第2話 28番目の世界
味噌煮を久しぶりに食べたので投稿します
28番目の世界。
それが今から俺が行く世界の名前らしい。
28番目というのは識別番号だそうだ。
神様がたくさんの世界を管理しているため、区別できるように付けただけで特に意味はないと言っていた。
その世界では昔ファング王国という国があった。
その国は全大陸の半分を規模の領地を持っていたという。
しかし、1000年くらいの眠りから目覚めた魔王によって他国は滅ぼされ、ファング王国も領地の大半を持っていかれ、人類存亡の危機に陥った。
そこで、「あ、これはヤバイ」と思った神が、魔王を倒してもらおうと転生者を送り込む。
彼の名は鈴木 雄矢。
彼はファング王国で行われた召喚魔法に合わせて、神がうまいタイミングで新しく彼の希望した年齢の肉体を用意し、そこに彼の魂を入れ込む形で転生した。
転生者である彼には、神によって【無限】のスキルを持たされていた。
その無限の魔力から放たれる絶大な魔法をもって、見る者すべてに伝説の勇者の再臨を確信させた。
その後、彼は王国で出会った仲間三人とともに魔王討伐に出かけた。
そして転生から1年で魔王を討伐した―。
はっっっっやい。早すぎる。
世界の大半を飲み込んだ魔王を、たった1年で倒したというのだ。
ゲームとか小説でももっと時間かけるだろ。2~3年くらいとか・・・。
神のスキル恐るべし。
問題はそのあと。世界は平和になり、彼は王国に帰還した。
彼は帰還したその日に、当時の国王、女王を殺し、自分がファング王国の国王となることを宣言。
その後、国の権力と無限の魔力をその両方を利用して、なんと世界の半分を手に入れた。
ちなみに国内は治安の悪化をはじめ、重税やらなにやらでとんでもない状態になっているらしい。
王に少しでも歯向かったものは即刻死刑にしたりだとかなんとか。
そんな最悪の環境が2年続いているらしい。
勇者だったとはとても思えない傍若無人さに少し引く。
以上が神から聞いた話だった。
ていうか、全然関係ないけどなんで国名英語なんだよ。
「ん、あれ?着い・・・てんな・・・。」
俺は草原に立っていた。
神は「気づいたら向こうの世界に着いていますので~」とは言っていたが、まさかこんなあっさり送られるとは。
召喚ゲートみたいなものを通ってくのを期待したんだが。
あれだ、トンネルみたいなのを通る感じのやつ。
「・・・。」
何かないかと辺りを見回すが、草原が広がっているだけだ。
正直なとこ、いまだに神との対話が夢なのかも、と疑っている。
だがこの草の匂い、風が当たる感覚は本物だ。
「あれ?これ・・・。」
足元に違和感があってと見ると愛用のスニーカーをいつの間にか履いていた。
良心的だ。
「でもこの感じ、本当に異世界に来たんだなー、いてっっ!」
伸びをした直後後頭部に何かがぶつかる。
かなり硬いものだった。後頭部が地味に痛む。
「はぁ?なんだよ・・・おおおおおお?!」
振り向くと俺の後ろにあったのはそびえたつ白い壁。
見渡す限り一面全部壁だ。
よく見るとレンガできているようだ。
いやこれはもう・・・
「異世界要素だ!!」
テンションが上がる。
こんな建造物、元の世界じゃ見たことない。
城壁だぞこれ。絶対そう。
ところどころボロいけど逆に味がある。
この壁の向こうにはおそらく俺がいつも思い描いていた、異世界モノであるあるな西洋風城下町が広がっているはずだ。
「っ?!待てよ、ということは、さっき神から教えられたアレはほんとにできるんじゃ?」
さっきまでの出来事が夢じゃないとするなら、やっぱりアレの話も本当ってことだ。
そう、神から教えられたアレ。
それは異世界を思い描いた人間なら一度は憧れるアレ。
神がわざわざ転生者が分かりやすいようにと、担当する世界全部にこれを実装してくれたというあの便利ツール。
よし、やるぞ・・・。
・・・。
・・・やば、ちょっと待った恥ずかしいなこれ。
でもこれをしないと始まらないって言ってたし・・・。
言うぞ・・・言うぞアレを!
