第26話 掴み取る勝機 ep157 盾として
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「やばいだろ・・・!おい、おい!しっかりしろ!」
俺は二人を引っ張る。
二人は全く動けないようだ。
化け物2匹がゆっくり近づいて来る。
やせこけた方がケケケッと奇妙な笑い声をあげている。
逃げなきゃ。
だけど、人二人を引っ張るのはきつい。
「・・・おい、将斗っ・・・。」
「なんだよっ。」
「ララだけでも、連れて・・・逃げろ。」
「な・・・それは・・・!」
俺は近づいてくる化け物を見る。
距離はどんどん狭まってきている。
ここでララだけ連れて逃げれば何とか行けるかもしれない。
だけどそれだとリュージが。
「お前だけ置いてくとか俺には」
「うるさい早くいけ!お前の綺麗事なんて聞く気はない!」
「違う!そんなつもりじゃ。」
「早く!行け!」
置いてくしかないのかよ!
もっと便利なスキルがあったら。
悪い。悪い、リュージ。
俺はリュージを掴む手を離し、ララを抱きかかえると振りかえって駆けだした。
その目の前に、やせこけた方の化け物がいた。
いつの間に前に
「・・・っぐ!」
蹴られた、見えないスピードで。
腹のあたりに激痛が走った。
吹き飛ばされる俺は、ララを掴んでいられず、手を放してしまった。
そのまま、俺は木製の長椅子に激突した。
背中と腹が痛む。
痛みで動けない、なんだ今の。どうなってる。早すぎる。
「青年よ。悪く思うな。その魔人も必要なのだ。連れて行かせるわけにはいかないな。」
「・・・っは・・・・ああっ・・・。」
息がしづらい。呼吸ができない。
今の俺はただの一般人だから、【超強化】の超人的な身体能力がないから、ダメージが大きすぎた。
早く治れ。呼吸整えろ。早く。
「ああ、傲慢の最後に立ち会っていてよかった。まさか奴隷が、私の奴隷があの7人を倒していたとは、うれしい誤算だった。」
アキナスはそう言って涙を流している。
化け物がリュージ達二人を引きづっていく。
そしてアキナスの前に放り投げた。
「くそっ・・・動け・・・。」
何とか俺は長椅子を支えに立ち上がる。
まだ痛みが腹部で暴れている。
「あの奴隷が先に来てくれて助かった、これで・・・これで・・・ああああ、ついに、ついに我が手に。」
アキナスが二人に手をかざす。
すると、二人から何か黒いものが流れ出し、その手に吸い込まれていく。
「ああああああああああああっ!!」
「・・・・・っ・・・・・。」
明らかに二人が苦しんでいる。
特にララがまずい、俺の眼がおかしくないのなら、消えていっている。
「っ!やめろおおおおお!!!」
俺はタマからもらっていた弓を放つ。
撃ったことはないが、【狙撃手】のスキルのおかげでアキナスの方に飛んでいく。
しかし、でかい方の化け物が腕を出し、その腕に刺さった。
多分大したダメージになってない。
その腕が下げられたとき、そこにララの姿はなかった。
「なっ!?ララ!!」
「ああ、素晴らしい、ここまで。ここまで待った甲斐があった・・・。ようやく私にこの力が揃った。」
アキナスは手を下げる。
あの本をもって壇上に上がっていく。
「私の力が、ようやく一つに・・・。ハハハ、ハハハハハハハハ。」
彼は笑う。
その姿が、少しずつ変化していった。
肌が赤く黒く染まり、髪は抜け落ち、皮膚を突き破るように角が生え、鋭い牙がむき出していき、地面まで届くほど大きな羽が生えた。
あれは、人じゃない。
魔人。
あれが多分、魔人なんだ。
「お前っ・・・は・・・。」
リュージが聞いた。
魔人はリュージを一瞥すると口を開く。
「我は悲嘆の魔人。大罪の力を統べる者。」
「悲嘆だと・・・?」
リュージが驚いている。
俺も驚いた。
驚いた理由は同じなのかわからないが、大罪に悲嘆は存在しないはずだからだ。
「・・・あの7人の魔人が死んでもその力が失われることはない。だがその力を一つの肉体にまとめることはできる。そう、この私に、私という器に。」
アキナスは笑いながら続けた。
「我は魔人共を倒すために、奴隷を作り出し、攫い、自由を奪い、人体実験を繰り返した。私はその末にその化け物どもを生み出した。」
