第29話 異世界サバイバル 6、人
アジのたたきはカツオのたたきと同じつくりだと思っていたら違ったので投稿します。
「グルルルルルルルルルルルルルル。」
俺はあれから蛇ににらまれた蛙のように動けずにいた。
めちゃくちゃ睨まれている。怖すぎる。
「そうだ、【軽翻訳】」
これであいつの言葉がわかれば、なんとかなるかも・・・。
スキルを唱えた時、ステータスウィンドウのように目の前に四角い画面が現れた。
『翻訳したい対象に向けよう』というメッセージと上に向いた矢印が表示される。
結構いい作りなのでは・・・?画面は俺の体の前に固定されてるようで、体の向きを変えるとそれについてくるっぽい。
恐る恐るドラゴンに向けてみる。
「グルルルルルルルルルル。」
『翻訳中…』
数秒後、画面に翻訳されたであろう言葉が表示される。
『こんにちは』
「嘘をつけ!!」
んなわけあるか!
めちゃくちゃ睨まれてるだろうが!
前に元の世界で見た犬語翻訳機のほうがまだマシだったぞ!
待てよ、落ち着け、翻訳ができるなら、俺の言葉も何らかの方法で翻訳されたりするんじゃないか?
もしかしたらこっちの言ってることを理解してくれるはず・・・。
「こ、こんにちは・・・。」
「グルルルルルル。」
『たのしい』
「嘘をつけ!!!!!」
通じてないわこれ。
相変わらず睨まれてるし、唸り声も変わってねぇだろうが!
こうなれば最後は【隠密】しかない。
走って岩に隠れて【隠密】を唱える。
なんとなくだが、発動してる感じがある。
とりあえず岩から出てみた。
・・・見られている・・・?
いや違うなこれは岩に入って行った俺を見てるんだ。
【浮遊】を使ってみるか。
俺は空を飛ぶ、竜の頭より高い位置まで飛んでみる。
竜は俺の動きに合わせて頭を上げる。
「グルルルルルル」
『たのしい』
ダメだこれ。
見えてるわ。
その後、試行錯誤して分かったことがある。
まずこいつは特に吠えたり、襲ってきたりはしないこと。
次に一定の距離、だいたい鼻先から五メートルくらいは『たのしい』と表示される。
しかし、それ以上近づくと今度は『かなしい』と表示される。
とりあえず近づくなと言われているのはわかる。この翻訳が正しいのであればの話だが。
「なあ、なんで襲ってこないんだー?」
「・・・・。」
何も言わない時は翻訳されない。唸り声が言葉なのかどうかは置いとくか。
声が聞こえてないと思って大声を出してもこれか・・・。
さっさと【回収】を使えばいいかもしれんが、近づいたら何されるかわからんしな・・・。
悩んでいたその時、ドラゴンが唸りだした。
慌てて画面を見る。
『お腹すいた』
「知らん!!!」
知らねぇよ。
自分で動けよ。
『お腹すいた』
はいはい、ララじゃないんだからさ。
『お腹すいた』
しつこくない?
『お腹すいた』
ああもう・・・。
まさかだけど、もしかして動けないとか?
あるあるだよな。こういう竜が動けないパターン。
だいたいどっかに剣が刺さってんだけど・・・。
怪しいのは俺から見て左側。
俺が試行錯誤してうろちょろしてた時、やたらあっち側が見えないように体をずらしてたんだよな。
行くか・・・?いや怖いな・・・。
俺は少しずつ近づいていく。
『かなしい』
悲しいゾーンに入った。こっからは【浮遊】をいつでも使えるように準備しておく。
いつでも攻撃されたときは後ろにふっとんで回避ができるように。
『かなしい かなしい』
増えた。よほど近づいてほしくないとか・・・。
俺が動くたびに息を荒げ、体をずらしている。
だがもう洞窟に引っかかってこれ以上はずらせないみたいだ。
頭の横を通り、前足に触れられそうになった時だった。
ギンッ!!!!
