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第四話:星を賭けた戦い、そして新たな軌跡

いよいよアストラル最強決定戦の決勝戦。舞台は、アトラス帝国の首都にそびえ立つ、巨大な星晶球スタジアム。歴史に名を刻むことになるのは、現代の「万能の英雄」を擁するアルテミス・グリフィンズか、それとも古の猛者たちが集うルナール・ファントムズか。


スタジアムの貴賓席には、アトラス帝国の皇帝がその威厳ある姿で着席し、この歴史的な一戦を見守っていた。


「まるで、星の皇帝が見守る、天上の戦いだな」


ルナール・ファントムズのベンチで、ヒカリが静かに、しかし確かな興奮を滲ませて呟いた。その声は、隣に立つゼニスにも届いていた。

ゼニスは、ヒカリの呟きに静かに目を閉じ、そして開いた。

「ああ、ヒカリ。まさにその通りだ。かつて我らが共演した、あの伝説の舞台を彷彿とさせる。この異世界でも、きっとまた、新たな伝説が生まれるだろう」


試合の熱狂を見守るのは、惜しくも決勝進出を逃したソレイユ・ドレッドノートのボルクとファントムだ。彼らは特別解説席に座り、球場に設置された「星読み水晶アストラル・クリスタル」を通して、異世界中の視聴者に向けて、この世紀の一戦を解説していた。彼らの声は、都市の広場に設置された巨大な星晶スクリーンにも映し出され、アストラル全土の人々が息を呑んで見守っていた。


「おい、ファントム、あの『星晶吸収球』ってやつは本当に厄介だぜ。俺でも簡単には打てねえ」ボルクが豪快に笑いながらファントムに言う。


ファントムは冷静に頷きながら答える。「ええ、ボルクさん。レイガ投手の球は、ただ速いだけでなく、打者の星晶を削り取る。まさに異世界のエースに相応しい能力です。しかし、カイ選手の『炎の豪打』は、その星晶吸収をも上回る破壊力を持っています。この勝負、まさに矛と盾の対決ですよ」


先発は、アルテミス・グリフィンズのカイと、ルナール・ファントムズのレイガ。マウンドには、地球の野球界を彩る二人の「エース」が立つ。グラウンドには、両チームの異世界出身選手たちが、地球の選手たちのプレーから多くを学び、既に自身の星晶と野球技術の融合を試みている。


試合は一進一退の攻防が続き、両チーム譲らず最終回を迎えた。同点で迎えた9回裏、二死満塁。打席にはアルテミス・グリフィンズのカイ。マウンドには、全身全霊の力を込めたレイガが立っていた。


レイガは捕手からのサインを何度か確認する。脳裏には、遠い記憶、かつて地球で経験した、魂を削るような打者との究極の対決の感触が鮮明に蘇る。その一球一球に込めた魂、極限の緊張感と冷静な判断が交錯するあの場面。そのすべてが、この最終打者への一球に集約されていく。あの時と同じ、息詰まるような緊張感。だが、レイガの瞳には、あの時と同じように、何としても抑えきるという強い決意が宿っていた。「ここで負けるわけにはいかん…! あの時と同じように、俺が勝つ!」心の中で強く叫ぶ。


球場全体の視線が二人に注がれる。まさに、すべてを賭けた、運命の一球が求められる瞬間。


「さあ、この場面、レイガ投手はどう出るか!!? まさに、彼の野球人生を象徴するような極限の勝負だ!」ボルクが星読み水晶に向かって身を乗り出す。


ファントムが息を呑んで分析する。「カイ選手は、ここまでレイガ投手の決め球を見事に打ち返してきました。レイガ投手にとって、もう安易な球はありません。しかし、彼の経験と魂は、きっとこの困難な状況から抜け出す術を見つけるでしょう」


レイガは、深く息を吸い込み、星晶を全身の隅々まで行き渡らせる。研ぎ澄まされた集中力。


初球。かつての死闘と同じように、まずは内角への厳しいストレート。「星晶吸収球」が、カイのバットを僅かに押し返す。ストライク。


続く二球目。外角へのスライダー。これもかつての記憶をなぞる軌道。カイは冷静に見送る。ボール。


三球目。内角へのシュート。ほんの僅かにボール判定。観客席からは、大きなため息が漏れる。ボール。


四球目。外角へのフォークボール。大きく落ちる球に、カイのバットは空を切る。ストライク。


五球目。内角高めのストレート。これはボール。カウントは3ボール2ストライク、フルカウントとなる。さらに追い込まれたレイガ。


ルナール・ファントムズのベンチでは、ゼニスが固唾を飲んでマウンドを見つめ、ヒカリは冷静を装いながらも、その目には強い緊張感が宿っていた。

「レイガさん…!」若いチームメイトが思わず声を漏らすが、ゼニスが手で制する。

スタジアムの貴賓席では、アトラス帝国の皇帝が、その厳かな表情を崩さず、しかしその双眸はマウンドのレイガに釘付けだった。彼の顔には、この世界の誰もが理解し得ない「星晶球」の真髄、そして地球の男たちの魂のぶつかり合いに対する、深い敬意と興奮が浮かんでいた。

