魔法とメイドさん
扉が勢いよく開き、メイド服を着た女性カロリーヌが慌てた様子で入ってきた。
「王子!城がグワングワンと揺れましたが、大丈夫でしたか!?」
「……」
彼女の声も聞こえず、その場に座り尽くす。
「王子……?」
「エミリが……エミリが……」
「もしかして盗まれたのですか!?」
目を見開いて言われた言葉は、図星だった。
シプリートは何もできず、助けてあげられなかったのだ。悔しい……。涙が溢れてくる。
両方の手で拳を握りしめ、歯を噛み締める。
「僕……エミリを助けにいく」
「私も世界の果てまでお供させてください!」
「し、しかし……」
彼女はただのメイドさんだ。
貴族に仕える下っ端で、貴族間の問題だからあまり無茶をさせたくない。
その気持ちを読み取ったのか、彼女の手からメラメラと真っ赤な炎が吹き出た。どうやらこのメイド、魔法が使えるようだ。
魔法。それは遺伝によって、有無が決まる。
炎、水、風、木、闇、光の属性がある。
闇と光の魔法を所有するものは少なく、ルミリア国の王様は光属性。女王は水属性。
彼の息子であるシプリートは魔法が使えて当然だったが、女神曰く彼は魔法がないという。
13歳の魔法の鑑定儀式で魔法が使えないことを知り、絶望と混沌の渦に落とされる。魔法が使えれば、みなから頼りにされるのに。
「やはりそうだったか、安心したぞ。我が息子よ、頑張りなさい」
偉大なる父はそんな彼を貶めることはせず、褒め称えた。魔法がなくても力でも勝てるのだ、と。
シプリートは剣士になるため、必死に剣術を学んだ。そして勉学にも励む。
学べば学ぶほど彼は強くなり、師匠のブリーズが尻餅をついた。とても喜ばしいことだ。
それなのに姫を救うことができなかったのは、予想外だった。もっと強ければ、あのロボットを真っ二つにできたのに!
心の中で嘆いていたら、カロリーヌは意気込んだ声を張り上げる。少し頬が熱っているのは気のせいだろうか?
「この力を使って、王子を助けます!」
「あ、ああ……一緒に行こう」
シプリート自身は魔法が使えないので、戦ってくれる仲間が増えたことは心が躍る出来事。とはいえ、助けて欲しいのは嫁のエミリなのだが……。気にしない方が良さそうだな。
炎の魔法を使えるメイドのカロリーヌがついてくる。二つの三つ編みを下げている黒髪の彼女なら、冒険する際とても頼りになりそうだ。
「王子は私が孤児院で暮らしていた頃、助けてくれた恩人です。私も助けなければいけません。でも助けたら、いつものように報酬がもらえるのでしょうか?」
報酬の話が出てきて、額に汗をかいてしまう。それは父親のお金なのだが。
彼女は天然だからな。仕方ないか。
「報酬よりとにかく城から出て、あのロボットがどこにいったか散策するぞ。でもなー、知らない人と話すのはちょっとな……聞き込みは頼む」
「かしこまりました。私が聞き込みをして、王子が辺りを散策してロボットの痕跡を探すんですね」
「違う違う!最初に仲間を集めようと思ってね。メイド一人と僕だけだと、倒せるか分からないし」
「仲間……?孤独でいつも佇んでいる王子が……?わかりました、頑張ってください」
「ディスるのはやめろ!」
カロリーヌのひどい言葉にツッコミを入れて、二人はその場から離れることになった。