第28話 52番目の世界
冷しゃぶにはやっぱりゴマだれなので投稿します
俺はいつもの白い部屋に戻っていた。
神様は早速どこかに行ってしまった。
おそらくだが力を返しに行ったんだろう。
にしても、うまくいったよなぁ。言い方悪いけど。
もしかして俺にはそういう才能があるんじゃないか、と勘ぐってしまう。
これは、次の世界も余裕そうだな。
とりあえず俺は、既に出していたのか、それともあれからしまい忘れたのか、この前と同じ椅子が置いてあったので座ろうとする。
すると何かが引っ掛かった。
「あ、やっべ…タマの…。」
何かと探ってみると、タマのナイフだった。
服に付いていたから一緒に転送されたのか…。
もし、また会えた時にでも返すか。
それまでは悪いけど使わせてもらおう。
そんなことを考えていると、神様が帰ってきた。
「ありがとうございます将斗さん!なんと、「期日前に返せるじゃない。やるときはやるわね」って褒められちゃいました!」
ものすごい笑顔でなんか言ってんな。さて、
「神様、座ってもらえますか。」
俺は精いっぱいの笑顔で着席を促す。
「ど、どうされました?」
「いえ~?少し話し合いたいなと。」
「ま、まあ、そのつもりではあるので座らせてもらいます。」
神様が着席した。
「それで、どうしてそんなに怒ってらっしゃるのですか?」
神様が焦った風に上目遣いでこちらの様子を伺っている。
「いえ?別に。」
「そ、そうですか。それで話って言うのは・・・。」
そうだな・・・山ほどあるけど。
「【ランダム】やめませんか?」
一番の問題を言ってやった。
「で、ですから、えっと、あれは世界の不安定さを加速させないぎりぎりのラインを攻めた結果、あのようになってしまって。」
「今回最初【超強化】がなくて困ってたんですよ。いや、最初だけじゃないんですけど。」
「き、聞いてます?」
「固定じゃなくて困るってのが一つ。そして今回もう一つの問題が浮上しました。」
「えっと、一応聞きますけどそれは・・・?」
「ゴミスキルが出るんですよ。」
今回得た2つのスキルは
【狙撃手】、飛び道具の命中率が多少上がるスキル。
そして【受け身】、ダメージを受けるとそれを軽減してくれるように体が動いてくれるスキル。
「【狙撃手】は今回あまり精度にこだわる戦いじゃなかったからいいですけど、【受け身】は死んでました。」
「いやいろんな場面で活躍してたじゃないですか。ボス部屋前のレーザー避けたときとか、魔人の使役してた化け物の攻撃を受けた時とか。」
なるほど今回はほんとにちゃんと見ていたらしいな。
「でも、【交換】とかあったらそもそも攻撃食らってないですよね?」
「そ、それは・・・。で、でも【受け身】で体の身のこなしを覚えたおかげで、化け物の攻撃を避け続けることができたんじゃないですか?ほら!だったら」
手を叩いて何が「ほら!」なのか…?
「でもやっぱり【交換】で良くないですか?」
「・・・・。じゃあいいです、文句があるなら消えてもらいます。」
「えええええええええ!嘘だろあんた!待って、待ってください!」
急に冷たい目になったと思ったらこれだよ!
とりあえずこれ以上ないくらいに謝った。
一応何とか許してもらった。
なんでだ?おかしくないか・・・?俺あんたのために働いてんだよ?
「わかってもらえたなら良かったです!」
部屋に入ってきた時くらいに笑顔になった。
もうやだこの神・・・性格がわからないよ。怖い。
機嫌の直った神様が2回目も任務を達成したからとご褒美にジュースを出してくれると言ってくれた。
いや、ご褒美としてジュースって何。ネタなのかガチなのかで忠誠度変わるぞ。
とりあえず俺の好きな乳酸菌飲料の白いアレを頼む。
「濃い目にします?薄めにします?私は8:2が好みなんですけど。」
「え、ああ、じゃあそれで。」
これガチっぽくないか。本当にこれをご褒美にしようとしてないか?
