか、そんなこと・・・。
「な、何と戦うんです?」
「ドラゴンだ。」
最悪の展開そのものだった。
こいつらはドラゴンを狩りに来たってことか。
なんでそんなことをする。あんな優しいやつなのに。
俺は一応演技を続けた。
「ドラゴン?この森では見てないけどなぁ。」
「いや、この森の近くでドラゴンの声を聴いたものがいるんだ。」
「狼とかじゃないんですかね?」
「そうだといいが。一応確認しなければならないところがある。」
「確認?どこにそんなドラゴンが隠れられるところがあるんですか?」
「この先に洞窟がある、湧き水があって旅人たちが昔ここを通るときに使っていた洞窟だ。」
「でもちょっと狭すぎるんじゃないかなぁ。」
「いや、それがいいんだ。我々の追っているドラゴンは狭いところを好む。国が滅びて誰もいなくなった城に住み着いたこともあった。ドラゴンには狭すぎるくらいなのに。だから今から行く洞窟は条件がピッタリなんだ。」
だめだ、どうしても行くみたいだ。
なんでこうなる。あいつはまだ動けないってのに。
「・・・そこまで言うならホントにいるかもしれないなぁ。怖いからもうちょっと離れたところで寝るとするよ。」
「ああ、迷惑をかけてすまない。」
俺は騎士たちから見えなくなるまでの距離を取ってから【隠密】で隠れ、【浮遊】で全力でドラゴンのもとへ急いだ。
ドラゴンの目の前まで来て急停止する。
「ドラゴン、早く逃げろ!まずいことになってる!騎士が、大勢でお前のことを狙ってきてる!」
ドラゴンは首をかしげている。
「逃げろって言ってんだ!頼む!通じてくれ!」
クソ・・・ダメだ何もわかってない。
どうにかして・・・どうにかして逃げさせないと。
俺は落ちているあの黒い剣が見えた。
・・・・この方法しか、ない。
俺は剣を構えた。
ドラゴンに向けて。
「逃げろよ!頼むから逃げろ!ほら!こいつが見えるだろ!これに刺されたらどうなるかわかってるだろ!?」
ドラゴンが唸った。翻訳が表示したメッセージは
『かなしい』だった。
いつもの優しい目でこちらを見ている。
今のメッセージのせいで、悲しんでいるように見えた。
「違う。俺だってやりたくねぇんだよ!さっさと逃げろって言ってんだ!頼むから!」
『かなしい』
ドラゴンが向けられた剣の先に鼻先を近づけてくる。
俺は、下げてしまった。刺す覚悟がないことが見抜かれていた。
ドラゴンは俺のことを見続けている。
その時、足音が聞こえた。
大勢の。
あいつらだ。騎士達だ。
入ってきた。洞窟に。
俺は入り口に剣を向ける。
さっき話した騎士が入ってきて、目が合った。
「さっきの・・・それにやはりいたか・・・なっ、貴様その剣。まさか抜いたのか?!何をしている!」
「これのせいで動けなくなってたんだから当たり前だろ。」
「貴様!自分が何をしているのかわかっているのか!」
「お前らこそこいつが何したって言うんだ!そんな大勢で!恥ずかしくねぇのかよ!」
「まさか・・・何も知らないのか?!そのドラゴンがどんな存在かも知らずにそんなことを!」
「ああ?わかるよ!昔邪竜を倒し世界を救ったドラゴンだってことくらい!何もわかってないのはお前らだろうが!」
騎士たちがざわめきだした。互いに顔を見合わせている。
なんだよ。なにがおかしい。
「わかってないのは貴様の方だ。」
「何がだよ。」
「そいつが当の邪竜だ!」
「・・・は?」
何言ってる。こいつは転生したドラゴンだろ?転生したドラゴンが邪竜を倒したんだろ。
まさか邪竜がいなくなったから次の邪竜ってことでこいつが選ばれたのか。ふざけてる。何考えてんだこいつら。
「その邪竜と竜王様との戦いの最中、我らがその剣と共に加勢し、その剣を刺した後逃げ帰った。共に戦ってくれた竜王様のためにも、ここで我らがとどめを刺さねばならない!」
竜王様・・・?回収するスキルは【竜王】。まさか、いや違う。違う違う。違う。
「り、竜王ってなんだよ。なんなんだよ。誰だそれ・・・。」
俺は震えながら聞いた。
「邪竜と戦う竜のスキルに【竜王】とあった。だから竜王様だ。王国直属の鑑定士が見たんだ間違いない。」
【竜王】のスキルを持った別の竜だと?
