第10話 122 偉業
エリスがかわいそうだったので投稿します
「え?ああ、そういうことか。続けてください。」
俺はあれからレヴィさんの話を聞いていたが、急に場面転換するからつい話を遮ってしまった。
グレンさんが王子で、レヴィさんが王国最強の魔法使いだったり、スズキユウヤの魔法の規模がやばいこととか色々突っ込みたかったけど頑張って我慢してたんだけど―。
でもよく考えたらあれか、魔法を打たれて気を失って倒れていたところを救出されて―って感じか。
「どうした?なんか気になることあったら何でも言って。」
「あ、いえ、急に王国内で目覚めたっていうから、ん?と思ったんですけど誰かに助けてもらって帰ってきたんですよね。」
「私も最初起きたときそう思った。誰かが助けてくれて、そのまま王国に搬送されたのかなって。でも違った。そうでしょグレン?」
「ああ・・・ここからは、僕が話そう。」
そうしてグレン王子が話し始めた。
「国王!ついに、ついに!」
玉座の間に一人の兵士が駆け込んでくる。
その迫真さに何かを察した王が玉座から立ち上がる。
「まさか!勇者の話か?!」
「はい!!魔王を、かの魔王を勇者がついに倒しました!!!」
「・・・ああ。そうか・・・ついに。」
王は力が抜けたかのように椅子に座った。
「父上っ?!」
「いや、大丈夫だグレン。つい緊張が解けてな。」
「そうですか・・・。しかし、ついに終わるのですね。この戦争が。」
「ああ、ようやく国民を安心させられる。」
王は感動して泣いていた。
「それで・・・勇者はいつ帰還する。盛大に出迎えよう。」
「それが飛んで帰ってくる・・・?と言っていたらしく、3日後には王国に到着するとのことです。」
「ああ、レヴィの魔法だろう。あの女、こっちには準備があるというのに嫌がらせか・・・」
「グレン、お前はほんとにレヴィ殿に対して・・・。まあいい、3日後だなならば早急に準備しよう、偉大なる英雄を労わねば。それと、彼女の葬儀も。」
「そうですね・・・。」
勇者パーティの一人。エリスの死は王国にも伝わっていた。
旅の途中、魔物から村人を身を挺して庇ったときに致命傷を受け亡くなったとのことだった。
「彼女の魂が安らかに天へ返されることを祈ろう。」
「はい・・・。」
兵士が出て行ったあと、王とグレンは話していた。
「私の選択は正しかったのだろうか。」
「父さん・・・。」
「勇者を召喚し魔王を倒した。このまま戦いが長引いていって、増えてしまう犠牲者を押さえることができた。だが、一人の少女が犠牲になってしまった。」
「いえ、勇者がいなければ人類が魔王に勝つことはなかったと思います。それに、」
コンコン
その時玉座の間の扉を叩くものがいた。
「誰だ?」
扉近くにいたグレンが扉を開け確認する。
「レヴィ?」
そこにいたのはレヴィだった。
「ただいま帰還しました。」
「レヴィ殿?到着は3日後ではなかったか。」
「到着が予定より早くなりそうだったため、一足先にそのことを伝えに参りました。」
「おお・・・そうか・・・礼を言う。」
「到着は明日の朝になります。」
「相当早いな、レヴィ。こっちには準備があるのをわかっているだろう?もう少しゆっくり帰ってきてもよかったんだぞ。」
「それは申し訳ありません。」
「・・・?」
グレンは疑問に思った。
レヴィは礼儀のない女で、王にも敬語を使わない。部屋には勝手に入ってくる。
そういうところがグレンは嫌いだった。
だが今の彼女にはそれがないように思えた。
「それでは私は家で休ませてもらいます。」
「あ、ああ・・・ご苦労だったな。」
そうしてレヴィは部屋を出て行った。
「父さん・・・今のレヴィ、何か・・・。」
「ああ・・・おそらくエリス殿のことや長旅で何か思うことがあったんだろう。」
「そういうものですか・・・。」
「半年間共に旅した仲間を失うというのはお前が思っているよりもずっと辛いものだ。ああもなってしまうのも仕方あるまい。」
「はい・・・。父さん、先程の勇者が明日帰還するという知らせを、皆に伝えてきます。」
「ああ、助かる。任せたぞ。」
グレンは部屋を後にした。
勇者帰還が明日になったことを皆に知らせたグレンは、部屋に着くなり、すぐベットに横になった。
魔王討伐の報告を聞いた時から力が抜けそうになっていたが何とかここまで持ちこたえた。
彼はひと眠りしようかと考えたがなぜか眠れずにいた。
引っかかるものがあった。
先程のレヴィの態度についてだった。
いつもだったら「まだいたの?実は私たちが魔王倒したんだけど知ってた?知らないかアハハハ。」
と言われると彼は思っていた。
そこまで言わなくても、いつものように言い合いになるはず。
「グレン・・・?」
「ん?ああ、ルナか。」
青髪の少女が部屋に入ってきた。
彼女はルナ・フィール。グレンの婚約者だ。
グレンと彼女が初めて出会ったのは、幼い時森で遊んでいたときだった。
二人は意気投合し数日間遊んでいたが、グレンがある日いつものように森へ向かうと彼女はおらず、その日から会うことはなかった。
時は経ち魔王軍との戦争中、魔物の軍勢によって襲われ滅ぼされた国があった。
その国に残っていた人々を救出すべくグレン含めた王国軍が向かった。
グレンは戦火で燃え盛る国を駆け次々と人々を救出、避難させた。