アキナスが指さした2匹の化け物。
じゃああれは元は人間だって言うのか。
じゃあやっぱりあの継ぎ接ぎの皮膚は・・・。
「その力をもって魔人の力を集めようとしたが、いつの間にか6人の魔人が死んでいた。・・・我は嘆いた。我の力がどこぞの誰かに奪われてしまったことに。しかし、7人目。この国にいた傲慢を倒すその男に、奴隷の烙印があるのを見て、私は感動した。これが運命なのかと・・・。」
「知るか・・・タマを・・・ララを返せ・・・。」
リュージは床を這いアキナスに近づいた。
「・・・暴食か。奴は力そのものが形を成していたからな。無理だ。諦めるといい。」
「ふざけるな・・・っ。」
「ああ、悲しいな。魔人を倒す力がありながら、こんな姿をさらすとは・・・。」
するとアキナスは本を閉じる。
「力を運んできてくれた礼だ。自由にしてやろう。」
その瞬間、間髪入れずリュージが立ち上がり、魔人に向かって駆けだす。
拘束が解けたのだろう。
しかし、やせた化け物が滑空して蹴り飛ばした。
リュージは飛ばされ、床を転がる。
彼はすぐ立ち上がり、再度向かっていった。
それをまた化け物に阻止された。
「ぐっ、強化盾!・・・何!?」
リュージがスキルを唱えた。
だけど、変化がないように見えた。
化け物の動きに反応できてない。
発動してないのか?
「ハハハ、どうした。自由にしてやったんだぞ。お前を縛り付けていたものはもうない。さあどうした。」
「強化盾!強化盾!なぜだ!・・・くそっ!」
全然変化がみえない。どうして?
違うアレだ。
あいつが盾専用のスキルを使えたのは、あいつが盾になれと命じられていたままだったから・・・!
「まさか魔人お前。リュージの、『盾になれ』という命令を。」
「ああ・・・よく知っているな。そうだ、我に力を運んだ褒美として、その命令を破棄してやった。ようやく人に戻れたな?」
最悪だった。
【神盾】も盾がないと発動できないのに。
リュージは化け物にまるで玩具のように遊ばれていた。
動けるのは俺だけ。
俺が何とか・・・。
何とかしないと。
その時だった。
「やめるニャ!」
タマが起き上がり、何かを投げつけた。
あれは、あのときの手りゅう弾か。
それを手でつかむ魔人だが、即座に爆発した。
しかし・・・無傷だった。
「この私に向かって手を挙げるとはな。獣人風情が。・・・やれ。」
リュージで遊んでいた化け物がタマに標的を変え、蹴り飛ばした。
「タマ!」
転がっていくタマにリュージが駆け寄った。
化け物が空を飛びいろんな方向からさらにタマを攻撃しようとするが、リュージが割って入りタマを守っていた。
攻撃の手は止まない。
「さて・・・青年よ、貴様はどうする?」
「俺は・・・。」
「逃げろ!お前の戦える次元じゃない!」
リュージに怒鳴られた。
でもここで逃げたら・・・。
「逃げられるか!どうにかして・・・やるよ!」
「おお、力もないのに向かって来ようとするその意思。感動した。」
「号泣するほど感動したなら、リュージたちへの攻撃をやめさせろ!クソ野郎!」
「いいだろう。だが代わりにお前が私を楽しませてくれ。」
すると大男がこちらに向かって動き出した。
いや走ってきた。
でかい癖に早い!
大男は斧を振り上げた。
まずい。動け。動け!
痛みを振り切り、俺は体をずらした。
瞬間、轟音が聖堂内に響き渡る。
俺はすんでのところで斧の横に回避できていた。
横にある長椅子が真っ二つにされている。きれいに。
あんな所々錆びて欠けたぼろぼろの斧で?
「うっそだろっ・・・!」
俺は走って逃げた。
大男は唸り声をあげながら斧を引き抜き、振り下ろしてくる。
すんでのところを、大斧という超質量の物体が通り抜ける。
休むことなく、大男が斧を振り下ろしてくる。
気を抜けば死という恐怖で足がより一層早く動く。
しかし単調に振り下ろしてくるこの感じ、もしかしたら知性がないのかもしれない。
「なっ!?」
そう思っていたのに、横方向に薙ぎ払うように斧を振ってきた。
咄嗟にしゃがみ回避した。
頭の上を斧が通り抜けていく。
知性あるじゃねぇか!
