第12話 特訓
IKEAのサメ洗ったので投稿します。
「どうだった?」
「『どうだった?』?えぇ、うーん、なんて言うんですかね・・・その・・・。」
グレン王子は話を終えた後、紅茶を飲んで、俺に感想を求めてきた。
いや俺、人から大量殺人犯の話聞かされて感想求められたの初めてなんだけど。
ここでの正しい答えって何・・・?
「まあ・・・相当な超クソ野郎だなって思いました。」
「でしょ?!本当に私の人生で会った人間の中で一番クソ。」
そう言いながらレヴィさんは一升瓶をラッパ飲みした。
・・・え、一升瓶をラッパ飲み?!
さすがに二度見した。
何してんのこの人、まだ昼なんだけど?
怖・・・。
「ちなみにそのあと、あの男が直接国民に向けて自身が王になることを発表した。」
「しかも、なんていったと思う?自分が王を殺したから、代わりに自分が王になるって言ったのよ。無茶苦茶よ。」
「え?そんなの国民が許すんですか?」
「普通は許さないわね。あいつはまたそこで洗脳魔法を使った。今度は国全体に。」
「そのせいで誰一人文句を言うことはなかった。言わなかったって言うより、『言えなかった』だね。」
「ん?そしたら、お二人もかかってるんじゃ?」
「かからなかったの、これのおかげで。」
そう言うとレヴィさんは水色の液体の入った小瓶を取り出す。
「これってさっきの洗脳魔法を解ける薬ってやつでしたっけ。」
「そう、実はこれの効能あの日からまだ続いてるのよ。」
「あの日僕も近くにいたから、この薬の効果が続いてる。そのおかげで洗脳魔法が効かないんだ。」
効果が2年持つって相当すごいな。
予防接種でも3か月くらいしか持たんぞ。
「というわけで、はい。飲んで」
「ん?飲んで?!いや、どういうわけで?!」
「だって飲んでもらわないと効果でないし。」
「『気化させて吸引』のほうがまだ精神的にぎりぎり行けるんですけど。」
謎の液体飲むって相当勇気いると思うんだが。
なんかねっとりしてるように見えるから、より飲みたくないんだけど。
これを聞いたレヴィさんは「うーん。」と少し考えこんでから
「洗脳されちゃ戦えないじゃない?」
「でも・・・。」
飲みたくねぇ・・・。
「というか、なんかもう一緒に戦う流れになってますけど、いいんですか?」
飲む飲まないよりもまずそこだ。
普通に会話してるけどこの人たちと俺は会ったばっかりなんだよな。
なのにこれまでの話とか全部教えてくれた。
単純にそこが気になる。
「どうしてだい?」
「だって俺が鈴木雄矢と同じところから来た人間ってもうわかってるわけじゃないですか。そんな人間信用できますか?」
「うーん。」
グレン王子とレヴィさんは顔を見合わせる。
「私としては、洗脳魔法でさっき目的を聞いたから問題ないなって思ってる。」
「僕は、あの男に勝てる可能性があるものには全て賭けたいと思っている。それに、君は信用に値する人間だよ。」
「え?いやどこがですか。」
俺がこっちの人間だったら怪しさ満点だと思うが。
「君は僕たちの話を聞いている間、まるでその場にいたかのように怒ったり、悲しそうな表情をしたりしていた。」
「そ、そうなんですか。」
「ああ。人の気持ちをわかってやれる人間に悪い奴はいないと僕は思ってる。だから信用できる。これでどうだい?」
「えぇ・・・。」
そんなことで、と思った。
なんか褒められてるみたいで照れるな。
俺ってそういうところあったんだ。うわー。
友達少なくて大学生活ずっと人と喋ってなかったから、褒められるとか久々すぎてすごい恥ずかしい。
やべぇめっちゃ顔赤くなってる気がする。暑い暑い。
「何度も悪いが、君の力が必要だ。頼む。」
「・・・わかりました、協力させてください。」
俺は協力の願いを受け入れることにした。
むしろこっちがお願いしたかったくらいだが。
二人が俺を必要としてくれる。
鈴木雄矢という人間がどれだけ止めなきゃいけない人間なのかもよく分かった。
だから協力したい。そう思った。
「ありがとう。うれしいよ。」
「決まりね。じゃあはい。」
そういってレヴィさんが再度水色の液体を差し出してくる。
中身が揺れたが、擬音を付けたらチャプンというよりドプンって音がしそうな粘性をしているようだ。