「スッ、ステータスオープン!!」
少し恥ずかしいので目をつぶって叫んだ。
その瞬間、目の前に現れる四角い窓。
異世界転生モノでは毎度おなじみステータスウィンドウが現れた!
「くっ~~~~~~!!すっげぇ!触れる!本物だ!これ本物だってマジで!俺、ほんとに・・・キタァァァ・・・・!!!」
興奮を抑えられず俺は、草むらの上一人はしゃいだ。
本当に別の世界に来ているということを実感できたからだ。
落ち着いた俺はステータス画面を調べていた。
さっきまでのテンションがだんだん下がりつつある。
このウィンドウのせいだ。
これ、触れるけど、なんか・・・。いや、なにこれ。
よく見たら作りが簡素すぎる。
最初の画面には名前と・・・多分HPバーとMPバーが表示されている。
ここはゲームみたいな感じで理解すればいいはずだ。
緑のこれは多分HPバー。これは体力、とか生命力の残量を表している。無くなれば死ぬはず。
青い方のバーは多分MPバー。これは魔力・・・だろうな。これがなくなると魔法が使えないとかかな。
まあ、そもそも俺に魔法が使えるかどうか怪しいが。魔力ってなんだよって話だ。
ちなみにこのHPとMPのバーには何も書かれていない。
ゲームだったらこう・・・何分の何って数字が表示されたりしないか?
さらに右のほうには、人間を簡単に表したようなイラストがあり、頭や胸など各部位から引き出し線が伸びていて、そこに今着ている服の名前が表示されている。
なんかこう、ステータスって脚力100腕力100みたいな数値が表示がされてるのかと思ったんだが。
異世界転生ってそういうもんじゃないのか?
安いゲームでももっとちゃんとしてるぞ。
「あの神、まさか手抜いてないよな。」
そうぼやきつつ、上のほうにあったステータスの横にスキルと書かれたタブらしきものを押してみる。
表示されたのはこうだ。
スキル
回収 残り二回
ランダム
ランダム
と表示されている。
そう、これだけ。
なんだこれ。フリーのゲームでも、もうちょっと凝ってないか?
全体的になんか雑だし、最初の画面とスキル画面の文字サイズばらばらだし。
ちょっと思ってたのと違うな。
この一番上の【回収】は神が言っていたが、スキル回収用スキルだ。
対象に服の上からでもいいから触れて「アブゾーブ」と言えば発動するそうだ。
発動すると対象が持つスキルを一つ奪える。
あ、相手が複数のスキルを持ってたらどうなるかの説明を聞いていなかった。
ちなみにこのスキルは、人から無理やりスキルを引っぺがすため神のスキルに近いらしい。
しかし神の力が底をつきかけている状態で作ったスキルなせいで、『対象に触れる』『二回まで』という制限がついた。
聞いてて思ったが神のスキルとそうじゃないスキルの違いは多分、『回数や発動するための条件などの制限がない』ことと『強い力をもつ』ことなんだろうか。
ちなみに神はこれについて、
「完全な状態で出来上がっちゃうと神のスキルになっちゃって異世界の不安定さが加速するからこれはこれで結果オーライですね!」
と言っていた。
いや何がオーライなんだよ?許さん。せめてどっちかの制限は外してくれ。
次にスキル画面の【ランダム】を押した。
この画面はなんと触れるらしい。
『ランダム なんらかのスキルを得られます』
『使用しますか YES NO』
説明雑すぎだろ。
神が言っていた「もらえるスキルはお楽しみ」ってこれのことか。
・・・ちなみに俺はソシャゲのガチャでは回せる瞬間になったら回してしまう性格だ。
二回引けるなら、すぐ二回引く。
これも例外ではない。
『使用しますか』YESを押す。
『スキルを得ました』
『使用しますか』YESを押す。
『スキルを得ました』
「『得ました』だけじゃなくてどういうスキルを得たかを表示しろよ。」
そう呟いていると画面に変化があった。
スキル画面にいつの間にかさらっと新しく二つのスキルが表示されていた。
押して確認してみる。
『超強化 ステータスが強化される 常時発動』
『交換 自分または触れているものを、視界に映る範囲にあるものと入れ替える 詠唱時発動』
【超強化】はなんとなくだけど地味だし。【交換】はよくわからない。
「そもそもどのくらい強化されているのかって話だよな・・・。」
常時発動ってことは今も効果が発動してるってことだよな。
ものは試しにと、ジャンプしてみる。
足に軽く力を込めた―。
ドンッ!