やばいやばいやばいやばいやばい。
考えろ、今の俺にできること。
何かあんだろ。
クソ、なんであの神はスキルをあのままにしてくれなかったんだ。
あのスキルだったら今頃何とかなってる。
そうだ、リュージの方はどうなってる。
見るとリュージは倒れているが、タマは無事、化け物は飛んだ状態で何もしないでいる。
どうすればいい。逃げるだけじゃ解決しない。
矢で目を打ち抜くのはどうだ。いや、俺のスキルはそこまで精度が高くない。
どうすりゃいい・・・。
「・・・逃げるばかりでつまらんな。やはりこっちで遊ぶ方が楽しめるか。やれ。」
やせた化け物が再度2人に襲い掛かっていくのが見えた。
咄嗟に助けに向こうに行こうとするが、こっちのでかい化け物が邪魔で行けない。
痩せた化け物は攻撃と離脱を繰り返していた。
リュージが立ち上がってタマを守り続けた。
彼の体が何度も化け物の爪で切り裂かれていく。
「ご主人!もうやめて!タマの、タマのせいでこんな、こんなことになったんだからこれ以上迷惑かけられないよ!」
「・・・うるせぇ・・・バカ猫。今更なんだ。迷惑ならとっくに何度もかけられてる!」
「っダメ!逃げて!このままじゃ、ご主人が、リュージが死んじゃうニャ!」
「・・・ぐっ・・・俺は死なねぇ。死ねねぇ!ぐあっ・・・!」
リュージが吹き飛ばされる、そのリュージに化け物は追撃を仕掛けようとする。
俺は矢を放った。避けられはしたが化け物は空中で止まった。
しかしすぐリュージの方に向かっていく。
リュージはもう限界に近い。スキルが使えなきゃダメなんだ。
・・・だったら魔人の持ってる本をどうにかしないと。
なんかあるだろ、探せよ俺。
「青年の方はさっさと捻りつぶせ。さあ、我が奴隷よ、もっと私に足掻くさまを見せてくれ。」
こっちの化け物の動きが変わった。
斧を振り下ろし、開いている方の腕で俺を吹き飛ばそうとする。
攻撃の速度が明らかに上がっている。
殺しに来てる。
当たったら死ぬ。
回避に集中しないと。でも、それじゃ・・・。
「・・・将斗!!無理だってわかっただろ!早く逃げろ!」
「んなことできるかよ・・・クソ。」
リュージが再度逃げるように言ってくる。
ダメだろここで逃げたら、あいつらは・・・。
というかこっちの化け物の攻撃から逃げられる気がしない。
「逃げねぇよ!どうせ逃げたところで意味がねぇ!」
「何言ってる、死んだら元も子も」
「ご主人!将斗は明後日」
タマが何か言おうとした。
「タマ!!言うなよ!!・・・なあリュージ!ちょっと待ってろ!俺がどうにかして、完璧に自由にしてやるからな!」
「お前に・・・ぐっ・・・何ができる!」
「知らん!!」
結構できるもんだな、会話が。
戦いに慣れるの早すぎだろ俺。すげぇよ俺。
あっちも、何とか攻撃を弾いてしのいでる。
けど、もうふらふらだ。
気力だけで何とか立っている感じだ。
血が出てるのが見える。
あんな状態になってまで戦ってんだ。
俺だって何かしろ!
今なんだよ、何とかするなら。
あの魔人が俺らのことを舐め腐ってる今しかチャンスがないんだ。
「うわっ!」
風切り音。
あれこれ考え油断していた俺の横を斧がかすめた。
死ぬところだった・・・?
あれ・・・?
・・・・?
