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突発的短編集

もしも世界が滅ぶなら…

作者: 葱間涼

 もし、世界が滅ぶなら、貴方は一体何をするか…俺なら、『何もしない』と思う。

 別に俺は死ぬのに心残りが無い訳、ではない。俺にだって心残りや遣り残しくらいはある。

 ただ、それを全部無くすことは、どう頑張ったところで、まず不可能だろう。金銭的にも無理だし、物理的にも無理。なにより時間が足りない。一体、どれだけの猶予があるかは分からないが、今までの18年間で溜まった心残りを無くすのには、少なくとも3分の1くらいの時間は欲しい。単純に考えて6年くらいか。少々欲張りな気もするが、とにかく時間が足りないのは確かなのだ。

 そんな状態で遣りたいことを遣りきるのは、不可能で、それなら俺は何もしなくても構わない、そう思うのだ。

 俺は、欲張りだ。俺は、『ひとつだけ』なんてのは満足も納得も出来ない。だから、『何もしない』のだろう。


 さて、そんなことを考えている今日は、なにやら古代の超文明の予言によると『世界の終わり』になるらしい。甚だ信じ難いが、そうらしい。

 どうして、未来の人間には出来ないことを、過去の人間がちゃらん、とやってるのか、大変興味があるが、まぁ、今は関係無いことだ。それよりも今は、この世界の終わりに俺は一体何をしているか、ということだが…世界を救うために何かしている訳もなく、予想通りというか何というか、やはり俺は何もしてなかった訳で。炬燵でグタリと、寝転がっていた訳で。おそらく、何も知らない人が俺を見ても、全く何の危機も感じないだろう。

 だから、何って訳でも無いし、俺の事を、誰かに知らしめたい訳では無いんだけど…ただ、世の中には、こんな俺のような意見の奴はどれだけいるのかなぁ、って、そう思っただけで。加えて言えば、俺とは反対の意見を持つ奴もまた、当たり前に居るのだろうな、って。


例えば、俺の周りにも一人、というか目の前に一人居て…


「せんぱい、せんぱい!なーにぼーっとしてるんですか!今日で世界は終わっちゃうんですよ?それなのに、そんな勿体無いこと…何かしましょうよ!さぁ!」


 こんな奴が居るんだ、目の前に。

 こいつは俺の後輩なのだが、夜、ぐうたらしていた先輩である俺の家に押し掛けてきて、俺を叩き起こした挙げ句、今の今まで、ずぅっと、今日の世界の終わりの事について、一方的に話しているのである。

 主に今日の『世界の終わり』をどう過ごすかについて。


「…なんかするっつてもさ…俺はなんにもしたくないんだよ。だから何か、って言われても困るし、そもそも、ねぇ…」


 これを言うのも何回目になんのかな?こいつは、俺がこう言う度に「勿体無い」って、俺の言葉を消しとばす、無視をする。俺、一応先輩なんだけど…はぁ…

 それはさておき、今回も、ことごとく俺の言葉を「つまんない」と切り捨てた我が後輩様(♀)は、何回も同じ回答の俺にご立腹。俺の横までにじり寄ってきて、俺の手を掴むと、そのままブンブンっと振り回す。


「なんで、同じ事ばっか言うんですか!何回も聞いてるんだから、少しくらい違う答えを、考えてくれても良いじゃないですか!もう!」何回も同じ事を言ってるのはそっち…とは言わない。


「って言ってもさ…何も思いつかないものはしょうがないしね」


「それは考えてないからですよ!ちゃんと考えてください!」どうやら後輩様は俺の答えには不服なよう。当たり前か。

 

「考えろって言われてもね…」何も思いつかないんだけど。


 先の自分内の持論展開の通り、俺はずっと『何もしない』事を考えていた訳だし、今更どうこう言われたって、それはどうしようも無いんだ。だから、こいつの満足するような事は言えないし、考えつかないんだ。…まぁ、真剣じゃない、って事かもしれないけどさ。でも、考えんのめんどいし。だから、丸投げ。


