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隠遁《hermits》Chapter2

気づけば謎の小部屋にいた新。そして現れる男は味方なのか。それとも自分を売らんとしているのか。あらすじうまく書けなくて申し訳ないChapter2

※次話投稿になるように話を移しました。



革部新/2019年5月10日/午前3:04/???

薄暗い部屋の中でいきなり目が覚めた。小部屋に満ちた静謐が、必要以上の緊張を寝惚けた頭に与えてくる。

ここは何処なのか。自分は何故ここにいるのだろうか。

覚醒し始めた脳内で、その二文がCMのキャッチコピーのように反芻され続けた。

襲いかかる疑問を振り払うようにゆっくりと重い体を起こし、部屋を一通り見渡した後、自分に何があったのかと記憶を辿る。確か俺は...逃げてて...女子高生を助けようとして...そのまま意識を......。

「おお、目が覚めたか。ええと、2日?3日?ああ、2日か。そうだよ2日2日。君は2日間も寝てたんだぞ。おはよう。革部君。」すぅっ、と音がし、引き戸が開く。俺の記憶探訪は入ってきた男によって遮られた。知らない男がいきなり入ってきたことに驚きつつその顔を見上げる。全国チェーンの洋服店で買ったような柄のTシャツに長ズボンのジャージの下というラフな格好の男は、大学生くらいに見えた。薄暗いのでよくわからないが、髪をいくらか脱色しているようだ。顔は爽やかで優しそうな美男子といったところだが、髪の色のせいで少し軽い男に見える。

「随分戸惑っているようだけど。まぁ、当然か。」

「ちょっと待て、いきなり何なんだよ!ここは何処だ!俺をどうするつもりだっ!」この男はいきなり何を言い出すのだろうか。そもそもこいつは俺のことを捕まえようとしているのかもしれない。だが、だったら2日間も俺をここに匿うか?そんな疑問が頭の中で渦を巻く。そう考えるとこの男の笑みも怪しさを引き立てるための道具にしか見えない。こちらの向けている疑念にも気づかない素振りで男は続けた。

「まぁまぁ、落ちつけ落ちつけ。あと4時間くらい待っててもらえないか。そうしたらあの子たちと一緒に説明をするから。あの子らが起きたらここへ呼んでくる。その間休むなりしていてくれ。」そう言って男は何の説明もなしに引き戸を閉め、遠くなる足音を残してどこかへ行ってしまった。

 不安と動揺を少しでも紛らわそうと、部屋の中を見渡してみる。こじんまりとした部屋には灰皿と伏せられた湯呑茶碗の乗った小さいテーブル、そしてコンセントが周囲に巻かれた電気ポットしかない。窓は一応あるようだが、茶色く汚れたカーテンが外界からの視線をほぼ完全に阻んでいる。ここがどういう場所かということに正確な判断を下すことは不可能だが、一般的な民家にいるわけではない、ということは容易に理解できた。

 これまでにないほど上下する心臓をよそに、脳は再び強く眠りを欲していた。まどろみに体が投げ出されていく。


 革部新/2019年5月10日/午前7時22分/???

 二回目の目覚めは誰かに激しく体をゆすられ大声で名前を呼ばれるという果てしなく不なものだった。

「起きろ!もう朝だぞ!頼む!起きてくれ!」

「何なんだ?もう」若干不機嫌になりながら起きると枕元にはあの男、そして戸口には少女と俺が助けようとした女子高生がいた。男を問いただそうとしたその瞬間、猛烈な眩暈と空腹感が俺を襲った。

「おなか空いてるんだろ。それに体もカラカラなはずだ。ほれ。」全て見透かしたような表情で、男は2Lのスポーツドリンクのペットボトルと山のような菓子パンを差し出してきた。飢えと渇きに負けた俺はすぐさまペットボトルの中身を飲み干し、出されたパンを平らげた。

「満足したか?」俺が満足したのを見透かしたような口調で男は、俺に声をかけてきた。さらに男は続ける。

「さて、次はこっちのターンだな。お願いしたいことがあるんだがまずは自己紹介からだな。僕の名前はアサカヤスシ。朝の霞と書いて朝霞、靖国神社の靖で靖だ。一応これでも超能力者を見つけて保護する団体のリーダーなんだ。」この男が、俺が気絶している間に横に座る彼女を助け、そして俺をここに連れてきたのだ。そう思うとますます考えが読めない。

