男の持論
「程度の問題なんだ。」
男は突然思いついた様に言った。
隣にいた友人は「どういう事だよ?」
と顔をしかめる。
「例えば、お前の持ってるそのアイス、一口くれと言ったらどうする?」
友人はすかさず、アイスを差し出した。
「なんだよアイス欲しいなら早く言えよ」と木の棒に刺さった、いわゆる棒アイスを男の前へ持ってきた。
男はそれを受け取り「サンキューなと
噛り付く。
「ちょっ、お前食い過ぎだろ」
男の一口は友人の予想した3倍大きかったのだ。
男は齧ったアイスを口に入れたまま、
悪い悪いと軽く謝りアイスを返した。
「あーぁ、……お前どんだけ食うんだよ」
友人は残ったアイスを見て落胆した。
「まあ、そう気に病むなって。お前のアイスを沢山食べたのには理由があるんだよ。」
口の中の物を飲み込んで男は饒舌に話し出す。
「いいか、俺はお前に一口くれと言ったな。」
だろ?と男は友人に同意を求める。
「あぁ、そうだ。だけどお前があんなに食うなら俺は鼻っからやらなかったけどな。」
友人は悪態を吐いた。
「そう、そこが重要なんだ」
男は友人の機嫌など知らん顔で話を続ける。
「俺の一口は一口に変わりない。それはお前も認めたな。ただ、俺とお前とでは一口の量に対する食い違いがあった。」
それが「程度の問題だ」と男は付け加える。
「例えば、あのときお前が想定していた量を食べていたらお前は怒らなかっただろ」
「逆にお前の想定した量より少なかったら、お前は俺にもう少し食えよと勧めた筈だ。」
「まぁ、確かに言われてみればそうだろうな。」
で?
それと俺たちの状況にどんな関係があるんだ? 友人は視線を下に向ける。
視線の先には死体が一つ転がっていた。
彼らは二人組の強盗犯だ。
今日も人気のない、そこそこ金を持っていそうな老人の家を見つけその家に忍び込んでいたのだ。
しかし、運悪いことに彼らはその家の家主に遭遇してしまった。
騒ぎ立てる老人を男は容赦なく殴った。
別に殺すつもりがあった訳ではない。
単純に口封じをするつもりだった。
けれど老人は呆気なく死んでしまった。
それから2人は、老人の家でくつろぎ冷蔵庫に入っていたアイスを食べながら、アノ話をしていた。
「で、結局俺らのこの状況とお前の、今までの話何が関係あるんだよ。」
「1人殺したら人殺しって言葉知ってるか?」
男は言った。
「あァ? そんなん当たり前だろ。1人殺そうが2人殺そうが人殺しじゃねーか」
友人は男の話す意図を読み取れず、少し苛立った。
「お前は何も知らないな。チャップリンだよチャップリン。」
「1人殺せば人殺し、10人殺せば殺人鬼、100人殺せば英雄にって言葉があるんだよ。」
そういうと、男は台所を物色し包丁を手に取った。
ステンレスでできたそれは光を反射させ、男の顔を覗かせる。
笑いが止まらないようだった。
「サックと殺して俺たち英雄だ。」
そういうと人通りの多い夜の繁華街へ2人は消えた。
その後、聞こえてくるのはおぞましい程の悲鳴と愉快な笑い声が2つ。
 ̄ ̄ ̄ ̄
「〇〇区で傷害事件が起きました。」
アナウンサーは書き起こされたばかりの原稿を必死に読む。
「現場の△△アナ。」スタジオのアナウンサーの呼びかけで画面は切り替わる。
「はい、現場の△△です。」
「非常に凄惨な事件が起こりました。」
「これから写る映像はとても痛ましい映像です。気分を害する方は視聴を控えください。」
カメラはこの凄惨な現場を伝えようと必死で辺りを撮影する。
道路や標識、町中の至る所に血がベットリとこびりついている。辺りにはぐったりと項垂れる人や泣き叫ぶ子供の姿があった。
「犯人は2人と見られ、以前と……」
突然、中継の途中で画面は現場からスタジオへと切り替わった。
ひどいシーンが続いたからではない。
理由はこれからニュース原稿を読み上げるアナウンサーの内容によって明らかになる。
「えぇ、ここで速報です。ここで速報です。つい先ほど、✖︎✖︎地方全域で、とても強い地震がありました。とても強い地震がありました。地震の最大震度は7、地震の最大震度は7、被害状況は次の通りです……」
「本日は、番組の予定を変更してお送りいたします。」
どこの放送局もそうだった。
彼らの犯行はその後報道されなかった。
要は程度の問題である。