「うおっ?!」
軽く垂直飛びをするはずだった。そのはずなのに地面から大人一人分くらいの高さに俺はいた。
まさか今の音は俺が地面を蹴った音なのか。
いや待てこの高さはマズい―。
「うわああああ!!」
スタッ・・・。
綺麗な着地の音。
あの高さから普段運動をあまりしていない俺が着地したらどうなるか容易に想像できていた。
できていたが・・・膝周りに激痛が・・・来ない。
「うそだろ。」
脚力が上がっている。
しかも、耐久力も上がっている。
もしかしてと思い、試しに走りだしてみた―。
草原を人間とは思えないスピードで爆走する男がいた。
俺だ。
「やべぇ!!!風切って走ってるよ俺!!!え?!ちょっと待った喋りながらこの速さだせんの?!余裕だ!まだ早くなるぞ!やばい!すげぇ!うおおおおおおおおおお!!!!!!」
テンションが爆上がりしていた。
車の窓を開けた時みたいな、風が吹き付けるようなそんな音がする。
それだけじゃなく、風を切る感覚までも味わえるとは思わなかった。
下手すれば原付は余裕で抜かせる速さで走っていると思う。
しかもまだまだ速度を上げられることに気づきさらにテンションが上がり続ける。
俺はそのまま、数分間草むらをの上を一人爆走した。
「改めて言うけど、ほんとに来たんだな、異世界。」
先程草むらを散々猛スピードで駆け抜けた後、ものは試しにと俺は先ほどの城壁を駆け上がってみた。
平衡感覚も何もかもが向上していて、信じられないが壁を垂直で登っていた。
忍者になっていた気分だった。もう最高。
というわけで今は城壁の上にいる。
俺は起き上がって城壁の中を見下ろした。
目の前に広がるのは予想通りの異世界城下町。
多くの人が歩いているのが見える。
俺の立っている城壁は、ぐるっと一周取り囲むように円状に配置されているようだ。
右手側の奥にはそれはもう立派なお城があった。
超ゴージャス。
多分例の王様がいる城だろう。
中央には噴水付き広場がある。
なにやらパーティでも開くのだろうか。やたらと高所で飾り付けをしている人たちが多い。
遠目だからしっかりとは見えないが、みんな茶髪など外国人のような見た目をしている。
「はぁぁ最高だわ。めっちゃ探索してぇ・・・くっそ、期限付きじゃ無ければなぁ。」
行きたいところが山ほどあるが、3日目の昼までにスキルの回収をしなければならないことを思い出してしまった。
1分1秒も無駄にはできない。
「はぁ・・・まあ思い立ったら即行動だな。」
やることを早めに終わらせられれば、探索する時間も増えるだろうしな。
そう思い立ち上がったその時だった。
「っ?!」
背後に人の気配を感じた。
振り向くとそこには鎧を着た人間がいた。
鎧を着ている割には、この距離になるまで音がしなかったような―。
「いやぁ失敬。急に後ろにいたらそうなりますよね。失礼しました。」
「い、いえ・・・」
ビビって思わず身構えていたせいか、相手に謝られてしまった。
相手の話す言葉は聞いた限りでは日本語だ。違う世界であるにもかかわらず。
これも神が転生者のために調整したものによるものだったはず。
言葉が通じるのは非常にありがたい。
「あ、あなたは一体?」