絶対飲みたくねぇ。
「も、もう一回聞きますけど吸引する方法はないんですか?」
「飲んで。」
「え?」
「飲んで。」
「ごめん将斗。キミには悪いけど、これ気化できるように調合すると明日になってしまうらしい。」
「明日じゃダメなんですか?」
「できれば今日の夜行く予定だからね。」
「今日?!」
急すぎる。
でもまあ3日後の昼までにスキルを回収しないと消されるから早いに越したことはないけど。
いや、だとしても今日の夜は急すぎる。
「お、俺まだスキルの使い方とか全然わかってないんですけど。」
「それは今から全力で練習してもらう。」
「えぇ・・・。」
「ハァ・・・よし、じゃあ私の洗脳魔法でー」
彼女が指を振ると、俺の腕が勝手に動きあの小瓶を掴んだ。
しかも、立てなくなってる。
「あああああああちょっと待って、ああああ腕が勝手に待って待って心の準備、ああああああああああああああ!!!!!!」
異世界で初めて口にした飲み物はぬるく、粘つきがあって、その上The水道水って味がした。
つまり、地獄だった。
だがスキルの練習のほうがもっと地獄だった。
「ハァ・・・ハァ!【交換】ィ!」
「はいすぐ体をひねる!」
「うおおおおおお!!」
「遅い!!!!!」
俺はレヴィさんにしごかれていた。
俺の持つスキル【交換】。
これは、『触れたもの』か『自分』を『視界の範囲内にある、同じくらいの大きさのものと入れ替える』という効果があった。
レヴィさんからこのスキルは、要は瞬間移動みたいなものと言われた。
強いじゃんと最初は思った。
俺だけじゃなくて二人も同じことを思っていたようで、このスキルで王の近くに瞬間移動して体に触れてスキルを奪うという最速最短の理想の作戦を立てた。
ただ・・・このスキルには一つ問題があった。
飛んだ先の体の向きがランダムになるのだ。
俺が人と入れ替わる場合には、入れ替わる先の人物が向いている方向を向けた。
ただ、物には向きがなかった。
箱や丸太、顔を付けたかかしなどと入れ替わったがなぜか向きが定まらない。
同じものを同じ向きにおいても体の向きがばらばらだった。
「だ!か!ら!入れ替わった瞬間、自分の向いてる方向と王がいるであろう方向を即座に理解して体をひねらなきゃいけないのよ!なぜできない!」
かなり強く怒鳴られる。
いや体を捻ること自体はできる。【超強化】で身体機能が大幅にアップしているおかげだ。
だが頭が全然ついてこない。
どっちにどう向けばいいのかがわからない。
勘弁してくれ、数時間前まで一般人だったんだぞこっちは。
「そんな簡単じゃないですよ!やってみたらいいじゃないですか!」
「へぇ、だったら私にやってみなさいよ、ほら。」
レヴィさんが手を出してきたのでその手に触れ。
置いておいた丸太を視界に入れる。
「【交換】。」
「ハッ!」
レヴィさんは入れ替わった瞬間、王に見立てたかかしの方向を向いて見せた。
理想的な回転だった。
何で魔法使いなのに出来んだよ。
「どうよ。できんことないでしょ。」
「ぐっ、なんも言えん・・・。」
「僕もできるよ。」
丸太の準備係をしていたグレン王子がやってきた。
ならばとレヴィさんと同じように丸太と入れ替えてあげた。
「ふっ!はぁぁぁっ!!」
ズバッ
かかしが一刀両断されていた。
かかしと丸太はとても人の手が届かない距離を開けている。
俺の見たものが間違ってなければ彼は空中を蹴ってかかしに迫っていたような。
「え?何したんすか空気蹴りました?スーパー超人?」
「なにそれ、違うわよ。グレンが使ったのは【浮遊】よ。」
「ああ、さっきの話の。確か魔力の流れを掴まなきゃできないんですよね。」
「うん、だからさっさとこの練習終わらせて、そっちの練習もしたいんだけど。」
「え・・・?」
血の気が引いた。
「え、じゃないホラ早く。あれ使えないと接近できないでしょ。」
「あのもう俺、飛びすぎたせいか三半規管がすごいことになってて。」
「何それよくわかんないから早くしてくれる?」
「は、マジ?!知らないってことはこの世界医療ない?!体の構造理解してない?!」
「いや僕らの世界にも医療はあるし、三半規管というものも知っているよ。」