違う。だってそれじゃこいつが転生した竜じゃないみたいな。
「し、知るか何が鑑定士だ!仮にそうだとしても、こいつが邪竜って決まったわけじゃ」
「いやそいつは邪竜だ。緑の鱗を持つ竜。世界中で目撃例もある。滅ぼした王国の城、洞窟の奥、アウラエタ山の頂上、カルハ谷の底。彼がいた地はすべてその竜に荒らされ、生物一つない地と化していた。そいつで間違いない。」
「し、知らねぇよ、そんなの。だってそれじゃ本当に・・・。」
俺はドラゴンを振り返る。
いつも通りの優しい眼だ。
こいつが、こいつが邪竜なわけがない。
でもこいつらが邪竜だと思ってんなら・・・説得するしかない。
「こいつは邪竜じゃないんだって!俺が雨に濡れそうだっと気も雨よけにはねを翳してくれたし、こいつがどいてくれたから飲み水だって確保できたんだ。ほら」
俺が言い切る前に騎士が話し出す。
「残念だが、これは決定事項だ。ここでそいつを狩る。」
「おい!待てよ!聞けよ!こいつは本当に悪い竜じゃないんだって!」
「彼に当たらないようにしろ。」
騎士がそう言うと後ろから、何人か前に出てきて、何かを唱えた。
するとその瞬間、何本もの縄付きのやりが空中から飛び出し、ドラゴンに突き刺さった。
ドラゴンが、その痛みにより叫び声をあげる。
俺が覚えているのは全身の血が沸騰する感覚だった。
「何してんだ!!!!!」
俺は全力で【浮遊】を発動させていて、すべての縄を切っていた。
しかし、もう魔力がない。さっきの移動のせいだ。俺は地面に落ちた。
立ち上がり、手を広げ、ドラゴンを庇う。
「・・・・彼ごとやるしかない。」
「しかし隊長!」
「ここで邪竜を仕留めなければ、また次の犠牲者が出る!」
騎士は俺ごとドラゴンを殺すつもりらしい。
後ろでドラゴンが唸っている。
『かなしい』。
ふざけてる。なんで、なんでこいつが苦しまなきゃならない。
何が邪竜だ。なにが、なにが・・・。
騎士たちがさっきと同じ何かを唱えている。
さっきの槍か。
俺が守らなきゃだめだ。動けないこいつをこれ以上、苦しめていいわけがない。
その時だった。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
後ろでドラゴンが吠えた。狼の時とは違い、体が硬直するようなことはない。
ドラゴンは羽を大きく広げ、羽ばたくようにしてみせた。
強烈な風が、騎士たちを襲う。
辛うじて立っている者もいれば、飛ばされたものもいる。
なんで・・・なんで今。
そんなことしたら。
「本当に邪竜だって思われるだろうが・・・・!」
ドラゴンは俺の方を一瞬見ると、動けなかったはずの体を持ち上げ、翼をはばたかせ飛んでみせた。
そのまま上昇し、洞窟の天井を超えた。
逃げるのか。
いや、それでいい。
どっかで生きてくれてればそれで。
どんどん上昇していく。俺はそれを洞窟の天井の穴ごしに見ていた。
その時、さっきとは違う、重い、低い叫び声が聞こえた。
次の瞬間、ドラゴンが横から飛んできた別の竜に首を噛まれた。
黒い竜だった。
黒い竜はドラゴンの首に噛みつき、空中で何度も振り回した後、無造作に放り投げた。
洞窟の外から轟音が聞こえた。
黒い竜は天へ吠えていた。
「は・・・ぁ?・・・っ!?」
俺は走った。
途中で浮遊を使おうとしたが無理だった。
それのせいで転んだ。
腕から血が出ている。
関係なかった。
走って外に出ると緑の鱗がそこら中に落ちていた。
「待てよ、待ってくれ、嘘だろ、待ってくれよ!!」
鱗をたどっていくと
木々をなぎ倒し横たわるドラゴンの姿があった。
その首筋には深い傷がいくつもついていて、血が大量に流れ、辺りを真っ赤に染めていた。
「ああ・・・ああああああああああああああああ」
叫んで走った。ドラゴンの頭の近くに駆けた。
ドラゴンは少し息をしていた。
俺が近づくと目がうっすらと開きこちらを見た。
そして唸った。
『ねむい』
「・・・待てって、なあ!死ぬなって!違うんだろ!また寝るだけなんだろ?なあ!」
何で泣いてるんだよ俺。
まるでそれじゃ。それじゃあ・・・。
「違うよな!死なないよな!」
『かなしい』
「っあ・・・。」
悲しいってなんだよ。やめろよ。ふざけんな。
違うだろ。
違う!!違う違う!
「なあ、死なないよな。あんだけ、狼の攻撃食らって死ななかったもんな。」
ドラゴンはこちらを見続けている。
「なあ、ほら、今からさ、いつもみたいに鹿捕ってくるからさ。食ってくれよ?」
頭をなでる。
体温が、低い。
「俺血抜きちゃんとするからさ。そし、たら・・・もっとおいしくなるんだよ。」
前が見えない。
「昨日たくさんいるの見たんだ。大変だろうけどさ、たくさん狩ってきてやるから、一緒に食べよう。そしたら元気になって・・・」
ドラゴンが唸る。
『かなしい』
唸り声はかなり弱くなっていた。いやな考えばかりが頭をよぎっている。
「・・・待ってくれって、俺まだ恩返しできてないんだよ。今さっきのあれだって俺を庇ってのことなんだろ?なあ、ドラゴン。」
ドラゴンは何も言わない。
「なあ!ほら教えただろ!俺今まで、他の世界でうまくやってきたんだよ!だから今回もうまくいくはずなんだよ!お前が、お前が、死ぬわけないよな。なあ!・・・なあ!」
急にドラゴンが頭を上げ、唸りだした、次から次へと。
表示されたのは『こんにちは』や『たのしい』だった。
「なんだ?・・・ごめん、わかんねぇよ。俺。」
俺は画面を見続ける。涙を拭いて見逃さないようにする。
その間ドラゴンはずっと唸り続けている。
その意図を理解してやれない自分がどうしようもなく、悔しかった。
「んで・・・なんでわからないんだよ・・・最後かもしれないのに・・・。」
その時画面に何かが大きく表示された。
『スキル 翻訳 を入手しました。 アップデートしますか?」
「なんで・・・」
俺は手を伸ばし『はい』を選択する。
ドラゴンは最後に一回唸ると頭を落とした。
『ありがとう』
「ドラゴン・・・!待てよ、待ってくれ、まだ・・・まだ・・・・!」
ドラゴンが頭を倒し、こちらを見つめていた。
その目から、これ以上がないってことを理解させられた。
「お前・・・・・。」
目を閉じながらドラゴンが唸った。
『おやすみ』
「・・・・・・・・・ああ・・・おやすみ・・・。」