第25話 教会の悪魔 ep156 逆鱗
0時超えちゃったので投稿します
俺たちが止まっている宿屋は二階に寝室があり、一階が食堂になっていた。
朝ご飯を食べに行く前に気づいたが調査組二人はもう出かけていて、タマはまだ寝ていた。
1階に降りると人がいなかった。朝食の時間を少し過ぎたみたいだ。
俺はカウンターに座り、宿屋のおばちゃんを呼ぶ。
「すいません、朝食ってもう終わっちゃいました?」
「大丈夫だよ、だけど今から作るからちょっと待ってておくれ。」
「ありがとうございます。」
おばちゃんがキッチンの奥に入っていった。
にしても、異世界の宿屋って感じでいいなここ。
木でできたこのカウンターもいい味が出てる。
・・・。
・・・。
・・・。
「どうせ消えるんなら全力で遊びまくるのも、悪くねぇかもなぁ・・・。」
つい独り言が出た。
仕方がない、あとちょっとで消えることを考えずにはいられるはずもないからだ。
机に突っ伏す。
消えたらどうなるんだろうか。
そう考えると得体の知れない恐怖が湧いてきて、体が重くなる感じがした。
「なんだぁにぃちゃん?元気ねぇなぁ?」
急に声をかけられたので見ると、隣にひげを生やしたおじさんがいた。
「うわっ、すいません。」
気づかなかった。びっくりするわ。
誰だよ。
「いいってことよ。それで、なんか悩み事か?」
ヘラヘラしながら肩を叩いてくる。
何だ、この距離感。もしかして酔ってるのか?
それともこれが異世界おじさんか?
よくある気さくに話しかけてくる現住民の方だ。
俺がそう名付けた。
「あ、いえ・・・。」
「おいおいにーちゃん、溜め込むのはよくねぇぜ。そうやって困ってるときは、とりあえず誰かに言っち待った方が吹っ切れるってもんだ。」
・・・それもそうか。
「俺の仲間の話なんですけど・・・」
俺はタマとリュージの仲があまりよくないことを話した。
「なるほどなぁ。」
「なんかしてあげた方がいいのかなとは思いつつも、最近仲間になったばかりの部外者が口を出すのもなぁって。どう思います?」
「さぁな。」
「さぁなって・・・。」
話した意味よ。
「まぁでも、そいつらが何年旅してたのかは知らねぇが、お互いのことは意外とわかってるってもんじゃねぇか。あるだろ、言わなくても心だとかで通じ合う仲間ってやつ。」
「まぁありますね。」
「兄ちゃんは考えすぎなんだよ。そういうやつらがぶつかるのは、たいていお互いのことを思ってるときだ。最初は仲良かったって言ってたんだろ?そのうち仲直りでもするさ。兄ちゃんはその関係にあまりちょっかいを出さないこったな。」
「なるほど・・・。」
おじさんはそう言うと持っていた飲み物を飲み干す。
うーん、納得できるようなできないような・・・。
「まあ、頑張るこった。じゃあな兄ちゃん、また会おう。」
「あ、はい、ありがとうございました。」
奥からおかみさんがでてきた。
「ん?誰かいたんじゃないのかい?」
「いやちょうど帰りました。」
まあ少しすっきりできた。ありがとう異世界おじさん。
朝ごはんを済ませ部屋に戻ると、タマはまだ寝てるみたいだった。
いや、なんかおかしい。
何かがない。
そうだ・・・タマのあのでかいリュックがないような。
布団をかぶって寝ているタマを見る。
寝息を立ててたら、少しは布団が上下するよな。
布団をめくってみた。
「あいつ・・・。」
布団の中には丸まった毛布が置いてあった。
「なんだこのやり方、ベタすぎるだろ。・・・なんでわざわざこんなこと。」
探すか?
