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入れ代わり英雄譚~主人公は異世界に行きヒロインは現実世界に行きました~

入れ変わり英雄譚 ~主人公は異世界にヒロインは現実世界に行きました~ 異世界編

作者: 臆白澪空

12000字と長いです。


休み休みと読んでいただければいいと思います。


『君の◯は』面白いですよね


次の投稿は異世界編です


短編なのに続きます。

 


―――目に焼き付いて離れない光景がある。

 そう、誰だってそういう経験があるはずだ。

 

 そう前置き、俺は回想にはいった。


 特に意味があるとは思えない光景は覚えない。

 でもふと目についた光景を目にした途端自身の見える世界が変わることがある。


 ただ、それは少しの変化だ。

 その変化は他人からすれば何でもないただの日常かもしれない。

 でも美しいと思えたんだ。

 その笑顔が、その決意が、意思が。


―――たとえそれが炎の記憶だったとしても、その人の終わりの記憶だったとしても、それは―――



――その光景は目に焼き付いて離れない。








Side 真鍋 凪(異世界)





 『俺のせいだ』と誰かがいった。

 誰もが自己犠牲に浸っている、誰もが悲劇を望んでいる。


 そして俺もきっと自分のせいにしてどうしようもない現実を逃避している。

 

 俺が殺したと嘯く妹を、

 どうしようもなかった自分自身をただただ責めていた。









『新着メールがあります』




 すべてを投げ出した7月、俺はベットに突っ伏しながら真っ暗な室内で光るメッセージが目に滲みた。


 不登校になってから早数年、というか数えてないから何年なんてわからなかった。


「……今何…………時?」


 寝ぼけ目を擦りスマホの光に目を向ける。

 無機質な時間表示で『-pm 7:30』と表示される。


「もう……午後か…」


 気怠い体は動かない。

 動けないことはないがしばらくは動けないだろう。

 その理由はどう考えても過睡眠だろう。



 熱が籠もった室内はむせ返るほど空気が悪く、換気しようにもやる気にもならないが。


 でも流石に12時間は寝すぎたと思い後悔する。

 ふて寝をしたら寝すぎただけなのだが。


 ふと寝る前のあの事を思い出してしまう。


『いい加減出て来たらどう。妹だってそんなことは望んでいないわ。』



 久しぶりに帰省した叔母の言葉だった。

 毎年夏になったら帰ってくる叔母は形容し難い美女で海外を飛び回っている仕事人間だ。



 昔は叔母のことは大好きで家に帰ってきたときはよくいろんな所に行った、妹と一緒に。

 でも妹が死んで。最近は帰ってきても口を聞かず無視していた。その度俺の部屋の前で何か言っていたが聞いていなかった筈だ。なのにその言葉だけ聞こえた。

 で、俺は激昂した。

 うるせえ!とか知らねえ!とかそんなことを言っていた気がするがもう覚えていない。


 あんなに声が出るとは俺も知らなかった。


 怒鳴ったあと喪失感が胸を抉った。

 ただ叔母そのあと何も言わず去っていた。


 そして俺は現実から逃げるようにふて寝した。




 そして今の状況だ。

 思い出したくないことを思い出してしまい思わず顔を顰める俺。


―――ふと、思い返すと。


「あ、そだ。メール…………」



 あれ、でも俺のメールを持っている奴なんていたっけ?

 妹は当然。

 叔母は……今どき携帯持ってない人間だから。

 学校の友達は引きこもった時に全部消した。


 妹の友達はあの日から音信不通だ。


 じゃあ誰が…………





 不信に思うがとりあえずメールの着信画面をタップした。


 電子画面にはこう書かれていた。



『君は何でそんな世界(とこ)にいるんだい?』


―――?……何を言っているんだ?


『君は生まれる世界を間違えているんだよ。もっと相応(ふさわ)しい世界で相応しい出会いがあったはずなんだ。』


 ゲームの売り文句?でもならなぜメールで……



『まあそれはもう解消されるからいいか。では単刀直入に言わせてもらおう。君に―――』



 君に、なにが言いたいんだ?

