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「ほんとなのよ。昨日、『サヴィア』に来たの。

 例の金髪。そっくりなの、信じられないくらい。みんな、あいつが入ってきた途端に息詰めちゃって、シーンよ」

 語尾を引きずるじゃべり方でまくしたてる少女は、高い位置でまとめたポニーテールを脱色ぎみにしている。

 一目で素行の悪さのわかる女子生徒たちだ。それも、二人とも一年生である。

 稜明学園にもこんな子たちが居たのかと、飛鷹(ひだか)彩子(さいこ)はまじまじと視線をとめていた。

「先週『レゾン』に来たって聞いてたから、来るかな? なんて、結構期待してたんだけどさ。ほんとに来られたら、なんかゾッとした。

 だって歩き方から仕種まで、クリオンとそっくりだったんだから」

 興味の無さそうに腕を組み直す相手の髪も、揃えたように部分脱色。リボンはネクタイ風に結んで、スカートの丈も校則違反だ。話しの『サヴィア』や『レゾン』は、彩子も耳にしたことのある人気ディスコの名前である。

 彼女たちと視線を合わせないようにしながら、青木園子を待っていた。北校舎一階の階段下が、不良一年生の溜まり場だったということは彩子も知らなかった。知っていたら、待ち合わせ場所は別にしていた。

「さらさらの金髪でしょ、真っ黒のグラスにロングのラメコート。四重のゴールドブレス。おんなじなのよ?

 でね、あいつ、ちょっとだけフロアでステップ踏んだの。サイコーなの。クリオンのステップなのよ!

 みんな背筋が寒くなるし、あいつが帰ってきたみたいで嬉しいしで、妙な雰囲気になったの。

 でも、マスターなんてさすがでさ。

 頼みもしないのに、カウンターにギムレット乗せて、『久し振り』なんて声掛けて」

「……それでその金髪、どうしたの?」

 つまらなそうに造った低い声を、ようやく絞り出した。

「『他の店でも散々そう言われたが。俺はあんたたちの知り合いの身代わりなんかじゃないぜ』

 って、グラスの中身を全部床に」

「空けたの?」

「そ。んで『俺の、ギムレットをくれよ』って」

 ポニーテールの子は、両目ともハートマークで、うっとり状態に浸っていた。

「瓜二つね、その嫌味な所まで。アタシも行くから。今夜」

「バカね。昨日来たからって、今日も来る保証はないのよ?

 クリオンってそんな奴だったじゃない?」

 声をわざと堅く作らなければかわいらしい子だ。冷ややかなポーズも、消えれば本心の熱さがのぞく。

「昨日来たなら、また来るわけでしょ? 通うわよ」

 意地になって唇を尖らせる。

 話題のディスコの人気常連客には、彼女たちも弱いらしい。外面は身構えていても、本質はミーハー少女なのだ。

「キャー、そうこなくちゃ。また通おう?