俺の二回目の努力がこれなのか。嘘だろ?
信じられん、忠誠度下げるか。
・・・ん、ちょっと待った8:2って何?人間の割り方は1:2か3なんですけど。
こわ、出てきたけど飲めねぇ・・・。
神はゴクゴク飲んでる。
・・・なんか話して飲まずに過ごすか。
「あ、ああの。神様。」
「なんですか。」
「一つ質問なんですけど、どうして俺を選んだんですか?」
ちょうどいいからこの機会に聞いておこう。
最初の召喚時、俺がこういうのを願ってる人間だからと言われたが、本当にそれだけか?
「というと?」
「いや、魔力を操るセンスがあったり、今回割と結構いい動きで来ていたり。実は何かそういう才能が有ったり、何かの生まれ変わりだったりとかってあるんじゃないですか?」
自分で言うのはかなり恥ずかしいな。
だけど、2回ともうまくいきすぎてる。絶対なんかあるだろ。
「さあ?」
「え?なんすか『さあ?』って。」
「私は異世界転生しても文句を言わなそうな人を探していただけで、あなたの過去に何があったかとかは特に調べてません。」
「え、じゃあここ2回上手くいってるのはなんでなんすか?」
「それは・・・。」
「それは?」
なんだろう。やばい、衝撃の事実を知るかもしれない。
ちょっとテンション上がってきた。
「運がいいのかなぁ・・・。」
「嘘でしょ・・・。」
クソみたいな理由だった。
多少なり期待してたのに。
俺がいわゆる、勇者とか魔法使いの生まれ変わりだとかっていう展開をさー。
これじゃ、ただうまくいってるだけの奴ってことじゃないか・・・。
「そ、そんなに落ち込むことですか?あ、でもこの人ならいけるかもって思って選んだんで。」
「何を根拠にそんなことを。」
「私の勘です。」
「はぁぁぁぁ・・・・。」
机に突っ伏す。なんもないのか俺は・・・。
なんか「神様の勘だからすごいと思いませんか?」とか言ってんな。知らん知らん。
違うんだよなぁ。
そういうロマンのもとに生まれたいんだよなあ、男は。
「まあ、もういいです。わかりました。」
「よ、よかったです。・・・じゃあ、次の世界の説明をしましょうか。」
52番目の世界。
その世界は悪しき邪竜によって、恐怖に陥れられていた。
現れれば瞬く間に国一つを滅ぼす邪竜。魔法はあるものの、人々は太刀打ちできなかった。
そんな時、これはヤバイんじゃないかと思った神が転生者を送り込む。
彼の名前は無い。
「すいません。」
「どうしました?」
「名前がないって何ですか?」
「それは今から話すところです。」
なんだ理由があるのか。つい止めてしまった。
神が話を続ける。
彼は転生する時、「こっちの世界のことなんて全部忘れたい。」「人でなくていい。」と言った。
そのため、神は彼の記憶を消し、人でなくていいというのでドラゴンとして転生させた。
邪竜を止めるために、目には目を、竜には竜をということだ。
ついでに神は【竜王】のスキルを与えた。
そのスキルのおかげで、彼は卵から生まれてから、あらゆる危機を回避し無事に育っていき、数10年で邪竜を倒した。
そして世界は平和になった。
「・・・ちょっともう一回【無限】借りてきてもらうってできませんか。」
「無理です。あの神様は怖くてこれ以上もう借りられません。」
「神様、冷静に考えてもらっていいですか?」
「はい。」
「元日本人としての記憶がないドラゴンなんですよね。」
「はい。」
「それはただのドラゴンでは?」
「はい。」
はい。じゃないが。
「言葉って通じます?」
「ん~、無理ですね。」
「じゃあ無理だと思いませんか。」
「でも【竜王】のスキルの期限はあと一週間なんですよ。」
今、なんて言った・・・?一週間だと?
