日記の少女
12月1日
ここはどこだろうか?
ふかふかした感触が全身を包んでいる。
「先生、この、、、大丈、、、!!」
かすかに聞こえてくる覚えのある声は次第にその存在を濃くしてゆく。
「おかあさん。大丈夫です。外傷はありましたが、安静にしていれば治ります。」
どうやら私は今、病室の蛍光灯をぼーっと見つめているらしい。
私は自分に何が起こったのかを思い返すのと同時に腰の違和感も感じ始めていた。
そうだ。私は下校中に車に轢かれてしまったのだ。
私は死ぬのだろうか?その問いに応えるように母の声が心強く聞こえた。
「いまね。お医者様がなんとかしてくれてね。安静にしとけば大丈夫だってさぁ。」
どうやら大丈夫らしいことを確認すると少しお腹がすいて来た少女は寝起きの口を開く。
「おなかすいた。」
そう。大丈夫なのだ。
12月7日
あと二週間もすれば退院できるらしい。
後遺症も無く。痛みも既にやわらいできている。
「はぁ、これじゃあ受験も台無しだなぁ。違う意味で後遺症だっての。」
思わず独り言を放つ少女の声は部屋の狭さを感じさせた。
おもむろに近くに置いてあったメモ帳をとると、自棄じみた表情に変わる。
「みんなが受験勉強してる間に、小説でも書いてやれっ」
彼女は不思議な開放感と痛みをそのメモ帳にぶつける事にした。
12月14日
「退院おめでとうございます!」
久々に外の空気を吸えた気がして少しハイになった私がいた。
「ねぇ、おかあさん。退院したら行くって約束してたケーキ屋さん行こうよ!」
「えー、明日にしときなさい。まだ病み上がりなんだから。」
そう言われた私は車の中で少しふてくされながら、見なれた風景を横目に我が家に辿り着く。
辿り着く。
12月21日
街は華やかでクリスマスを迎えるムードが漂っている。
「いいよな~、悠ちゃんは受験無くって!」
「いやぁ、受験無くても浪人だよ~?」
受験で彼氏との関係を心配している友人の可憐はため息交じりに愚痴をこぼした。
「それに可憐みたいに彼氏いないからクリスマスもぼっちだしなぁ。」
「じゃあもう悠ちゃんは私の彼女にする!クリスマスパーティーしよー!」
「いいけど、彼女にはならんぞ!」
そして、12月24日は可憐とのクリパが強引に決定されたのである。
1 2 月 2 4 日
「そういえば、入院中に書いてた小説ってどういう展開になったの?」
クリスマスパーティーに来た可憐が楽しみそうに話題を振ってくる。
「あぁ、交通事故のせいで入院してる子が突然後遺症に苦しみながら結局死んじゃう話にした。」
「なにそれ、気味が悪くない?なんでそんなもの描こうと思ったのよ。」
「こうなってたらどうしたんだー的なイライラをこめて作ったんだ~。」
「次はもっと面白い話にしようよ。例えば、悠ちゃんがぺんぎんと生活するとか!」
・・・
私は何をしているのだろうか?
あれは小説のはずだった。
もう考えるのは疲れた。
疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた
もうこんな物語を書く余裕もない。
私は明日死ぬんでしょう?
彼女の枯れ果てていた眼は虚空をにらむ。