第11話 123 英雄の終わり
すき家のにんにくの芽牛丼最強だと思うので投稿します。
勇者ユウヤの帰還に合わせて、盛大な式典が開かれた。
国民全員が歓迎し、王も深く感謝した。
エリスへの黙祷も行われた。
しかし、その式典の最中、レヴィは一切姿を現さなかった。
グレンは式典の間、昨日レヴィが言っていたことを考えずにはいられなかった。
しかし、勇者ユウヤは平然としていた。旅立っていった時と何も変わっていないように見えた。
エリスのことを話せば涙を流していた。
国民に魔王討伐についての報告もしっかり行っていた。
勇者らしさあふれる彼に、レヴィの言ったことが嘘だと思うようになった。
だがレヴィのあの取り乱し方は本物だった。
目の前で起きている矛盾にグレンは頭を悩ませた。
そして式典が終わり王城ではその晩、食事会が開かれた。
勇者もクリスもそこに招待された。
当然レヴィも招待されていた。
しかし一向にレヴィは姿を現さなかった。
グレンは意を決して勇者に接触を図ることにした。
「魔王討伐、本当にありがとうございます。勇者ユウヤ様。」
「グレン王子?!そんな、様なんてやめてください。俺は勇者として当然のことをしたまでですから。」
「いいえ、今回の件は本当に深く感謝しているんです。ユウヤ様。」
「なんか照れちゃうな。ハハ・・・。」
グレンはユウヤとのやり取りで、とても彼が仲間を殺しただなんて思えなかった。
だからこそ一層レヴィに対して何か引っかかる。
「あのユウヤ様少しお伺いしたいことが。」
「なんですか?」
「レヴィのことなんですが、何かご存じですか?何か様子が変だったもので・・・。」
「レヴィ?確かに俺たちより先に王国に報告しに行ってくれたけど、あの時は何か変ってわけでもなかったけどな・・・。でも今日一切あってないしちょっと心配だな。」
ユウヤは何も知らないといった風だった。
「あの女、一体何考えてる・・・?」
グレンがそうつぶやいた時だった。
バァン!
と扉が勢いよく開きレヴィが飛び込んできた。
「いい加減にしときなさいよ!ユウヤ!」
レヴィは手のひらを彼の方向へ伸ばし叫ぶ。
魔法使いがその構えで近づいてくるのは脅しているのに等しい行いだった。
「あんなことをしておいて、挙句の果てに国民の前で英雄気取りで演説?いい加減にしときなさいよ!あの時すぐにでも出て行って細切れにしてやりたかったわ!」
「レヴィ殿?!どうした!」
さすがの王も目の前の状況に困惑する。
ざわめきだす招待客たち。
「王様!エリスは人を庇って死んだんじゃない!エリスはこいつに殺されたのよ!」
「バ、バカなそんなことがあるはずが。」
「ハッ・・・信じられないわよね!魔王倒した英雄が仲間殺しのクズだったなんて!」
「・・・・そうだ・・・俺が・・・殺した・・・。」
「え・・・?」
隣にいたグレンはその答えに驚愕する。
レヴィの話は本当だったのかと。
「俺が、俺がもっと強ければ、魔物をちゃんと全滅させていれば彼女は死ななかった。俺の弱さが彼女を殺したんだ・・・。」
そう言って彼は泣きながら膝から崩れ落ちた。
「そういうことか・・・レヴィ殿、彼を許してやってくれ。エリスを失ったことは辛いだろうが、それは彼の責任じゃな」
「何言ってんのよ?!まだ演技するつもり?あんたどんな神経してるのよ!」
「俺がっ、俺がもっと強ければ・・・!」
まるで噛み合ってない会話。
そんな状況にグレンはどうすることもできない。
誰が本当のことを言っているのか。
その時クリスがレヴィの肩を掴む。
「待てレヴィ。エリスの死は・・・つらい。だが一番つらかったのは私だ。でも私は彼を責めるつもりはない。何よりエリスがそれを望んでない。」