なんだ今の感じ。
当たらなかったことじゃない。そこが問題じゃない。
今の感じまさか・・・。
ああ、・・・もしこれだとしたら、いけるかもしれない。
これなら打開ができる。
やるなら隙が欲しい、何か隙が。
その時、リュージが攻撃をかわすのに失敗したのか吹き飛ばされ長椅子に突っ込んだ。
バギィと木がへし折れる音がした。
「リュージもういいニャ!もう無理ニャ!何の役にもたたない私が盾になった方がマシニャ!」
「・・・バカ猫、何が何の役にも立たないだ!お前は十分役に立ってる!」
「・・えっ。」
リュージは立ち上がり、空飛ぶ化け物に応戦していた。
そして話続けた。
「俺は、あの崖から落ちて、ぎりぎりで生き続け、極限まで絶望していたところで、お前に出会った。いつでも変わらない、うざいくらいの元気を見せるお前が、お前がいたから今まで戦ってこれた!お前の存在が俺を支えていたんだ!」
「で、でも・・・ミーは・・・。」
「でもじゃねぇ!この際だから言ってやる!お前を戦わせなかったのは、お前を失うのが怖かったからだ!激化していく戦いの中で唯一!俺の支えになっていたお前がいなくなるのが!嫌だったんだ!」
「ご主人・・・。」
「だから俺は守り続ける!あの頃、お前がそうしてくれたように!この役目は俺のもんだ!お前に返すつもりはない!俺の守りたいもののために、俺は盾になる!だから、俺を信じてくれ。タマ。」
タマの前に立つリュージ。
長い間連れ添ってきたからこそ、大事な存在になっていったのか。
だから何もさせないで、戦いから遠ざけた。
本当にどこまでも優しいやつなんだ。あいつは。
神様にスキルを渡さなかったのは、守れなくなるからなのか。
「ああ・・・感動した。・・・素晴らしい・・・これを、この愛を散らしたらどんなに悲しいか・・・。」
魔人が涙していた。
その手を挙げ、何かの合図をした。
すると、痩せた化け物が高く飛び、その爪を前面に出し、回転しながらリュージに突っ込んでいった。
ダメだ。アレはマズい。
リュージはあの爪で何度も切り裂かれて血が流れている。
あんな攻撃受けたら、あいつの体じゃ絶対耐えられない。
焦る俺をリュージが横目で見ていた。
真っ直ぐに。
その目には覚悟が見えた。
まさか受け止める気か・・・?
そして、化け物の攻撃がリュージに襲いかかった。
ギャリギャリギャリギャリ
硬いものをひっかき続ける音がする。
リュージは耐えていた。
ちゃんと立っていた。
回転する爪を腕二本で掴んで止めていた。
突進の勢いで多少引き下がるものの、彼は倒れなかった。
すごい・・・。
「何?なぜ・・・防げた。スキルは使えないはずだ。我が力が働いているこの状況で。」
魔人が驚いていた。
今しかなかった。
俺はいまだに襲い掛かってくるこっちの化け物の斧を避け、飛び上がった。
その跳躍は化け物の頭の上まで到達した。
「リュージ!そいつ押さえてろ!」
「お前何して?!・・・ああ、わかった!」
リュージはこちらを見るなり驚いていたが、すぐさま、化け物を抑え込んだ。
化け物はリュージの腕を解こうともがいている。
なんだか知らないが、リュージの調子が戻っている。
本当に今しかない。
俺は空中を蹴り、魔人に一直線に接近する。
「どこにそんな力があったか知らないが・・・馬鹿な真似を。」
魔人が手をかざすとこちらに何かが伸びてくる。
なんだろ、あれ。爪か?手か?
「いや、どっちでもいいな!」
もうそういう反撃が来ること事態を想定して、手は打ってある。
「あっ?!リュージ目を閉じるニャ!」
タマがそう叫んだ瞬間、俺の後ろで閃光が走った。
タマ特製の閃光弾。
目くらましには十分だ。
飛んでいる間に後ろへ投げておいた。
反対を向いてる俺でも眩しいんだから相当なもんだろう。
魔人は食らったのか目を隠している。
だが、攻撃は止まっていない。
だから俺は魔人へ向かうこの軌道を、変えた。
伸びてきていたのは爪だった。
空中でそれの横に回避した俺はそう理解した。
だがそんなの今は関係ない。
そして魔人に向け加速した。
突進すると見せかけ、魔人の前に降り立ち、体を回転させその勢いでナイフを顔面に突き刺す。
しかし、その手を掴まれた。
魔人の目は潰せていなかったらしい。
しかし、あの光が不快だったのか、明らかに怒っている。
「残念だったな。悪あがきはここまでだ。小僧!」
「バァカ。」
俺は持ち手にあるスイッチを押した。
するとナイフの剣先がまっすぐ飛んでいき、魔人の眼を貫いた。
「あぐっぅ・・・。」
魔人が目を押さえのけ反った。
それを見た俺は即座に接近し、魔人の手にある本を掴み奪い取りつつ、魔人の腹に触れた。
「返してもらうぞ、ララを!【回収】!」
俺の手が光る。何かは吸収できた。
確認してる暇はない!