 だがメールはここで終わっていた。


「何なんだよこれ……チェーンメールにしては……悪………………質……」


 すると耐え難いほどの眠気が襲ってきた。


「……は……………なに……これ…………じょうだんじゃ……ねえ……」


 その言葉を言い切る前に俺の意識はシャットアウトしていた。







―――う


―――じょう


―――嬢



「―――お嬢!!なにボーッとしてんだよ!?師匠に怒られんぞ!?」

走るように急かす荒々しい少女。


「…………は?」


 太陽は熱く、照りつけその位置は真上のため正午と思われる。

 場所は外、訓練のためか天井がくり抜かれた道場のような広場のようなとりあえず開けた場所にいる。少女は剣は似つかわしくない程美麗で太陽みたいなイメージが湧いた。



「何が『は?』だよ!?お嬢ほんとに師匠にぶち殺されるぞ!?おい?お 嬢 !聞いてんのか!?おい!!」


 口調も荒々しく師匠とやらは怖そう、だが……



「マジか……これって異世界転移って奴じゃ……」

頭に手を当て困った顔をする()()


「お、おい……本当に大丈夫か?さっきからブツブツ言ってるけど……確かにいつもぶっ飛んでるけどついにぶっ壊れたかお嬢?み、水飲むか?」


 打って変わって心配しだす少女。差し出される竹筒の水筒。

「お、おうありがとうな。」

 それを受け取り感謝を口にする()()

 だが――

 溜まった水面(みなも)に映し出されたのは()()




「あ、あのさ」

 焦った表情で()()は問うた。


「なんだ?お嬢、そんな変な口調で。らしくないぞ?いつもみたいに腹減った、とかいわねえのか?」


 目を丸くして意外という顔をする


「俺のことを()()思う?」

 曖昧な質問に少女は


「ど、どうって……脳筋美少女……か?」

 訝しげに答えた少女

「いや、最初の脳筋には突っ込みたいところだがそれよりもッ!美少女?」



「おう、頭からつま先まで美少女だ!」

 その飽満な胸を張って答える少女。


 その水筒の水面には()()()()()()()()()()()()()()()が写っていた。



「これ…………マジかよ……」


 たぶん、というか確実に……



「美少女と入れ代わ―――「なぁにサボってんだ雑魚娘ッ!!!死に晒せェ!!この穀潰しがァ!!!」ってぶぐふぉっ!??」


 突然現れた白髪の爺さんが俺をクズ切れかのようになぐりとばした。


 錐揉み回転しながら俺は、

(――そういや………師……匠って…………あの人が……………………いってた…………な    。)


 最近嫌になるほど多い寝オチが俺を再度おそったのであった。





/幕間





『どうしてこうなったんだっ!』


 悲痛の声がした。

 彼女は誰よりも頑張っていたことを俺は知っている。


 彼女に何か声をかけようとする。が、声は出ない

 こんなにも言いたいことがあるのに、俺は何も言えない。


 なにも なにも なにも なにも なにもっ!!


 なにも言えなかった…………

 あのときも…………妹は……

 妹は虐められていたのに気づけやしなかったッッッッ!!


『でも、ボクはすべてを救いたかったっ!!』


 彼女はひしゃ枯れた声を上擦らし、

 無くなった四肢を引きずり、

 潰れた片目を瞑り、もう片方の目で敵を睨みつけた。


 彼女はどうしてそこまでして頑張るのだろうか。



『ボクは―――』




 この後彼女はなにを言っていたんだっけ……





/幕間








「―――ん、あれ?俺はなんでここにいるんだっけ?」

 目を開けると横向きの視界。



「お、起きたかお嬢!!」


「あ、おう……路地裏で雑魚寝かよ……」


 目覚めたそこはさっきの天井がない道場?の近くのようだ。


「すまねえな!お嬢……近くで寝かす場所がなくてな……」

 元気だった顔がしゅんとなってすこし可愛―――じゃなくて!!

「いや全然いい。それよりも俺はどれだけ寝てた?」


「おう三十分くらいだ。というか珍しいな、師匠の拳骨くらうなんて。」


「そ、そうだな。ってそういや師匠は?」


「ん?いつもは師匠のことエレ爺って呼んでるのに。ていうか俺?」

「い、いやあ!違う私?」

 首を横にふる。


「僕?」

 首を縦に振る。

「お、おう?なんだ、なんかおかしいぞ?お嬢。」

 さも当たり前のようにキョトンとしているがお前のことも全然知んねえんだが。

「さ、さあ気のせいじゃない」

 こっちを訝しんで見る少女。


「それより、師匠ホントに厳しいよな。」

よかった話がそれた

 その修練服みたいな戦闘衣戦闘衣(バトルクロス)を揺らし人懐っこい犬のように話しかける少女。

「あ、ああ……師匠ってあのすごい動きで殴ってきた人か」

 即座に答えるが、やはり返答に違和感が出てしまうか……


「どうした?そんな初めて師匠の拳骨喰らったみたいな反応は……」

「……………………」

 図星なんだよなー。


「それにいつもだったら避けてそのまま一戦おっ始めるだろ?らしくねえぜ。」

 訝しげに問う少女、その表情には困惑の色が出ていた。

「何か隠してろだろレイ。」

 そしてつぶらな目でこっちを見つめてくる少女。

 というか俺ってレイっていう名前だったのか。


「うぐ……」

 不自然にキョドる俺。くっそ隠し通そうと思ってたのに……


「俺の名前は?」

 知らねえ!お手上げじゃねえか!?