「クリス・・・あんた何も覚えてないの?」
クリスもエリスのことを思い出して泣いているようだった。
だからこそ、レヴィは信じられないといった表情になる。
「覚えているさ。あの子の勇敢な最期を。」
「違う。そうじゃない!エリスはユウヤに首を絞められて殺された!本当に覚えてないの?!」
「首を・・・?レヴィ、一体どうしたんだ。」
グレンはユウヤがエリスの首を絞めたという話を思い出していた。
殺意を込めて首を絞め続けたあの話を。
しかし、もう一人の仲間であるクリスが全く覚えていない。
グレンからしたらレヴィだけがおかしなことを言っていることは明白だった。
「やっぱり・・・そうなのね。」
「レヴィいい加減にしておけ。こんなことしても意味は」
「グレン・・・邪魔しないで、王と女王のとこに行ってて。お願い。」
そういうとレヴィが何かを取り出す。
水色の液体が入った小瓶だった。
「レヴィ、なんだそれは。」
「洗脳魔法を解除する薬。ここで割ればすぐに気化して周囲の人間にかけられている洗脳魔法が解除されるはず!」
「洗脳魔法だと?いったい何を。」
「早く行け!これで全部わかる!」
そう言ってレヴィはその小瓶を床にたたきつけた。
小瓶は音を立てて割れた。
こぼれ出た液体はレヴィの言うとおり気化していった。
「うっぐ・・・。」
異変が起き始めたのはクリスだった。
「なんだ・・・?私は・・・?ここは・・・?」
「大丈夫かクリス。レヴィお前いいかげん説明しろ!」
今にも倒れそうだったクリスをグレンが支える。
「クリス、しっかりしろ。おい!」
「・・・あ・・・・エリス!そうだ・・・あいつは、あいつはどこに!」
そう言って辺りを見回したクリスがユウヤを視界にとらえる。
その瞬間グレンの手を振りほどき、腰のナイフを抜き取るとユウヤに向かって走り出した。
迷いのない殺意のこもった行動にグレンは驚いた
しかし―
「風」
とてつもない暴風が巻き起こった。
グレンは咄嗟に踏ん張り体制を維持し、レヴィも防御魔法で耐えた。
その横を何かが飛んで行った。
目で追うとそれはクリスだった。
その勢いのまま壁にたたきつけられるクリス。
「かっは・・・。」
クリスは崩れ落ち、動かない。
グレンはユウヤのほうを振り返る。
ユウヤは下を向いたまま手だけをこちらに向けていた。
魔法を放ったのは紛れもなく彼だった。
「ごめん、クリス。」
レヴィはそうつぶやくとユウヤのほうを睨む。
「ユウヤ、あんた・・・。」
「はぁ・・・。せっかく心地よく勇者ごっこ楽しんでたのに、ひどいじゃねぇかよレヴィ。」
不敵な笑みを浮かべながらユウヤが立ち上がる。
雰囲気がさっきまでとはまるで違っていた。
「一緒に魔王討伐した仲間だろ。」
「洗脳で無理やり連れ歩くような奴が私の仲間なわけないわ。」
そう言いながらレヴィは魔法を放つ。
詠唱がない分発動が早い。
繰り出されたのは炎、それはものすごい勢いでユウヤに迫る。
しかしその魔法はユウヤの目の前でまるで透明な壁にぶつかるかのように軌道を変え、ユウヤに当たることはなかった。
「防御魔法?しかも無詠唱・・・?不器用なあんたにそんな芸当ができるわけが。」
「おいおい師匠~忘れたんですか~?旅の途中あんたが俺のために作ってくれたアイテムの力をさ。」
ユウヤが首から下げたネックレスをちらつかせる。
赤い宝石の入ったネックレスだった。
しかし、レヴィはそれに全く見覚えがなかった。
「洗脳魔法食らってた時の話かしら。気分悪い!あんたと勇者ごっこしてた時の話なんて知らないわ!本当に気持ちが悪い。あんたどういう気持ちで旅してたのよ。エリスを殺しておいて。」