「嘘つかれた?!」
「四の五の言わずにやれ?」
「ひっ、やります!【交換】!!」
レヴィさん怖いんだけど、まだ一升瓶ラッパ飲みしてるし。
つらい、吐きそう。助けて。ちょっとだけ帰りたくなってきた。
「集中しろ!!!!ひねりが遅い!!!!!!」
「すいません!!!!!!」
【交換】の練習は夕方まで続いた。
「はぁ。ようやくできるようになったわね。」
「うおぇ・・・あ゛い゛・・・。」
ついに俺は身体の向きを瞬時に向きたい方向へ向けられるようになった。
その代償としてだいぶ俺はグロッキーになっていた。
あの、これ、戦えないんじゃ。
「じゃ、浮遊の練習しようか。」
「あ゛の゛・・・休憩を・・・。」
「浮遊の練習しようか?」
あれ、レヴィさんはすっごい笑顔なのに何でこんなに怖いんだろう。
「・・・やります。」
「ありがと~話の分かる人は嫌いじゃないわ~。」
そう言うとレヴィは手をこちらに向けてくる。
数秒後、彼女は気まずそうな顔をした。
「・・・あ。」
「なんですか?」
「洗脳効かなくしたらできないじゃん。」
「え?」
「魔法を手っ取り早く教えるには洗脳魔法で無理やり使わせて感覚つかんでもらうのが最速なの!あああああどうしよう。将斗君!」
「は、はいっ!」
肩を思いっきり叩かれる。
するとレヴィさんは満面の笑みで顔を近づけてきた。
こわ・・・。
「死ぬ気でやってね。イメージができて魔力操作ができて運が良ければ何とかなるはずだから。」
「運て。」
「いいわね。じゃあお手本見せるから。こうしてこう!」
レヴィさんの体が宙を浮いていた。
いろんな方向へ飛び、空中で8の字を描いている。
魔法みたいだ。
魔法か。
「いやもう少し具体的に。」
「だから魔力をこうして、体をこう、ぐわ~ってするの。」
身振り手振りで教えてくる。
なにこれ、クロール?平泳ぎ?
「いやわかんないですよ!ちゃんと教えてください。」
「十分教えてるじゃない!なんでできないの?!」
「今のは教えたに入らないだろ!レヴィさんもしかして」
「何よ。」
「教えるの下手・・・?」
彼女の動きが止まる。
少しひきつって笑っていた。
「いやいやいや何言って。」
「さっきの【交換】の練習の時も『腰をぐっとして足をぐるってするの』って言ってたし。」
「わかりやすいじゃない。」
「マジで言ってんすか・・・?」
「レヴィ。」
見かねたグレン王子が近づいてきた。
彼女の肩をそっと手を置き一言。
「君は教えるのに向いてない。」
「なっ?!何言ってんの?!」
「勇者の時、半月かかった理由がわかったよ・・・将斗、向こうで練習しようか。」
「違っ!仮に下手だったとしてもあいつはほんとに不器用だった!私が下手すぎるせいじゃないって!ちょっと聞いてる?待ちなさい!」
グレン王子が彼女のあまりのしつこさに耐えかね、本当に向いてないことを丁寧に教えてあげると、彼女は拗ねて一升瓶をまたラッパ飲みし始めた。
彼女は置いといて練習を始めた。
「まず魔力の流れをイメージするんだ。目を閉じて。今から僕が近くで【浮遊】を使う。その時何かを感じられるはずだ。というか感じてくれ。いいね。」
「は、はい。」
目を閉じる。
すると何か風とは違う、それでいて風の様な掴めそうで掴めない何かが体に当たる感覚があった。
それを何とか追ってみると、いろんなところから『それ』が流れてきているのがわかった。
しかも『それ』は自分の中にあることがわかってきた。
これが魔力なんだろうか。
だとすると、これはもう魔力を感じることに成功しているということになる・・・よな。
あとはイメージと魔力操作。体を浮かせるように魔力の流れを意識して、自分の体を押し上げる。
浮いている感じはしない。
イメージが弱いのか・・・?ならもっと、正確に。魔力が、頭を、背中を、腕を、足を、すべてを押し上げてくれるイメージ。もっと浮遊するイメージを、そう宇宙にいるようなイメージがいいのかもしれない。
こんな感じか・・・?
「え?」
「おお。」
レヴィさんとグレン王子が驚く声がした。
「どうかしましたかって、ええええええ!!???」
浮いていた。宙に。確実に地面から足が離れている。
魔法使ってるのか俺!すげぇ!できてる!
