姫と勇者(女)
予言に記された救世主の存在。
『万民苦しみ虐げられる時、強い力を持った勇者が現れこの世を救う』。
世界を悪しき力を持つ者が支配し、人類が苦しみに覆われたその時、かの伝説を信じ、救世主の召喚を行った王国があった。
触れを出し、兵士を使って国中を探し回り、王は国において最も優れた戦闘能力を持った若者を見い出した。
兵士数十人が苦戦する魔物を、一人で圧倒する力を有する、世界の希望と言える存在だった。
しかし勇者は、世界を救ってくれと願う王らに一言、「いやだね」と告げて宮殿を後にした。
勇者と共に世界を救うべく、魔術を磨き旅立つ準備をして来た姫は、装備を整え勇者の後を追った。
「どうか助けてください。世界にはあなたの力が必要なのです。今、世界中の人が苦しんでいるんです」
哀れに死んでいく者たちを思い出して、勇者に救いを願う姫の瞳には涙が溢れていた。
「どうして俺が、なんの関係もない民のために命かけなきゃならないんだ」
不機嫌そうに顔を背けた勇者は、鬱屈とした声で本音を口にした。
その時初めて、姫の脳裏には一人の人間として生きる勇者の姿が浮かんだ。
剣を握ることも、傷を負って休むことも、誰かに弱音を吐いて寄りかかることだって、選び取る権利が誰しもにある。それは、この世で一番強くなった者にだって。
姫は王都から去っていく勇者を静かに見送った。
宮殿に帰った姫は兵力を集める。
「どうしてあの人だけが辛い目に合わなきゃいけないの?」
勇者とは言われても、まだ10代の若者、子供とさえ言える。
力が強いのだって、勇者が自らに課した苦行の上でやっと手に入れたもの。
けして不死ではないし、人の限界を超えるものでもない。
魔物たちとの戦いは、他の者たちと変わらず死ぬかもしれない恐怖だ。
「私たちは間違ってた。戦わなきゃならないのは私だった。私たちなのよ!」
決死の覚悟を持ち、姫は大勢の兵を率いて敵地へと攻め込んだ。
そこで姫らが見たものは、ーー傷付き苦しみながら魔王と戦う、勇者と仲間達の姿だった。
「人間にしては強い力を持ったようだが、お前達に付いて来れる味方などいないのだろう。たったそれだけの人数で我が元に飛び込んでくるとは、笑わせてくれる。愚の極みだな。もはや今世で我に楯突く者などいないと思ったが、臆病な人の群れに弾き出されたか」
勇者を嘲笑う『魔王』の前に。
強さ故に孤独を与えられた者達の、ぎりぎりの危機に。
姫達は到着したのだ。
勇者も姫も兵士達も、皆ぼろぼろになって、命からがらで魔王を倒し、その国を救った。
「魔王と戦うこと、嫌がっていたのにどうしてーー」
「別に万民のためにやったんじゃない。……お前が泣くからだ」
姫の前で顔を赤くする勇者に、伝染したように姫の頰にも熱が昇った。
世界が落ち着きを取り戻した頃、勇者は王都を後にする。大切な仲間を従えて。
また置いていかれた姫は勇者の後を追いかける。
本当なら一緒に行きたかった。でも自分は姫で、足手まといにしかならない。
だから、連絡を取りたい自分のわがままで姫は王家の宝を勇者に渡した。
相手がどこにいても連絡を取れる魔法の水晶。
そして、知る驚愕の真実。
勇者は女の子だった。
淡い恋心を砕かれた姫はその後1週間、ボー然とすごしたそうだ。