「純粋に勇者として正義感を持って旅してたが?さっきまであの女を殺したことを忘れていたしな。」
「忘れていた・・・?」
「洗脳魔法を自分にかけたのさ、おかげで勇者様をやりきることができたよ。アハハハハハ。」
「自分に洗脳魔法を・・・?イカれてる・・・。」
「・・・ハァー、にしてもあんたもバカだよな。こんなとこで洗脳魔法を解いちまうなんてさ。あ、そうかクリスにかかってる洗脳魔法を解こうとしただけか。良かれと思ってやったあんたの行動は最悪の選択だったわけだ。」
そう言いユウヤが腕を上げる。
その手が向いている方向は、王のいる方向だった。
ユウヤが口を開く。
その瞬間グレンは何をしようとしているのかを察し駆けだした。
「火球」
「危ない!」
グレンが王を庇うために炎の前に躍り出る。
「ぐああああああ!!!!!!」
グレンは剣で弾き返そうとしたが、彼の放った魔法は初級魔法にしては、重く大きかった。
そのまま吹き飛ばされる。かろうじて王に当たることはなかった。
「グレン!」
「師匠よそ見ですか?火球。」
爆炎がレヴィを包む。
だがその炎は突如現れた風によって吹き飛ばされた。
レヴィの防御魔法と風魔法の同時発動。
ダメージを受けず、火も吹き飛ばし被害を抑えた。
「調子乗んなよ。こっちが何年魔法使いやってると思ってんの。」
「何年もやってるくせして半年以上操られてたのはどこの誰でしたっけ。」
そこを皮切りに魔法の打ち合いが始まる。
次々放たれる爆炎を水魔法と風魔法の合わせ技で打ち消すレヴィ。
王国最強の魔法使いと魔王を倒した勇者の戦いはすさまじくそこにいた人々は巻き込まれてもおかしくなかった。
しかし、レヴィは周りの人の近くに防御魔法を展開することで全員を守っていた。
そのせいか、徐々に防戦一方になっていく。
「どうしました~師匠?火球!だんだん攻撃減ってきてますけど。火球。」
「クソッ。ムカつく、・・・しかもあんた手加減してるでしょ。」
「当り前じゃないですか、すぐ終わっちゃつまらないし。火球。火球。火球。」
「ぐあっ。」
防御魔法の展開が遅れ、直撃は免れたもののレヴィに爆風が直撃した。
「あれ師匠どうしました?そろそろ本気出そうかと思うんですけど。」
そう言うユウヤの手からまた火球が放たれる。
「無詠唱?!いつの間に?!ぐっ。」
放たれた火球をレヴィはかろうじて防御魔法で防ぐが、最悪の展開だった。
無詠唱で、爆炎を無限に連発してくる相手を、人々を守りながら戦うなどできるわけがなかった。
レヴィは唇をかみしめる。
「どうですか師匠。無詠唱の魔法は。僕ら一緒に練習したんですよ。いやぁ~厳しかったなぁ、まあまだ火球しかできないけど。」
「くっ・・・・。」
「ん?ああ~師匠みんながいるから本気出せないんですね。じゃあ・・・。」
「?!やめろユウヤ!!!!」
ユウヤは周りを見回すと言い放つ。
「風刃」
風刃。風属性の初級魔法。
本来は相手にかすり傷を負わせる程度の魔法。
だが彼の膨大な魔力をつぎこまれた結果、その刃は多く大きく早くユウヤの周囲を暴れまわり、その広間にいた人々の体は一瞬で細切れにされた。
辺り一面が真っ赤に染まる。
「そんな・・・。」
その惨状にレヴィは声を震わせる。
「ハハハッ、隙あり。」
油断していたレヴィに爆炎が放たれる。
反応が遅れレヴィは吹き飛ばされた。
その時―。
「うおおおおおおおおおっ!!!!」
「ん?」
意識を取り戻したグレンがユウヤに切りかかる。
ユウキが放った風の魔法は王がいるあたりまでは届いていなかった。
しかし防御魔法でその剣ははじかれた。
「ぐっ!」
