第一課題
重厚な鉄扉が静かに開かれ、試験場の中へと導かれる。
広間は広く、天井には魔法灯がゆらめき、石畳には複雑な魔紋が刻まれていた。
壁際には大小さまざまな障害物
――魔力で動かされる仕掛けや、回復用の魔法陣が並んでいる。
教師の声が響く。
「第一課題は、魔力による障害物の制御だ。力で押しのけるだけではなく、正確に扱えるかが試される」
胸の奥が締め付けられる。
(……人間の私に、戦闘用の魔力なんて使えるわけない……)
思わず掌に手を当て、心を落ち着ける。
――聖女の力は戦闘向きではない。でも、癒しとして魔力を穏やかに操ることなら……。
課題開始の合図と共に、障害物のひとつが魔力で浮かび上がる。
周囲の魔族たちは攻撃魔法で力任せに制御している。
わたしは一瞬ためらったが、深呼吸をして光を掌に集めた。
柔らかな光が障害物に触れると、まるで意志を持つかのように静かに動き出す。
石の板は滑らかに回転し、魔紋を踏まずに安定して位置を変えた。
周囲がざわめく。
「……あの光……制御魔術か?」
「精密すぎる……新入生でこの技術は珍しいぞ」
私は必死に微笑む。
(……これは、癒しの力で魔力を“整える”だけ。攻撃には向かない。でも、通用している……)
次の障害物が飛び出す。
私は光を集中させ、動きを予測して魔力を繋ぎ、障害物を安全な位置に誘導する。
その度に、魔族たちの目が見開かれ、教師のひとりが眉を上げた。
「これは……人間の魔力ではなく、特殊な“癒しの制御”か?」
私は心の中で小さく息をつく。
(まだ誰にも正体はバレていない……)
試験は次々に障害物を出してくるが、光の力で制御し続ける。
観客のざわめきは徐々に賞賛の声に変わり、試験場の空気は「この新人、只者ではない」という雰囲気に包まれた。
そして、第一課題が終わる頃、私は胸の奥で小さくつぶやいた。
――ここでも、生き延びられる。癒しの力で、魔族の中に居場所を作れる。