「わ、わかった。言うよ!言う言う!!」

 先に音を上げたのは俺だった。










「―――記憶喪失ゥ?」

 更に険しい顔で言う少女。


「お、おう。いつの間にか記憶が無くなって立ってわけだ。」


「ふーん、そっか。」

 すこし訝しんだが一応納得したようだ。


「ま、何かまだあるようだが。とりあえず、

 ―――俺の名前はクロエ。クロエ・レンツだ。よろしく」


 そう言って手を差し出してくるクロエ。

「え、でもいいのか俺はお前の知ってるレイじゃないんだぞ?」

 躊躇って手を取れないでいた。

 だが―――「記憶は失っても根っこはだろ?なら大丈夫!それに今のお嬢も結構好きだしな。」


「―――ッ」

 言葉が詰まった。


 (俺は根っこまで俺だ。)

 でも彼女の知ってるレイはここにはいない。

 でもクロエは俺を好きだと言ってくれた。

 なら―――

(なら俺も言わなきゃな。)


「実は俺、記憶喪失じゃなくて」


「―――おいおいおぃ!こんなとこに良いカモがいるじゃねえか!!!」

 遮るように乱雑な声が響いた。

 驚いた顔でその声の方向を向くと、二人のチンピラがいて、


「っはん!まだ子供じゃねえか!!こんな裏路地で運がないなあ。おとなしくしてれば命だけは助けてやるよ。」


 怒鳴り散らして脅すチンピラA。


「おいおい流石異世界こんな早くカツアゲに出くわすとはな。」

 身振りでやれやれと手を振った


「ん?何だコイツ?なんでこんなに偉そうなんだ?」

 チンピラBは俺の雰囲気を疑問に思ったようだ。


 (何故そんなに強気だって?…………そりゃ、見るからに強そうなクロエが一緒にいるからだろう!さあクロエさんやっちゃってください!!)


 というか感じにクロエを見る。

――が、

「…………」

 怯えたように縮こまるクロエ。さっきの態度とは打って変わってどこか弱々しかった。


「………………クロエ?おい、大丈夫か?」


 問いかけるがクロエは答えない。


「おい、クロエ!」


「―――お、おう……」

 白昼夢から冷めたようにはっとするクロエ。

 一応おちついたようだが息は荒く肩を抱えて震えている。


「でも…………これはやばいな、クロエがこんな状態じゃ…………」

 そう、会話の合間にもジリジリ近づいてきていたチンピラ二人組。


「観念しな!!ガキが!」

 がなりたてるチンピラA。


「ヘヘ!!その後ろの女は俺達が可愛がってやるよ!」

 イヤらしい顔ですり寄るチンピラB。


 (うわあ……ドン引きですわ……コイツロリコンかよ。しょうがない、俺が命をかけて守るか……もしくは―――)













「――君達はなにをしてるのかな?」

 俺の思考を遮ったのは軽装の金色の女騎士だった。












「―――ッ!?」

 目を丸くして驚くチンピラB。


「て、テメェ!?いつからそこにいやがった!!?」

 また声を荒げて吐き捨てるチンピラA。




 

 金色の女騎士はその向日葵の髪を揺らしそのキュッと締まった腰に挿した剣の柄に手をかけた。


「君たちにも抗う権利はある。だが私は騎士でねそういう蛮行は当然ながら見過ごせないんだよ。だから、無関係の市民と戦わせるくらいなら、―――私が相手になるよ?」



 その文句を言うと間髪入れず腰の剣を抜き放つ。



「く、くそ……やってやらあ!!!」


 やけを起こしたようでおもむろに懐のナイフを取り出しこちらも抜くチンピラA。


「お、おいやめろ!!?コイツは……!」

 止めようとするも間に合わず取り残されるチンピラB。


 そして、間合いも考えず飛び込むチンピラA。


 だが、その初動は異様に早かった。

「はっ!驚いたようだな!これは俺のギフトスキル『初動速補正』だ!!」


 人の身とは思えない程に加速し突貫するチンピラA、

だが「見き切れないとでも思ってた?」

―――と、

 その最低限の装飾を施した剣の切っ先でその異常な刺突を受け止める。



「―――ッッ!まだ……」

 だが食い下がるように2撃、3撃と追撃し下段切り、剣を交差させ編み込むように下に斬り込むがその剣撃は彼女の受けによってすべて完封された

(マジかよ、何だこの応酬。こんな路地裏でやる剣戟じゃねえぞ?)