「すごいだろこれ。身に着けている間ずっと防御魔法が展開されるんだよ。デメリットとしてはずっと魔力を消費すること。あれ?っていうことは俺にしか使えない代物じゃないか。ハハハハハ。」
「貴様っ!」
グレンはものすごい速さで次々に剣を振るが、見えない壁に阻まれその刃はどれもユウヤに届かない。
「くそ・・・貴様!一体何が目的だ!勇者のふりをして!国民を騙し、ここにいた彼らを殺して!」
「あ~特になんも考えてなかったな。」
「・・・何?」
「うーん・・・あ、そうだ。王様やろっかな、面白そうだし。それじゃもう一回。」
ユウヤが王に手を向ける。
放たれる爆炎、それを受け止めようとグレンが再度身を挺して庇う。
「ぐあああああっ。」
「あれ?さっきより吹っ飛ばなかったな。」
「なめ・・・んなよ。まだ私は終わってない・・・。」
レヴィが何とか立ち上がっていた。しかし今にも崩れ落ちそうなほどダメージを負っていた。
彼女はグレンに魔法が直撃する瞬間、防御魔法を展開しぎりぎりのところで威力を弱めていた。
しかし完全には弱めることができず、グレンは息こそあるもののまともに動けなかった。
「はい残念、王子様ご退場でー」
「やめてください!」
グレンとユウヤの間に少女が立ちふさがった。
ルナだった。
「っあ?!やめろルナ!来ちゃだめだ!!」
「もうおやめください、これ以上は、私が許しません!」
「あ?何様のつもりだよ?消えとけ。」
そう言いユウヤは腕を振る。
横から放たれた爆炎が少女を巻き込み薙ぎ払った。
威力が強かったのか壁に大穴が開いていた。
ルナだったものはどこにもなかった。
「よっわ。なんで出てきたんだあいつ。」
「ああ・・・ああああ・・・貴様ッ!貴様ああああああああッ!!!!!」
グレンは叫ぶ。
最愛の人を奪った目の前の男に憎悪を燃やして。
しかし、その体はまともに動かない。
「何キレてんだようるせぇな。そんな好きなら一緒のとこに行かせてやるよ」
「待て。」
王が口を開いた。
「あ?」
「ユウヤよ。貴様は王になるといったな。」
「だから何?」
「俺の命と地位をやる。その代わり息子の命だけは助けてもらいたい。」
「・・・へぇ。」
「私の命も捧げましょう。」
グレンの母である女王も名乗り出る。
「王様も女王様も優しいねぇ。こんなのに命かけちゃってさ。ザ王家って感じ。いいよ。助けてやるよ。」
「そうか・・・よかった。ならばレヴィよ。グレンを連れて逃げてくれ。」
「王様・・・。承知しました。」
レヴィは浮遊を使い無理やりグレンを掴み広間を飛び出した。
ユウヤはそれを見ていたが、何もせずにいた。
レヴィは夜の空を駆け抜け、隠れ家がある森へと向かう。
「やめろ!離せレヴィ!俺はあいつを!あいつを止めなきゃ!」
「あんただけじゃ無理。それに王様にあんたを連れて逃げろって言われてる。」
「今更何のつもりだ!今まで無礼ばかりしておいて!恩でも売るつもりか!俺はそんなの!」
「あんたになんか恩を売るつもりはない!私は王様への借りを返してるだけ。あの人は昔死にかけてた私を救ってくれた、だから私はこの国を出ることはなかったし、王様のお願いは全部聞き入れた。だから今回のお願いも果たしてみせる。」
「・・・!」
いつもの彼女らしくないレヴィ。
そんな事実があったことを知らずグレンは驚く。
「あの人を助けたいのは私も同じ。だけど今の私たちじゃユウヤには勝てない。今は、逃げるしかないのよ。」
その日からグレンたちは森に隠れて暮らすこととなった。
防御魔法は魔法の盾が出ているようなものだと思ってくれればよいです。
勢いのある魔法を食らうと吹っ飛ばされるようなものです。
多分