「…んじゃあさ、お前は、一体何かしたいことあんのかよ?」


 俺の問いで、後輩様は腹の虫を落ち着けたようだ。一瞬の逡巡の後、問いに答える。


「私はありますよ。それもたくさん」えへんっ!…とでも言いたそうに胸を張る。特に何もゆれな、んでもないですはい。


「ふーん…それで?例えば何があんの?」心の中がのぞかれた気がしたから、早急に話を進めた。なんか後輩様は妙ににこやか。…うぅ。


「…ま、いいか。例えば、ですか?そうですねぇ………旅行とか?」今からじゃ無理だよ。


「今からじゃ無理だわ、それ」言うと、膨れっ面になった。ふぐみたいだ。


「せんぱいが悪いんですよ!もたもたダラダラしてるから!」そう言って俺を睨む。が、まったく怖くない。

 それより、それ、俺行くの?


「俺も行くのか、それ?」


「当たり前ですよ!何言ってんですか!」俺も行かなきゃいけないらしい。こいつに振り回される…ドナドナドナドナ~…


「まったく!せんぱいがもたってるから、いけなかったんですよ?分かってます?」すまん、分からん。俺は何も悪くないだろ。それなら二日前から予約しとけゴラッ!…とは言わず、ただ俺はサラッと返す。


「お前が来たの、ついさっきだろう。どのみち間にあわなかったと思うけど?」来たの八時くらいだし。pmで。


「ぐ、ぐぅ…」あ、言葉に詰まった。つーか、ぐぅ、なんて言う奴初めてみた。なんか間抜け。


「ぐ、ぎ、げ…?」なんか変な声出てきた。ここで止めとくか。


「…それで?他になんかあるのか?」助け船、ってほどじゃないけど、話を先に飛ばす。効果あったのか、奇声は止んだ。


「他に、ですか?そうですねぇ………」


…………………


………………………


……………………………


…………………………………ハッ!?


 気がついたらそこは、普通に俺の部屋だった。だから何?


「せんぱーい?聞いてますかー?」後輩は俺の顔を覗く。その顔には、声と言葉とは裏腹に『聞いてなかっただろ?』と問いつめてくるような、なんか怖い笑みが浮かんでた。ここは素直に謝るべきか。


「あぁスマン…聞いてなかった」


「何で聞いてないんですか…そっちから聞いてきたのに」聞いたのはそっちからじゃないか?


「ごめんごめん。で?今、何話してたんだっけ?」そう言うと、後輩は心底呆れた顔をして、それでもまぁ、答えてくれた。


「はぁ…『もし、世界が終わるなら』何をするか、って話ですよ」まったく…そう言って後輩は頭に手を当てる。が、すぐに俺の方を見る、見つめてくる、ほほそめる、なぜ?


「そ、それで、ですねせんぱい…したいこと、最後なんですが…」


「へ?あ、あぁ、うん?」途中の記憶が無いから、最後といわれても困る。他が一つしか分からない。けど、どうせもう遅いし、どっちみち聞く意味も…無いこともないかな?


「その、ですね?私、これだけは絶対にやっておきたい、って思うことが、一つだけあるんですけど…」それだけ言うと、後輩様は、顔を俯かせてしまう。顔が真っ赤だ。こーんな後輩、見たこと無いよっ。


「…どうしたんだ?何だよ遣りたいことって?」聞くと更に顔を真っ赤にする。……はぁ


「……はぁ…」

 

 ため息を吐いて、脱力。後輩はまだ動かない、いや、口だけはモゴモゴと動いてる。なーに言ってんだろうな?どうでもいいから、視線を外した。と、同時にどうでもいいことだけど時刻確認、時計を見る。あっ、そういやあの時計「せ、せんぱい!」…後輩の大声!俺(主に鼓膜)に大ダメージ!耳が痛い。


「なんだよ、急に大声だすな、うるさいだろ!」俺も大概だけどな。まったく近所のことを考えない二人である。


「せ、せんぱいは、その、い、いま、気になってるこ、とかいますか?」突っかかりながら、なんとか言い切った。何言ってたのかは怪しいけど。


「気になってること?……お前?」うっさいし、もう夜遅いしいつ帰んのか、とか?

