Prologue.短く、何もない人生
締め切りに間に合うかはわかりませんが、ラブファンタジー大賞に挑戦してみようと思います。
よろしくお願いします。
私の人生は、何があったと問われても、かなりつまらないものだったとしか言えない。
幼かった頃は活発で、男の子と喧嘩しては泣かせて、お母さんに怒られていたらしい。でも、物心ついたころには、私はもう病室のベッドの上にいた。
長ったらしい名前の病気で、だんだん身体が怠くなって動けなくなっていくらしい。
身体は少しずつ動かして鍛えるようにしていたけれど、それでも中学生になるころには、腰から下がまるで動かなくなった。
車椅子で、入学式に出席したのを憶えている。
小学校にも碌に行けなかったせいか、周りにいる子たちは知らない顔ばかりで、興味をもって見てくる視線は不愉快だった。
その中学校にも、ほとんど通うことはできなくて、ほとんど毎日、ベッドの上でテキストや色々な本をぼんやりと眺めては、自分の存在意義ばかりを考える日々を過ごす。
「ねえ、お母さん。私がいることで、何か世の中が変わったり、する?」
素朴な疑問だった。
中学三年生になるよ、と学校に行ってもいないのに進級の連絡だけが来た頃のことだ。簡単なテストだけ病室で受けて、友達もいないまま一人で『進路』という良くわからないものについて考えていた。
私は、ふとした拍子に出た軽い質問だったが、今思えばもっと慎重に言葉を選ぶべきだった。
「ごめんなさい……」
お母さんを泣かせてしまったことに私は焦ってしまった。
「そういうことじゃないよ」
どういうことなのかは説明できなかったけれど、私が知りたかったのは、ただ私が存在すること、私が何かできることで世の中に変化が与えられるかどうか、ということだった。
たどたどしい説明ではお母さんを宥めることはできなかた。
私を病弱に生んでしまったことへの後悔を口にする母を見て、改めて自分が失敗した、と痛感する。
そして気付いた。
私はただ、お母さんを悲しませる為に生まれて来たのだと。
母の後悔を聞き、お医者さんや看護師さんが言うことを素直に聞いて、ただ自分の人生が終わるのを待つ。
「もうちょっと、私にも選択肢が欲しかった」
一人の病室。ベッドに横たわったまま痩せた腕を天井に向けて伸ばしてみても、何かが掴めるはずもない。
何かを変えることも、何かを得ることも無かった。
テレビや雑誌で見た目の良い人を見つけても、その人とデートしたり結婚をしたりするイメージなんて湧くはずもなく、恋をすることも無かった。
「特別な病気になるなら、別に特別な能力とかあったって良いじゃない」
そうすれば、あんなにお母さんを悲しませることは無かったかも知れない。
ひょっとすると、自分を生んだことを自慢げに語っていたかも知れない。
長く、もてあまされた時間は空想に費やされた。
本を読むのもすっかり飽きてしまった17歳の終わり頃、私は人生の三分の二以上を過ごした病室で最期を迎えた。
迎えたはずだったのだけれど……。