俺の目の前に歯があった。
ぎりぎりのところで歯は当たっていない。
噛もうとしたのか。
にしても、気づけなかった。速すぎる。
少しくらい動体視力に自信があったつもりだったんだが・・・。
『かなしい かなしい かなしい』
「・・・ララの次はこの前の魔人かよ。」
竜は頭を戻してこちらを睨んでいる。
だけど、食うぞって言うよりは、これ以上近づくなって意味に感じた。
そんなに嫌なら食えばよかったんだ俺のこと。
ぎりぎりのとこでわざわざ止めたんだな。いや、そうであってくれ。
今ここでまだ食べに来てないってことは、さっきのは食べ損なったわけじゃない。ってことになるだろ。
行くぞ、頑張れ俺。
『かなしい』と相変わらず表示されているが、竜は睨むだけで何もしてこない。
ついに前足の横を通る。
そして気づいた。
前足の付け根の後ろ、腹のあたりに黒い剣が突き刺さっていた。そこから割と大量に血が流れている。
同じ黒い剣のゼロとは違い、禍々しい装飾が柄に施されている。
いかにもって感じの剣だな。俺の予想通りならこれを抜いてしまえばこいつは動けるはず。
俺は剣のつかを握る。俺には特に何も影響はないみたいだ。
全力で引っ張る、しかし、深々と刺さっているからか、すごくかたい。
グオオオオオオオオオオオオオオオ
『かなしい かなしい かなしい かなしい』
今まで以上に大きな唸り声をあげる。
洞窟だから反響してすごくうるさい。
「さっさと抜いてやるからちったあ我慢しろ!!」
俺は【浮遊】を使い、両手で柄を持ち、両足を竜の腹に置く。
そのまま体全体で剣を引き抜こうと全力で踏ん張る。
「ああああああああああああああああ!!!!!!」
足りない!もう少し。
俺は【浮遊】を剣を引き抜ける方向に体が行くよう全力で魔力を流し込む。
竜も痛いのか叫びだす。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
「くそがああああああああああああああああああ!!!!」
10秒ぐらいたった時だった。
剣が少し動いたかと思うと、そこから一気に引き抜けた。
俺はその勢いで吹っ飛び壁に激突する。
はずだった。
何か柔らかいものにあたった。
見ると、竜の羽が開いて俺が壁にあたらないようにしてくれたのだった。
俺は竜の前まで剣を持っていき、地面に捨てる。
竜は俺を睨んだままだ。
「どうだ!動けるかー?」
『たのしい』
『たのしい』か、翻訳は相変わらずの性能だな
でも、距離的には『かなしい』ゾーンのはずだから、いいことをしたってことでいいのか・・・?
「なあ!俺お前のスキルが欲しいんだけどー?とっていいかー?」
当初の目的を話してみる。
こういう時は竜と心が通時合うようになるのがセオリーなんだけど。
『おなかすいた』
通じてないなこれは。
すると、竜が頭を地面に落とした。
明らかに力が抜けたかのように落ちていっていた。
「おい!どうした。」
「グルル」
『お腹すいた』
動けないみたいだな・・・。
なんか、かわいそうになって来たな。
どのくらいの期間なのか知らないが、あの剣が刺さっている間ずっと動けなくてここにいるのだとしたら、その間こいつは何も食べてないってことになるんじゃないのか。
この剣を差したのは、ほぼ確実に人間だろうから、なんか申し訳ないし・・・。
「待ってろ。なんか取ってくる。」
ドラゴンがいるくらいだから、そこら辺に食えそうなやつがいるだろ。
俺はドラゴンがいない方の洞窟を進んでみることにした。
【隠密】を使って見えないようにしているから多分大丈夫だろう。
そう思いつつ少し進んでいくと光が見えた。
どうやら洞窟を出れたようで、太陽が見えた。まだ昼ぐらいか。
周りは森みたいだな。
ここは少し高いところにあるみたいで向こうのほうまで見渡せるが、ずっと森で、建造物とかは見当たらない。
今からやるとしたら、飲み水の確保と鹿みたいな食えそうな動物を探すことだな。