「すげえ!俺飛んで、ぐおっ!」
頭から落下した。首がいてぇ。
集中を切らしたから魔法が切れたのか。
【超強化】なかったら死んでたな。
「嘘でしょ・・・早すぎでしょ・・・?」
「驚いたな僕も結構時間がかかったんだが。まさかこんなに早く。・・・やっぱり君を仲間に入れて正解だったかもしれない。」
「あ、ありがとうございます。」
「待ちなさいよ!まるで私が本当に教えるの下手みたいになるじゃない!ほんとは最初からできるんでしょ!」
「いやそんな嘘ついてどうするんですか?!」
「うるさい!だったら教師交代よ!浮遊の強みは空中を自由に移動できること。その移動のやり方を叩き込んでやるわ!」
「いやグレン王子のほうがい」
「なんか言った?」
「言ってません。」
その後わかりづらい説明を何とか理解しながら、空中での移動ができるように頑張った。
そしてついに日が落ちた。
「今から王の城に向かう。準備はいいわね。」
「作戦は覚えてるかい?」
「は、はい。えっと・・・」
作戦はこうだった。
城の外の衛兵に見つからないよう、隠し通路を通り城の内部に潜入。
そのあと王のいる玉座の間に正面から入る。
この時俺はレヴィさんが羽織ってるマントでうまいこと隠れている。
玉座の近くにはちょうど二つの銅像があり、俺と同じくらいのサイズのため俺は隙を見て【交換】で入れ替わる。
そして練習通り接近して【回収】で【無限】を奪う。
「いいね。完璧だ。」
「もし、あいつが赤い宝石が付いたネックレスを付けてたら、先にこれと入れ替えてね。」
レヴィさんから入れ替え用のネックレスを受け取る。
「防御魔法がずっと発動するアクセサリーでしたっけ。」
「うん、もしつけられてると接近しきれないしね。ちなみにそっくりに作ってあるから入れ替えてもばれないはず。」
「わかりました。」
「・・・。将斗。一ついいかな。」
「なんですか。」
「今更だけど敬語でなくても大丈夫だ。仲間だからね。」
「いやでも王子様に敬語使わないのは・・・」
「今は王子じゃないさ。気にしなくていい。」
「わかり、わかったよ。グレンさ・・・グレン。なんか難しいな。」
「私も敬語じゃなくていいよ。」
「わかったよレヴィ。」
「え、早くない・・・?もうちょっと躊躇しない?」
「君には敬意を払いたくなる部分がないのさ。」
「あんだと?ちょっと魔法教えるのが上手いからって。」
「まだ根に持ってるのか。」
決戦直前だというのに緊張感がない。
こういう雰囲気はなんか仲間って感じがして悪くないけど。
彼らにとってはこれが普通なのだろうか。
そういう俺もまだ実感がわいてないが。
「ん?そういえば魔法打たれたらどうするんで・・・どうするんだ?とんでもないレベルのが飛んでくるって言ってたろ。」
「ああ、その辺は抜かりない。だろうレヴィ?」
「当たり前でしょ。こっちは2年かけて牙を研いでたんだから。目にもの見せてやるわ!」
そう言いレヴィはその勢いで一升瓶の中身を飲み切る。
なんかもうこの光景、逆に安心してきたな・・・。
そして俺たちは移動を開始した。
同時刻、王城では―
「不味い。誰だよこれ作ったの。」
「は、はい・・・。私・・・です。」
王の呼び出しに、調理を担当した女性使用人が名乗り出る。
「誰に飯出してると思ってんだ?なあ。」
「も、申し訳ありません。」
「あ~あ、気分わりぃ。どう死にたい?」
「ひっ、お、お許しを。」
「許すかよ、消えろ。」
そう言い終わるなり使用人に、男の手から放たれた爆炎が迫る。
「おやめください。」
爆炎は使用人に当たることはなかった。
使用人が顔を上げると。
「ルナ様・・・?!」
使用人の前にルナが立っていた。服は先ほどの炎に焦がされボロボロになっている。
しかし彼女の肌にはなんのダメージもないようだった。
「ルナ・・・俺の邪魔をする気か。」
「あなたこそ今の行動、約束と違いますが。」
「あ?今の飯の不味さ、どう考えても毒だろ?正当防衛だよ。」
「今あなたが召し上がったのは滋養強壮に効くとされるラリカンのジュースでは?」
「あ?そんなの知るかよ。」
「この前同じもので、その味にお怒りになったあなたは同じように使用人に魔法を放ちましたよね。お忘れですか?」
「ちっ・・・まずいモンを出す使用人が悪い。こんなの飲めるか。下げとけ。」
「はっ、はい・・・!」
すぐさま使用人たちが食事を下げる。
「ついでに二人きりにさせろ。」
「「はっ。」」
何人かいた護衛の兵士たちも部屋から出て行った。
「ルナ・・・痛かったよなぁ。ごめんなぁ。」
そう言いながら王はルナの体に触れようとする。
「おやめください。」
ルナはその手を払いのけた。
「このこともお忘れですか?」
「まさか忘れてるはずもないさ。わかってるよ、あと1日の辛抱だ。」
王はルナの髪に触れる。
ルナは避けようとするが、肩を掴まれる。
「っ・・・!」
「おっとっと、逃げるなよ。髪ぐらいはノーカンだろ。」
そう言いながら王はルナの髪に顔を近づける。
「んー・・・・。ハァ・・・あと一日、あと一日だよルナ・・・。そこでようやく僕たちは結ばれる・・・。」
ルナの髪を嗅ぎながら王-鈴木雄矢は不敵な笑みを浮かべていた・・・。
王きっしょいなぁ