第30話 絆 6、人
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3日目、目が覚めると雨だった。
万が一のことを考えて鹿肉を端の方に避けておいて正解だった。
でもこの雨じゃ動物いないだろうなぁ。
・・・濡れてないと思ったら、ドラゴンが翼で傘になってくれてたのか・・・。
・・・・・・・。
彼は森を歩いていた。
雨だというのに、その歩き方はどこか誇らしげだった。
立派な2本の角を高らかにあげ歩いていく。
いつも通り、木々を通り抜けていた。
しかしその時、彼は雨の音とは違う、不自然な音を聞いた。
その方向には何もいない。
しかし、彼の今まで培った経験が、危険信号を発していた。
彼は走って逃げた。しかし何から逃げているのかはわからない。
わからないが、確実に何かが来ていた。
恐怖が彼の背中を押す。
どのくらい逃げただろうか。
ここまでくれば大丈夫だろうと彼は振り返った。
さっきの気配は感じなかった。
安心した彼は腹ごしらえをしようとしたその時だった。
「ヤット、ミツケタァ。」
声のした方に振り向くと、雨に濡れ、悪魔のような笑みを浮かべた化け物がそこにいた。
彼は即座に駆けだした。
後ろを見る。あの化け物は何か叫びながら、飛んでいた。空中を。木々にぶつかろうと手足を使って跳ね除けこちらに飛んでくる。
彼にはそれが異形の化け物に見えた。
彼は全速力で駆けた。だが、
「ツカマエタァァァァ!!」
首を掴まれ、直後彼の喉笛は切り裂かれた。そして彼は絶命した。
俺はやっと見つけた鹿を持って帰った。
案の定ずぶぬれになってしまった。
風邪ひきそう。
だが成果があったのは良かった。
最初、土砂降り過ぎて動物が全然見つからなかった。
しかし、根気よく探していると鹿が悠々と歩いていたのだ。
その後近づいた時まさか、嬉しすぎて声を出してしまって存在がバレるとは・・・。
やっと見つけた獲物を逃すわけにはいかないので俺の出せる最高速度で追いかけた。
おかげで今日はもう【浮遊】は使えそうにない。
俺は帰ると、あらかじめ焚いておいた火で暖を取りつつ、鹿を解体して、焼いた。
焼けた俺用の小さい肉を食べつつ、ドラゴンにはドラゴン用のでかい肉を食べさせようと近寄った。
するとドラゴンが唸ったので画面を見た。
『かなしい』
食べたくないと???
「え?こ、この雨で頑張って来たのに?!嘘だろ勘弁してくれ。頼む食べてくれ、お願い・・・だ?」
焦る俺だったが、止まった。
ドラゴンがいつもより優しい目をしていたからだった。気のせいかもしれんが。
さらにその目から涙を流していた。
いや、これは雨が伝ってるだけか・・・?
悩む俺の手元の画面に表示され続ける『かなしい』という言葉。
これは、俺のために悲しんでんのかな。
それは自意識過剰すぎか?
するとドラゴンは差し出した肉を食べ始めた。
食べたくないわけではなかったらしい。
もしかして、雨の中鹿をとってきてくれたことへの感謝だったりして。
だとしたら、こいつ実は優しいやつなんじゃ。
そう思うと、悲しくなってきた。
あんな剣を刺して、動けないようにして、こんなところに追いやって。
仮にも世界を救った竜なのに、かわいそすぎるだろ。
その日、夜まで雨が止むことはなかった。
4日目、天井の大穴から見える空は快晴だった。
『こんにちは』
「おう・・・そろそろこれアップデートとかされねぇかな。」
必ず朝『こんにちは』というので、多分おはようの意味がこもってるんだろう。
だいぶ大まかな括りで分けられているんだと考えている。
もう、ちょっと言ってることを理解したいんだけどなぁ。
俺は朝ごはん。と言っても相変わらず鹿肉だが。それを食べ終わると今日の狩りに出かけた。
だいぶこの生活に慣れてきた気がする。
数時間後
「・・・ハァ、おかしい、なんで一匹もいねぇ。」
結構な範囲を飛んで探し回ったが、動物一匹見つけられない。
このままじゃお昼ご飯にありつけないな・・・。
あいつが動けるようになるまではどうにか食べさせてやりたいんだけど。
しょうがない、ちょっと遠くに行ってみるか。
帰れなくなると大変なので、魔力の温存のために歩いていくことにした。
1時間後、途中に川があり川沿いに進むと、獣道っぽいものを発見できた。
この道を何かが通っていることはわかる。
俺は【隠密】を発動し獣道を進んだ。
できれば向こうから歩いてきてくれると助かるな・・・。
そうして歩いた数十分後、異世界鹿の角が見えた。
俺は手で口を覆い、【浮遊】で少し浮いて徐々に近づいていく。
あと少し、もう少し・・・。
「あ・・・。」
鹿はそこにいた。いや、あった。
その体は、何者かに皮膚が食い破られ、中身も食い荒らされた状態だった。
ものすごく血なまぐさい。ほかの獣に襲われたんだろう。
でもその血は結構時間がたったようで、乾いて見える。
昨日あたりにでも食べられたのだろうか。
よく見ると首を斬られている、ひどく鋭利なもので。
これは確実に、牙で食いちぎったようなものじゃないと断言できる。
まだ会ったことはないが、あれだけ速い鹿に追いつけてここまでの鋭利な武器を持った獣がこの森のどこかにいるのか・・・。
背筋がぞくりとした。
「まぁ、だとしても探しなおしだ。」
俺は犯人探しをしに来たんじゃなく、鹿を取りに来ているのだと、俺は気を取り直して獣道を進み出した。
気を取り直したものの、あれをやった犯人と出くわしたら、どうしようか、と不安がよぎる。
【隠密】は通じるだろうから大丈夫か?