 今日あたりなら、『ストーンベイ』だよ。行こ行こっ。

 ほんとに、コウキが殺されてからは、さっぱり通わなくなったもんね。青春やり直そう!」

『コウキ』! 彩子には、『光』『輝く』の文字が、頭に浮かんだ。知らない名前ではない。

『光輝』ならば、久瀬(くぜ)光輝(こうき)。今年の六月に、『殺された』青年だった。

「……当たり前じゃない。クリオンの居ない夜なんてつまんない。行く意味ないもん」

 薄いシャドーに縁取られた瞳が少し潤んでいた。言い切るなり、ギュっと唇を噛む。

「うん……。お店の黒服も言ってた……。クリオンが殺されてから、お客がすっかり減ったって」

「当然だね、そんなの」

 彼女は声を落として続けた。

「何者かは知らないけど、そいつに感謝、だね……。突然あんなことになって、みんなショック受けてたし」

「結構、クリオンってさ、女ったらしで、嫌味で、タカビーな奴で、嘘つきで人を平気で騙して。あーーっ、よく無いところなら腐るほど出てくる奴っ。

 とにかく、自己中で自分勝手でワルイ奴だったよねっ?」

 何度もうなずいて肯定する。承知の上のグルービーだ。

「顔がよくてもてるのいいことに好き勝手やってた」

 悪口を並べたてながらも、瞳は優しい色を浮かべる。

「でも、ワルの話し聞いても、嫌いになれない奴だったな」

「格好いいんだもん。何やったって様になってさ。

 女の子泣かしても、喧嘩しても、ずっこけてへらへらっと笑ってもさ……。あの猫目の釣り目がかわいーの」

 二人は顔を合わせて、生きててよかったねー、と、抱き合った。通うぞーと、誓い合う姿は、ほとんど稜学のミーハー小雀さんたちと同じノリだった。

「ね? ちょっといい?

 そのコウキって、無差別連続殺人事件の被害者の、久瀬光輝のこと?」

 ご機嫌を損なわないように、彩子はお伺いした。一年生とはいえ、相手はいっぱしの不良さんだ。

 だが、こちらを振り返った二人は、彩子の姿に精一杯目を見開いた。

「! 飛鷹彩子先輩!」

「すみませんっっ。あたしたち何もしてませーーん」

 キーンと、黄色い声が彩子の耳を突き抜けていった。

「何? ちょっと話しを……」

 耳が痛い。戸惑う彩子に、二人は追い討ちをかけた。

「なんでも、聞いて下さいっ。なんでも話しますからっ」

「あたしたち、こんな格好してますけど、脅迫とかいじめとか万引きとかは、ゼーーーッタイ、やってません。

 ちょっと夜なんか、息抜きはしますけどぉ」

 顔色を変えて平伏してくれる。

「……何か、誤解してない?」

 原因不明だ。二人とも彩子には初対面なのだが。

「ごめん彩子、待たせて。なに一年生をいじめてるの?」

 やっと現れた青木園子は、震える二人と呆然とした彩子を見比べた。

「いじめてないわよ。ちょっと話しを聞こうと」

「だって、耶崎中学出身の飛鷹さんっていったら、四神王の朱雀って、仲間内じゃ有名ですぅ」

 怯えた表情で、ポニーテールがかわいく答えた。

 カラカラと、事情を察した園子が笑い声をあげた。

「彩子って、ほんとに自覚がないのね。この街中の不良さんたちに、一目置かれて恐れられてたの知らなかったの?」

 今度は、彩子が顔色を変える番だった。

「知らないわよっ、そんなの。……ほんとに?」

「耶崎中の四神王は正義の守護神って、悪い人たちには怖い存在だったのよ。それを、もしもしって、こんなかわいい不良さんたちに声掛けて。怯えられるの当然ね」

 ちょっとまってよ……。そんなに怖がられるようなことした? 自問も空しく、彩子が真剣に悩むほど、かわいい不良少女たちは抱き合って怯えてくれた。



 幼い者の泣き声が辺りに響く。

 彼等二人以外に人影のない朝霧の中、誰にはばかる必要もないと霧は囁く。

 泣きじゃくる幼い子供の歩みで、二人は進んでいる。後続の、少年といってもよい若さの青年は、思い詰めたように瞳を険しくしている。その視線は前を歩く子供の頭に、始終据えられていた。

 青年は耐え切れず口を開いた。

「若様、伴様っ! いーかげんに泣き止めっ」

 パシンと手も飛ぶ。殴る相手の前を歩かされているのだから、よけようもない。

 即座に、ひとしきり泣き声が大きく膨らむ。

「光輝はひどいよ。冷たすぎるよ……。

 どうして僕の邪魔をしたの? どうしてあの人を止めちゃいけないの?

 光輝、あの人のこと好きじゃなかったの? 僕、大好きだったのに。また他の女の人みたいに、あの人に嘘をついたの?