水があれば7日間は持つ。食えそうなやつは全部あいつに挙げて、動けるようになったらスキルを貰おう。なんか悪いし。そんぐらいしてもいいだろ。
異世界サバイバルか、面白くなってきた。
だがそんなにサバイバルは甘くなかった。
俺がドラゴンの元に戻ったのは夕方。
なんとか鹿っぽい鋭い角を持つ動物をとれた。とりあえず異世界鹿と名付けた。
異世界鹿は【隠密】を使って近づいてもこちらに気づいているようで、すぐ逃げられてしまう。
何度も追いかけて気づいたのだが、【隠密】を使っていても足音が立っていたらしく、奴はそれを察知していた。
そこで【浮遊】で足音を完全に遮断して背後からのどを掻き切って、動けなくなったところを捕まえた。
それが終わったのが夕方だった。つまり、飲み水が確保できていない・・・。
飲み水問題もあるが、もう一つ問題が起きている。
夜の過ごし方だ、たぶん焚火をしないといけないと思う。寝床も確保できていない。
非常にヤバイ。
ドラゴンの目の前に鹿を置く。
「食っていいぞ。」
そういって俺は火を起こす準備を始める。
何とか持ってきた木々を重ねて、裂けて板状になっていた木に、木の棒で擦り続ける。
・・・・・・・・・・火がつかない。
少しでいいんだ、少し火の粉でもできれば、用意しておいた木くずにのっけて息を吹きかければ火がつくはずなんだ。動画で見たからな!
・・・・・・・・つかん。
このままでは埒が明かないので、水を探す方を優先するか。
立ち上がり振り返ると、鹿がそのままだった。
「おい、食っていいって。」
『お腹すいた』
「だから食えって。」
鹿を口に近づける。
『お腹すいた』
「血抜きしてないのは俺に知識がないからってのはわかってるけど。ああ通じてないんだった。ああもうだから食えって。」
俺は胴体から鹿の足を切りはなして口に押し込もうとする。
口は堅く閉ざされていて開かない。
なぜかドラゴンはこちらを睨んでいる。
グルルルルルルルルルルル
『お腹すいた』
「クッソ!食えよ!!口を開けろ!」
ドラゴンは根負けしてくれたのか、口を開けてくれた。
そこに鹿の足をねじ込む。
租借し飲み込んだのを確認した俺は、足りないだろうとまた鹿を解体し始めた。
その時、ドラゴンの方に何かが集まる感覚があった。
魔力・・・?
ドラゴンの方を振り向くと、ドラゴンが口を少し開けている。
何だ・・・。そう思った瞬間、ドラゴンの口から炎が噴き出した。
「うわっ熱っ?!」
あいつは俺に向けて火を吐いているわけではなかったがかなり熱かった。
何なんだ一体。
するとその方向でなにやらぱちぱちと音がする。
なんと積んであった木に火がついていた。
「お前まさか、火をつけてくれたのか・・・。」
『たのしい』
この『たのしい』っていうのは、嬉しいって意味も込められてるのかもしれない。
何か分かり合えてきたのかもしれないな。
「ありがとうな。ほら、食え。」
俺は鹿の肉を差し出す。
しかしまた口を閉じている。
「食えよ。」
『おなかすいた』
「だから食えって!!!」
全然分かり合えてなかった。
頑なに口を閉ざすので、俺はシカ肉を焼いてみることにした。
串焼きにした鹿肉からは肉のよく焼けた匂いがしている。
それをドラゴンの鼻先に持っていく。鼻ががひくひくし出す。
「あーこんなにうまいのになー。」
俺は自分用に焼いた肉を食べて見せる。
ちなみにおいしくない。ものすごく血なまぐさい。昔食った鹿はよく血抜きできていたとこを実感した。
『おなかすいた おなかすいた』
「ほら、さっさと口開けとけ。ほらほら~。」
鼻先で鹿肉を揺らす。
するとドラゴンが口を開けた。自分からかぶりつきに来ないので投げ入れる。
骨を抜いていないので骨をかみ砕く音が聞こえる。
噛まれたらひとたまりもねぇな。
ドラゴンは肉を飲み込んだ後、急に体を少し持ち上げた。
そして横にずれる。
謎の行動に困っていると。
ドラゴンがドラゴンの体が邪魔で通れなかった向こう側の洞窟を見つめている。
なんかあるのか?