その途中でグレンは彼女と再会した。
彼女もグレンも一目で互いのことを思い出した。
感動の再開。
しかし、それもつかの間、火の手が強くグレンたちは王国軍が待つ方向へ行くことができなくなった。
火事に巻き込まれないよう彼女の手を引いて走るグレンだったが、途中彼女の頭上から落ちてきた瓦礫から彼女を庇いグレンは気を失った。
意識が朦朧とする中、グレンが見たのは燃え盛る炎の中必死に【治癒】をかけ続ける彼女の姿だった。
グレンは思った【治癒】は魔力を消費して対象を回復するスキル。
火傷したところから直していっては、いつかは魔力が尽きて回復できなくなる。
それに彼女自身も危険だった。
しかしどうすることもできずグレンの視界は真っ暗になっていった。
数日後グレンが気が付くと彼は王国にいた。
奇跡的に駆け付けた王国軍によって助かったのだった。
彼女も生きており、グレンは神の奇跡に感謝した。
その数日後彼女にプロポーズし晴れて二人は婚約者となった。
「魔王が倒されたって聞いたけど。」
「ああ、ようやく平和になりそうだよ。」
「よかった・・・。でも・・・。」
「どうした?」
「グレン、何か気になることあるんじゃない?」
「え・・・いや。別になにも・・・どうして?」
「グレンって何か考え事してる時いつもそうやって寝ることもなくベッドにいるから。」
「・・・ごめん。ばれてたか。」
そういうとグレンは彼女にレヴィのことを話した。
「確かに気になるね。グレンとは会うたびに喧嘩してたし。」
「喧嘩じゃない、あっちがつっかかってきているだけだ。」
「フフッ、そういうことにしとくわ。でも、一応様子を見に行ってくるのはどう?」
「なんで俺がそんなこと。」
「いいじゃない。今行かずに当分レヴィさんが変だってことに悩まされるよりはましでしょ。」
「・・・ハハッ。ルナは僕を乗せるのが上手いな。わかった行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。」
そうしてグレンはレヴィの家へと向かった。
レヴィの家は城の近くにあったためすぐ着いた。
グレンは着くなりすぐ戸を叩く。
「レヴィいるか?あ~その、少し話があって来た。」
するとすぐに扉が開いた。
「グレン・・・?」
扉を開けた彼女は酷く焦っているようだった。
驚いた顔でグレンを見ていた。
部屋の中では花瓶が割れて散らかっている。
「なんだ、どうした。大丈夫か。」
「・・・ええ、大丈夫。それより、クリスは?」
「クリス?クリスは明日到着するんだろ?」
「そんなこと知らないわよ、とにかく・・・ハァ、無事なのね。良かった。」
いつもの彼女とは違う取り乱し方にグレンは首をかしげる。
「さっきと言い、今と言い・・・レヴィ、今日のお前少し変だぞ。」
「さっき・・・なんの話?」
「勇者が明日帰還することを伝えに来たじゃないか。」
「え・・・?何言ってんの?」
「本来3日後到着予定のところを、明日到着になるからって、お前が直接玉座の間に来て言ったんじゃないか。」
「は?私そんなこと知らないわよ。私さっき目が覚めたところよ。」
「何言ってる?ふざけてるのか?」
「ふざけてない!それよりユウヤが明日王国に帰ってくる・・・?ダメよ!今すぐ、今すぐ止めに行かなきゃ。」
ふらふらとした足取りで部屋を出ようとするレヴィをグレンが止める。
「ほんとにどうしたんだレヴィ?!さっきから何言ってる?!」
かみ合わない会話にグレンは苛立ちを覚える。
「邪魔しないで!あいつは・・・あいつはエリスを殺したのよ!」
「・・・え?」
そしてレヴィは覚えているこれまでのことをグレンにすべて話した。
グレンは信じられなかった。
「なんだ今の話・・・だって君たちは魔王を倒したじゃないか。なんでそんな、どういうことだ。」
「魔王を倒したって何それ、あんなことした後、わたしがあいつと仲良く旅してたって?嘘でしょ。」
「いや本当だ、魔王場近くで調査に当たっていた者からお前たちが魔王城へ乗り込んでいく前に少し話したということを聞いている。「勇者として魔王を倒してくる」と言っていたらしい。それに実際に魔王軍もだんだん力を失っていっている。ほかにも君たちが魔王を倒した証拠なら十分にある。」
「ありえない・・・。そんなこと・・・っまさか?!」
そう言うなりレヴィは勢いよく立ち上がった。
目を見開き震えている。
「あの言葉、まさかあいつはやり直した・・・?!一から、勇者としての旅を。」
「やり直す・・・?」
「そう、あいつはやり直すって言ってた!あいつはエリスを殺したとき、あいつの中であいつの勇者としての物語は終わった。だからやり直した。だから「勇者として」なんて言った。やめてたのに。」
「おい待て、落ち着け。物語ってなんだ?ちゃんと説明してくれ。」
「そんな時間ない!急がなきゃ!私はあれを完成させる!あんたは・・・あんたは王の近くにいなさい、片時も離れないで。」
「おい待て!どこに行く!」
レヴィは部屋を飛び出して、どこかへ飛び立っていった。
疑問が晴れないままグレンは自室へ戻った。
そして次の日、ユウヤが帰還した。
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