ダンジョンで死んだ俺、目覚めたら天才美少女白魔道士にパパにされていた
蘇生はウィザードリィ的な世界観です。
直接ではないですが性的な描写があるので苦手な人はご注意下さい。
目が覚めるとシーツの上だった。
白い天井。ステンドグラスから差し込む陽光。鼻をくすぐる薬草の香り。どうやらここは教会のようだ。
記憶が混濁しているが、ベッドに寝かされている辺り、自分がダンジョン探索で何やらヘマをしたという事だけは分かった。
「あっ! お兄ちゃん、起きたぁ♡」
聞き慣れた声がした。
顔を向けると、銀髪の美少女が満面の笑みを浮かべていた。
セシリア・リィンハイド。
下級貴族の一人娘で、腰まで伸びた銀髪に、大きな青い瞳。透き通るような白い肌と、花が咲いたような笑顔が印象的な女の子である。
優れた魔術適性を持ち、回復や解毒、守護魔法に至るまで、全て十歳と少しで修得したと言われている天才白魔道士である。
先日十六歳になったばかりの彼女は、俺より五つ年下。パーティを組んだ頃からずっと俺のことをお兄ちゃんと呼んで慕ってくれる天使である。
「セシー……?」
「うんっ! お兄ちゃんのセシーだよぉ♡ えへへっ、お兄ちゃん、おはよっ!」
セシリアが俺に抱きついた。
「よかったぁ……ちゃんと生き返ってくれたぁ……♡」
「……生き返った?」
「うん! お兄ちゃん、死んじゃったんだよ?」
やはりか。
ダンジョン探索では常に死の危険が伴っている。確か、俺は意識を失う直前までダンジョンの最深部で、ミノタウロスと戦っていたような気がする。セシリアを守るために前に出て、注意を惹きつけていたハズだった。
それにしても、仮にも仲間が死んでしまったというのに、まるで彼女は昨日の夕飯を報告するような口調だった。
「……そっか、そりゃあ悪かったな。ここまで連れて帰るの大変だっただろ」
「そうだよぉ。もう、びっくりしたんだからぁ!」
セシリアは頬を膨らませた。
「でもね、セシリアがちゃんとお兄ちゃんを復活させました! えらいでしょ?」
「あ、ああ……ありがとう。セシーは命の恩人だよ」
「えへへっ♡ もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
俺はセシリアの頭を撫でた。
彼女は気持ちよさそうに目を細める。
「んふふぅ……♡ お兄ちゃんの手、大好きぃ、あったかぁい……」
いつも通りのセシリアだった。
少し甘えん坊で、無邪気で、俺のことを兄のように慕ってくれるかわいい女の子。
でもいざという時はいつも頼りになる。ここだけの話、俺も彼女のことを本当の妹のように思っていた。
「それにしても……何があったんだ? ミノタウロスと戦っていたところまでは覚えているんだが」
「あー、そっかぁ。蘇生したばっかりだから、まだ頭がぼんやりしてるんだねぇ」
セシリアは納得したように頷いた。
蘇生魔法を受けた者は、未熟な者なら脳に障害が残ったり、そうでなくとも記憶が曖昧になる事がある。
俺も王都では指折りの冒険者と言われている程度には腕に覚えがあるが、今は死の直前の記憶が少しぼやけているらしい。
なにか思い出したくない、よほど恐ろしい事があったのだろうか。
「大丈夫。お兄ちゃんもすっごく強いもん、そのうち思い出すよ。でも、早く思い出せるようにセシリアが教えてあげるねっ♡」
「ああ、頼む」
セシーは俺の頬を撫でて、楽しそうに笑った。繰り返すが、控えめに言って天使である。
「えへへっ。あのねぇ……」
セシリアはベッドに腰掛けた。
そして、俺の頭を抱き寄せる。
「お兄ちゃん、昨日はねぇ……すっごく可愛かったんだよぉ……♡」
「……可愛い?」
「うんっ♡」
彼女は俺の耳元に顔を近づけた。
「まずねぇ、ミノタウロスに頭を殴られちゃったの。覚えてる?」
そう言われた瞬間、記憶が蘇った。
セシーに巨大な斧が振り下ろされ、俺は咄嗟に前に出た。そして剣で受け止めた瞬間、無防備になったところを横から殴り飛ばされたのだ。
思い出したと同時に頭に激痛が走った。
「つっ! ……ああ。そうだ。俺は頭を打って……」
「うんうん♡ それでお兄ちゃん、壁に叩きつけられちゃったの。でもねえ、そこから立ち上がって『セシーに触れるな!』って、ミノタウロスに血だらけで飛び掛かっていってねえ……あの時のお兄ちゃん、格好良かったなぁ……♡」
セシーは楽しそうに続ける。
「それでモンスターを倒した後、安心したのか急に倒れちゃったんだぁ。セシリアが心配して駆け寄ったらねぇ、お兄ちゃん、すっごく安心した顔してたんだよ?」
徐々に思い出してきた。ミノタウロスの首に剣を突き立てた後、ぼんやりした視界に映った銀色の髪。
心配して駆け寄るセシーに俺は助けを求めた。
「それでねぇ……セシリア、お兄ちゃんをぎゅーってしてあげたの♡」
「……そうか」
「うんっ! お兄ちゃん、最初は嬉しそうだったんだよぉ?」
最初は?
