カロリーヌの過去
「これは私が12歳の頃の話。私はすでに滅亡してしまったタール帝国に住んでいました」
タール帝国。かつて戦で勝利し、たくさんの国を滅ぼしては土地を広げていた国です。
それの先頭に立って軍を率いていたマルセルは、私の祖父です。祖父は勇敢で賢く、賢者と呼ばれるほど素晴らしい人物でした。
私が10歳の頃にマルセルが病で死に、二代目は私の父が皇帝になりました。父は有能な人物の首を誤って切ったせいで祖父より国の政策がお粗末。国の力をなくして縮小してしまい、他の国の民や種族に囲まれてしまいました。まあ、歴史的によくあることですね。
そんな時、ある事件が起きました。この帝国がモンスターに襲撃されてしまいました。
私の両親はなんとか生きようと必死になっていましたが、モンスターに連れて行かれてしまいもう二度と帰ってきませんでした。
私の妹リリーはモンスターの鋭い爪で殺されてしまい、妹の血が顔にかかりました。私は住む場所も家族もなくして、絶望しかありません。
「妹が死んだとしても、私は彼女の分まで生きることを決意。魔法を磨いて強くなり、今に至ります。天然発言を言っておかないと、その時のことを思い出してしまいそうで……」
私も奴隷のように縛られてモンスターに連れ去られそうになりましたが、ポフっと音を出しつつ、メラメラと燃える真っ赤な火を手から少し出して背後にある紐を焼きます。抜け出すことに成功しました。
妹は生き返らず、憎しみのあまり鳥の頭とライオンの胴体、翼を持つグリフォンの目を見ます。その目は赤く光っていました。
その赤い目を見た私はその瞳をよく観察しました。そこには黒い影が映っていました。私はそれを見て恐怖を覚え、震え上がってしまいます。
死にたくなくて縮小したタール帝国から抜け出た私は、国境付近で黒い物体を見たのです。
それは真っ黒いスーツに黒いマントを羽織り黒い帽子を被った怪しい人物。それは目の中に映っている人物と同じでした。
「彼は人々からこう呼ばれています。『操りペテン師のブラック』と。恐らくそのブラックがモンスターを率いてやってきたのでしょう。つまりこの人物が全ての元凶ということです」
「つまりその話が本当ならルミリア帝国も危ないっすね!モンスターに襲撃されそうだぜ!」
ザールは慌てた様子でそう言い、手足をしっちゃかめっちゃか動かす。
カロリーヌは逆に落ち着いた口調で話した。
「その可能性はゼロではありません。しかし姫を攫らったのがモンスターなのか、ブラックなのか。それは分かりません」
「ま、姫を攫ったロボットを倒せば大丈夫だろ。もしルミリア帝国がモンスターだらけになったら、僕たちと国民が手を取り合って戦えばいいでしょ」
シプリートが楽天的にそう言うと、ドミニックがビシッと指摘する。
「は?そんなバカなことを言うんじゃない。平民は貴族が嫌いなんだ。言うことを聞いてくれるとは思えん。先ほど買い物に行った時、城下街に住む平民共は我々に手など貸さなかったぞ。机上の空論だ」
それを聞いて、納得してしまう。
ドミニックのことは大嫌いだが、楽天的に考えていたシプリートに現実で釘を刺してくるためますます嫌なやつに見えてきた。
聞いているふりをする。
「はいはい、そうですね」
二人の横で女二人が話を始める。アンジェは眉を下げて悲しげな表情を浮かべた。
「カロリーヌさん、とても大変だったんですね……妹さんを亡くして、国も無くなって……」
「ええ、そうですね。その後、孤児院で暮らしました。そこでシプリート王子に出会いました。これは神様が差し出してくださった、一本の光に違いありません」
「光ね……シプリートお兄様は、とても優しいお方だからね。全く怒らないし」
「はい。彼はとても優しいですが、たまに危うい時があります。だからサポートしたいんです」
「アタシもサポートしないと!お兄様はアタシとたくさん遊んでくれました!」
二人の女の間に電流が走る。二人は睨み合っており、修羅場になりかけてしまう。
そんな時シプリートが二人に明るい声をかける。ドミニックに突っ込まれたが。
「二人とも仲間割れはダメだよ!みんなで協力しようね!」
「そういうところだ……」
「え?」
目が点になってしまう。
何かいけない事でも言ったのだろうか。理解できないな。