そう思って立ち止まっている俺をドラゴンは首を振ってまるで行けというかのように促す。
そこまで言うならと奥に入ってみると、光る水晶が現れた。それは地面から生えているようで、その根元から水が湧いていた。
飲み水だ!と思い急いで飲もうとするが、立ち止まる。
サバイバル動画を挙げていた筋肉のすごい黒人の言葉を思い出す。
「水を見つけてもすぐ飲んじゃいけねぇ、これが飲める水なのか飲めない水なのか判断しないとダメだ。」
先生、今ここであんたの教えを活かす時が来たいみたいですよ。
・・・判断方法忘れたな。
のどがカラカラだからもう飲んじゃえ・・・。
うまい、かなりうまい。水が美味いって思ったのいつぶりだ・・・?
俺の世界の水を超えてるぞ。
ありがてぇ・・・。しみる・・・。
ドラゴンの元に戻ると寝ているようだった。
俺は飲み水問題がまさかの解決をしたので、残す問題として寝床問題があった。
綿っぽいものが生えていたので枕として持って帰ってきてはいたが、この岩だらけのところで寝れるだろうか・・・。
まだ1日目だからものは試しに寝てみるか・・・。
翌朝、激痛に見舞われた。
地獄過ぎる、何回か起きて気合で寝てみたが、これはダメだ。
なぜ人類は布団を使うのかという疑問が解けただけだった。
ドラゴンも起きているようで、なぜか小鳥と遊んでいた。
俺を見る目つきと変わってないのを見ると、あの睨んでるような眼が通常の状態なのかもしれない。
ドラゴンがこちらを見て唸る。
『こんにちは』
「おはようだけどな。」
俺は手を振ってこたえる。
さて、飯を取ってこないと・・・。
朝、空腹状態での狩りはきつかった。
しかし、【浮遊】を使っているので何とかなった。
鹿と木を持ち帰り、まず木を積むとドラゴンが火を焚いてくれたので、そこでまた鹿を焼いて、ドラゴンに与えた後、水分補給をし、また鹿を狩りに出かけた。
昼頃帰ってきて、同じことをし夜は二匹の鹿を狩って戻った。
ステータスウィンドウを見ると魔力がもうなかった。
「だあああ、きつい・・・。」
俺はシカを並べると、地面に寝転がった。
相変わらずひどい寝心地だ。
こっから解体して焼いてドラゴンにあげて・・・・。
ドラゴンから『おなかすいた』のメッセージが来るので、寝てる暇はない。
疲労で重くなった体を起こし、作業に取り掛かる。
ドラゴンは何もせずただこっちを見ていた。
作業が終わり、明日の朝用のシカ肉をきれいに洗った葉っぱに包み、水分補給を終え、寝床に戻ろうとした。
「ああ、クソ。綿取ってきてなかった・・・。」
朝用の鹿を取ることに夢中になって綿のことを忘れていた。
今日も石畳の上か・・・。
ドラゴンの横を通っていると急に彼がこっちに振り返ってきた。
何だ・・・?
するとドラゴンがその大きい体を横にした。
その後俺の体を尻尾で持ち上げ腹の上に乗せてくれた。
岩に比べたら断然やわらかい。
ドラゴンは頭を下げて寝息を立て始めた。
寝ていいってことか・・・?
にしても本当に柔らかい。昔見た映画みたいだ。
あなた、ドラゴンって言うのね・・・。
俺は疲れもあってすぐに眠りについた。
次の日は雨だった。
布団なしで眠るというのをこれのために試しでやりましたが、皆さんやらないようにしてください。