と、その剣戟に賛美を贈る。

 彼女の剣撃はまるで剣の華、花弁のごとく繊細で美しくそして薔薇のように触れると傷を追ってしまう攻撃性と優美性をかけ持っていた。

そう、ただけっしてチンピラBの剣が未熟な訳ではない。

この女騎士さんが強すぎるのだ



「やめておくといいよ、君。君と私とじゃ次元が違う。」


 膝を付くチンピラA。


「そ、そんな強すぎる……」


(くさい台詞だな……)

 まあチンピラにそんなこと要求するつもりはないが。


 疲れからか自慢のナイフ捌きを軽くあしらわれたからか息消沈といったふうに肩を落とすチンピラA。


「に、にに逃げるぞ!!」

「お、おう!!」


 慌てたふうに走り出すチンピラAとB。


 スキル『初動速補正』がまたもや発動していた。

 (逃走と戦闘両方使えるのか。結構便利だな。)

 と初めて聞くギフトスキルというか言葉にそんな思いを寄せていた。

 (でもそんな奴がどうしてこんなことしているんだ?)






「逃がすと思う?」




 もちろんそれを逃がす彼女ではない。


 彼女は剣を構え、詠唱した。

「《赤の薔薇、聖なる星々よこの剣に宿りて打ち砕け》

【ブラッティローズ】」


 すると彼女の剣から鮮血のように紅い薔薇が生える。その棘を、蔓をうち慣らして伸びた。そしてその蔓はチンピラ二人組を絡め取り、引き寄せた。そして薔薇で球体を作り絡めて行動不能にした。


 チンピラ二人組は完全に伸びているようだった。


 これにて戦闘は終了した。


「ふう………………結構手こずったね。この野盗、普通に傭兵とかすればそれなりに稼げるだろう?」

素朴な疑問を呟く女騎士さん。



 呆気にとられて口を開ける俺とクロエ。


 するとこちらに気づいて話しかける女騎士さん。

「ん、君たち大丈夫か?私の見回りが偶々ここを通って良かった。私はあっさり倒してしまったが、彼らは手練だよ。私が来なかったら危なかったよ。」


「あ、はい。え、でもあなたは私服ですよね?」

 俺は違和感を口にした。


「それに気づかれてはしかたないな。」

 おどけたように答える女騎士さん。


「私は今日は非番なんだがな日課の見回りがあって、我ながら仕事中毒だと思うがね。」

 自重気味に答える女騎士

「全然いいと思います。すごいとと思います!自分の正義ためにやれることをできるだけやるのはすごいことだと思う!!本当に。」

 なぜなら妹もかなり正義感が強かったからだ。

 それに――


(――?、それに?別に何でもない所で引っかかってしまう。そういう誰かがいたような…………? ―――まあいいや。)


「そ、そんなに褒めてもなにもでないよ?」

「い、いや俺も今のはすこし引きますよね。」

 はっとすると、熱くなりすぎたと反省する。


「―――でも」

 ふと、すこし躊躇ったように言う女騎士さん。

「でも?」


「敬語はやめてほしいね、堅苦しいのは嫌いだ。」

 その美麗な顔を赤くして、お願いする女騎士さん。


「わ、わかった、そうするよ。えーと……」


 そういや名前聞いてなかったなと俺は思い言い渋った。

 「―――リース・グリッド。リースでいいよ。」



「ん?そういやクロエが話に入って来ないな……」

 疑問を持ち、あたりを見回すと。


「お、おい!こいつら大丈夫か!?顔が青いし手がめっちゃ冷てえぞ!?」

 一人離れて薔薇の塊(+αチンピラ二人組)を心配して薔薇を解く青冷めたクロエがいた。



「――あ、忘れてた。」

 (リースさん、結構うっかりなのか?)






「この薔薇は【ブラッティローズ】といってこの薔薇の蔓に触れた者の血を吸い取るんだ。」



 あのあとリースさんは蔓を消してチンピラを騎士団に突き出した。その時のリースさんの仲間(上司)に非番の日まで仕事してるなんて俺が上に怒られるぜ!?と言われたが……


 今はなんとなく一緒にいる。


「僕のギフトスキルは『蒼紅之薔薇(グレイクリムゾン)』といって詠唱に応じて赤と蒼2種類の薔薇を武器に付与(エンチャント)できるんだ。」


 掻い摘んで話してくれるリースさん。


 でもそんな大事なこと話していいのか?