「私はこの国に仕える衛兵だが、君こそなんだ?ここでなにをしている。」
「えいへっ?!いやぁ~・・・ハハ、衛兵さん、衛兵さんかぁそうですよね、怪しいですよね。こんなね、塀の上にね・・・」
俺はつい、頭を掻きながら申し訳なさそうなしぐさをしていた。
まずい。非常にまずい。普通に正門的なところが見えていたからそこから入るべきだった。
焦って変なこと言っちゃってるよ俺。自分で怪しいとか言うなよ。
「いやぁ~、な、なんかこう、景色よさそうだなぁ~って思いまして。つい・・・。」
「確かに眺めはいいな。国が見渡せる。で、君職業は?この国には何の目的で来たんだ?」
王様のスキルを奪いに来ましたなんて言えるわけねぇ!
なんていう。なんかこういう時よく言うのは・・・旅人だな。
旅人便利説あるしな。ないか。
「俺は、その、世界を転々としていまして、自分探しの旅っていうか・・・それでたまたまこの国にその、あ、ホラ!お祭りやってるし。」
「まああれは準備なんだが。」
「っそうなんですよね~。まだ始まってないんですよね~。だから暇だなぁ~って。」
全然だめだ。俺こういうの向いてないかもしれない。
もうこれ不審者では?ボロが出てるやつでは?
「ハハハ・・・。」
「・・・。」
愛想笑いに乗ってきてくれない、
ダメだなこれは。
終わった、【超強化】あるし走って逃げようかな。
「その恰好はなんだ、あまり見ない服だが。」
「こ・・・れは。えっと。」
Tシャツに短パン。
コンビニに行くために着ていた一番着替えるのが楽なセットだ。
向こうの世界なら普通の格好だが、こっちではなんていえば・・・?
「もしかして君、極東から来た人か?」
「へ?」
「確か向こうにはあまり見ない装いした人が多いという噂を聞く。」
「あ、ああ・・・」
極東?日本から来ましたと言えない主人公がよく言うあのテンプレワードじゃないか。
ああって言っちゃたしもうこのノリで行くしかない。
俺は極東人、俺は極東人・・・。
「そうなんですよ!俺極東からはるばるきてて。いや~いいところですよあそこは。」
「おお、やはりそうなのか。珍しい。ということはこの国には『コメ』が目当て手で来たんだな?」
「コメ?!」
「知らんのか?極東で好まれていて、王の故郷にもあったということと、その素朴な味わいからこの国ではかなり有名になっているアレを。」
「ああ~知ってる知ってる。噛めば噛むほど甘みが増して、最高だねあれは。」
まさか米が出てくるとは思わなかった。
米ならいっつも食べてたし答えられないことはないだろう。
このまま極東人として振舞って、いいとこで退散するか。
「そうかそうか『コメ』目当てか。ならば客人だな。存分に食べてくといい。」
「はい!長旅で久しく食べてないからな、おっと米の話をするもんだから食べたくなってきた。衛兵さんもういいかな。」
やばい、逃げたすぎてもう言ってしまった。大丈夫か。
「ああ、引き留めて悪かった。最後に一つだけいいか。」
大丈夫っぽいな。一安心。
「嘘をついてすまないが、この国に『コメ』なんて食べ物はないんだ。」
今なんて・・・?
彼は言い終わるとヘルメットを外す―。
「さて、君は一体何者かな?」
彼は黒髪に黒い瞳をしていた。