 と、俺の素直な独白(ただし秘匿)を受けて、後輩はトマトになった…いや、実際にはなってないですよ?比喩ですよ?


「そ、そ、そうなんですか!?そうなんですか…」その後はまた恒例のぶつぶつタイムに入る後輩にため息を送る。お前は何したいんだよ…

 と、俺のため息が届いた訳ではないだろうが、後輩は、バッと顔を上げ、何かを決心した様子…でも、


「せ、せんぱい!わた、わたしずっとせんぱいが」


「時間切れだぜ、もう」


「へっ…?何がですか…?」


「もう今日終わったから。ほら」言って時計を指す。後輩は目を見開いた。

 今日が無事終わったから、予言ははずれ。世界は終わんないから、遣りたいことはまた、次の機会に。


「…って、なんで時間切れなんですか!いいじゃないですか!そんなの!」ぷんぷん!かわええのぉー…何キャラだ?俺…


「だって、もう帰んないとだめだからな。時間切れ」


「なんでですか!いいじゃないですか、まだ!」ぷんぷんぷん!おー、怒ってるわ。


「いや、いいけど…明日早いぞ?」俺の言葉に後輩は怪訝そうな顔してる。実際「はっ?」って言ってるしね。


「いや、だって行くんだろ?旅行」俺の言葉に後輩は怪訝そうな顔してる。じっさ(ry


「さっきお前が言ったんじゃんか。あまり遠くに行けないけど、行こうぜ?誘ってくれんだろ?」やっと後輩は事態を飲み込んだようで、はっ、と息を飲んで、俺を見つめている。うむ、上手くいったか。考えた甲斐があったよ。長考になったけどね。


「んで?行くの?行かないの?」急かすように問う。ちょっと恥ずかしくなった。

 後輩は、しばらく「あと、えと、あー、うー?」と、言葉になってない言葉を唸っていたが、少しして落ち着いたのか、一つ頷くと、はっきりと答えた。


「いきます!わたしも!」……なんか、アレだね。大声だし。近所のこと考えようよ。後言葉のチョイス。せめて漢字に…って何言ってんだ、俺?

 まぁ、それはさておき、目の前でわたわたと慌ててる後輩は、見ていて実に痛々しい。物理的に。あちこちに体打ってるからね。ちょっと落ち着け。


「まぁまぁ、そんな慌てんなって。まだ時間はたっぷりあんだから」それを聞いた後輩はくわっ、と怖い顔。あれ?


「時間切れって言ったのせんぱいでしょ!?時間なんてないじゃないですか!」確かにね。そのとおりかも。俺が悪いのか。スマン。


「…って、そういうことじゃ無いんだけど、俺が言いたいの…」呟いても後輩には届かない、か。まぁ良いけど?

 俺が言いたかったのは、『世界の終わり』までの猶予が延びて、時間たっぷり、ってだけだしね。


「せんぱい、それじゃ一旦帰ります!また、後で!」


「おぅ、って一旦?」


「あたりまえでしょ?まだ何処行くか決まってないじゃないですか」それでは、後で…そう言って後輩様は帰宅なさった。まぁ、後で逢うけど。


「…それにしても危なかったな…」危うく、後輩に最後まで言われるところだった。


「『告白』は男からだろ、普通…」世界に感謝、するよりずれっぱなしだった時計に感謝だ。


「…明日には言わなきゃな…」別に焦んなくても良いとは思うけど…あいつに先に言われたらたまったもんじゃないからな。それこそ『世界の終わり』…


「…それは言い過ぎ、か?」



 …もし、『世界が終わるなら』。俺はそのとき、何もしない。それは、やはり欲張りだからで、そして…


「お、おっけー、です。私もせんぱいが…」


 掴んだ幸せをすぐに失うのがいやだから、なんだと思う。


 貴方なら、『世界が終わるとき』、何をしますか?

遅刻してます、すいません。


素人の下手くそな文でしたが、読んで下さった方、多謝です。ありがとうございました。

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