でもこの国のどこにいるかは全くわからない。
しかもこの国に詳しくないからあまり出歩きたくない。余裕で迷子だ。
どうしたもんか・・・。
「すいません、昨日俺と一緒に来ていた騒がしい猫耳少女知りませんか?」
俺は昨日行った店を回りタマを見ていないか聞いてみた。
迷子にならないよう同じ道だけを歩いた。
「うん?いや知らねぇなぁ。」
「そうですか・・・ありがとうございます。」
ふぅ・・・。
きつい。
俺は少し人見知りなんだけど、店に入って物を買うための会話とか、一般的な社交辞令とかはやってもおかしくないことだから全然緊張しない人間だ。
だがこういう、もの買う場所で人の居場所を聞くっていうのは、何言ってんだこいつとか思われてそうで嫌なんだよな。
気にしすぎってのは分かってんだけどな。
こういうところがあるから友達できないんだよ。
自虐をしていると見つけた。次は本屋だ。
「そうですか、ありがとうございます。」
聞いてみたが本屋の人も知らなかった。
頑張って聞いたのに。
どうしようか困りながら歩いていると、向こうから見たことある子が歩いているのが見えた。
ダッシュで近寄る。
「君!」
「ニャッ?!」
肩を掴んで振り向かせ顔を見た。
やっぱり。昨日の猫耳少女だ。
「ニャ・・・?何ですか・・・?」
「あっごめん・・・。」
涙目になっている。
よくよく考えたら昨日も今のも不審者過ぎるな。
「その、昨日俺と一緒にいた猫耳のお姉さん知らないかな。」
「え?・・・そ、それならさっき見たニャ・・・?」
「マジ?!それってどこ?」
「えっと、カンテ街に入っていくのを見ましたニャ・・・。」
「カンテ街?・・・それって。」
「お兄さん?ちょっといい?」
後ろから肩を叩かれた。
騎士がいた二人。
「ちょっと来てもらっていいかな?」
「違うんですよ。」
「マサトくん。こんなところで会うとは思わなかったよ。」
「カストルさん違うんですって。」
騎士たちに連れてかれ、留置所に入れられた俺は終わりを確信していた。
取調べ室とか行くのかと不安になっていた、そんな時カストルさんが現れたのだ。
いや神すぎ。
「猫耳の少女を探し回っていたって証言がたくさんあるんだけど。」
「それはタマのことなんですよ。」
「まあそういうことにしておこう。リュージの仲間だしね。人の嗜好に物言う気はないさ。」
「いやそれ誤解解けた風で解けてないですよね。ほんとにマジで」
俺は建物を出ながらカストルさんと話した。
「どうしてタマを探してるんだい?一緒にいるものかと思ってたけど。」
「それが朝から姿が見えなくて。なんも言わずに出てったんで変だなって。あ、さっきの少女がカンテ街にタマが入ってくのを見たって。」
「カンテ街?・・・また何か無茶をしようとしてるのかもしれないね。」
カンテ街と聞いたカストルさんの表情が変わった。
「えっと、どういうところなんですかそこ。」
「あそこは無法地帯と化しててね、我々も手を焼いているところなんだ。本当にひどいところで・・・たしか、リュージがスラム街って言葉で表現してたけど、君ならわかるかな。」
「ああ、一発でわかりました。」
同郷でよかった。便利。
「だとしたらなんでそんなところに。」
「・・・。ここだけの話、あそこでは最近怪しい動きがある。よからぬ何かが大量に運び込まれていたりとね・・・。もしかしたら・・・。」
「タマがそれに気づいて調べに行った・・・。」
「ということになるね。」
「大丈夫かあいつ・・・。」
「一応リュージに報告するといい。俺はまだ忙しくて力になれない。」
「わかりました、忙しいのにありがとうございます。」
そうして建物から出て気づいた。
もう夕方だった。
走って宿屋に戻るとリュージとララが飯を食べていた。
「・・・タマは?」
「それが・・・」
タマについて全部を話した。
「あのスラム街になんで・・・。あのバカ猫。」
「悪い、俺が捕まってなきゃ・・・。」
「本当だ。行くぞララ。」
「ちなみに俺は・・・?」
「お前は役に立たないだろ。」
「でも心配で・・・いやいい、待ってるよ。」