 かわいそうだよ。あんなに綺麗で優しい人なのに……」

 彼は泣きながらも足を止めない。勝手に立ち止まったりしたら、短気な光輝にまたぶたれるのは子供ながら悟っていた。それでもコツンと小突かれる。

「いいかげんに、かわいそうだの大事だの好きだの抜かして、同情すんのは止めろっ!」

 噛み付かれそうな罵声が降り掛かる。今までで一番恐ろしい気迫。この道行き、光輝はずっと苛立っていた。それが完全に爆発したのだ。

 ふいに少年は振り返った。ギリギリと両眼を吊り上げる顔立ちの前に、立ち塞がった。

「どうして好きになっちゃいけないの? どうして愛しちゃいけないの? なんで大切に思っちゃいけないの?」

 突然の反逆は、光輝には読めていたらしい。最悪のガキだ。内心の苦々しさが整った顔立ちに昇る。

 二人きりで顔を突き合わせて暮らすのは、もうかなりの時間になる。同じ話題で、年のまったく掛け離れた二人がぶつかりあうのは、今に始まったことではないのだ。

 さすがに手荒な光輝も、相手が子供だという部分を頭に入れて、彼にとっての最大限譲歩したやり方で諭してきた。

 だが、今度ばかりは雲行きが違った。なぜか冷酷に光輝は苛立ち続け、今や野生児の眼光を向けている。

 それ以上に、対峙する子供であるはずの少年は、強い光を視線に込めていた。

 すがるような願いであった。光輝の中にある何かを絶対的に信じた、同意を求める光が、涙に曇りもせずあった。

 微かに揺らいだ。少年の望み通りに、光輝が積年閉じ込めてきた感情が動いた。

「俺たちは他の奴等とは違う!」

 びくりと小さな肩が震えた。

「何度言えばわかるんだよっ!

 お前が本当に一番大事にしなくちゃならない人間のことだけを考えろ! そいつ一人だけだ!」

 襟首を鷲掴みにする手。激情に震えている。この手に今まで数え切れなくぶたれた。手を引いて危機から連れ出してくれた。しぶしぶに引き寄せられて、泣き声を胸で押し殺した。

「………どうしてもダメなの?」

 細い声に、平手打ちが答えた。

「今度同じ口をきいたら、ぶつだけじゃ済まなさないぞ」

 ただの脅しではないと、一転して低く笑った。

「お前みたいな軟弱な精神のガキなんざ、この先役に立つのか疑問だな。期待外れで、ただの面汚しになるのが見え見えだ。無駄だな、全部。迷惑だね、俺たちには。

 いつ、お前の『可哀想な』誰かに闇討ち食らうのかね」

 光輝の戒めは解けた。涙が溢れて、止まらない。

 赤の他人を見る視線。自分のプライドに泥を塗る異物を、排除したいと渇望する狂気に似た視線。これは光輝だけが抱く殺意ではないはずなのだ。

 少年に、涙を止める術は無い。

 今ほんの一瞬後に、物理的な殺意が一閃しても不思議はない。暗い気配が漂っている。だが、恐怖は感じない。感じているのは同じプライド。自分の感情と比べられないくらい強く、それはいつのまにか胸に熱く巣くっていた。

「だったらもういい……。僕らは、他の人とは違うから。全部ダメなら、もう誰も好きになったりしない……。

 クリオンみたいに、遊びでも好きだなんて言わないっ!

 嘘でも言わない!」

 涙が止まらない。なのに光輝の顔ははっきりと見える。

 一瞬にして陰った表情。光輝の険しい瞳は光を失ったように見えた。なぜなのか解からない。

「……約束するよ」

 言いなりになって気に入られようという姑息な考えじゃなかった。それが義務だと、もう相容れる余地はないのだと、思い知らされたから。

 模索する幼年時代が、これで終わった。



『……約束するよ』

 声だ。

『どうして? どうして一人でいっちゃったの?