「一応今保護してるのが君含め3人だな。あのとき君が助けようとした彼女とチサト、それと協力者って形で40代の男が1人いるんだけどそのうち来る約束になってるからまずは2人に自己紹介をしてもらおうか。取りあえずチサトから頼むよ。」朝霞がそういうと、少女の方が先に口を開いた。

「おはようございます。よく眠れましたか。」見た目の印象よりも落ち着き払った声だ。少女はその透き通ったきれいな声で続ける。

「どうも、私はこういう名前です。」それだけ言うと名刺のようなもの(というより名刺だ)を手渡して、もういいですか、というようにそそくさと部屋を出て行ってしまった。

 受け取った名刺を見てみる。そこには大きめのゴシック体で『遠野 千里』という名前が書いてあるだけだった。

「いやすまないな。千里は俺とこれから来る奴にしか懐いていなくてなぁ。代わり僕からあの子の能力を話させてもらうぞ。端的に言うと千里は『千里眼』の能力を持ってるんだ。遠くのものを見るときには対象がカーナビの目的地のような感じで頭に浮かぶ。反対に近くのものを見るときは対象の視界を奪う。そういう能力だ。まあどちらも人にしか使えないうえに使う相手のことが頭の中にイメージできてないと使えないんだけどな。しかも使ってる間は自分の眼が使えないし。まぁ要するに君たちは千里のお陰でここに今いられるってわけだな。」確かにそうだ。あそこで見つけてもらえてなかったらお互い何があったか分かったものではない。

「それはそうとして、こっちにも自己紹介してもらおうか。素性がわからないとこっちも手が打てないしな。ヒヨリさん、バトンパス。」そう言って靖が話を促すと、その女子高生はすぐに口を開き始めた。

「私はヒヨリツキホ。日和見に憑き物に稲穂で日和憑穂。あの時は助けてくれてどうもありがとう。」自分の名前を落ち着いた口調で話す彼女の、腰ほどまで伸ばされた真っ黒で絹のような艶を持つ髪と凛とした目つきが美しい。

「あなたがいなかったら私はあのクズに犯されてたかも。ほんとに嫌な奴だったわ。まあ相手の眼を見つめてやれば一発で殺せるんだけど。」見た目にそぐわずかなり過激なことをいう子だ。そう思っている間に彼女はどんどん話を続ける。「まあそんなことはどうでもいいわ。私の能力は憑依能力よ。相手の眼を3秒見つめればその身体を奪うことが出来るわ。まぁ一日合計1分しか憑依できないとか制約も多いからこの能力あんまり使いたくないんだけど。ていうかあんたも自分のこと話しなさいよ。」

彼女の話を聞き憑依能力かぁなどと感心しているところへ思いの外高飛車な発言が飛び出してきた。いかにも清楚そうな外見とのギャップに戸惑いつつも、言われた通りに自分の身の上について俺が話しかけたその時だった。

「おい朝霞ぁ。いるかぁ。いるんなら返事しろよ、逮捕しちまうぞ。」俺の話を遮るようにして、窓の外から気の抜けたような声が聞こえてくる。逮捕というワードがやたらと不穏だ。

「誰ですかあれは?」

「協力者だ。」

「協力者っていったい......?」こちらの問いかけには答えずに朝霞はそそくさと廊下の方へ出て行ってしまう。

 何畳もない部屋の中で憑穂と二人きりだ。特に話すこともないのでお互い無口だ。女子と部屋で二人きりだとか意識しだすとやけに恥ずかしい気もする。気でも紛らわすためにこれまでに何が起きたか整理しよう。そう思った時である。

「新入りが二人来たって言ったが大丈夫なのか?こんな大所帯になって。なんかあったってもみ消すのはこっちだぞ?まぁこっちは好きでやってるんだが。」廊下のほうから足音と共に癖のある低い声が近づいてくる。この声はさっきの来訪者のもののようだ。協力者とはいったいどんな人物なのだろうか......。


「よう、超能力者諸君。これで素性はわかってくれるよな。」ぱさり、と男が黒い何かを放り投げる。これはいわゆる警察手帳というものだろうか。ドラマでしか見たことがない代物だけあって実物を見るとなかなか好奇心がわいてくるが、同時に相手が警察官であるという事実が恐怖心も煽ってくる。恐る恐る手帳を開いてみるとそこには、『警部 檜佐木 衛士』という文字と短く刈り込まれた髪、無精ひげ、そして鷹のような目つきが特徴的な男の顔写真が張り付けられていた。目の前にいる男と全く同じ顔である。