「っ?!貴様ッ!まさかッ?!我が力に触れるなァァア!!!!」
魔人の爪が振りかざしてきた
『あれ』はもうこれ以上は使えない。
避けられない。
だがその瞬間、俺は強い力に引っ張られた。
気づくとリュージの近くにいた。
「・・・ありがとう・・・・。」
「ララ!」
俺を引っ張ったのはララだった。
ララが生き返っていた。
「何でララが、どうなってる?」
リュージが驚いていた。
まあそうだろうな。
「後で説明する。」
「あああああああああああああ!!!!我が力が、我が力がああ!!!!許さぬ、ああああ!!!まだ!まだこちらには6つの力がある、暴食が戻ったところで」
「なめんなよ!こっちにはその魔人7人全員ぶっ倒した、世界最強の男がいんだからな!」
俺は奪い取った本を引き裂き、投げ捨てた。
「全力でぶちかましてやれ!リュージ!」
「ああ!」
リュージはポキポキと指を鳴らしながら答えた。
「ああああ!貴様、貴様あああああああ!!やれぇぇぇぇ!!!!」
魔人が化け物どもに合図する。
2匹が奇声を上げてこっちに向かってきた。
だが、入り口付近にいた、でかい方の化け物がうめき声をあげて倒れた。
「やあ!もしかして盛り上がってきたところかな?」
化け物の後ろには血まみれでありながらも笑顔でいるカストルさんがいた。
「カストルさん?!大丈夫なんですかそれ。」
「ああ、これは返り血だよ。何ともない。」
なんともないならいいけど、怖いなビジュアルが。
血塗れで笑顔はサイコパスみがある。
「・・・カストル、こっちの奴を任せる。」
「了解した。」
リュージはそうカストルに伝えると魔人に向かって歩いていく。
カストルさんは笑顔のまま応えた。
「力が戻ったところで、我に勝てるとでも思っているのか?」
「黙れ。【高速詠唱】。」
リュージは聞き取れない速さで何かをつぶやき始める。
彼の後ろから化け物が飛んでいくが、カストルさんが一瞬で間合いを詰め後ろから切り裂いた。
リュージは何かを唱え続けながら魔人に近づいていく。
あれ、ボス部屋でもやってたな。
「なあ、タマ。リュージのあれは一体何してんだ。」
「タマさっきの将斗のやってたことが知りたいけどニャ・・・。」
「それはあとで話すよ。」
「ご主人のあれはスキルの【強化盾】と【神盾】を交互に唱え続けてるだけニャ。【神盾】はあらゆる制限を外せるスキル。ご主人は一回しか使えないはずの【強化盾】の制限を無くすことで何回も自分の肉体を強化しているのニャ。」
「うわ、無限バフとか最強じゃん。」
「無限・・・何ニャ?」
魔人の方を向き直ると、魔人が巨大化し始めていた。
どんどん大きくなっていき、天井にまで到達しそうだ。
「我には向かうものはすべて滅ぼす。塵ひとつ残らず消えるがいい。」
巨大化した魔人の拳が振り下ろされる。
しかし、リュージは小蝿でも払うように簡単に薙ぎ払った。
腕を吹き飛ばされた衝撃で魔人は壁に激突し、体勢を崩す。
「バカなっ・・・!」
その間にリュージは跳躍し、魔人の頭の遥か上まで行った。
「俺の仲間に手を出した罰だ。」
そう言って、急降下し放たれたリュージの拳は、魔人の頭を打ち抜き、地面に激突させ、潰した。
地面はその衝撃で砕かれた。
悲嘆の魔人はそれ以上起き上がることはなく、こうして、悲嘆の魔人との戦いは幕を閉じ、魔人の亡骸の隣で立つリュージへタマが嬉しそうに駆け寄っていった。
あっけなく終わらせられる力持ってるやつが自由になったらそりゃあっけなく終わりますよね
最後の方疑問しかない方はもう一話待ってください