いや【隠密】が通じるか通じないかはまだわからんな。
まあできるだけ足音を殺せばいいだろ。
そう思って足元を見た時だった。
「・・・・。」
俺は来た道を振り返った。
通ってきた道の草木は向こう、俺が来た方向へ倒れていた。
「・・・まさかな。」
つまりこれを踏んだ犯人は俺が今進んでいる方向から来たということになる。
俺は【浮遊】を使用して飛び出し、一直線にドラゴンのもとに向かった。
さっきの犯人がもし、鼻が利く動物だったとして、俺の雑な血抜きのせいで鹿の血の匂いが洞窟から発せられていたらどうだ。
まずい気がした。
考えすぎであってほしいと願った。
洞窟に近づくと地響きが聞こえてきた。
そして唸るような声。
翻訳の画面を向ける。
『対象に向けてください』
ここじゃ範囲外なのか。
魔力が尽きそうなので【浮遊】をやめ、走って洞窟へ入った俺の耳に明らかにドラゴンの発した唸り声と、別の何かの声が聞こえてきた。
俺は走ってドラゴンのいる部屋に入った。
そこでは、人間より余裕で大きい体を持ち、白い毛並みの狼とドラゴンが戦っていた。
ドラゴンの体には鋭利な刃物で切ったような切り傷がたくさんついていた。
つまりこの狼たちがさっきの犯人。
狼たちは連携をとってドラゴンに攻撃していく。ドラゴンは狭い部屋だからかうまく動けず、尻尾や羽で吹き飛ばすか、顎で噛みつくことしかできていなかった。
「やめろおおおおおおおお!!」
俺は【浮遊】で飛んで、落ちていた黒いあの剣を拾うと、狼の一匹を切りつけた。
頭を切り落とせたようだった。だが、これで【隠密】が解けてしまった。
目の前にら狼たちの視線が一斉にこちらに集中した。
そして、間髪入れず飛びついてきた。
空中に飛ぶが、狼の中の2匹が壁を踏み台にして飛び、襲い掛かってきた。
だがドラゴンの尻尾がそいつらを弾き飛ばした。
「ナイスだ!」
次に俺は単独で突っ込んできた狼の動きをよく見た。
回避しながら、剣を狼に突き立てた。
この剣の切れ味は相当なもので、力を入れなくても簡単に切れた。
周りを見るとまだドラゴンに噛みついている奴がいた。
そいつに急接近し、後ろから切ってやった。
そこで最悪の事態に気づいた。
「魔力がねぇ・・・!」
今ので使い切ってしまったのだ。
その上こちらに向かって飛んでくる狼がいる。
空中じゃ体勢を立て直せない!
その時だった
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
ドラゴンが吠えた。俺は洞窟を振動させるほどのその咆哮に耳をふさぐ。
狼たちも動けなくなっている。
威圧ってやつか?わからないが、全く動けない。膝をつく。
そして叫んだ状態のドラゴンに魔力が集まっていく。
そしてドラゴンが業火を吐いた。
目の前にいて動けなくなっていた狼はその炎に飲み込まれていく。
そして、火を噴くのをやめると、もうそこには何も残っていなかった。
俺はまだ動けなかったさっきの狼を斬る。
「ドラゴン!大丈夫か?!」
俺は声をかけ近寄ろうとすると、ドラゴンが力が抜けたように頭を落とした。
「おい!おい!しっかりしろ。」
体を見ると流れる血は少量だが、傷の数が多すぎる。
ドラゴンが力なく唸った。画面を見ると。
『ねむい』
「・・・まさか!おいちょっと待てよ!死ぬなよ!今俺が何とか・・・!」
近くにあった狼の死体があった、俺がさっき切ったこいつだけは焼けてなかったらしい。
ドラゴンの口までもって行く。
「食え!」
『ねむい』
「おい!ちょっと待てって!」
どんどんドラゴンの眼が閉じていく。
おいマジかよ。こんなところで・・・。
そしてその目が閉じ切ったとき、ドラゴンは寝息を立て始めた。
「この状況でほんとに寝るやつがあるかよ!!」
その日俺はもう暗くなっていたので、狩りに行くのはやめて、次の日を待った。
5日目、今日も晴天だった。
いつもの挨拶を済ませて、狩りに出かけた。
狼がいなくなったからなのか結構いろんなところで鹿を見かけることができ、狩っては戻り狩っては戻りを繰り返して、ドラゴンにたくさん食わせてやった。
昨日のけがはどれも塞がり始めているようで、大丈夫そうで良かった。
狩りの結果、夕飯用を含んだ鹿肉3匹分がストックできたので、今日は狩りをやめた。
そこで、夕飯時までドラゴンに通じるか知らないが今までの戦いの話をしてやった。
ドラゴンはずっとこっちを見て聞いてくれていた。
理解してるか知らないが、画面には『たのしい』と表示されているので、まあ楽しいんだろう。
うぬぼれか知らないが、最近ドラゴンと分かり合えているような気がしていた。
こんだけ餌持ってくればそうもなるか。いやもしかしたら餌持ってくる奴程度にしか思われてないかもしれないけど。
でも昨日、狼から守ってくれたりしたし、信頼してくれてはいるのかもしれないな。
ただここまで仲良くなってしまうと、スキルを奪いにくいんだよなぁ。
回収なんて体よく名前付いてるけど、その本質は強奪に近いんだよなぁ、このスキル。
竜語とかがあればなぁ、頑張って覚えたんだけどなぁ。
その日はたくさん狩りができたこと以外、特に何もなく終わった。
この日が一番幸せだったと思う。
次の日もそうだったらよかったのに。
俺もこんなドラゴンに貢ぐだけの生活がしたい