「わかってくれたかい?俺はヒサキ エイジってもんだ。東京で刑事をやってる。まあ末永くよろしく。」 

 この人たちをそう簡単に信用してもよいのだろうか。そもそも朝霞が味方だという保証はまだないし、もし朝霞が俺のことを狙っているのだとしたら俺は今絶体絶命だ。光明を何とか見出さなくては。

「さっきから黙って聞いてればあんたたちのことを信用してる前提みたいな話だな。そもそも信用なんてできるのか?あの場面で俺らを助けたのだって俺たちを警察に売」だが、すべてを言い終わるよりも早く低い声がその必死の抵抗を打ち破った。

「それで、どうするんだ?そんなこと聞いて?逃げるのか?まだ完璧に動けないお前が?なぁ、てめえらは逃げられねえんだよ。わかるか?」とてつもない迫力ですごまれ俺たちは目を丸くすることしかできない。俺たちはこのままここで終わるのか......?

「おい檜佐木、冗談もその辺にしといてくれよ?第一疑われてるとあんたも仕事にならないだろ」朝霞が苦笑いを浮かべてあきれたように呟くと、檜佐木は180度違うトーンで「すまんすまん、癖が出ちまって」と笑いながら詫びを入れた。それにしても超能力者と警察が手を組んでいること自体あり得ない話だ。もしかしたら信じても問題ないのかもしれない。冷静に考えれば、超能力者と交友があることのメリットは、密告するメリット比べるとあまりにも少ない。だとすれば、お互い善意に基づいて仕事をしているのかもしれない。

「――さて、今は信用してもらえなくてもおいおい慣れてくれるだろう。その為にも革部くん。今度こそ君に話をしてもらう番だぞ。人も集まったことだしな。おーい、千里。」

 千里が来ると、ようやく俺はあの日の朝から今までの出来事のすべてを話すことができた。能力に目覚めたときの衝撃も、半日以上も走り続けた必死の逃避行もすべてだ。

「お前さんたちも災難だったなぁ。革部くん。日和くん。本当は二人にゆっくり休んでほしいんだが今回俺が来たのは仕事のためなんだ。おい朝霞、これ。説明は二人にしとけよ。これから俺は捜査会議に出なきゃなんでな。あとでまたここに来る。またな。」檜佐木はUSBメモリを朝霞に渡すとタバコをに火をつけながら部屋を出ていった。


「今の人が協力者だ。彼は悪い奴ではないから安心してくれ。改めて紹介しよう。僕たちが超能力者保護団体、そして超能力探偵組織の『ハーミット』だ。以後よろしく頼むよ。僕たちの仕事は二つだ。一つは君らみたいな善良な能力者の保護。そしてもう一つは檜佐木の持ち込む事件の解決だ。まあ今のところは後者にしか巡り合えてなかったんだけどこれで前者も達成だな。君たちには安全を保障しよう。今ここから逃げたってどうしようもないだろう?とりあえずここで落ち着くのが得策だと思うけど?」ほんとに信頼できるのか?まだわずかに残る疑問がなかなか納得をさせてくれない。

「彼女は君が寝ている間に納得してくれた。君も納得してくれると非常にうれしいんだけど。さて...また少ししたら集めるけどいいかい?それまで自由にしてくれて構わないよ。」

 朝霞も部屋を後にするととうとう俺一人だ。低い天井を見つめながらこれからについて考えてみる。一体この先何が起こるのだろう。何か大変なことに巻き込まれているような気がする。あの朝、俺の人生はいったん終わったのだ。人間関係もすべてリセットされたようなものだ。もう後戻りはできないしそのための活路を自分で切り開くこともできない。誰もあのターニングポイントの先の人生を返してはくれない。だがこれから先の、いわば2回目の人生を1度目よりも素晴らしくすれば後悔もなくなるだろう。だから朝霞のことを信じて、人々を助けるのもありなんじゃないか。まだ疑惑は残るが、今は信じる以外の選択肢が無い。俺は彼らを信じることにした。

「皆、来てくれ。」信じることを決めてすぐのタイミングで朝霞の声が聞こえた。集まらなくては。数日ぶりに体を起こし廊下に出る。風が吹き込んで涼しい廊下をよろめきつつも歩きながら、俺は未来への決意を固めるのだった。


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