「へえ、でさっき使ってたのは赤の方だったのか。」


 (そういや、エンチャントってのはそんなことそんなこと(植物を付与)までできるのか?俺の知っている付与ははそこまで便利じゃないんだが。)


「そう。赤の方の薔薇は触れた者の血を吸い取るんだ。まあこの付与はギフトスキルによる特殊付与だからね。」


「特殊付与?」

 俺は首をかしげた。


「特殊付与ってのは基本属性以外を付与することだよ。」

 俺の疑問を解消してくれるリースさん。


「そっか…………」

 (やっぱり付与とかを聞くとこの世界が異世界と再確認できるな。でも何故そんな大事なことを俺に?)


「ふむ、君はどうしてそんなことを俺に?って顔をしているね。」

「うん、まあそう。」

 顔に出ていたか?


「それはね……」

 ごくりっ、とつばを飲む俺。

 だが身構えた割には意外な言葉が帰ってきた。


「なんとなく、だよ!」

 まさかの第六感(なんとなく)だった。




『…………』


 会話を神妙に聞いていたクロエまで絶句していた。


「いや、まあそうなるよね。でも私は自分の感を信じてるからね。君が()()()()()()()()()()()()()()()()()()感をね。」



「は、はあ……」

 俺はわけがわからないという顔で首かしげた。


「まあ、私は『第六感』っていう技能スキルを持ってるからね。案外馬鹿にできないよ?」

 (技能スキルってのはなんとなくわかったが、リースの言っていることは本当だろうか。)

「それが本当だったら洒落にならないんだが……」


「ふふっそうだね。おっともうそろそろ時間か……ちょっと用事があってね。では。」


「そ、そっか。またな。」



思い出したように出ていくリース。


()()()()()ね?」

そう言って去っていった。




「何なんだアイツ。まあ助けてくれたし悪い奴じゃないのは確かだけど……」

 眉を寄せて去っていった方を見るクロエ。

「……まあここにいると野盗に襲われるかもしれないし出ようか。」


「…………おうそうだな」

 まだ訝しむクロエだったが、まだ手が震えていたのを俺は見逃さなかった。







 その後、路地を出たあとすぐに道場が見えた。


 一応何で路地裏に寝かせていたのかクロエに聞くと、師匠がすごい剣幕で気絶している俺を切るぐらい怒っていたから逃げてきたらしい。


(……冗談だと思いたいが。)








「まあそんなこんなで道場に帰ってきたよっと。」

「なァにブツブツ言ってんだァ?サボり魔ァ!!」


 そして当然怒っている師匠、もといエレ爺。



「すまねえ、師匠。お嬢はどうやら記憶喪失らしいんだ。」

 クロエは弁解してくれるらしい

「記憶喪失ゥ?嘘付け!どうせいつもどうりサボってたんじだろうが!?」

 その皺の刻まれた顔で怒鳴り散らすエレ爺。



「記憶を失って混乱してただけだって!証拠にいつもなら師匠の不意打ちなんて余裕で避けるだろ?」

 落ち着いて弁明するクロエ。


「うむう……確かにあれはおかしいかったが……………」

 この体の子結構脳筋だな!?

 師匠の一撃はさっきのチンピラ二人組やリースの薔薇より明らかに速かった。

「そんなことがありうるのか?」


「この世界のギフトスキルならできると思うぜ。」

 クロエがそう言うと師匠は考え込み。





「つまり邪竜教の仕業ってのが濃厚、か。」

 なんとか信じてくれたようだ。だが、


「邪竜教?」

 聞いたことのない単語を耳にして聞きかえす


「ふむ、これは演技ではないようだな……レイが目の敵にしている邪竜教を知らないなんて演技でもせんわな。」

 納得したように頷く師匠。


「邪竜教ってのは各地で暴れてるっていう害悪集団だ。」

 クロエが説明をしてくれるが。

(……害悪て……言い過ぎじゃね?現代で言うテロ集団みたいなもんか。)



「そしてお主は何故か邪竜教を恨んでおってな、その理由はついぞわからんかったが………………」

 ううむ、と唸る師匠。

 だが俺はその言葉に答えることはできず俺は黙り込んでしまう。

「でも、まあそれはおいといて今後の話をしようぜ。」

 空気を切り替える意味で話を変えるクロエ。


「今後、つっても何すればいいんだ?俺……」

だがそれはそうだ。

(入れ替わったはいいものの戻れる方法なんてあるのか?やることってこの体俺のじゃないんだよなあ。)


 俺の思考と裏腹にこの師弟子には同じ考えがあるようで――

「「修行だろう!(買い物だろ!?)」」


(前言撤回。

―――お前ら足並み揃わなすぎだろう!?)