その言葉が妙に引っかかった。
「それでセシリアね、鎧を外してあげたの。お兄ちゃん、息苦しそうで大変だったんだから。ふふ、多分肋骨も何本か折れてたんだろうねぇ」
俺の頭を撫でながら、セシリアはくすくすと笑った。
「そしたらお兄ちゃん『待て、なんで今脱がすんだ……回復してくれないのか……?』って、途中からすっごく怖がっちゃって……」
彼女はわざと声を低くした。
「『こ、怖い……やめてくれ……セシー……』とか、言ってさ。キャハッ!」
頭の中に掠れた記憶がほんのりと蘇った。あの時の彼女が俺を見下ろす冷たい目。
思わず心臓が跳ねた。
「えへへっ♡ 似てるでしょぉ?」
俺は答えられなかった。
覚えている。
『やめてくれ……! お願いだ……セシー……!』
確かに、俺はそう言った。
「そして鎧の次に、ズボンのベルトに手を掛けたの。そしたらお兄ちゃん、動けないのに赤ちゃんみたいに、首だけいやいや振っててさぁ……♡」
セシリアは両手で自分の頬を包んだ。
「あの時のお兄ちゃん、可愛かったぁ……♡」
背筋が冷たくなった。
記憶の断片が次々と重なって鮮明になる。
薄暗いダンジョン。動かない身体。俺の顔を覗き込むセシリア。
彼女はずっと笑っていた。
「……セシリア」
「なぁに、お兄ちゃん?」
「俺は……どうして死んだんだ?」
セシリアはきょとんとした。
それから、ぱっと笑顔になった。
「あれぇ? おかしいなあ? 覚えてないの? それとも無かったことにしたいのかなぁ?♡」
彼女は俺の手を取った。
「でもざーんねん♡ 無かったことにはできませーん♡」
そう言って、俺の手を自分のお腹に当てた。
「セシリア、もうお兄ちゃんからいっぱい貰っちゃったから……♡♡♡」
「……何を?」
「えへへっ。ひみつぅ♡」
彼女は人差し指を唇に当てた。
「でもね、嬉しかったなぁ。まあ、ちょっと頑張り過ぎたせいでお兄ちゃんは死んじゃったんだけど……でもいいよね? こんなに可愛いお嫁さんが出来たんだから♡♡♡」
「え……お前、まさか……」
言い終わる前に、今度はその人差し指を俺の口に当てる。
「えへへ、もうちょっとしたら分かるかも♡ だからそれまで楽しみにしててね、パーパ♡」
俺は目を閉じた。
ああ。
どうして。
どうして俺は、生き返ってしまったのだろう。
「……ああ、セシリア。お前はなんて事を……」
「えへへっ。お兄ちゃん、あったかぁい♡」
セシリアは俺の胸元に頬を寄せ、幸せそうに目を閉じた。
「大丈夫だよぉ。怖くないよぉ。セシーがずぅっとそばにいてあげるからねぇ……♡」
「だから私達の事、裏切らないでね。裏切ったら私、何するか分かんないよ? 分かってるよね? おにーちゃん♡」
彼女の瞳の奥には、吸い込まれそうなほどの深い闇が広がっていた。
***
それから数ヶ月して俺とセシリアの間に可愛い子供が生まれた。女の子で、目元が彼女によく似ていた。
それを機に冒険者を引退した俺たちは、王都の外れに小さな家を建てた。結婚するまではなんだかんだ色々あったが、今となってはいい思い出だ。
セシリアは良い妻だった。料理が上手で明るく、俺のこと、何より娘のことをいつも大切にしてくれる。
銀色の髪に、母親譲りの青い瞳。
セシリアは毎日、幸せそうに娘を抱いていた。
「お兄ちゃーん♡ 見て見てぇ! この子、また笑ったよぉ!」
「ああ。本当に可愛いな」
「えへへっ♡ 口元なんかはお兄ちゃんにそっくりだよねえ」
セシリアは嬉しそうに俺に寄り添った。
「ねえねえ、お兄ちゃん……♡」
「どうしたんだ、セシー」
「そろそろ、二人目も欲しくない?」
俺は妻の肩を抱いた。
「そうだな。ちょうど俺もそう思っていたところだ」
「ほんとぉ!? やったぁ♡」
セシリアは満面の笑みを浮かべ、俺に抱きついた。
「じゃあじゃあ、今夜は早く寝よっ! セシリア、お兄ちゃんといっぱいくっつきたいなぁ♡」
「ははっ。相変わらず甘えん坊だな」
「だってぇ、お兄ちゃんのこと大好きなんだもん♡」
その晩。
寝室で待っていたセシリアは、俺を見るなり両手を広げた。
「お兄ちゃーん♡ おいで♡」
俺は笑いながら彼女を抱きしめた。
「えへへっ……♡ 幸せだねぇ、お兄ちゃん」
「ああ。幸せだよ」
「二人目も楽しみだねぇ……♡」
妻の甘い囁きが耳元に響く。
ガチャリ
「えっ」
「ふふ、手錠だよ♡ いっぱい搾り取ってあげるから、またお兄ちゃんの可愛いところをセシーにいっぱい見せてちょうだいね?」
大丈夫。俺の妻は天才白魔道士である。何も心配はいらない。そうだ、きっとそのハズだ。そうであってくれ。
「ひっ、た、助けて……」
「あはっ♡ たすけなーい♡♡♡」
そして俺の意識は幸せの中で、また暗闇へと堕ちていった。
fin
ここまでお読みいただきありがとうございました。




