幸せな家族の夢
私はある日、夢を見た。
悲しく、そして恐ろしい夢を。
***
気が付くと私はふわふわと浮かぶ幽霊のような姿になっていた。夢を見ているのだということだけははっきりと分かる。
私が今いる場所はどこなのか思い出せないものの見覚えのある場所だった。私はどこで見たのだろうか。
その内思い出すだろう、そう思って考えることをやめたのだった。
リビングのソファーには父親らしき人が座り、その温かな目線の先にはおもちゃで遊ぶ小さな男の子がいる。母親はキッチンで料理をこなし、もう一人の子どもがそれを手伝う。幸せそうなある家族の光景。
しかしその顔は全員黒く塗りつぶされていた。なんとも不気味である。
そしてそれはその後の出来事を暗示していたのだろう。
家族全員で外食中、母親らしき人が食中毒で倒れてしまう。子どもたちは母親の名前を必死に呼び続け、父親は救急車の到着を待つことしかできなかった。そうして母親らしき人物は救急車を待つことなくこの世を去ってしまったのだ。
それを機に、この家族の幸せは壊れてしまう。
幽霊のような状態の私には何も手助けをすることはできなかった。それがひどく歯がゆい。
けれども幼いながらも父親を励ます子どもたちのおかげで、ふさぎ込み落ち込んでいた父親も次第に元気を取り戻していく。私はその姿を見守りながらもほっとした。
そんな矢先、再びこの家族に悲劇が起こってしまう。
場面が代わり、家族三人が車内で楽しそうに話をしている所だった。父親は全く気づいていないが、私はある異変に気がついていた。
子どもたちの座っている座席に近いドアがガタガタといいだしたのだ。しかも子どもたちはシートベルトを着けていない。
嫌な予感がした。私はその予感が外れることを強く願った。
けれども次の瞬間ドアが突然外れ、子どもたちは外からの風圧で飛ばされてしまい地面に思い切り叩きつけられた。即死だった。
父親らしき人物は愛する家族を全て失い、失意のどん底にあった。特に子どもたちを失った自動車の件ではシートベルトをさせていなかった自分のせいだとひどく後悔していた。
私は触れられないながらも側にいて、聞こえることはないと知りながらもあなたのせいではないと声をかけ続けた。
しかし父親らしき人物はある部屋の窓から飛び降りた。自殺をしてしまったのだ。
救いのない、悲しく辛い夢。傍観することしかできなかった私の目からはとめどなく涙があふれた。
そこで私は夢から覚める。視界は涙で滲んでいた。
私は見なれた天井を見て妙な既視感を覚えた。そして私はその時になってようやく気付く。
夢に出てきた部屋……いや夢に出てきたある家族の住む家はまさしく今私が住んでいる家だということに。
そのことに気がついて愕然とした。
この家は両親が土地を購入し建てた家で、自殺した人が住んでいたことはない。
つまりあれは、もしかしたら。
私は恐怖のあまり体を震わせた。
***
親から財産として家をもらい受けてすぐ、私は自分の住んでいた家を取り壊して駐車場にすることにした。
――あの夢は本当に私の未来を暗示していたのだろうか?
私には何も分からない。
その後、土地を購入しローンを組んで買った新しい家で夫と子どもたちと一緒に暮らしている。
あの夢が正夢にならないことを願いながら。