冒険者組合へ、通ってた話。
そのときの俺の日課は、朝九時に冒険者組合へ行くことだった。
この町の冒険者組合は、仕事の斡旋を主に行っている。人手の欲しい者と報酬が欲しい者、二つの窓口となって利害を繋いでくれる。条件にさえ合えば、冒険者でなくとも依頼の申請・受注が可能だ。
もちろん、冒険者登録ができれば依頼の幅は広がる。危険度が上がる代わりに、報酬の額や内容は、より豪華なものを受け取れる。ただ、それには指定された依頼の達成と試験の通過が必要だった。
条件的に、俺が冒険者になるのは難しいことだった。まあ、その話は追々。なんとか生活費は稼げていたので、それほど問題はない。
冒険者組合、その階の奥の方。一列にずらっと並ぶのが、半個室型の依頼受注窓口だ。個室ごとに、担当が一人。揃いの青い制服に身を包む、見目麗しい受付嬢たちだ。
「お次の方、どうぞ」
俺が受注受付に近付くと、丁度空いた窓口から声がかかった。ラッキーなことに、(胸の大きさで)贔屓にしている人が担当だ。きっちり編み込んだ髪型と眼鏡の似合う、知的美人さん。
左手を軽く挙げて応えた俺に、彼女は気付いたような素振りを見せた。
椅子を勧められて、腰かける。
今日も、単発の仕事を探してもらいにきた。長期的にできる仕事が見つかるまでは、主に日払いの仕事をこなす毎日だ。
「ようこそ、アカイ様。本日は、どのような依頼をお探しですか?」
「探索か採取で頼みます。できれば、単価が高めだといいんだけど」
「かしこまりました。では、探索箱に触れてください」
机の中心に置かれている箱は、探索箱と呼ばれている。A5くらいの大きさで、3センチくらいの厚みがある箱型の魔術道具だ。冒険者組合のために調整された、特別なオーダーメイド品である。見た目は本型の小物入れで、表紙の部分には魔法陣が刻印されていた。
微笑した彼女は、傍らに置かれた青い探索石に左手をかざし、右手で探索箱の魔法陣部分に触れた。俺も彼女に続いて、探索箱の端の方に触れる。
「では」
彼女が瞑目すると、一瞬のちに石と探索箱がぼわっと青く光った。10秒ほど光ったかと思えば、光の色が白に変わる。光が完全に消えれば、完了の合図だ。
彼女が探索箱を開ければ、中には数枚の紙が入っていた。彼女はその紙を取り出して、内容を吟味する。しばらくすると、その内の何枚かを俺の前に並べていった。
並べられたその紙は、仕事の内容や条件、金額などの詳細が書かれた受注用紙である。彼女は、俺から見て一番右端の用紙を示した。
「このあたりはいかがでしょうか。特に、こちらのE-01はおすすめですね」
「あー……。艶色アゲハの採取か……」
「はい。また、お願いできると助かります」
この世界には、艶色アゲハという美しい蝶がいる。鱗粉に含まれた麻痺毒にさえ気をつければ、見目にも楽しめるし、採取も辛い難易度ではない。
面倒なのは、運搬。羽根の色味や魔力をできる限り保つため、運搬には少々特殊で正直かさばる方法が取られている。また、急激な劣化を引き起こす可能性があるため、艶色アゲハに直接魔術が使えない。そのほか様々な理由で面倒だと敬遠されるため、難易度の割には高額の仕事だと言えた。
もちろん、高難易度に比べれば知れているが。
「……了解。手続きを頼むよ」
背に腹は代えられない。まあ、長期契約の仕事が見つかるまでの辛抱だ。
「かしこまりました。それでは、受注します。今しばらくお待ちください」
必要なくなった用紙は、探索箱の中に戻されてフタを閉められる。彼女は、表紙の魔法陣の上に受注用紙を置くと、取り出したペン型の杖でくるりと印を付けた。
探索箱が赤く光れば、受注完了。あとは期限内に、採取物を受注完了窓口へと持ち込むだけだ。