 二人の意見はきっぱり見事に割れたがこの後の大論争の結果どちらにも利があることが決まり結局、ジャンケンで決めることになった。勝ったのはクロエだった。


 なので―――



「はあ、なんで異世界まで来てショッピングなんだ…………」

 そう言い俺はため息を吐きトボトボと歩いていく。


「おーい!レイー!!」


 さっきの戦闘衣から着換え白を基調とした可愛らしい格好で服屋から手を振るクロエ。

 (可愛すぎかよ…………じゃなくて、)


「なんで買い物、それも服なんだ?」

疑問はそこだ。


「お嬢の私服がダサいからだろ。」


 (ストレートだな……まあ俺には関係ないけど!)


「まあお嬢は脳筋だからな。服なんて鎧で十分って言っているくらいだからな下着も上は『動きずらい』って言ってつけてないし。俺は何度も言ったんだがな…………」

 遠い目をして話すクロエ


「だから記憶喪失のうちにってわけか。」


「そういうことだ。」

 ニカッと笑うクロエ、八重歯が出て可愛い……

 おっと話がずれた。


「じゃあ行こうぜ。お嬢!」

 手を引くクロエだが、(クロエって話し方と趣味とか服装とかちぐはぐなんだよなあ……)

「わ、わかったよ。うう……」

 (そういえば妹もこんな感じに買い物に誘ってきたよな。)


「…………」

 すこし複雑な顔をする俺にクロエは気づかなかった。













「ふう、疲れた。」

 この体に疲れなどは感じる隙もなく鍛えられているが、心労のことである。

 (というかこの細腕にどれだけの筋肉があるんだよ!?)

 流石異世界。

 スキルとかなんとかで弱そうな女子が筋骨隆々の巨漢に勝てるような世界、それが異世界っていう認識はこの異世界とも変わらないのだろう(ソースはこの体)




 閑話休題





 という思考に見を預けながら俺は去っていったクロエのことを思い出す。


『すまねえ、ちょっと市街長から呼び出し喰らっちまった。またな今日は夕方まで会えねえからよ。適当にぶらついといてくれ。』


 といい。銀貨3枚ほどわたし去っていった。



 (と言われてもなにしようか?)



 買い物途中で知らない町にほっぽりだされた俺。

 


「うーん、結局服しか買わなかったし。」

 しかし俺が入れ替わる前に雨が降っていたのか水たまりがあった。それを覗き込むと一人の少女が写った。

 (まあ俺だけど。)

 我ながらこの少女はものすごく綺麗だ。


 さっきの道場で着ていた。道着風の白一張羅のときも思っていたがそれにしたってクロエの服選びのセンスはすごい。クロエはこの美少女を一層際立たせる服を選んでいた。


 それはいいとして。

「本当にどうしようか?」

 と言って辺りを見回す俺の目に入ったのはアルグリーノ図書館と看板に銘打った建物だった。


「…………入ってみるか?」

 なんとなく惹かれいつの間にか足を運んでいた。









「お、図書館っぽい匂いだ。」

 入館料は銀貨一枚。しかもそれは保険料で出たら返してもらえる。と受付の人が言っていた。


 ズラッと本が並ぶ棚の間を歩いていく。



「へえ、『アルグリーノとその歴史』か。」

 (そういやこの街のこと知っていたほうがいいかもな。)


 そう思い、今日は暇なこともあり本に目を通すことにした。











 アルグリーノの始まりは約二百年ほど前に遡る。

 この土地はもともと邪龍の住処として諸外国に知れ渡っていた。年中瘴気が充満していて、竜殺しの英雄すら近づけず誰もころアルグリーノには近づけなかった。


 たった一人を除き。


 それは後に【真の勇者】呼ばれる、神から遣わされた一人の少年だった。


 【真の勇者】は『瘴気無効』というギフトスキルを持っていてその住処に近づくことができた。


 だが、邪龍は少年一人では戦うこともできず敗北してしまう。そして少年は命からがら逃げ帰った王国でも散々馬鹿にされる。でも彼は諦めはしなかった。


 瘴気はその土地近くの国にも蔓延していてその国の更に小さな村に影響が出てしまうからだ。そこには少年のたった一人の家族、妹がいた。大事な人を守りたいたったそれだけ。


 でも、少年には打開策がなかった。


ただ、それを救った一人の少女がいた。

王国の姫君だった。



 少年と同じく邪龍に危惧を抱いていた少女は少年に力を貸すことを決意し、だがそれでも瘴気の壁は厚い。少年以外は瘴気の影響を受けてしまうからだ。でも少年は自身で『瘴気無効』を人に付け加えるギフトスキルに昇華させ、それを使いアルグリーノに邪龍討伐隊を組み送った。

