第五話
翠と話を続けていた私の前にあらわれた人物…それは!?
「あらら、何してるの?お二人さん。」
どうも気まずい雰囲気になっていた二人に向かって向こうからかけてくるみなれた人物。
「げっ、斎条君…。」
噂をすれば、というところだ。
(神出鬼没…(汗。
すると翠が目線をそらしてから、目を閉じてもう一度私を見る。
そしてにっこりと笑った。
「じゃ、頑張るのよ、優貴!!」
そう言って、先ほど斎条君が現れた屋上に向かってダッシュで走りだした。
「え、ちょ、一人にしないで!!」
必死で追いかけようとするが、何せ翠は足がむちゃくちゃ速い。
しだいにかんかんと階段をける音が遠くなっていく。
で、二人きりになってしまった私…。
なんかにこーと満面の笑みの斎条君が視界に見える。
「二人きりにしてくれるなんて友達優しいね?」
「むしろ迷惑よ!!」
が、斎条君はそんな私を翠と同じようにじっと見て、思いがけない行動に出た。
強引に顔を両手でつかまれたかと思えば、目の前に斎条君の顔。
(おいおい、待て待て何この展開!?)
必死で押し返そうとするが、同時に抱きしめられる。
当然女のほうが不利で、かなうはずもない。
で、きづくと自分の唇に何かが当たっている。
(は…?)
はっとして思った。
これは…−
キス
しかも私の場合、ファーストキスだ。
しばし、信じられない思いで止まった。
が…すぐに酔いがさめたようになり、すさまじい勢いで斎条君を突き放した。
「だあああああ!!何すんの!?この変態ィィ!!」
「あは、ご馳走さん。」
大激怒の私に対して、斎条はかなりご機嫌だ。
「返して!!私のファーストキス!!」
「無理です。」
斎条君は必死に言う私を見て、急に顔色を変えた。
おお、やっとわかってくれたのか!!と思い、
せめて謝らないと今後は口も聞かないと決めた。
「お前、そんなに俺が嫌いか?」
「は?」
斎条君の目は本気だった。
目線が痛いくらい鋭い。
視線を合わせていられなくなってうつむいたら水のしずくが床に落ちた。
(あれ……?)
私は泣いていたのだ。
「…俺がそんなに嫌いか?」
もう一度、さっきよりゆっくりめに斎条君が叫ぶように
しかし声を押し殺すようにに言う。
「…嫌いよ。」
つぶやくように小さく言った。
そしてもう一度息を大きく吸い込んで、叫んだ。
「あ、あなたなんか、大きっらいよ!!!!」
そして私は彼を置いて一人屋上を出た。
瞳から涙があふれ出て止まらない。
でもその意味がわからない。
優貴が去っていく足音を聞きながら、斎条はつぶやいた。
「あ〜あ、俺って本当馬鹿だ。」
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「はあ…」
ひとまず逃げるように屋上を飛び出してきたのはいいが、荷物を屋上に置き忘れたままだった。
翠もいない。
…ああ、一人でどうしろというのか。
一人でしどろもどろしてあれこれ考えてみるものの、有効な策はない。
(あああああ!!!もう!!)
むしゃくしゃして、考えを中断した。
斎条君はどうしてるのかなあ…。
ふと思ったが、すぐに脳内消去!!
構うものか…!!
ひとまず落ち着こうと思って、歌を歌った。
””
歌い終わると、背後から拍手。
はっとして振り返ると斎条君がいた。
どうやら荷物を持ってきてくれたようだ。
「一緒に帰ろう♪」
小さくうなずいて、一緒に帰ることにした。
帰り道、私はなんだか気まずくなって黙ったが、
斎条君はいつもと変わりがなく話をしてくれて、なぜかとてもほっとした。
「あのさ、さっきはごめんな。」
「は?」
視線を合わせずに顔を真っ赤にしている斎条君がいた。
思わず私も顔が真っ赤になる。
「すまん!俺、今まで付き合いとかしたことなくてさ〜。友達に言ったら”ひとまずキスしとけ!”って言われて〜」
「…。」
なんつー理由だ。
馬鹿か!?この男!!
あきれて、そのうちおかしくなって私は笑った。
「斎条君って馬鹿〜!!」
すると斎条君はふっと笑顔になった。
今まで見たことないくらいすごく綺麗なやさしい笑顔だった。
それを見てなんか私はどきどきしてしまった。
(あれ…?まて、今の笑顔はまたしてもテクなのか…!?)
とか思ったけど、そんなことを楽しく思ってる自分が確かにいて、
だから少しくらい気を許してしまった。
そしてその隙に…
斎条君は私の手を握って必死な顔で訴えた。
「もう一度チャンスをくれ!お願い…!!」
正直びっくりしたけれど、私はため息をついてうんとうなづいた。
すると土下座しながら斎条君はこう続けた。
「お友達からはじめてください!!」
「……。」
(何これ…!?)
かくして私の波乱の日々は本戦を迎える。
ー今度は何するんだ!?−
まったく予想のつかない男である。
まあ、ひとまずこの件で少し落ち着いたと思って、心配はしなかった。
しかし、そんな私の判断は甘かった。
次の日、学校ではなんだか面倒なことになっていた。
久しぶりの更新です。
お待たせした方すいません。
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