レイガは、一度グラウンドに視線を落とし、ユニフォームの肩でじっとり滲んだ汗をぬぐう。その仕草一つにも、極限の状態にあることが見て取れた。


そして六球目。レイガは、あの時と同じように、捕手のサインに頷いた。インコース低め。最も自信のある、星晶を極限まで込めたカーブ。漆黒の塊となってホームベースへ向かうその球は、「星晶吸収」の効果を最大限に引き出し、打者の力を奪い取る、完全無欠の決め球だった。


カイは、その球の放つ圧倒的な星晶と、そこに込められたレイガの魂を感じ取る。野球人生で出会ったあらゆる速球、変化球、そして、自身の限界を超えていくビジョンが閃光のように駆け巡る。さらに、レイガがかつて放った伝説的な投球の記憶が鮮明に蘇っていた。あの日の最後の決め球が、この「インコース低めのカーブ」であったことを、未来からの知識として知っている。その知識が、彼の体に電流のように走り、来るべき球の軌道を寸分違わず予測した。


彼は、己の全星晶をバットに集中させる。「炎の豪打」が、漆黒の軌跡を描く星晶吸収カーブを完璧に捉えた。強烈な衝撃。バットとボールが接触した瞬間、球場全体を揺るがすような轟音が響き渡る。


打球は、炎の尾を引きながら、一直線に夜空へと伸びていく。それは、疑いようのない本塁打だった。


ボルクが星読み水晶に向かって絶叫する。「信じられねえ! レイガのあの有名な決め球を打ち砕きやがった! まさに伝説を超える一撃だ!」


ファントムは、打球が消えた空を見上げ、呆然と呟いた。「あれが…カイの…力…」彼の頭の中を、とてつもない疑問が駆け巡る。彼の生きた時代、地球の野球は今ほど世界に知られていなかった。しかし、今目の前で、レイガという稀代の好投手から、信じられないほどの完璧な一打を放ったこの選手は、自身の常識を完全に覆していた。

「まさか…彼は、未来の星晶球界を担う者なのか…?」

ファントムは、自身の時代では想像もできなかった、その遥かな高みに立つ地球の選手の可能性を、その圧倒的な打球から感じ取っていた。


打球は、そのまま異世界の夜空に消え、スタジアムには、信じられないような静寂が訪れた。そして数秒後、爆発的な歓声が球場を包み込んだ。


試合終了後

マウンドには、歓喜に沸くアルテミス・グリフィンズの選手たちがカイを取り囲む中、レイガは静かにその場に立ち尽くしていた。やがて、カイはチームメイトの輪を抜け出し、レイガの元へ歩み寄る。


カイはレイガの目の前で深々と頭を下げた。


「レイガさん、ありがとうございました。あなたとの対戦は、僕の野球人生の中で、いや、僕の人生の中で最高の時間でした」カイは、尊敬の念を込めた声で語りかける。「僕はずっと、あなたの野球を見てきました。あの伝説的な試合も、何度も、何度も、見返しました。まさか、その最後の球を、この異世界で、あなたの魂が宿った球を打てるとは…夢のようでした」


レイガは、驚きと戸惑いの表情でカイを見つめた。自身の伝説的な試合を、この若者が知っている? まるで未来から来たかのような口ぶりだ。


「……お前は、一体何者なんだ?」レイガは、静かに問いかけた。


カイは微笑み、少しだけ顔を上げた。「僕は、遠い未来から来た、ただの野球選手です。でも、あなたがいたから、あなたのような偉大な先輩がいたからこそ、僕たちの野球は進化を続けました」


レイガは、しばらく無言でカイを見つめていたが、やがて、その口元にゆっくりと笑みが浮かんだ。


「そうか…未来から来たのか。信じられん話だが、お前のような選手が、地球の野球にいるというなら…悪くない未来だ」レイガは、力強く、そして温かい眼差しでカイの肩を叩いた。「最高の打者と、最高の勝負ができた。ありがとうよ、カイ。お前のおかげで、俺もまだまだやれると思えたぜ」


互いの健闘を称え合う握手が交わされる。彼らの視線の先には、異世界の住人たちが、熱狂と感動の入り混じった顔で立ち尽くしていた。彼らの交わした言葉は、異世界の住人には理解できなかったが、その表情から、二人の間に生まれた特別な絆を感じ取っていた。



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