 僕、クリオンに嫌われちゃったの? 約束したよ? なんで? 嫌だ……! 答えてよ……、どうしてなの?』

 思い出したくもない声。響いて……。

『嘘……でしょう? まさか……。彼なら、誰が束になって掛かったって……。

 からかうの止めて下さいよ。いくらあなたでも。

 彼は強いんですよ。人一倍プライドが高くて、精神も肉体も並外れてタフで。……そんなに簡単に死んだり……』

 右手で額を押さえる。気休めである。苦しいのだ。ここの所、同じような夢を見ている。

「約束したのに……?」

 漏らした言葉は闇に吸い込まれた。

「! 寝過ごした……?」

 騎道(きどう)若伴(わかとも)は反射的に体を起した。時計の針は、思ったほど進んではいなかった。少し遅れた程度になる。

 ついうたた寝していたらしい。和用のテーブルに突っ伏した格好だったせいで、少し体がだるい。広げたままであった地図は皺がよっている。それを小さく畳む。

 部屋は十畳。家人の居る母屋からは距離のある離れなので、あたりはひっそりとしている。突然転がり込んできた居候であるので、勉強机代わりのテーブルと古びたタンスしかないが、十分である。

 障子戸を引き、母屋の明かりを確かめる。常夜灯の黄色い光がともり、家人は寝静まっているらしい。

 流れ込む秋風が、夢のほてりを過ぎてゆく。考えても、自分でコントロールできることではないのだ。

 小さくまとめた包みを手に、後ろ手で丁寧に引き戸を閉じる。柔らかい光沢を持つ上等なキットの靴が、裏庭にも作られた日本庭園を横切る。振り返らずに、騎道は裏木戸を抜けた。

 虫の音が、何事もなかったかのように奏でる夜だった。



 ディスコ『ストーン・ベイ』。この街の若者なら、誰もが名前を知っている店の一つである。そう遠くない首都圏に本拠を構えた一大チェーン店の直営であるので、流行に敏感な首都と直結したパイプラインが自慢だった。

 その上、首都での活躍すら可能なスタッフを揃えていることも、ここの重要度を示すいいバロメーターだ。

 だが時には、ビジネスの計算を超えた展開も起きる。若者なりの秩序が知らないうちに積み上げられる。遅れまいと、ビジネスも追いかける。夜も熱いのだ。

「どうも。四条エリア・チーフ。ご足労頂いて光栄です」

『ストーン・ベイ』の表玄関に停車するセダン。四人ほどの、出迎えの為に待っていた男たちが、足早に駆け寄った。それぞれの個性を際立たせるコーディネートだが、黒でカラーを統一している。

「来るんだろうね、彼は」

 四条は、降り立つなり問い掛けた。

 関東エリアのほぼ半数を監督する、切れ者のエリア・チーフである。『ストーン・ベイ』責任者、フロア・マネージャーである滝川も含め、スタッフ全員が緊張しないわけがない。四条の枯れ気味の低い声にも凄味がある。

「恐らく」

 慎重に滝川は返した。頭脳派の滝川に対して、四条の行動力とタフネスはいい取り合わせで、キャリアは遥かに掛け離れているがお互いを身近に感じていた。

「曖昧だな。君らしくない。

 客の入りは? メンバーズの割合は?」

 性急だ。苦笑したくなるのを滝川は押さえた。

「メンバーズはもうじき99パーセントになります。客は入る人間は居ても、出ていく人間はいないものですから、こちらの出迎えにもこの程度を集めるのがやっとで」

「なら、全員戻らせてくれないか。私はお客じゃないんだ」

 滝川の背後に整列する黒服に、ひらひらと手を振った。

「らしくなく謙虚な態度はそのせいか、滝川。メンバーズくらいの常連なら、読みは確かなはずだな」

 メンバーズとは、常連客に配られる磁気カードのことである。入店時に提示を受け、端末で読み取り客数と傾向を把握する。勿論このカードは、客にとってもステイタスの一つである。

