青い斑点
ある日の夢の記録
最初は野良犬が騒がしくなった。どこか凶暴になり、喧嘩することが多くなる。
彼は犬を飼っていた。大型で、若くはないが、頭のいい犬だ。黒と茶色で、耳は長く、毛は短い。
彼は、普通の人だ。頭がいいわけでも、特別運動神経がいいわけでもない。
ただ、その状況になったとき、ナゼカ、その記憶があったーー。
車に乗って、駅前へ行った時、駅の中で野良犬達が喧嘩しているのを見た。それに対して、車に乗っている犬が執拗に吠える。
「やめろって」
たいして気にもせずに、彼は犬を宥める。
それから数日、今度は人間達がおかしくなり始めた。どこかいらいらとしたようすで、段々と正気を失ってゆく。
最初に現れるのは青い斑点のようなあざ。それから24時間以内に死が訪れる。
最初の犠牲者は子犬だった。ギャンギャンと狂ったように暴れ騒ぎ、彼の犬に踏まれた瞬間、内側から爆発するように爆ぜた。赤い血は飛ばなかった。あったのは青い肉の塊だけ。
異様であることに気付く。よく見れば、回りの野良犬達も、正気を失ったように、うろうろと動き回っている。
変だ。何かが変だ。
彼は彼の犬と共に車に乗る。そして注意して回りを見てみる。
なんだか顔色の悪い人達皆がいらいらした様子で、あちこちでくだらない喧嘩が起こっている。
その光景を見ているうちに、彼の頭に何かが浮かぶ。ああ、これは前にも見た。何故だかそんな気がする。
しばらくして彼は黄色いキャンプカーを発見する。そう、これだ。いつのだかもわからない記憶と何故だか一致する。ピンときた、そんな感じだ。
町ではすでに人が死に始めていた。まずは大人達から。何故か? そんなこと彼は知らない。ただ、大人達から死んでいることだけを知っていた。
黄色いキャンプカーに乗っていたのは30代の夫婦。周囲の状態がおかしいことに気付いていた。
子供が町から離れた広場に行っていると言う。心配だから見に行く、と。
彼はキャンプカーに乗り、一緒についてゆく事にした。もうこの町の中にいることは危険だから。彼はそれもまた知っていたことを知る。
なんだろう、このデジャブのような記憶の重複は。
彼は夫婦と共に広場に向かった。だがその途中2台の大型車に絡まれる。1台はスクールバス、1台はワゴンカー。寄せてはぶつかってくる2台の車。
その度にキャンプカーは揺れ、恐怖を煽る。
あの車に乗っているのはなんだろうか……。人? 本当に? あの遺伝子の狂ったやつらではないのか。
そこで彼はまた気付く。そう、遺伝子。この病は遺伝子の狂いから生じた。何代も世代を繋ぐごとに、少しずつ、ずれができて、それがついに現れた。だから、人よりも代替わりの早い 犬が先に……。そして、なぜか発症者の回りへと被害が拡大してゆく。まるで感染する病のように。
そう、前に見たんだ。
何故だか知っている記憶をたどりながら、彼は目前の道を見た。先の道は……崖となり途切れている。
後ろからぶつかってくる車のせいでハンドルはほとんどきいていない。
ーー深い谷底と川。
彼はまたも見てもいない崖の様子を知っている。そう、落ちるのだ……。
彼は崖の淵に生えている1本の木を見つけた。
あの木だ!
彼の記憶に助かる映像が呼び起こされる。眼前の木の左側を指差す。
「あそこだ!」
彼は叫んだ。
ガクン!
地面をなくし、ほぼ垂直となり、車は崖を落ちてゆく。ジェットコースターのように、いや、もっとスリリングに。彼は必死に車のシートにしがみつき、衝撃を待つ。
ガガガガタン!
強い衝撃と共に車は……地面へとたどり着いた。
あの追突して来たワゴンとバスは、彼らのわずかに右側を通り、そのまま崖を落ちてゆく。深い谷底へと。
あの1本で立つ木。あれが地面と谷底への明暗を分ける境界線だったのだ。
魂の落ちるようなため息をはき、夫婦は車から降りる。その車の落ちてくる様子を見ていた子供が夫婦のもとへと走ってくる。抱き合う親子。
「無事だったのね、よかった」
だが少年はそれに答えず、母親のお腹に顔をつけたまま涙をふくように首を振る。
よく見れば、その場にいるのは子供達10人あまり。クラスで来ていたはずにしては人数が少なく教師もいない。
何があった? 問う母親の声に、彼の記憶が呼び起こされる。発症した子供達は、凶暴化することなく、何故か自ら深い川底へと身を投げていった。あんなものになりたくない。そんな子供達の叫びと願いが聞こえた気がし た。
彼はキャンプカーの上で何かの機械を動かす。科学者である夫婦に渡された物だが、彼にはそれが何であって、どうやって使うのかもわかっていた。
全て前に一度見たのだから。何故かそんな余裕が彼の中で生まれてくる。一度目はそんな余裕はなかった。何度も死を感じて恐怖していたのに。
彼は機械のキーを押しモニターを見る。mn- mn-
エムとエヌの羅列。それが何を表しているのかは知らない。だが意味はわかる。mとnだけなら未感染。確かそういうことだった。
続いて彼は子供達の乗って来たと思われる2台のバスを調べる。屋根に上り、機械を繋げモニターを開く。mとnにまざってyやrの文字。
やはりダメか。
1台調べるととなりのバスへ。こちらも混ざっている。すでにこの車中は遺伝子の変貌が起こってしまう環境らしい。
その結果もわかっていた彼は落胆する様子もなく、夫婦に告げる。使ったこともないはずの機材の扱いや、この状況での冷静さ、現状への情報量に驚きはじめる夫婦。彼が一般人ではない、と解釈していた。研究者や、情報局の人間だと。
だが彼は一般人だ。ましてや1回目の時は間違いなく。
子供達をこの場に残したまま、夫婦と彼はキャンプカーに乗り、助けを求めに行くことにする。
下手に外へ、この外界から離れた安全地帯を出ては危険と判断したから子供達は置いてゆく。
壁の削れた浅い洞窟のような場所に、子供達に隠れるようによく言い含める。
「絶対に助けるから、信じて待ってろ!」
ここにいれば少なくとも回りから襲われることはない。彼はそれを知っている。
「こんな風な青いあざには気をつけろ。発症の合図だ。これがでたら24時間後には死ぬ」
彼は自分の左腕を見せる。そう、彼もこの時すでに感染していたのだ。
しかも、24時間後には死ぬことも知っている。
だが、彼はさらに知っていた、自分に未来があることを。
「必ず24時間以内に抗体を作って助けてやる! だから信じろ」
彼は子供達に強く言い、キャンプカーに乗り込んだ。
※※※※※
「もう朝だぞ、起きろ」
起こされた。
いいところだったのに。
まだ続きが……いや、最後まで見たかった。いくら前にも見たことある気がする夢でも、ここまで見たら最後が気になるじゃないかぁ! でも仕方ない。しぶしぶ起きた。いや、寝てるのがまずい時間なんだけどね。
※※※※※
この先に、彼らは大きな研究所に行き、沢山の科学者達と急ピッチで分析研究を進め、翌明け方にはなんとか抗体を完成させた。
残して来た子供達の元に戻り、抗体を注射して、町もしだいに静かになり、事件はこの日のうちに解決した。
みたいな感じだったと思う。さすが夢落ち、超速解決。
1回目のスリリング感と、2回目の余裕感、両方味わえてなんだかより面白かった。
こんな夢見ちゃ起きられないよ…映画見てた気分。




