サンタさんにプレゼント
綴り人最初の企画!
クリスマス短編です。
皆さんが現代物が得意そうなので、私は大好きなファンタジーにしました。
尚、同じ作品を私「柚乃 詩音」のアカウントでも投稿しています。
今年もやはり、一人サンタ帽をもらえない新人がいた。
「先輩っ! ここにある書類であってますか」
彼女が持っているのは子供たちの名前と届けるものをまとめた書類の山だ。
「馬鹿、そっちじゃない。それは一昨年のだ」
喝を入れるのは彼女の教育に当たっている先輩である。
彼女は明るく真面目な新人ではあったが、どうもそそっかしくていけない。特にデスクワークとなるとミスが目立つ。
「お前いつになったら覚えるんだよ」
そういう先輩は、わざとらしくサンタ帽をひょいと真上に投げる。
「そんなんだからサンタ帽貰えないんだ。ちょっとは学習しろよ」
サンタというと優しげな白いひげのおじいさんを思い浮かべるだろうが、個々にいる二人はまだ若い男女だ。実際のサンタというのは年齢は余り関係ない。もちろん性別もだ。男女雇用機会均等法が制定される前は女性のサンタはほとんどいなかったようだが今はそんなことはない。
「先輩の言動こそ、サンタとしてあるまじきものだと思います!」
「はぁ。お前の想像するサンタってあれだろ、小さい頃会ったっていう」
そう。この新人は幼い頃サンタに会ったことがある。基本的に子供が寝静まった時間帯にプレゼントを配るサンタであるから子供たちはなかなか出会えないのだが、時々例外もいるのだ。彼女がその例外だ。
彼女は昔、サンタから直接プレゼントを受け取っている。彼女がサンタを目指すきっかけがそれだ。そのときのサンタの優しげな風貌、絵本で見たとおりの姿にすっかり感動したのだった。
「来年もいい子でね、そういってそりで立ち去るあのサンタさんに私は夢をもらったんです! その頃はもう、サンタなんていないんじゃないかって思ってて……。でも、あの人のおかげで私はサンタが現実の存在だと知った! あの人と出会わなければ今私はここにいないんです!」
「あー、もう聞き飽きた。耳にたこだ。ったく、今年一人だけまだサンタ帽もらえてないくせに」
「先輩、聞こえてます! そもそも先輩がくれないだけじゃないですか。嫌がらせです」
「ばぁか。こんな役に立たない奴にやれるかよ。まだクリスの方が利口だぜ?」
そういって先輩はトナカイのクリスに手ずから餌付けする。
「むぅ。トナカイよりは役に立ちます!」
「はいはい」
そのまま、その新人がサンタ帽を受け取ることは叶わずクリスマス当日を迎えた。
「先輩、次はこれですよね」
「違う。隣の赤い箱」
「えっ? あっ、これ?」
先輩は盛大に溜息をついた。そこに込められた厭味は伝わったらしく新人は先輩を思いっきり睨んだ。
「ほれ、とっとと行って来い。まだ沢山配らなきゃなんないんだ」
「はぁーい」
今プレゼントを届けに来た家はいまどき珍しく煙突がある。そこから降りようとして……新人は勢いよく落ちていった。
「きゃぁぁぁあああー」
「あ、こら。叫ぶな。子供が起きる!」
どすんっ、と新人がしりもちをつく音がした。あとを追って先輩も降りていく。彼の方は新人のようなヘマはせず降り立った。
「馬鹿かお前は!」
小声で怒鳴ると新人は苦笑いして謝る。
「すみません。足滑らせちゃって」
「誠意がないぞ、誠意が」
二人連れ立って子供部屋につくと、男の子がベットから上半身を起こして目をこすっていた。
「やっぱり起きてたじゃないか、馬鹿」
「馬鹿馬鹿言わないでください。口癖になってますよ。そう何度も言われると流石に堪えるんです」
そんなやり取りをしているうちに男の子が二人に気付いた。
「ん、あれ? サンタさん?」
先輩は仕方ないと言って新人からプレゼントを取り上げ、ベッドに近づいた。
「あぁ、サンタだよ。今年一年いい子にしていたね? プレゼントを持ってきたよ」
「本当? ありがとう、サンタさん。サンタさんっておじいさんじゃないんだね」
先輩はふっと微笑んだ。
「そうだな。あっちにはサンタのお姉さんがいるぞ」
視線でこっちに来いと促されて新人もベットに歩み寄る。
「こんばんは」
「おねーさんも、ありがとう」
先輩はまだ新人の方を見ている。新人は、先輩の言わんとすることを理解し表情を明るくした。
嬉々として憧れていた台詞を言う。
「来年もいい子にしていてね。そうしたら、来年もプレゼントを持って来るから」
「うんっ。うんうん。いい子にするー。だから来年も来てね!」
「うん。約束だよ。いい子にしててね」
「そろそろ行くぞ。バイバイ」
笑顔で男の子に手を振る先輩を新人は驚いたように見て、先輩に倣って手を振り部屋を出た。
「先輩、意外とサンタらしいですね」
「心外だ。そんなに俺はサンタらしくないと?」
「い、いいえっ。そんなことはないです」
「ほら、次いくぞ」
順調に残りのプレゼントを配って、二人が帰途に着こうとしたとき、一人のサンタが二人の前に現れた。
「久しぶりだね、お嬢さん」
そのサンタは、児童向けの絵本に出てくるような白いひげに優しそうな表情、大柄な体型の男性のサンタだった。
「先輩!」
そう声を上げたのは新人ではなく先輩の方だった。
「あぁ、君も久しぶりだ。もう立派にやっているね。新人の指導も順調かい?」
「……まぁ」
「はっはっは。君もまだサンタになって日が浅いんだ。完璧を求めなくてもいいんだよ」
二人の会話を聞いて戸惑っている新人が先輩のサンタ服を引く。
「ねぇ、先輩サンタさんと知り合いなの!? サンタさん! 覚えてますか? 私サンタさんに憧れてサンタになるって決めたんです!」
先輩の陰にいる癖にまくし立てるように一息で言った。
「覚えているよ、お嬢さん」
その一言で新人の顔には喜びが満ちる。
「おや? お嬢さん、サンタ帽は……」
「あー、その……まだ貰えてないんです。私ミスばかりしちゃって」
先輩もばつの悪そうな表情をしている。
「そうか。じゃあ、これは一年頑張っていたお嬢さんへのクリスマスプレゼントだ」
そういうとサンタは新人の頭の上に自分のサンタ帽を載せた。
「いいんですか!」
「もちろん。君は頑張っていたし、沢山の子供たちを笑顔にした。それがサンタに一番大切なことだよ。それに、私はもう引退しようと思っていてね。同業のお嬢さんに最後のクリスマスプレゼントを受け取ってもらおうと思ったのだが、迷惑だったかな?」
「そんなことあるわけないです。ありがとうございます」
新人は心のそこから嬉しそうな笑顔で答えた。
「君も、頑張るのだよ」
「はい。今までありがとうございました」
そういう先輩の瞳にも喜びと、憧れが溢れていた。
そりに乗り立ち去るサンタを、二人のサンタは今日彼女たちがプレゼントを贈った子供たちと同じ表情で見送っていた。