 気さくに肩を叩き、店へと滝川を促した。

「臨時のアルバイトも含めて総掛かりです。お見苦しい点もあるでしょうが」

「君の鑑識眼はよく知っているよ。サービス面は二の次、ルックス重視。臨時なら、その方が効率的だな」

 滝川の美形偏重を揶揄する発言だった。滝川自身、フロア・サービス時代から客の目を引く存在であった。

「お一人?」

 滝川の代理でゲートに立つ青年は、いささかたどたどしい。過剰な緊張は四条の責任でもあるのだが。

「ええ……。いけないのかしら?」

 彼女は堅い声で返した。

「大歓迎ですよ。君も奥に戻りたまえ、私がご案内しよう」

 助け船を出したの四条だった。軽い会釈で四条は謝罪を示した。彼女の頬に登った戸惑いと安堵を確かめて、彼は振り返った。

「一つだけ、確認したい。DJのマサキにはちゃんと伝えてあるんだろうね?」

「ええ。ぬかりなく。

『今夜はクリオンを釘付けにしろ。できないのなら、君のここでの二年三ヶ月を疑う』と」

 滝川は信頼のおける策士である。四条は頷いた。

「それでいい。今夜はいつもとは違うんだ。逃す手はない」

『彼』は来る。四条は目撃する為にだけきた。上部の指示でも、戦略でもない。会いに来た。

「彼は本当に来るの?」

 傍らの美女は四条を見上げていた。

 緋色のスーツもウェービーな髪も、燃え盛る炎を連想させる。残念ながら、顔立ちとともに際立っているであろう瞳は、濃い色のサングラスに隠されていた。

 形のよい唇が、仕事中のつもりの四条には更に悩ましい。声を掛けたのも、いつ仕事なんぞ放り出してでも、という下心が先んじてしまった結果だった。

「あなたもクリオンに会いに? 羨ましい男だな、彼は」

 仕事を忘れた男のボディランゲージを悟り、彼女は素直に頬を赤くするという失態を演じた。大人びて扇情的なスーツとメイク。だが、今の表情は瑞々しく愛らしい。

「君は、マリアかい?」

 四条の精一杯のポーズを無視して、滝川は割って入った。

「……? いいえ、違うと思うわ。

 ここに来たのは、初めてなの」

 少し後ろめたいらしくうつむいた。

「マリア?」

「クリオンの恋人です。彼女は六月の事件以来、姿を見せないんです」

 サングラスの彼女は顔を上げた。

「恋人が居たの?」

「最高のペアでしたよ。彼はマリアだけを心底愛していたようで、どんな美女も入る隙は無かった。といっても、それは彼女の目の前だけのことで、移り気な奴でしたけど」

「この人に似ているのか?」

 こんな美人が何人も? という意味を四条は込めていた。

「ええ。……雰囲気が。それにマリアも黒いサングラスかアイマスクで、顔を隠していましたし」

 微妙な表現に、四条は小さくうなずいた。炎のイメージではなく、四条と滝川の経験が読み取った内面の印象に間違いはなかった。華麗に装っても、二人の美女には夜は似合わない。闇夜には場違いな可憐さを、隠せなかった。

「……これは、はずせないの」

 肩を落とす彼女に、滝川は優しく告げた。

「構いませんよ。ここではなんの強制もありませんから」

「どうぞ。ご案内しますよ」

 手際良く、四条は美女を誘うことに成功した。

「チーフの好みのタイプかな? 熱心じゃないですか?」

 あまりの親切に、黒服の一人が滝川に耳打ちする。

「彼はどんなタイプにも熱心さ。仕事熱心という種類だが」

「でも、今の彼女は素敵だな。なんていうか……」

「…………人魚姫だよ」

 振り返った四条の低い声が、彼らを震え上がらせた。

「滝川。そいつらをさっさと戻らせろ」

「チーフもお早めに、お戻り下さい?」

 内心で罵る『バカ野郎』を噛み殺し、四条は向き直った。

「度々、失礼。彼が現れたなら、すぐにわかりますよ。華やかな人物ですから」

 完璧な微笑で、彼は人魚姫を促した。





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