諦めよう。本当に役に立たないし。
俺が言ったところで何もできない。
足手まといになるだけだ。
「・・・フン。ララ行くぞ・・・ララ?」
「・・・おんぶ・・・。」
ララが俺の服を引っ張っていた。
「おい、ララそいつは」
「おんぶー・・・!」
「はぁ・・・。将斗、連れてこい。緊急事態になればララが起きるから何とかなる。」
「お、おう。」
結局行くことになった。
ララはなんで俺におんぶしてもらいたがるんだ。
おかげで着いていけることになったけど。
カンテ街とやらに着いたのは夜だった。
すれ違いになってない限り、ここにタマがいるはずだ。
リュージが歩くその後ろを俺は着いていった。
やせこけた犬や道端で座りながらこっちを睨んでくる男や、こっちを見るなり窓を閉める住民などいかにもスラム街といった感じだ。
するとリュージが止まった。
目の前には座ったおじいさんがいた。
広げた風呂敷もそうだが、着ている服もボロボロで、変なにおいもする。
「おい、タマを知らないか?」
「さあねぇ。」
低くしわがれた声でおじいさんは答えた。
タマで通じるってことは知り合いか。
するとリュージが金を爺さんの方に投げ捨てる。
「・・・黒い外套を羽織ったやつらに連れていかれたよ。」
「・・・何?」
「これだ・・・。」
そう言うとおじいさんは折りたたまれた紙を差し出してきた。
リュージが受け取ろうとするがおじいさんはその紙を引き戻す。
舌打ちをしながらリュージがさらにお金を投げる。
するとおじいさんは紙をくれた。
映画でしか見たことないやり取りだな。
紙を読んだリュージが驚いている。
「なんて書かれてるんだ?」
「『教会西側、嘆きの銅像下の階段を下りた先。地下聖堂で待つ』。」
「いやなんだそれ、罠だろ。」
「ああ、ふざけたやつらだ。・・・伏せろ。」
そう言うとリュージが俺の肩を掴み下に振り下ろした。
膝を曲げさせられ、伏せる体制を取らされた。
その俺の頭の上を何かが通り抜ける。
一瞬見えたのは剣。両刃の。
見上げると黒い外套に身を包んだ数人が俺たちの周りを取り囲んでいた。
おじいさんはすでに切られ死んでいた。
「うわ・・・。」
「ララ、やれ。」
「・・・うん・・・。」
ララがいつの間にか起きて立っていた
刹那、ララが目にもとまらぬ速さで動いたと思うと、黒い外套のやつらがばらばらに飛び散った。
比喩でなく文字通り、血しぶきを上げながら、ばらばらに飛び散った。
目の前で平気で行われた殺人に体がひるむ。
「行くぞ。」
「・・・あ、ああ。」
何とか体を動かし、立ち上がる。
リュージの眼は怒りに満ちていた。
教会に着いた。
夜だからなのか、辺りは静寂に包まれていた
その静けさが、教会の不気味さをより際立てる。
リュージが扉を引くと、木の軋む音を響かせながら開いた。
素直に言わせてもらうが怖い。
教会の中は真っ暗だった。
手紙にあった通り西側の銅像に近づく。
嘆きの銅像。その名の通り口を大きく開き涙を流していた。
相当悲惨な目にあったような顔だ。
ララが急に飛び上がり、その銅像を躊躇なく蹴り倒した。
大きな音を響かせ銅像が倒れた。地面に衝突するなり砕け散ってしまった。
銅像の足元には階段があった。
リュージが下りていく、ララがそのあとを着いていく。置いて行かれるわけにもいかず俺も後を追った。
長い階段だった。どのくらい降りたところだろうか、急に扉が現れた。
押して開くと、先程の教会よりも大きな教会がそこにあった。
天井から、火ではないオレンジの光で内部は照らされていた。
一番奥の正面には、神や天使ではなく悪魔の銅像が飾られていた。
その前に神父らしき格好の一人の男が立っている。
近くには書見台とそこに開かれた一冊の本があった。
そしてその足元に倒れたタマがいた。
「タマ!!」
叫んだのはリュージだった。
駆け寄ろうとするリュージに対して男が口を開く。
「ようこそ、我が力よ。」
リュージは足を止めた。
俺はリュージの近くまで行った。
近くなって分かったが、男は初老のようだった。
「よくぞここまで、運んでくれた。」