 その中に少年と姫君の少女がいた。


 少女は『剣聖』のスキルを持ちその恩恵で邪龍と戦える数少ない人材だった。



 そして少年は邪龍を討った。

 その様子は詳しく記録されてはいない。だが、邪龍が討伐されたことはわかった。なぜなら、その草木も生えないアルグリーノの土地に瘴気が無くなったどころか、邪龍の死体は土地に潤いを与えその土地に加護を与えた。


 その土地を姫君の少女は街とし今のアルグリーノの街となった。

 【真の勇者】はそれ以来歴史から姿を消したらしい














「……ふう、なるほどそんなことが。」


 本を読み終わってそんな感想が出た。


(でも、この物語すこしどこかで似ている物を聞いたことがあるぞ?)


 そんな記憶前の世界ではなかった筈だでもこの違和感は―――












『ッガガッッッガッッガッガガガッガッガガ』





 ふと目の前に目のない上半身は人間、下半身は肉塊。


 これだけだとケンタウロスを思い出すが、その姿を見るに恐怖を植え付けるほど醜悪な見た目だった。




「―――ッな、」



 なんだコイツ、

 というまもなくその肉塊を鞭のように伸ばし一閃

 なんとか避けたが足が掠ってしまう。

「痛つッマジかよ!?コイツ!」


 俺は悲痛の声を上げる。

 だが棚を利用して逃げる、だが棚ごと切り裂きこちらを切り刻まんとする鞭


『ガガガががががっががあっががっががががg――』

 奇声を上げ迫る、肉塊ケンタウロス。



 くそッ!こんなとこで死ねるか!!

 俺は――

「俺はこんなトコで死ねない!」


―――何故?

 何故俺は死ねないんだ?



 だがそんな思考には関係なく追ってくる肉塊ケンタウロス。



「誰かッ!」

 閑散とした図書館。

 当然誰もいない。


「うっ!」

 突然の頭痛、なんだこれ!?


「なん、でこんな時にッッ!?」


 冗談にならない程の頭痛。

 だが肉塊ケンタウロスは迫ってくる。


「―――あ」

『ガガガががっガガッがガガッガガガ』

 鞭が唸る。

 彼の柔肌を真っ二つにしようとし。














 迫る死、時間が凝縮され死が更に濃厚になっていく。








「あっああああああああ!!」


―――咆哮する俺。

 だが状況は変わらない








 バンッ!!









「――るせえな、黙ってろ。そのほうが良いと思うぜ。」


 そして銃声、


 目はないが肉塊ケンタウロスの顔面を撃ち抜く。

 だが肉塊ケンタウロスの動きは止まらない。


「へえ、根性はあるってか?でもそこは死んでいた方が見のためってもんだぜ?じゃねえと――」


 男は銃をリロードし、こういった。



「さらに痛みが増すだけだぜ?」


 男はこう言い放ち、二丁の銃を肉塊ケンタウロスに向けた。









「やっとこさ動かなくなったか。でもこんな図書館にどうして化け物が?……まあいいや。」


 死体を見下ろし化け物がしんだことを確認する男。

 その手には銃が二丁握られていた。


「【反転する銃弾(フワイト)】はともかく【炸裂する銃弾(ブラック)】まで使うとは生命力が半端じゃねえな。」

 と飄々と口ずさむ男、

「ん、そういや襲われていたボウズがいたっけ?」

 そう言い辺りを見回す男。


「おっといた。ん?気絶してら。まあいっか。さっ。ずらかるとするかね。」

 彼を放置しようとする男。だが、










「――と、止まってくださいっ!!」











「いつからそこにいた?」

 目を細め問う、男。



「う、うるさいですよっ!!」

 問答無用なようで、声を一生懸命張り上げる黒髪ストレート幼女。

「図書館を荒らすなんて許せません!!このユーリティト・オグリットがあなたを拘束して騎士団に突き出しますっ!!」

 無い胸を張り高らかに宣言する幼女。



「へえ、面白いことになってきたじゃねえか。」

 普通は面倒くさい状況なのだが男、ショウゴ・クロダは不敵に嗤った。


「行きますッッ!!」


「はっ!ご丁寧にどうもッッ!!」






 図書館の妖精と世界最強の義賊、がここで出会った。


 




