一人の天才 サン・クリスター(仮題)
かつて、天才と呼ばれた者たちがいたように、現代にも一人の天才がいた。
サン・クリスター。
絶対に不可能だと言われていた時間を移動する機械をつくりあげた。
そしてもう一人、サンの友人となる重要な人物。
ハヤセ(早瀬)・エイザキ(栄崎)。
生物学の研究者である。(菌や、胞子つまりきのこなどの研究をしている。)
クリスターは時間というものを一つの次元にのみ働きかける力だと考えた。
その次元を抜け出すことにより時間という制限に一切とらわれないことが可能になると。
過去というものに対しては人々はある程度の理解を持っていた。
それは誰もがその体験により持ちえたものだからである。
だが、人が過去を思い出すと言う行為はあくまでも、脳内の記憶を読み返すという現在の時間の流れの中にあるものであって、決して過去へ遡ることではない。
そして未来に関しては今その瞬間に存在していないものであり、過去の多数の情報をもとにある程度の予測をすることはできたとしても、現実には存在しないものである未来というもの、その実態を知ることは不可能である。
つまり、この世界に存在するすべてのもの、人を含めた生命体、物質、もしくはこの宇宙と言う空間を起点とする同じ時間という流れの中にある世界、そのいずれのものもこのわれわれの存在する次元を越えることは不可能であり、時間を自由に行き来することはどんな機械をもってしても絶対にありえないのである。
遠い昔より夢見られたタイム・マシンと言う機械。
しかし、それを学ぼうとする者は必ず、この定説と戦わねばならなかった。
そして、その常識を打ち破った者は今だ誰もいない……。
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タイムマシンを作成した主人公。
実際の過去を変えてしまうと大変なので、過去の情報だけを読み取って仮想世界を作り出し、意識を過去に移動できる装置が広く一般に販売された。
歴史を体感する。人生をやり直す。もしもの世界を体験できる。
その装置は瞬く間に世界中に広まり、高評価を得ていた。
しかし、その装置は人々の行動の一つ一つを情報として収集すると言う、別の役割も持っていた。
仮想世界において、盗みを働く、殺人を行う、欲望のままに性犯罪に走るなど、罪を犯す者を調査し、監視する機能を備えていたのだ。
ゲーム感覚で犯罪を繰り返す者には秘密裏に調査員が送られ、些細な事由で警察へと連行されていった。
不安を持った民衆は、この装置を生み出した者を全ての元凶として導き出した。
そう、タイムマシンを作成したサン・クリスターに人々の激昂は向けられたのである。
仮想世界でのクリスターの殺害件数は秒を追うごとに上昇していく。
彼女を科学界の至宝と考える各国の研究機関は、クリスターへ安全な場所へと身を隠すことを勧めた。
どこよりも安全な場所、それはクリスターのみが所有する、タイムマシンの原型、肉体ごと次元を突破できる装置を利用した、現在世界からの脱出だった。
「無理ぃ」
サン・クリスターは小さな声で反論する。
「なぜだ、あの装置はあなただけにしか使えない。絶対的に安全な場所へと避難できるんですぞ」
研究職の要人達が、次へ次へとクリスターに呼びかける。
「でもやだぁ」
泣きそうな声でクリスターは答える。
声の様子から幼さを感じさせる彼女はまだ、国際科学研究大学の、大学院部の学生だった。
「どうしてそう、否定ばかりするのですか!?」
もはや苛立った程すら見せる要人達に、クリスターはついにメソメソと泣き出した。
「だってあの部屋、使えないもん」
「使えないとは?」
「きのこ生えてる」
ーーそうしてクリスターは生物学の研究者、早瀬・栄崎と共に次元突破装置の元へと急行した。
クリスターの室内を乗っ取るように、部屋全面を埋め尽くす植物の数々。
「太古の世界に次元を繋げたら、次々植物が生い茂ってきて。もう、手に負えないのよ」
グスンと涙声でクリスターが語る。
「こ、これはっ! 絶滅した植物ばかりじゃないか!!」
栄崎は喜色を浮かべてカメラのフラッシュを焚いた。
(※クリスターは冷静で潔癖な設定だったのに、なぜ子供っぽい性格になったんだろう。)