「今日から・・・ですか?」
「はい。」
「じゃああんた、俺がリュージたちのところに7日目までいたら、今から行くところは6日で終わらせて来いって言ってたってことになりますよね。」
「まあ、そうなりますよね。」
え、何この言い方、凄い他人事。嘘だろ。
一般人が話が通じないドラゴンと戦うことになるのに何考えてんのこの神は。
あっ・・・行かないという選択肢がない。無くなった。
なぜならもう、いつもの冷たい目になり始めているからだ。
ここで、『行きたくないです』というとまた別の人間を探されかねない。
なんで、なんで俺はこんな仕事に就いてるんだ・・・。
「どうされますか?行きませんか?」
「・・・ぐ・・・いぎまず・・・。」
俺もしかして泣いてんのかな。
逆らえないのが悔しいよ…。
「ハァ・・・ちなみに【竜王】ってどんなスキルなんですか?」
「竜にしか付かないスキルで。あらゆるステータスを底上げしつつ、成長速度とかも伸びるスキルです。」
じゃあ、強い竜と戦うってだけか。
強い竜にさらに【無限】みたいな特殊な能力がついてるみたいな感じじゃなくて本当に良かった。
…いや全然良くないが。
「じゃあ今回はサービスで結構良いところに召喚しますね。それでは準備は良いですか?」
「いや準備も何もないですけど。はい、大丈夫です。」
「では、いってらっしゃい。」
その瞬間、視界が移り変わる。
一気に暗くなった。
ここは、また洞窟か・・・?しかし、太陽の光が上から差し込んできているせいか、視界は多少良い。
太陽が当たっている割には苔が結構生えている。
とりあえず、近くのきれいな岩に座る。
「ステータスオープン。」
早速ランダムのスキルを使おうと思う。
7日間あるんだ。いいスキルを引いて、みっちり練習しよう。
世界を脅かしていた邪竜ってやつを倒したドラゴンに勝てるビジョンが湧かないけど。
画面に『スキルを得ました。』が二回表示される。今回のスキルは、何かなと・・・。
『隠密 攻撃するまでは他者から認識されなくなる 詠唱時発動』
『軽翻訳 人以外の言葉を軽く理解できる 詠唱時発動』
ゴミっぽくないか。いや【隠密】はすごそうだけど。背後から近寄って・・・いや待てどうするんだ。
これから会うドラゴンって、この前のダンジョンのボスみたいなのが来ると思えばいいわけだろ。
・・・じゃあ外れじゃないのか?このスキルは。
しかも【軽翻訳】。こっちは全然戦闘向きじゃない。
「やっぱランダムはやめてもらうように言わないと・・・いやその前にこの世界がクリアできないか・・・。」
そう呟く。
仕方ないだろ、こんなスキル寄こされたら。
俺が項垂れていたその時だった。
「うわっ?!」
謎の強風が吹きつけてきた。
妙に生暖かい。
何だ一体。
風の来た方向を見る。
「・・・・あ。」
そこにいたモノの最初の印象は大きな生き物だった。
そして、巨大な眼、鋭い牙、爪、二本の角、とがった鱗、大きな羽、背中の棘、太く長い尻尾。
色合いが緑で統一された鱗を持ち、その大きさはちょうど上に空いた穴と同じくらいのそいつは、どこからどう見ても紛れもなくドラゴンだった。
その二つの眼は、こっちを睨みつけてきている。
俺は神の言葉を思い出していた。
『今回はサービスで結構いいところに召喚しますね』
なるほど、『結構いいところ』か。なるほどなるほど。
じゃあこいつが、転生したドラゴンなんだな。多分。
「はぁ・・・・。」
つい、ため息が出る。
あいつマジで許さんからな。
現在カストルさんは、リュージたちを夕飯に誘おうと「知り合いが新しく店を立てたから4人で来ないかい?」と言ったところ、なぜか機嫌を悪くされてしまい無視され、一人で食べています。