第3話 異世界逃走劇
味噌食ったので投稿します。
黒髪に黒の瞳。
神は確か、「少なくとも~、ファング王国の人たちはみんな外国人みたいな風貌をしているから、目当ての王様はそのままの姿で転生した分、日本人って感じの見た目をしているのですぐわかりますよ。」
と言っていた。
つまり目の前にいるのは―。
俺の脳裏に浮かぶ、例の転生者の傍若無人の数々。
イメージ上の悪行その被害者は全部俺。
最悪の映像が頭を流れ続ける。
「コメがわかるってことは、ニホンの人だよね。悪いけどちょっと一緒に来てもらってもいいかな。」
まっすぐにこちらを見つめてくる。
日本人だと確信を持たれている。
まずい、まだ魔力とか魔法とかまだよくわかってないのにこの状況は非常にマズい。
『王に少しでも歯向かったものは死刑』。
よし、逃げよう。
「失礼しましたっ!」
すぐさま駆け出した。
城壁から飛び降り、数メートル下の民家の屋根の上に着地した。
バギッと何かが折れる音がしたが下に落ちることはなかった。
ごめん家主。
俺はそのまま次から次へと屋根伝いに走った。
咄嗟にやったけど、普通だったら死んでたな。
そんなことはいい。
問題はあいつから、今のこの俺の【超強化】された状態で出せるスピードで逃げ切れるのかどうかだ。
いや行けるはずだ。
今の俺は漫画に出てくる忍者並みの動きができんだぞ。なめんな。
俺は相手の出方を考えた。
あいつは無限に魔力があるわけだし、魔法を使ってくるだろうな。
魔法ってどんなんだろうか。
ゲームのように火とか飛ばしてくるのかもしれない。
銃口を突き付けられてるかのように、背中がチリチリする感じがする。
スピードを上げようかと考えたその時―。
「いいスピードだね。」
「なっ?!」
あいつが横にいた。
心臓が止まるかと思った。
相手が俺の真横をスピードを合わせて走っていた。
しかも鎧を着たまま。
魔力だけじゃなく、身体能力も化け物なのかこいつは。
「ちょっと話をしたいだけなんだ。君のことが知りたい。おっと・・・速度を上げたね、まだ早くなるか。いいね。ねぇ!聞いてる?!」
「クッソ、マッッジ、かよっ!」
息が切れてきた。
もう全力なんだよ俺は。なのに。
【超強化】での全力なのにまだついてくる。
もう車並みのスピードは出てるだろ!多分!
マジでやばいぞ、平気に人を殺した挙句、独裁政治を敷くような奴だぞ。
なにされんだ俺。
横を見た。隣でニコニコしながら並走してくるこいつに恐怖を覚えた。
もし、仮にもしも俺が【無限】を回収しに来た人間だと知ったら、本当に何されるか分かったもんじゃない。
どうする?どうする?
この国は結構広い、どこかに身を隠せば意外と見つからないんじゃないか?
走れ!走れ!あと同時に考えろ!
なにか、何かあるだろ!
ん・・・あれはどうだ?
ちょうど走っている方向に森が見える。
木を隠すなら森の・・・違うか。とりあえずこの身体能力なら木々の間を縫ったりできるし、何とか撒けるかもしれない。
そうしよう。
このまま屋根伝いに森を目指す。
もう少しだ。
あと少し―。
「なっ?!」
森の手前に川が現れた。広い。2車線道路分。
てっきり直前まで屋根があると思っていた。見えてなかった。
「くっそ!がぁっ!!!」
ぎりぎりのとこで屋根を踏み抜きジャンプした。
【超強化】のおかげで飛び越えられそうだ。
やべぇ飛んでる!俺かっこいい!
そんなこと考えてる場合じゃないけど!
飛びながら後ろを見た。
あいつは・・・川を見つけて一回止まってしまったのか、屋根から降りて下に着地したところだ。
だが、多分あいつも飛び越えてくるだろう。
川の横には十分助走できる幅があるしな。
このまま何もせず下に降りたりしたら追いつかれる。
「それなら・・・!」
目の前に迫っていた木の枝をつかみ、振り子の要領で勢いを殺さぬよう体を前に押し出す。
そのまま次の木の幹をけり、枝を踏み抜き、先へ先へ進む。
「てか、【超強化】なかったら手がズタボロだっただろこれ・・・。」
「すごいね君!いい身のこなしだよ!」
「マジかよ・・・。」
あいつ下からまだ着いてきてるのか。その上に声かけてくる余裕まであるのかよ!
ここらへんで曲がったりしてどうにか撒かないと―。
・・・?
あれ?
おかしい。体が勝手に前を目指して進んでいく。
「ちょっ、なんでだ!どうなってる?」
【超強化】の影響か?!
俺の体が全然曲がってくれるような気配がしない。
なんで!
「うおっ?!」
急に開けた場所に投げ出された。
木々が開けた中心に、丸太だけでできた家が一軒だけ建っている。
コテージみたいな感じの。
いや待てヤバい着地の体制がとれな―。
「ぐおっ!・・・・」
そのまま顔から地面にダイブした。
痛みはあんまりない。
って、まずい、止まっちゃだめだ。起き上がれ。今すぐ走り出さないと―。
「くそっ嘘だろ、おい。ちっとも動かねぇ・・・」
起き上がることすらできなくなっていた。なんで?!
あいつが近づいてくる。
なんだよこれ、異世界に来てさっそく詰むのか俺。
まだ一時間もたってないのにもう終わりか?
あいつが後ろから近づいてくる。
「お客さんに対してその対応はどうなんだいレヴィ?」
「君こそ事情も話さずに追っかけまわしてたじゃないか。ずっと鬼ごっこしてるよりはましだろ。」
あいつとは別の方向から女性の声が近づいてきた。
さっきの家のほうから来たのか。
「悪いねお兄さん。ずっと鬼ごっこじゃ大変だろうから、ちょっと私の魔法でここに誘導させてもらったよ。」
女性がこちらの顔をのぞき込んでくる。
魔女みたいな帽子をかぶっている。
「レヴィ、とりあえず中へ行こう。」
「確かにいつまでも地面にほおずりさせちゃかわいそうだね。ついでにお茶にしようか。お兄さん、ついておいで。」
俺の体がまた急に動き出す。そしてそのまま彼ら二人の後ろについていく。
なんだこれ。
体の自由は効かず。知らない場所に連れ込まれる。
終わったわ。
神様、手抜きだとかその、ちょっと、あの、小馬鹿にしてごめんなさい。
僕はもう無理そうです。例のスキルを返す予定の神様には自分で謝っておいてください。
そうして俺は家の中に足を踏み入れた―。
『踏み入れさせられた』か。