「何がだ。タマを解放しろ。」
リュージが鬼気迫る表情をしている。
今にも相手に飛び掛かりそうだ。
「悲しいな、久々の再開だというのに。」
「・・・俺はお前など知らん。」
話になっていない。
誰なんだこいつ。
「そうか、悲しいことだ。彼女にも私は会っているぞ。・・・そこの彼は知らないな。」
「お前の話などどうでもいい、さっさと、タマを、渡せ!」
自分で話を進め続ける男にリュージは怒号を浴びせた。
しかし、男には効いてないようだった。
「先に自己紹介をしておこう。」
「おい!聞いてるのか!貴様!」
「我が名はアキナス。このカディナル教会で牧師をしている。」
全然こっちの話を聞いてこない。
あいつからはなんか異質な、不気味なものを感じる。
リュージは完全にキレている。息も荒い。
でもタマが向こうにいる以上、下手に動けない。
そう思ったときだった。
「おい、リュージあれ。」
「・・・何だ?」
「タマの腕が。」
「・・・ッ?!」
リュージから何かが発せられたのを感じた。
殺気なのか怒りなのか。
それもそのはず、倒れているタマの腕から血が出ていた。
「お前!タマに何をした!」
「タマ?ああこれのことか。彼女は運び屋として十分な仕事をしてくれた。まさか2つも揃うとは。」
「答えになってない!何を。」
「少し・・・黙っていたまえ。」
そう言うと奴は近くの本に手を置いた。
その瞬間、リュージとララが何かに押しつぶされるかのように倒れた。
「えっ?」
「ぐっ・・・!」
「・・・・・っ」
俺は何ともない。二人だけが苦しんでいた。なんで・・・。
ララの肩が光っている。奴隷の烙印の場所が。
「烙印の効果は契約書がないと効かないんじゃないのかよ。どうして?」
「ほう、青年よ。良く知っているな。確かに烙印は契約書があってその力を発揮する。だがそれだけではない。我の持つこの本はすべての奴隷の烙印の効果を強制的に発動できる。」
「ぐっ・・・そんなことが・・・。」
リュージが苦しみながらそう言った。
「当然だろう。我が奴隷の烙印を作ったのだからな。」
アキナスは動かないでいる俺たちを嘲笑った。
するとアキナスが手を挙げた。
「さて・・・そろそろ、回収させてもらおうか。」
すると両側から何かが出てきた。
右からは酷くやせこけた、背中から羽を生やし不敵な笑みをし続ける人間。いや化け物が。
左からは俺の3倍はある身長と筋肉なのか盛り上がった肉体を持つ、継ぎ接ぎだらけの化け物が現れた。
顔だったようなものが見受けられ、その皮膚がなんの皮膚だったか想像するのを憚られる。
でかい方の化け物の手には人間1人はゆうにぶった斬れそうな大斧が握られていた。
2匹とも悪魔という印象を受けた。
「やれ。」
アキナスの合図とともに二匹の化け物がこちらに向かってきた。
同時刻―。
「一人が白髪の男二人と、少女が教会に入って行った。間違いないな!」
「はい、周辺住民である男性が通報してきたとのことです。」
「リュージたちだな・・・。しかし・・・・。」
カストルとその部下は夜の街を駆けていた。
教会周辺には人が住む建物はない。なのにこの時間にリュージが入って行くのを見たという証言は、昼間のこともあって信じることはできるが、カストルは少し引っかかっていた。
「なぜこんな時間に・・・?」と考えるカストル
「なあ、その目撃者ってのは・・・」
その瞬間カストルが伏せた。
「えっ・・・。」
カストルの横に、部下の頭が落ちてくる。
「ちっ・・・。」
舌打ちをするカストルの周りを、黒い外套に身を包んだ数十人が取り囲んでいた。
正面にはカストル部下を切ったことで血の滴っているナイフを持った者がいた。
その者がカストルへ一瞬で間合いを詰める。
だが、その脳天を、いつの間にか鞘から抜かれていたカストルの剣が貫いていた。
「どうやら、だいぶ面倒なことになってそうだね・・・。」
カストルはそうつぶやくと、鎧を瞬時に脱ぎ捨て剣を構えた。
黒い外套の者たちが一斉にカストルに襲い掛かった。
でかいバケモンのサイズ感はダークソウルのスモウを思い出すといいです。