 そして我らが主人公の少年はというと――






/幕間




「どうしてこうなったんだ!!!」



『それは貴様が足でまといを守ったからだろう?』



「でも私はすべてを守りたかった!」


『傲慢だな。』


「でも、目の前の悪逆を見逃していい理由には――」


『なる、貴様が我を殺していればこの街人間以上の人間が救えただろうに。』


「そうか、僕は愚かだったのかもしれない。でも、」

『――――?』


「でも僕は間違ってない。」


「お前なんかに奪われるほどこの街の人たちは弱くないんだよ!!」


『そうか、でももう終わった。貴様もこの街も。』


「まだ、だ。まだ終わってない。まだ僕がいる!」


『今の貴様に何ができる。』


 龍の澄んだ目には四肢がなく目が片方穴が空いた少女を写した。生きているのも不思議なくらいの傷が彼女にはあった。


「僕はもう無理かもしれない。でも、必ずお前を殺してみせる。絶ッッ対に、だ!!!!」


『なぜだろうか。貴様の言葉が本当になる予感がする。』


「…………………」


『もう辛いだろうに……敬意を持って殺してやろう。』



『――殺せるといいな我を』






 炎に包まれ少女の人生は終わりを告げた。




 筈だ。だって彼女は燃えている。

 よく知った彼女は消炭にな―――?

 

 俺は今どこにいる?



 俺はあの時、そう!メールが着て眠った後。


 この光景を見て俺は美しいと思ったんだ。不謹慎にも、場違いにも。

 そして場面は切り替わり、


俺の目は白い、見覚えのある空間を写していた。



 





「ここで会うのはニ回目だね。真鍋凪くん?いや今はこう呼んだ方がいいかな?


―――次世代を担う『剣聖』、レイ・エレインと。」









 神は予期せぬ二度目の邂逅に驚かず、不敵に笑った。



 運命は少しずつ変わっていく、世界の終わりはもうそこまで来ている。

 

 ただ、世界の命運は彼ら(レイと凪)にかかっている。


 凪と同刻、レイもまた彼と彼女の世界の運命を知る。







 次回に続く。



クロエ:

 チャーっす!!

作者:

 どうした、どうした。クロエさん。


クロエ:

 いやぁ、俺は作中で結構目立たない立ち位置だからな!やっと終わったからはっちゃけられるとおもって。


作者:

 ああ、まあ、確かに伏線とか説明とかで全然目立ってなかったけど‥‥‥


クロエ:

 ほんとにそうだよ!俺って結構目立つキャラなのに全然目立ってないじゃねえか!!


作者:

 まあリースとかエレ爺とか色々キャラがさらにすごい人達に掻っ攫われてたね。

 クロエ:

 まあ、エレ爺はいい。でもリース目立ち過ぎじゃね?俺より意味有りげな伏線残してるし!


作者:

 私がノリで書いた割にはね。


クロエ:

 おい!?ノリに負けたのかよ!!?


作者:

 まあ、クロエなんか最初プロットにもなくて書いてる途中に思いつきで書いたから。


クロエ:

 じゃあ大体作者のせいじゃねえか!?


作者:

 いやいやまあまあ


クロエ:

 何が『いやいやまあまあ』だ!?



作者:

 私も主人公とクロエが結ばれることを祈ってますよ。(絶対無理だけど)


クロエ:

 え?誰だソイツ?


作者:

 あそうか、知らないのか。

 まあとりあえず真面目にやりますか‥‥


クロエ:

 そうだな、軽口はこのくらいにして。裏設定でもないのか?


作者:

 チンピラ二人組ならありますが。


クロエ:

 アイツらか、どうでもいいとこしかねえな。

でもまあ一応聞いとくか。


作者:

 まずチンピラAから、


 チンピラA

 本名

考えてない

ギフトスキル『初動速補正』

逃走、戦闘にも使える優れもの

効果は名前の通り。


チンピラB

 本名

考えてない

ギフトスキル『受動探知』

 誰かが自分に何かしようとするとわかる優れもの。弱点は自分より弱い者にしか使えない。


チンピラ二人組

 最初金がなくやむを得ず野盗をしていたが人から物を奪うことに優越感を得て金も入るしやめられなくなった。


 主人公たちを狙ったがリースが通りがかり、あえなく御用となった。



って感じだ。


クロエ:

 へえチンピラBって結構すげえスキル持ってたんだな。


作者:

 まあどうでもいい裏設定はともかく次回予告です。


クロエ:

 そうだな。


作者:

 次回現実世界に行ったレイは早速やらかします


 次回、現実世界編

 一ヶ月後くらいに投稿予定です。


作者&クロエ:

 乞うご期待!


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