第二課題
第一課題を終え、少し息をつく暇もなく、教師が次の課題を告げる。
「次は模擬戦闘だ。相手を倒すことが目的ではない。戦術、判断、魔力の応用力を見せろ」
胸がざわつく。
(戦闘なんて……人間の私にできるわけがない……)
だが、背後の教師たちは容赦なく視線を注いでいる。ここで怯めば、評価は底辺だ。
対戦相手の魔族が現れる。
大きな翼を広げた青い肌の少年――明らかに攻撃魔法が得意そうだ。
「ふん、新人か。ちょっと試させてもらうぞ」
鋭い笑みと共に、彼の魔力の波がこちらに押し寄せる。
(攻撃魔法……防御力は? 回避……でも間に合わない!)
思わず体が後退する。だが、ここで聖女の力を使わざるを得ない。
掌に光を宿すと、飛んでくる魔力の一部を穏やかに弾き返すように操作する。
見た目は防御魔術の応用だが、実際には“癒しの力”で魔力を和らげているだけだ。
攻撃が衝突する音が響く。少年の眉が上がる。
「……なんだ、この魔力は……!」
さらに相手が連続で攻撃を仕掛ける。
私は一瞬、閃いた。
障害物制御の応用で、地面の魔法陣を触媒にして魔力を整え、攻撃の軌道を微妙にずらす。
相手には意図せぬ回避の技術に見えるらしく、攻撃が外れるたびに驚きの声が上がった。
教師のひとりが小声でつぶやく。
「この年齢で……こんな制御魔術を……?」
私は心臓をぎゅっと押さえ、笑顔を作る。
(まだ、正体はばれていない……)
数分後、模擬戦闘は終了。
審査員たちは頷き、対戦相手の魔族も何やら納得したように背を伸ばす。
「……新人、お前、只者じゃないな」
少年が低く言った声に、私は少しだけ安心した。
胸の奥で、微かに光る心臓の鼓動。
――これが、聖女の力。戦闘には向かないけれど、魔族の世界でも生き抜くための武器になる。
拍手とざわめきの中、次の課題の準備が始まった。
まだ長い試験は続く――だが、私は一歩ずつ、魔族の世界で自分の居場所を作っていくのだ。